バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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4th Mission/風を突き抜けて-1 【本】

 

 

 チームに貸し出されている科学省メインルーム奥の作戦室。

 そろそろ見慣れたその部屋を、私は画面越しに見ていた。

 

『トマホークマンを別のオペレーターに預けるっていうからどんなヤツかと思ったけど、まさかオレと同じくらいのヤツがチームにいるなんてな。オレはディンゴ。よろしくな!』

『ああ! オレは熱斗――確か、プライドさんとエールさんにスカウトされたんだっけ?』

 

 今日はこのチームの結成後、最も重要な作戦の日だといってもいい。

 エンドエリア2の解放を目指す……それと同時に、ロックマンを取り戻す日だ。

 ディンゴ少年はあの事件から今日までの間にバレル氏に会い、正式にチームの一員と認められた。

 そしてチームの方針の説明を受け、ネビュラが支配するエリアの制限についても聞いている。

 彼がトマホークマンを預けることになる光少年と会うのは今日が初めてなようだ。

 

『ま、色々あってな。それより、まずはネットバトルだ! 人となりを知るならそれで十分だろ?』

『えっと……実は今、オレのナビはPETにいないんだ。バレルさんのカーネルを借りてるんだよ』

『ナビがいない? 何かあったのか?』

『お喋りはその辺りにしておけ。今回のミッションについての説明を始める』

 

 二人は近い性質を持っている。もしも光少年がベストな状態であれば、この場でネットバトルが始まっていただろう。

 光少年がどう説明したものかと悩んでいるところに、バレル氏が助け舟を出した。

 まあ……そういう気遣いはミヤビ氏には出来ないだろうから――というかミヤビ氏、来ていないな。

 

『今日はエンドエリア2の解放を行う。ミヤビは別の依頼の関係で来られないようだが、シャドーマンは既にエンドエリアに送っているとのことだ』

 

 基本的にこのチームの作戦を優先しているようだが、普段の依頼も疎かにはしていないらしい。

 そこは私との違いだな。対ネビュラで刃を鈍らせないでくれれば、それで良いが。

 それからバレル氏の視線はこちらに向けられる。つまるところ、テーブルに置かれたノートパソコンに、だ。

 

『そしてプリンセス・プライドとエール・ヴァグリースについては作戦方針の関係でリモートでの参加となる』

 

 そう、私とプライド様は、滞在しているホテルの私の部屋で今回のミッションに参加することになった。

 というのも、今回の作戦は、これまでと同様の完了条件とはいかないためだ。

 既にリベレートシステムを実行するプログラムやリソースは光少年に転送済み。これで問題なく作戦を進められる。

 

「申し訳ありません、三人とも。通信は後ほど切らせていただきますが、作戦にはいつも通り参加します。ナイトマンは任せますね、熱斗」

『うん――けど、どうして……って、そっか。もしかしてエールさんの……』

「察しが良くて助かります。万一があってもいけませんので」

 

 ディンゴ少年が首を傾げている。その辺りの説明は……まあ、事情を知っているバレル氏がするだろう。

 

『さて。今回の相手は間違いなく手強い相手だ。エリアを守るのは――ダークロックマン。言うまでもないが、光熱斗のナビがネビュラに操られている状態だ』

『……は? ネビュラに!?』

『……』

『作戦目標はエリアおよびロックマンの奪還。後者の手段はエール・ヴァグリースが用意したようだが、説明を頼む』

 

 ただエリアを支配するダークロイドを倒し、エリアを取り戻すだけでは駄目だ。

 それも含めて、今回の作戦の難易度は過去最高。トマホークマンが加わったとて、決して成功は確信できまい。

 

「方針としては、これまでと変わらない。ディンゴ少年とトマホークマンも、ある程度聞いているかな?」

『ああ……熱斗にトマホークマンのオペレートを任せて、エリアの闇を晴らして侵攻していくんだろ?』

「そうだ。エリアを侵攻し、光少年……ロックマンに対し、キミはきわめて不利な状態で戦ってもらう」

 

 闇を晴らしていく点は同じ。だが、その一点のみ、ダークロイドたちに対し有利な条件で戦うことのできたこれまでのミッションとは事情が異なる。

 それを説明していけば、当然光少年の表情は険しくなった。

 ただでさえ、ロックマンと戦うことは抵抗があるはずだ。

 だからこそ彼としては、“早くそれを終わらせてロックマンを捕まえ、元に戻す”という心構えだっただろう。

 ロックマンを相手に、望まない長期戦を強いることは心苦しい。だが、今回はそれがどうしても必要だった。

 

