バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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4th Mission/風を突き抜けて-2 【本】

 

 

 充満した闇の中に飛び込む。

 エンドエリア2はインターネットエリアの構造としては珍しく、狭い通路が少なく、大きな三つの広場で構成されたエリアだ。

 減少傾向にあるスクエアを思わせる広いエリアだからこそ、その全域が闇で覆われたことによる息苦しさは尋常ではない。

 

『ムゥ……何たる瘴気。これは一筋縄では行かぬな』

『ああ。だが、ロックマンに辿り着くまでに無用な消耗はできない。エリアの奥に向けて真っ直ぐ切り開いていく方が有効か』

 

 優先して解放を目指さないといけないのは闇の穴。

 それから、バリアパネルを解除するためのバリアキーを探さないとならない。

 闇の穴はエリア内の闇が集中している地点から推測はできるが、問題はバリアキーだ。

 

『これだけ広いエリアからバリアキーを見つけるのは至難の業だが、シャドーマン、行けるな?』

『フッ、ここで出来ぬと零せばウラの仕事人は務まらぬわ。なあ、薬師?』

『何故私に振る……』

 

 私の場合、よほどの事情でもない限り、出来ないことは出来ないと言うぞ。

 ウラでは多少の見栄は必要だが、行き過ぎたものは身を滅ぼすのだ。

 ともあれ、バリアキーはシャドーマンに任せれば良いだろう。彼ならば、その自信相応の仕事はしてくれよう。

 さっさとシャドーマンが闇の向こうへと歩いて行こうとしたその時、私たちの会話に割り込んでくる者が現れた。

 

『――ようやく来たかよ、腰抜けチームどもが。待ちくたびれたぜ』

『ロックマン!』

 

 やはり向こうから接触してきたか。

 あらかじめ予想されていたことだが……このエリアを守る彼がどういう動きをしてくるかは定かではない。

 彼がエリアの最奥部にいるとは限らない。

 現状、闇の向こうから通信を投げてきているだけなものの、彼の居場所を可能な限り早く特定するのは、作戦の成功にも関わってくる。

 

『あんまり来ねえから、セキュリティをちょっと緩めてやろうかとも考えてたんだぜ? だがどうやらあれをぶち破れるヤツを引き入れたらしいな。知らねえナビだが……いいのかよ? 行き当たりばったりでどれだけ役に立つかも分からねえヤツなんて加える余裕あんのか?』

『あん……? なら試してみるかよ。あんた、元は“こっち側”だったんだろ? オレのトマホークで叩きのめしてから連れ戻してやるよ』

『クク、打てば響く……いいねェ。テメェみたいなのは分かりやすくて。オレの“元”・オペレーター様もそうだったぜ。なあ、熱斗クン』

『ッ……!』

『挑発に乗るな、光熱斗、トマホークマン。我々は指針通りにミッションを進めれば良い』

 

 逸ろうとする二人をカーネルが諫める。

 この状況だからこそ、光少年には冷静でいてもらわなければならない。

 そんな様子を、闇に呑まれたロックマンは嘲笑う。

 

『つまらねえこと言うなよカーネル。もっとお喋りしようぜ? こちとら元チームメンバーとして心配してんだよ。そんな新入りに頼らないといけない状態なんて、いつか立ち行かなくなるんじゃねえかってさ。なあシャドーマン、ちゃんと依頼料とか払ってもらってんのかよ?』

『……』

 

 こちらが手出しできないのを良いことに喋り放題だな。

 自身に振られた話題を、シャドーマンは黙殺する。実態は知らないが、払われるものが不安定だと分かれば彼らは即座に依頼者を切り捨てるだろう。

 そうなっていない以上、現状契約に問題はあるまい。

 

『そうだ。もっと高い金額でネビュラが雇ってやろうか? 仕事内容はリーガル様に逆らうヤツを片っ端からデリートすることで――』

『……ウラを知らぬな』

『――ああ?』

 

 続けざまに勧誘を掛けようとするロックマンに、シャドーマンはただ一言だけ呟く。

 それは彼の返答にも等しかった。

 商いというものは、信用が全てだ。中途の依頼を切り捨てて立場を変えるなど、ウラで長生きする者はまずやらない。

 閉鎖的だがきわめて広いコミュニティではそれが命取りになる。

 ウラの実力者でも最上層に立つシャドーマンが、既に受けた依頼を――それも、敵対する勢力からの勧誘で切る筈がないのだ。

 

『今のお前に心配される筋合いはない。何か言いたいことがあるならば、戻ってくることだな』

 

 それ以上シャドーマンが話すことはないと見たか、カーネルが一歩前に出る。

 ほんの少しの沈黙の後、ロックマンは不愉快そうに舌打ちした。

 

