バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
「力を……? ちょ、ちょっと待ってくれ。話が見えないぞ?」
プライド様の提案に、当然ながらディンゴ少年は困惑を見せた。
自らの引き起こした事件を暴き、ネットバトルに勝利し、説得を始めたと思えばそんなことを言いだす。
彼からしてみれば、プライド様が何をしたいのか分からないだろう。
「ええ。昨今のダークチップシンジケート・ネビュラの蛮行はご存知ですね? わたくしたちはそのネビュラと戦う小規模のチームに所属しています」
「はぁ!? ね、ネビュラと!?」
しかし、その困惑は序の口。プライド様は躊躇うことなく次の爆弾を放つ。
公にすべきことではない。既に捕えられているとはいえ、この船にはネビュラ団員も乗っていた。
この状況で誰かが聞き耳を立てているとは思えないものの、リスクのある手段だなと感じた。
「ネビュラによって占領されたインターネットエリアを奪還するチームです。既にネビュラの特殊ナビと戦闘を行い、二度の勝利を収めていますが、このチームには決定的に欠けているものがあります」
「欠けているもの……?」
「攻撃力。多数の敵さえ一撃で一網打尽に出来るような、圧倒的な攻撃を持つナビ。それこそ、協力を望めないウラインターネットの強者のような」
現在進行形で足止めを喰らっている扉が良い例だ。
あれを正規の手段ではなく、力押しで突破できるようなナビは、今のチーム内には存在しない。
レヴィアのように、誰もを圧倒する力を持つナビなど、そうそう簡単に見つかるものではないが――彼のナビは、レヴィアを超える膂力を実戦で示した。
トマホークマン程の力ならば十分だ。
確認のためか、こちらに顔を向けてきたプライド様に頷きを返せば、彼女は微笑みを浮かべた。
「トマホークマン、でしたね。わたくしたちのチームに、その力を貸していただきたいのです」
「……きゅ、急な話だぜ……ネビュラの連中は気に入らねえけど、喧嘩を売ろうなんざ考えてなかった。……本気でか?」
「本気です。当然、危険な話です。可能ならば、子供を戦いに巻き込むことは避けたかったのですが――」
「――オレみたいなのを勧誘するってことは、オフィシャルとか関係のないチームなんだろ? ネビュラを倒すって目的のために、子供も大人も、良いヤツも悪いヤツも関係なくって感じの」
ある程度、こちらの事情を察したようだ。
チームの方針まで理解が及んだらしいディンゴ少年は、しかし難しい表情を崩さない。
「力が欲しいってんなら、この船に強いヤツが乗ってたぜ。さっきフリーバトルで戦った、青いナビ。誰彼構わずなら、あいつを呼んだ方が、悔しいがずっと頼りになると思う」
ああ――この船における、最も勧誘を受けるべきだろう相手として、自分は不適格だと思っていたのか。
ディンゴ少年がこの船に招かれた理由である、余興のフリーバトル。
そこで唯一の黒星を付けた相手のことを考えているのだろう。
とはいえ、プライド様も私も、あの敗北を考慮に入れるつもりはない。
「あのフリーバトルであれば、わたくしたちも見ていました。そして、あなたの言う青いナビが、最後に戦った相手を指しているのであれば、残念ながら望みは薄いと言えます」
「そ、そうなのか……?」
「――あのナビはワケありでね。この手の誘いを受けたりはしないだろう。寧ろ、彼女を相手に怖気付かずに戦い、彼女には出せない破壊力を見せてくれたキミたちを評価したい」
正直……私も彼のような子供をこれ以上所属させるのは気が進まない。
だが、その力が必要だと感じるのも、また事実。
ならばレヴィアをこの船に連れ込んだ張本人として、彼以外に適任がいないことは告げておくべきだろう。
「ワケありって……まさかあんたのナビか?」
「いや、違う。知らない相手じゃない、というだけさ。彼女もまた、キミたちのことは評価していたよ」
「……そっか。まあ……トマホークマンの力が必要だってことは分かったし、悪い気はしない。けど、それとオレの目的がどう関係するんだ? ネビュラと戦えばそりゃあ名は上がるだろうけど、それでも所詮は一般のネットバトラーだぜ?」
結局のところ、彼はビッグカンパニーがやってきたことを世間に周知させるために、今回の事件を起こした。
それに対する提案として、まだプライド様はチームへの所属という、こちら側の都合しか話していない。