「――という感じだ。光少年、出来るね?」

『……厳しいけど、やるよ。そうしないとロックマンが帰ってこないなら、なんだってやる。任せてよ、エールさん!』

「その意気だ。よろしく頼むよ」

 

 光少年は決意を固め、頷いた。

 色々と問題はある。何もかもが上手くいくとは思えない。

 それでも、失敗は許されない。光少年を信じ、私も私のやるべきことを全うしよう。

 

『よし、それでは各自、ナビをエンドエリア1に向かわせてくれ。その後、作戦を開始する』

 

 バレル氏の号令で、光少年とディンゴ少年がカーネルとトマホークマンをプラグインさせる。

 私たちも準備を始めないと。パソコンの通信を切り、ベッドに腰掛ける。

 

「プライド様、私も向かいます」

「ええ――貴女こそが誰より理解していると思いますが、これまで以上に危険であることを、重々理解しておくように。ナイトマンの傍を離れてはいけませんよ」

 

 今回、どうして私が科学省の作戦室にいなかったのか。

 その理由がこれだ。“こちら側”が無防備になる以上、体を休められる場所にいるべきだ、と。

 体を横にして、PETに専用チップをスロットに送り込み、アンロックされたプログラムを実行する。

 

 

 安全地帯確保:OK

 

 電脳世界とのパス形成完了

 

 パスの推定維持時間2時間以上

 

 転送成功確率99.7%

 

 転送許可:OK

 

 パルストランスミッションシステム構築完了

 

 

 ブースターシステムをによって完成した新たな外装――その性質を組み込みバージョンアップされたエールオール。

 負担こそ大きいが、これでもリベレートシステムは実行可能だ。

 とはいえ、ダークロイドや闇の力を受けたウイルスたちを前にすれば、相変わらず装甲は脆弱なもの。

 結局はナイトマンの防御力を頼りにするほかないのだが。

 

 

 転送準備:OK

 

 パルストランスミッションを開始します

 

 3

 

 2

 

 1

 

 エールオール.EXE

 パルストランスミッション

 

 

 目を閉じる。精神を鎧が覆い、電脳体へと変換されていく。

 精神が眠るような感覚はない。パスに乗って、違う場所へと移動するだけ。

 特殊医療時の外装を着込み、電脳世界へと降り立つ。

 バグにまみれた全身の窮屈さは、これから始まるミッションへの緊張感を高め、気を引き締めるには十分だった。

 

 

 

 

 エンドエリア2へのリンク前。

 前回は立ち往生をする羽目になった場所へと、私たちは再度集まった。

 私とナイトマン。そしてカーネルにトマホークマン。

 四人が揃えば、気配を消しつつも既にこの場に来ていたシャドーマンが姿を現した。

 

『ほう。お主が新たにチームに加入したというナビか』

『あ、アンタ……! シャドーマンか!? お、おぉ……すっげえヤツがいるんだな』

 

 トマホークマンはどうやら、シャドーマンを知っているようだ。

 ラウル氏はウラにも多少なり知見のある人物だ。彼から話を聞いたのだろう。間違いなく、超級の危険ナビとしてだろうが。

 

『なるほど。此度の作戦を進めるには必要な力となろう。加えて、薬師は話に聞く宿痾喰らいの鎧か』

『そんな物騒な名前で呼ばれるような活動をしている覚えはないのだがね』

『クク、お主は一度、ウラでの自身の評判を見つめなおした方が良い。新たな商機にも繋がろうさ』

『余計なお世話だよ』

 

 これがウラのスタンダードではあるが、こうした場でも煽り合いになるのはいただけないな。

 売り言葉に買い言葉で応じてしまう私も私ではあるが。

 ……プライド様からの視線を感じる。できれば自重したいところだ。

 

『フム、この扉が話に聞いていた……確かに、尋常ならざる堅さを持つようですな』

『ああ。正攻法では我々全員が侵入することができず、破壊するにも攻撃力が不足していた――つい先日まではな』

 

 カーネルやナイトマンでさえ、この扉を壊すには足りなかった。

 ウラランクを提示するにしても、入れるのは二名のみ。作戦を進めるには厳しかっただろう。

 

『よし――コイツをぶっ壊せばいいんだな?』

 