『チッ、そうかよ。まあ、どの道関係ねえか。テメェらはこのエリアで終わりなんだからな。それじゃあ、楽しませてくれよ?』

『ロックマン!』

 

 荒々しく通信が切られる。

 今のを挑発と捉えて戻ってきてくれれば話が早かったが、そうもいかないか。

 

『行くぞ。各自、作戦に不必要な感情は持ち込むな。ロックマンを案ずるのは、彼を制圧してからでいい』

『……ああ!』

 

 カーネルなりの激励で、光少年も持ち直す。

 彼の言う通り。どうあれロックマンとは戦わないとならない。

 今、余計なことを考えていても作戦の成功が遠のくだけだ。

 

『ではシャドーマン、バリアキーの捜索も兼ね、偵察を頼む』

『私からエリアマップは渡しておく。バリアキーが保管されていそうなポイントにもあたりを付けておいたよ』

『承知。いざという時はオペレートを頼むぞ、光熱斗』

 

 これだけ広いエリアとなると、四方八方を闇に覆われた状態で探索するのは困難だろう。

 エリアの情報を送った後、シャドーマンは怖じる様子もなく闇の向こうへと駆けていく。

 あとは残ったメンバーでいつも通り、エリアの奥に向けて突き進むだけだ。

 

『よし、それじゃあまずは――』

『オレ! オレにやらせてくれ! 出てくるウイルスたちを全部薙ぎ倒せば良いんだろ?』

 

 手をあげてアピールしてくるトマホークマン。

 本当に、この場に似つかわしくない元気さだが、確かにこの闇の量はまず彼に景気よく吹き飛ばしてもらった方が良いかもしれない。

 

『頼むぜトマホークマン! エールさん、いいよね?』

『構わないよ。いつもより用意したリソースは多めだが、無駄遣いはしないように』

 

 一応一言注意を挟みつつ、光少年に許可を出す。

 今回、システムの制御を握っているのは彼だ。直感的に動かせるようにはしているが、だからといって好き放題には使えない。

 これまでのリベレートミッションで消費ペースの感覚は掴んでいるだろう。それを参考にしてくれればいい。

 リソースがトマホークマンに注ぎ込まれ、彼の専用ツールが起動する。

 

『っしゃあ! ぶっ放すぜ! トマホーク――スイングッ!』

 

 力いっぱいに薙ぎ払われた斧が尋常ならざる衝撃を生み、広域の闇へと作用する。

 深い闇に覆われた重要地点を一気に突き進むことを目的とした攻撃用ツールを彼には渡している。

 その効果によって解放できる広さはチームメンバーの中でも随一。

 現れたウイルス諸共一撃で闇を吹き飛ばし、前方が大きく拓けた。

 

『と、とんでもない攻撃力だな……』

『だろ? まだまだこんなもんじゃねえ、ガンガン進もうぜ!』

 

 彼が侵攻の要となって進むのは正解かもしれない。

 これほどの範囲を一気に解放することが出来るならば、さらに進むにおいて周囲から予期しない襲撃を受ける可能性も低くなる。

 なるべく消耗を抑えながらロックマンに辿り着くためにも、トマホークマンの力は重要だ。

 

『カーネル!』

『行くぞ、パネルリベレート!』

 

 拓けた先の闇から現れるウイルスたち。

 カーネルをオペレートする光少年の様子はいつも通り、隙のないものだ。

 問題なくウイルスたちをデリートし、さらに闇を晴らしていく。

 この調子で進むことが出来れば良いが……。

 軌道に乗り始めたところで、シャドーマンに通信を繋げる。そろそろ何かを発見していても良い頃だ。

 

『シャドーマン、そっちの様子はどうだい?』

『フム。エンドエリア3に向かう広場は二重のバリアパネルで塞がれておるな。本丸はその奥と見える。随分と入念な守りよ。だが、一方でバリアキーの在り処もより絞りやすくなるというもの』

 

 向こうは順調か。二重にバリアパネルが敷かれているということは、合流するよりどちらもシャドーマンに任せる方が無難かもしれないな。

 そうして本隊は闇の穴の攻略に集中する――その方が効率が良さそうだ。

 

『そら、一つ目だ。この分ではもう片方もすぐに見つかろうさ』

 

 やはり彼の仕事は早い。これで探すべきバリアキーはあと一本か。

 そうしているうちに、光少年はナイトマンをオペレートし、侵攻を進めている。

 私も合わせて移動しておかなければ。ナイトマンから離れれば、ロイホークと名付けられたあの鳥型ウイルスに襲撃されかねない。

 あれの攻撃を即座に対処するのは割と難しいことだからな。

 

『その調子で頼むよ。今回は速度重視だ』

『心得ている。拙者に速度を説くのであれば電脳ツバメでも連れて――光熱斗ッ!』

 