内情を言ってしまえば、そもそもこのチームは非公式部隊である。
どれだけネビュラを相手に華々しい戦果をあげたとしても、ディンゴ少年の立場は変わらないだろう。
そこまで理解しているディンゴ少年に対して、プライド様はどうやら勝算のあるカードを持っているらしい。
「無論、なんの見返りもなく力を貸していただくことはしません――ナイトマン」
『かしこまりました。トマホークマン、そしてディンゴ殿、これを見てもらいたい』
プライド様はPETから何かファイルを送信し、ナイトマンからトマホークマンへと手渡した。
テキストファイルのようだが……いきなり渡されたトマホークマンは困惑しつつも、それを開く。
『なんだよいきなり……――んん? お、おい、ちょっと待て!? ディンゴ、これ! これ見ろ!』
「ど、どうしたんだよトマホークマン――えっと……? 『クリームランド公認ネットバトラー養成のための特別講師契約』……は?」
……ああ、そういえばプライド様が以前から国の問題として提起していたな、そんなこと。
オフィシャルも存在しているとはいえ、他国に比べクリームランドにさほど目立ったネットバトラーがいないというのは紛れもない事実である。
正確にはプライド様が実力者として目立ち過ぎているという面も無くはないが、そのプライド様一人が強くても良くない。
私としても、少なくとも世界大会に出場する代表者に困らないくらいの人材はいてほしいと思うところ――あの件は裏で動いていた事情もあるのだろうが。
――プライド様、なんであんな書類を持ち歩いているんだ? そこまで喫緊の課題だったのか?
「我が国では、ネットバトラーの養成が大きな課題となっています。対応として、国外から手練れのネットバトラーを講師として招くのはどうかという案が挙がっていました」
「え、あ? 我が国? ちょ、ちょ、ちょっと待て! あんた、もしかして……!」
「申し遅れました。クリームランドの王女、プライドと申します」
「…………」
個人宛に来た招待状でこの船のパーティに参加した以上、お忍びとも言い難い状態ではあるが、招待客がそれぞれ別の客の素性を知り尽くしている訳もなし。
特に、余興として呼ばれた彼は、誰がどんな人物かなどどうでも良かったことだろう。
それでも、いざ目の前に一国の王女が現れたとなれば、こうなるのも是非もなし。
あんぐりと口を開けて驚きを露わにするディンゴ少年に対して、いたずらが成功した子供のように、プライド様は笑って見せた。
「こちらは我が国の技術者エール。共にこの船には、ブースターシステムを狙うネビュラを止めるために乗船していました」
「く、クリームランドの王女……? え、待て待て待て。いや、ん? エールってどっかで……あー! ラウルさんが言ってたバグ医者エール!?」
「……ラウル氏と知り合いだったのか」
となると、アメロッパから来たのだろうか。
ラウル氏と関わったのは、一年前のオフィシャル会議と、それからレッドサントーナメント。
大会で戦った訳ではないものの、その後の小惑星の軌道を変える作戦においては共闘した間柄だ。
彼がどうやら、ディンゴ少年に私のことを話していたらしい。あまり“こちら側”の姿でバグ医者呼ばわりされるのは好ましくないのだが。
「クリームランドはセキュリティ面においては世界有数という自負があります。ですが、ネットバトルにおいては、わたくしたちのように覚えのある者が殆どいないのです――微妙そうな顔をしないように、エール・ヴァグリース。レッドサントーナメント準優勝は紛れもなく誇れる称号、胸を張りなさい」
より正確に言うならば、「名人氏が不戦敗となっていなければ極めて高確率で一回戦敗退となっていた」を頭に付け加える必要がある。
ジャンクマンには申し訳ないが、名人氏と戦って勝てるビジョンは思い浮かばない。
いや、ジャンクマン自体は私の誇れるナビではあるのだが。
あの時の結果を評価してもらうのはどうにも複雑な気分になることをプライド様にはどうか分かっていただきたい。
「ともかく、わたくしがあなたが適すると判断したのは、トマホークマンの力だけによるものではありません。彼をオペレートするあなたの実力も含めてのことなのです」
「あ……そ、そりゃあ、どうも?」
「ネビュラとの戦いに区切りがついてからとなるでしょうが……どうか、講師を引き受けてはいただけないでしょうか。最早クリームランドは無名の国ではありません。きっと、あなたにとって良い“箔”となることでしょう」