 トマホークマンが前に出てくる。

 あの扉の強度は把握している。その限界を超えるほどの攻撃力を発揮できるナビ――トマホークマンならば、なんの心配もない。

 彼は今すぐにでもその斧を振るいたいとうずうずしていた。

 念のため、私たちは離れておく。あれの衝撃をまともに浴びてしまえば、作戦が始まる前からデリートの危機である。

 

『そうだ。この後に支障が出てはこまるが、ただ一撃でスタミナ切れするお前でもあるまい。やってくれ』

『おうよ! トマホークの錆びにしてやるぜ!』

 

 カーネルのGOサインが出たところで、待ってましたと大きく腕を振り上げるトマホークマン。

 

『喰らいやがれ! トマホークスイングッ!』

 

 彼の膂力が存分に込められた一撃が、扉に思いきり叩き付けられる。

 結果など見るまでもない。初めて電脳世界で直にその威力を目の当たりにしたが、直撃したら私など一かけらさえ残るまい。

 斧が振り下ろされた後、扉は跡形もなかった。

 下手すればエンドエリア2に続くリンクさえ破壊してしまうのではと心配する一撃は、見事に道を切り開いたようだ。

 

『へっ、他愛もねえ! 五枚重ねて出直してこいってんだ!』

『なるほど。若いながらもすさまじい膂力。それに限ればかの歌姫をも上回るか』

『見事な破壊力だな……この後のミッションでも頼りにさせてもらうぞ』

『任せとけ! オレの闘争本能に火が付いたぜ! もう止まれねえ! さっさと行こうぜ!』

 

 今の威力を引き出し、少しの疲労も見せないトマホークマンは、今すぐにでも先のエリアへと突っ込もうとする。

 これまでのチームにはいなかったタイプだ。今回ばかりは、彼の猪突猛進に乗じた方が良いだろう。カーネルも同意見のようだ。

 

『フッ、血気盛んだな。だが、この勢いは無駄にはできん。準備はいいな、光熱斗』

『ああ――待ってろよロックマン……!』

 

 さあ、本番だ。

 外装に不具合は出ていない。動作試験は上手く行っていたが、実際ロックマンに有効に作用するかは、不確定要素が絡む。

 それでも、成功させるのだ。ダークソウルの浄化、その第一歩目となる治療を。

 

『行くぞ皆、これより第四次リベレートミッションを開始する!』

 

 カーネルが高らかに宣言し、先のエリアへのリンクへと一斉に踏み出す。

 そうして私たちは、これまでのどのエリアよりも濃い闇に覆われたエンドエリア2へとアクセスした。




エンドエリア2・リベレートミッション

■カーネル
HP550
装備:オーダーコマンド・リーダー
利用可能コマンド:
・スクリーンディバイド
縦3マス分のダークパネルを解放する。
・記録管理
ミッション中に発生した出来事を記録する。

■ナイトマン
HP700
装備:オーダーコマンド・防御
利用可能コマンド:
・ナイトディフェンス
ダークロイドフェイズにおける自身のダメージを0にする。
自身の周囲1マスへの攻撃から味方を庇う。

■シャドーマン
HP500
装備:オーダーコマンド・偵察
利用可能コマンド:
・忍び足の術
ダークパネルの上を移動できる。
・闇討ち
前方2マス以内のガーディアン、または敵ナビに対し、戦闘を行わずにダメージを与える。

■トマホークマン
HP600
装備:オーダーコマンド・攻撃
利用可能コマンド:
・トマホークスイング
縦3マス、横2マス分のダークパネルを解放する。

■エールオール
HP100
装備:オーダーコマンド・支援
利用可能コマンド:
・バグリカバリー
戦闘時、徐々にHPが減少していく。
リベレート成功時、オーダーポイントを1回復。
さらに、リベレートしたダークパネルの数×20のHPを回復。
・バグライズリベレート
コマンド使用時、選択した周囲の味方一人に『クイックゲージ』『カスタム+2』を付与。
さらに、選択した味方の戦闘中、やや動きが遅くなり、HPが徐々に減少していくが、リベレート成功時周囲のダークパネルを全てリベレートし、バグのかけらを1個入手する。
・アンダーシャツ
戦闘中およびダークロイドフェイズに、HPが2以上の時、HPが0になる攻撃を受けた際HP1で耐える。
・記録管理
ミッション中に発生した出来事を記録する。
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