バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
静と動、対照的な二つのぶつかり合いだった。
トマホークマンの戦法は、先程のフリーバトルで見た時と変わりない。
とにかく押して、押して、押しまくる。その膂力という武器を活かした、攻撃こそ最大の防御と言わんばかりの攻勢特化。
単純だが、それがかれらにとって適した戦法だというのも事実。
斧の一振りが生み出す破壊力は、並のバトルチップなど及びもつかない域にある。
「っしゃあ、そこだ!」
『喰らいやがれェ!』
「ナイトマン、受けられますね?」
『無論!』
勢いよく振り下ろされた斧を、ナイトマンは両腕で受け止めた。
ナイトマンの頑丈さを見くびれば、相手はたちまち隙を晒すことになるだろう。
来ることさえ分かっていれば、彼はダークチップの破壊力さえ容易く防ぎきる。
トマホークマンの攻撃は、或いはそれに匹敵する威力があるが――真正面からただ振るわれただけではナイトマンという砦は崩せない。
「それなら……!」
『ああ! 後ろだな!』
動きを止めたところに襲い掛かる鉄球を、間一髪で躱したトマホークマン。
鉄球の回転に追従するように素早くナイトマンの背後に回り込み、そのタイミングでディンゴ少年が一枚のチップを使用した。
チップの効果が適用されて、トマホークマンの大斧がまったく異なる武器に姿を変える。
『ドリルアーム』の回転は耐久力に優れる防御系チップさえ一撃で破壊する。
ナイトマンが能力として備えたストーンボディさえ破る――否、あの状態であればより有効となるそれは、彼が特に注意すべきチップの一つ。
「――――」
躱せない。そう判断し、プライド様が対処するまでは早かった。
どうやら、二枚目の『インビジブル』はないらしい。その上で選んだのは、意外なチップだった。
ナイトマンが何か特別な動きをすることはない。
彼はそのまま、勢いに任せて鉄球を振るうのみ。その先に落ちてきた一個の
直後、トマホークマンのドリルがナイトマンへと襲い掛かり――
『うおぁ!?』
一切ナイトマンを傷つけることなく弾き返された。
直撃を確信した攻撃が不発したことで晒した隙は大きい。
体勢を整えるよりも前に、その隙だらけの身に鉄球が叩き込まれる。
『ごふ――ッ、テメェ……!』
トマホークマンのタフさも中々感心するもの。
すぐに立ち上がった彼だが、今の攻撃が防がれたことに警戒心が生まれたのか、今度はすぐさま突っ込むようなことはしない。
しかし今のは……確かに防戦に役立つものの、また珍しいチップを選んだものだ。
「クソ……今のリンゴか。妙なチップ使いやがって……!」
先のチップは『レッドフルーツ』――出てきたのは緑色のリンゴだが。
最近発見されるようになった新種のウイルス、アップルサムとその上位種から抽出できるこのチップは、数あるチップの中でも特に一風変わった効果を発揮する。
使用すると戦場に現れるリンゴは、それ単体では何も起きない。攻撃を加えて壊すことで、初めて壊した者に加護を与えるのである。
プライド様が今使用したのは、短時間ながら『オウエンカ』のようにあらゆる攻撃を防ぐ力を得られるもの。
出現したリンゴを相手に先に壊されれば、逆に利用される危険性があるものの、今のように相手が攻撃に集中していた状況であれば一方的に狙えるだろう。
「どんなチップも使い時があります。少々、賭けに出たことは否定しませんが」
顔には出ていないながら、プライド様なりの“茶目っ気”であるらしい。
困ったことにこのチップは、リンゴが落ちてくる場所がランダムであるという不安定さがある。
戦闘を一定のパターンに持ち込むことが得意なタイプの者には好まれないチップだろう。
プライド様はそういうタイプである筈だが……始まってすぐの『インビジブル』もそうだし、宗旨替えでもしたのだろうか。
「遊び気分かよ、気に入らねえぜ! 金持ちってのはいつもそうだ! オレたちの必死で何かをしようとしても、知らん顔どころか嘲笑いやがる! そんなヤツらに、オレたちは負けねえ!」
「その心意気は見上げたものです。ですが、それが空回りしてしまっては逆効果でしょう」