 軽口を叩き合っていた私たちだが、突如シャドーマンが光少年を呼ぶ。

 シャドーマンが話に気を取られて油断するとも思えないが、どうやら非常事態が起きたらしい。

 光少年がシャドーマンのオペレートに切り替えるのに合わせて、私も映像を共有し、チームメンバーに見えるように映し出す。

 闇の中に飛び込んでいる以上、視界は良くない。

 通信も不安定だが、ようやく見えてきたのは、持ち前の速度で“何か”を捉え、回避するように立ち回るシャドーマンの姿。

 

『シャドーマン! 何があったんだ!?』

 

 光少年が問う最中にも、正体不明の攻撃をシャドーマンはカタナでもっていなしていた。

 彼の回避が間に合わなくなるほどの攻撃――ただのウイルスではない。

 機動力に優れたロイホークなどでも不可能だろう。彼らの領域である、闇の中という条件があってでも、だ。

 

『クッ、あの口ぶりからして黙って待っておるだけではないとは思っていたが……よもや防壁の外にまで攻めてくるとは!』

『ッ――ロックマンが来てるのか!? 向こうからなんて、まるでシェードマンみたいな……!』

『正解だよ熱斗クン! ――とでも言えば良いか?』

 

 シャドーマンに代わって答えた本人の声。

 闇の向こうで何かが動いたような気がした。相当な速度だ、十全の状況ならばシャドーマンが容易に捌けようが、地の利によって彼の上を行っている。

 

『順調みたいだったから遊びに来たぜ。このくらいの障害がないとつまらねえもんな? ――で? どうよシャドーマン、狙われる気分ってのは?』

 

 しかし、移動し続けているのだろうロックマンの居場所を特定することは出来ない。

 伸びてきた黒い手を、シャドーマンは間一髪で躱す。

 ――今のは、なんだ? ロックマンが攻撃手段として有する機能ではないが、あのような効果を発揮するバトルチップは知らないぞ。

 

『くそ……シャドーマン! 足下をリベレートだ! 辺りの闇を払ってロックマンを見つけてくれ!』

『相分かった――いざ参らん、パネルリベレート!』

 

 続く攻撃をカワリミで受け、足元に刃を突き立てるシャドーマン。

 そこを中心にリベレートシステムが効果を発動し、周囲のウイルスが飛び出してくる。

 本来なら圧倒的に不利な、ウイルスたちに囲まれた状態。

 その状況を打破するのにうってつけなチップを光少年は送り込んだ。

 

『フッ!』

 

 出現したのは、ナイトマンのモデル。プライド様から“協力の証”として受け取ったナビチップだ。

 攻撃機能として登録されたのは、ナイトマンの代名詞とも言えるロイヤルレッキングボール。

 受けるダメージをものともせずに、勢いよく鉄球を回転させ、ウイルスたちをなぎ倒していく。

 さらにシャドーマンは巻き込まれないようにその肩に足を乗せ、大きく跳躍。

 跳ぶ前に当たりを付けていたのだろう――鉄球の被害を免れたウイルスに十字型の刃を投げつけてデリートした。

 

 一気に闇が晴れていく。

 そして、その外側の闇に逃げようとする影を、シャドーマンは捉えた。

 

『光熱斗!』

『ああ!』

 

 空中にいる状態から、『エリアスチール』で一気に移動。

 影の眼前に立ち塞がり、引き抜いたムラマサで痛烈な一撃を喰らわせる。

 

『チィ……ッ!』

 

 『エリアスチール』後、即座にバトルオペレーションを断ち、専用ツールによるコマンドに切り替えて実行。

 闇の力を持った相手へのダメージであれば、そこらのバトルチップよりも有効な戦法だ。

 しかし、相手も追撃は許さない。素早く距離を置いたものの、その先は既に解放され本来の環境へと戻った床の上。

 そこで私たちは、彼の姿を視認した。

 

『ロックマン――その姿……!』

『あーあ、見られちまった。もうちょっと隠しておくつもりだったんだが、仕方ねえか。サプラーイズ――なんつってな』

 

 闇の力を受け、黒く染まったロックマン、というだけではない。

 両肩に棺のようなアンプを付けた、紫の装束。左右が耳のように尖った頭部。そして、背中から伸びるコウモリの翼。

 

『リーガル様から授かった力だ! オレの中のダークソウルが、底なしの闇と共鳴したんだよ!』

 

 かつてデューオとの戦いで発現したそれではなく、完全に本人を支配したダークソウルによる共鳴。

 リーガルは与えたのだ。本来のロックマンであれば決して実現しなかっただろう力。

 

 ――ダークロックマン、シェードソウルともいうべき力を。




リベレートミッションのワンパターン化回避のためのサプライズ、ダークロックマンのソウルユニゾン。
バリアパネルの外側まで出て積極的にちょっかい出してくるタイプのボスになりました。
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