まあ、彼の実力については確かなものだ。
直情に見えて判断力もあり、頭も回る。相手に対して偏見を持たず、視野を狭めるようなことをしなければ、光少年に勝るとも劣らないだろう。
「……トマホークマン、どうする?」
『迷うまでもないぜ、ディンゴ。オレたちがクリームランドを強くすれば、世間もオレたちに注目するに違いない!』
「そうだな――やらせてくれ、王女様。手始めにネビュラをぶっとばして、その後クリームランドのネットバトラーたちを十倍強くしてやるぜ!」
「おや……それはまた、期待が高まりますね。それが実現する日を楽しみにしていますよ、ディンゴ」
ディンゴ少年の快諾に、プライド様は満足そうに頷いた。
私としても異論はないが……本当に良いのだろうか。
公務の合間に日本で発見したネットバトラー――プライド様が間違いないとはいっても、困惑する者は多いと思うが。
プライド様に迷いはない。その辺りを説得する算段も、既に付いているのかもしれない。
「さて――それでは」
「ああ。ブースターシステムは返すぜ……けど、それどうするんだ? いや、盗んだオレが言うのもなんだけどさ。これだけ騒ぎを起こしたんだ。犯人を突き出さないと収まらないだろ……?」
「そうですね。話は変わりますが、日本には“能ある鷹は爪を隠す”という諺があるようですよ」
「へ?」
――プライド様の笑みの種類が変わりながら、こちらに向けられた。
あれは……直近ではバレル氏との会話で見たぞ。
容赦という言葉を一時的に忘却した状態のプライド様だ。
そういえば、プライド様はディンゴ少年との戦いが終わったら私に任せたいことがあると言っていた。
恐らく、その出番が来たということだろうが、一体何を――
――――さて、それからの話である。
あんな事件が起きたこともあり、パーティは中止となり、船は港に戻ることとなった。
ブースターシステムを奪取するためにネビュラが潜入させた団員は、逃げることも叶わず、船が港についてすぐ、待機していたオフィシャルによって無事逮捕された。
能ある鷹は爪を隠す。
実力のある者はそれをいたずらに表に出さないという意味の諺である。
今回の事件はまったく、この言葉の通りの人物はいるものだと感心させられた一件だと言えるだろう。
逆に私の驕りもあったかもしれない。PETの解析くらいはものの数分で出来るに決まっているという驕りが。
あれほど巧妙にブースターシステムの保存記録を抹消していたとは思わなかったのだ。うん。
犯人はブースターシステムを見事に奪い取り、PETを探られても問題がないように一時的に別の場所に転送した。
その隠し場所は、船の操舵システム。
内部には強力なウイルスが仕込まれていたが、付近にいたディンゴ少年の協力もあってデリート、及びブースターシステムの奪還も叶った。
戦闘時、電脳世界の床に罅が入るなどのトラブルがあったが、そちらは修復されている。
ブースターシステムは無事。犯人は一部犯行を否定しているが捕まった。
事件はそれで解決。
――ここまで見事な手際で場を整えたプライド様に、私もディンゴ少年も引くしかなかった。
良いのだろうか、とそれとなく聞いてみたが、プライド様は底の見えない笑みを向けてくるだけだった。
そんな訳で、ブースターシステムを購入することは叶わなかったのだが――
「……良かったのか、これで?」
作業を進めていたパソコンの画面を見ながら、ふと疑問が湧いた。
第三の外装の出力は従来のものからグンと引き上げられ、目標の値を示している。
これを実現させたのは、念願のブースターシステム。
――その、評価版である。
プレゼンテーションは失敗してしまったが、この製品の汎用性には注目している。
我が国のセキュリティに使うことを検討しているため、試すことは出来ないか。
そんな風にプライド様が掛け合ってくれたのである。
利用期限こそあるものの、その見事な出力は発揮してくれる。
十分だ。ネビュラとの戦いを長く続けるつもりもない。
プライド様のおかげで完成した、この外装。
準備は整った。
これをもって、まずはロックマンを奪還しよう。
ディンゴくんがチーム入り、いよいよロックマンの奪還に入ります。
ちなみに未遂のネビュラ団員が冤罪押し付けられたのは原作通りです。
熱斗くんならともかく、大の大人がこれやるのもどうかと思いましたが、その辺の政治的強かさを手に入れたのでしょう。どっかの誰かの影響で。