『うるせえ! オレたちの苦労も知らないクセに……偉そうに説教してんじゃねえ!』
円を描く軌道で放たれた『ブーメラン』――これは陽動か。
更に、ナイトマンの真下、それに後方から飛び出してくる『バンブーランス』
自棄になってのチップの連打……という訳ではないか。
この二つのチップを同時に使用されてしまえば、否応にも意識は真正面から逸れる。であればそこに本命を置くのは定石だ。
二つのチップ自体も確かな威力を持つ以上、無視は出来ない。ナイトマンのように高速での移動を得意としないナビを相手取るならば有効といえる。
だが――ディンゴ少年とトマホークマンの間違いを指摘するのであれば、ナイトマンの防御力を侮り過ぎたことか。
「立ち向かいなさい!」
『御意!』
「押し切れトマホークマン!」
『ウララララララ――――!』
ナイトマンは二つのチップによる攻撃を完全に無視し、斧を使って回転して突っ込んでくるトマホークマンの対処のみに集中した。
回転に対して、鉄球で殴りつけるように迎撃するナイトマン。
その判断にディンゴ少年は瞠目し、トマホークマンも一瞬驚きを見せつつも回転の勢いを強め、押し切ろうとする。
『ヌゥ……!』
『ッ――これもっ、受け止めんのかよっ!』
本来プライド様の戦い方は『ホーリーパネル』をはじめとした、地形を書き換えるチップや置物を利用し、自分の陣地を確実に形成するタイプだ。
だが、スタンダードチップの攻撃力であれば、場合によっては一切気にしないことさえ選択肢に上がる。
それがナイトマンのポテンシャル。ここまで攻勢に出るプライド様は珍しく、私自身驚いているものの、こうした戦法も十分に可能だ。
『こ……っのぉぉぉ! 真正面からのぶつかり合いで、負けてたまるかよ!』
『――それがしは騎士。お主が信念をもって挑んでくるのであれば、こちらも信念でもって迎え撃とうぞ!』
……もしかすると、信念を、意地をぶつけてくる彼らに、応えたかったのかもしれない。
トマホークマンをその膂力で押し返し、今度はナイトマンが『ドリルアーム』で攻撃に出る。
それを受け止めたのは巨大な『センシャホウ』の砲身。
ドリルの回転で削られつつも放たれた砲弾を、ナイトマンはその身で受けながらも前進し、ドリルを押し込んでトマホークマンに痛打を与えた。
堪らず後退するトマホークマン。
――と思いきや、まるでダメージなどないかのように斧を振り上げ、ナイトマンに飛び掛かる。
腕を前に突き出した状態のナイトマンでは、それを受け止めることは難しい。
ゆえに、プライド様はチップによる対処を試みた。
『何……ッ!?』
狙いを定めていた巨体の姿が瞬時に掻き消え、トマホークマンの攻撃は床に突き刺さる。
相変わらず呆れるほどの破壊力で辺り一面に罅が広がっていくが、彼の目標を傷つけるには至っていない。
「後ろだ!」
『チィ――!』
『パネルスチール』による短距離の移動で見事回避したナイトマンは、トマホークマンの背後を取っている。
それを素早く察したディンゴ少年の指示により、トマホークマンは斧をぶん回して背後に向き直ろうとして――
『がああああああ――――ッ!』
「トマホークマン!?」
その寸前、ナイトマンが全身を炎上させ、その炎に巻かれた。
相手と接触するほどの近距離において、体に炎を纏わせることで攻撃を行う『ヒートボディ』。
敵が密集していれば隣り合った敵を伝って燃え広がっていく性質を持つこのチップは、相手を待ち構えて対処する機会の多いナイトマンには相性が良い。
加えて、トマホークマンは木属性と見える。どれだけタフなナビであっても、弱点を突かれてしまえば痛手は免れない。
『ッ――、しゃらくせえ!』
『ム……!』
それでも、トマホークマンは倒れない。
炎に包まれながらも、眼前の敵に向けて、斧を大きく振り上げる。
『こちとら後には引けねえ信念でやってんだ! この程度の炎で倒れてたら……ッ!』
余力はもう残っていないだろう。
本来ならば、こうして斧を振り上げることさえ厳しい筈だ。
だが、彼はそれを可能とした。その信念からなる、驚嘆すべき気力でもって。
『村のみんなにも! ディンゴにも! 顔向け出来ねえだろうがあ――ッ!』
咆哮の如き絶叫と共に、斧が振り下ろされた。
プライド様のPETを通して、衝撃がこちらにまで伝わってきたかのように錯覚するほどの、凄まじい威力。
その一撃は過たずナイトマンの鎧に叩き込まれ、既に壊れかけだった戦場の床を捲り上げ広範囲に渡って粉砕していく。
思わず、息を呑んだ。これほどの威力、もしかするとナイトマンでさえ――と。
『グ、ゥ……見事な威力。よもやこのワタシが、膝をつくことになろうとは』
『……おいおい。冗談キツイぜ、くっ……』
しかし大きなダメージを受けつつも、ナイトマンは健在だった。
傷を負い、膝をつきつつ、尚も立ち上がる彼の一方で、余力を使い切ったトマホークマンは崩れ落ちる。
斧を支えにして立とうとするが、足に力が入らないらしい。デリートには至っていないまでも、これ以上戦い続けることは不可能だろう。
対して、ナイトマンはまだ辛うじて戦闘が可能だ。ともすれば、このままトマホークマンをデリートすることさえも。
「……続けますか?」
「……いや。トマホークマンに戦う力は残ってない。オレたちの、負けだ」
こういう、追い込まれた状況でなおも足掻こうとする輩は多い。ウラによく関わっていればこその認識かもしれないが。
だが、ディンゴ少年はそれとは違う。
若いゆえの直情で動いているが、その心は紛れもなく戦士のもの。ここまで明確な勝敗を、認めないなど出来ないのだろう。
「それでは、ブースターシステムを返していただけますね?」
「……」
それでも、悔しそうに歯噛みするディンゴ少年は簡単に頷くことが出来なかった。
ここで折れれば全てが終わり。もう二度と、公の場でビッグカンパニーの横暴を訴えることも叶わない。
そう考えれば、諦められまい。
何か手はないかと、必死で考えているのだろう。俯くディンゴ少年に、プライド様は一歩近づいた。
「……かつて、わたくしもあなたのように、手段を選べなくなったことがあります。窮状を脱するにはこうするしかないと、己が手を汚す覚悟を決めて、実行にまで至りました」
「え……?」
……まさか、そのことを話すとは。
ディンゴ少年の事情に共感を見せているとはいえ、随分と思い切ったことをするものだ。
少しだけ肝が冷える感覚を味わいつつも、プライド様の冷静な表情を見て、状況を見守ることにする。
「その時は幸い、事情を知っていた友人が、失敗のリカバリーに予め手を打ってくれていたことで事なきを得ました。ですが、それがなければ今頃わたくしは、オフィシャルに敗北し国際的な犯罪者として捕えられていたことでしょう」
「……結局誰かに助けられてんじゃねえかよ。オレたちは違う。手を差し伸べてくれるようなヤツなんていない。だからこうするしかなかったんだ! その上であんたたちに負けた――もうどうすることも出来ないんだよ!」
「――そうでしょうか。言ったでしょう? わたくしの友人は失敗に備えていた、と。失敗した上で、わたくしは“どうにかなった”のです……でしょう? エール」
「……まあ、そうですね」
このタイミングで話を振られても反応に困る。
というか、やはりあの時事前に話を通していなかったことを、プライド様は根に持っているらしい。
こういう時に向けられる微笑みは妙な圧があって、好きではなかった。
「あなたにはそういう備えはないかもしれません。ですが――今から用意する手立てなら、わたくしたちにあります。場合によってはその後、あなたの名が上がり、より明確な立場で目的を果たせる可能性もあるでしょう」
「な……ど、どんな方法だよ!? あんた、どうにか出来るのか!?」
――なるほど、そういうことか。
いや、全てを理解した訳ではないのだが、プライド様がとどのつまり、何をしたいかは分かった。
「ええ――オペレーター・ディンゴ、そしてトマホークマン。あなたたちに提案します」
――わたくしたちに、力を貸してはいただけませんか。
ちょっとだけ攻撃的になったプライド様。
ディンゴくんの信念に応じるためというのはありますが、熱斗くんのオペレートに影響されたのも少しあるかもしれません。
クイーンチェーコ号の話は次回までとなります。