バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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4th Mission/風を突き抜けて-4 【本】

 

 

 エンドエリア2奥の広場。

 そこに構えられた巨大な砦で、ネビュラの手に落ちたロックマンとの決戦が始まった。

 砦の守りは、これまで解放してきたエリアと比べ、あまりにも強固だ。

 全方位から攻めることが出来るものの、こちらが部隊を分けて攻めるのは厳しい。

 

『オラオラ、どうしたよ腰抜けチーム共ォ!』

『クッ……!』

 

 その理由がロックマンの攻撃力だ。

 砦の中心へと戻り、傲慢に腰掛けながらも、レーザーソウルへと姿を変えた彼は独立したジェネレーターによる砲撃を繰り返してくる。

 闇を晴らすためにウイルスと戦っている間も当然お構いなく。可能な限り躱し、ナイトマンが防げるものは防いでくれているが、こちらが消耗する一方だ。

 そして、強力なレーザーのみに気を付けていれば良い訳でもない。

 気が向いたかのように立ち上がったロックマンが、隠密行動により彼の隙を伺うシャドーマンを捕捉し、レーザーソウルからシェードソウルへと切り替え、翼を広げて闇に溶けていく。

 

『そこだぁ!』

『チッ、手癖の悪い……!』

『お互い様だろうがよ。おっと――そっちに逃げていいのか?』

 

 一度仕切り直しとロックマンから逃れるシャドーマン。

 こちらに合流してくるが――決してこの場所も安全地帯ではない。

 

『ソコニモ居タカ、愚カナル侵入者ヨ!』

『危ない、シャドーマンッ!』

 

 カーネルを中心に攻略していた、強大なウイルス。

 砦の前を守っていた黒騎士がシャドーマンを捉え、その剣を振るう。

 

『グ、ゥ……ッ!』

 

 直前に当たり所を調整したようだが、彼の技術で躱し切ることもままならず、大きなダメージを受けたシャドーマンが後退する。

 これは――引き続き動いてもらっても危険なだけだな。もう一度もらえばデリートされかねない。

 シャドーマンへの追撃をカーネルが防ぐ。ロックマンが来ていないことを確認し、私はシャドーマンへと指示を投げた。

 

『治療する。戻ってきたまえ、シャドーマン』

『……』

 

 今の自分の状況は彼が一番理解していよう。

 素直に戻ってきた彼に内心安堵しつつ、その体にフルエネルギーを投与する。

 加えて、簡易的なメンテナンスもだ。体力そのものは回復できても、彼の重要な機能に傷がついていては困る。

 

『……手間をかけるな、薬師』

『君が倒れることによる手間より遥かにマシだよ。まだ行けそうかい?』

『無論。だが、あのウイルスは如何する。あれを前に本隊が立ち往生していては砦を崩すことも叶うまい』

『そこは彼らを信じるしかないな。あれだけ堅牢な相手だ――要はトマホークマンになるか』

 

 カーネルがバトルオペレーションを終え、戦闘態勢を解く。

 そのタイミングで上方から落ちてきたレーザーを躱し、ナイトマンにバトンタッチ。

 ロックマンからの攻撃のダメージは逐一回復させているものの、持ち込んだフルエネルギーも残り僅か。

 彼の防御力に頼り切りになっているこの状況を打開するには、あの黒騎士を可能な限り早く撃破することが求められる。

 

『終わったよ。引き続き、ロックマンへの牽制を頼む』

『承った』

 

 去っていくシャドーマン。彼が適度にロックマンを引き付けてくれれば、こちらへの襲撃はその分減る。

 そうなれば、あのウイルスの撃破も見えてくる。

 

『懲リヌ者ドモメ……立チ去ルガヨイ!』

『生憎だが――こちらにも果たさねばならぬ使命がある。押し通らせてもらおうぞ!』

 

 強固な守りを持つ者同士。そのうえで、このチームにおいてトマホークマンに次ぐパワフルさを有しているのがナイトマンだ。

 真上から振り下ろされた巨大な剣を横から鉄球で殴りつけて逸らす。

 ただ力自慢なだけでは今の動きは再現できまい。卓越した技巧さえ併せ持つ彼だからこそなせる業。

 すかさず『センシャホウ』で攻めるナイトマン。

 しかしウイルスの黒騎士の方も負けてはいない。即座に引き戻した剣で砲撃を防ぐ。

 

『今だ、ナイトマン!』

『ウム!』

 

 攻勢に入ったナイトマンが手元に現れた球体をウイルスの頭上に投擲する。

 真上からの見え透いた攻撃。

 ノイズまみれではあっても、会話を可能とするほどに高度なウイルス。その対応力も通常のウイルスを凌駕している。

 頭上で急激に膨張し、巨大な鉄塊と化けたそのチップは『アースクエイク』。

 とんでもない重量で相手を押し潰すこの攻撃はとにかく当てるのが難しい。

 ウイルスは躱すでもなく、その剣を頭上に突き上げ、鉄塊を打ち砕く。

 

『隙を見せたな!』

 

 しかしそれで目の前のナイトマンに隙を晒していては意味がない。

 真正面から叩き込まれた鉄球。

 キングダムクラッシャーの直撃でデリートに至らない辺り、大した耐久力だ。

 まだ黒騎士は戦闘を可能としている。闇を散らしながらも剣を振り払い、さらなる接近を許さないウイルスに、ナイトマンも追撃はできなかった。

 

『攻め切れなんだか……トドメを頼みますぞ、トマホークマン殿』

『おうよ! 任せとけ!』

 

 ナイトマンと入れ替わるように、すぐさまトマホークマンが飛び出す。

 ウイルスが傷を癒す前に押し切りたいが、交代の隙を狙い再び、闇を貫いてレーザーが飛んでくる。

 

『させぬ――!』

 

 トマホークマンを庇うように、傍にいたナイトマンが受け止める。

 これ以上攻撃を受けるのは作戦続行にも差し障る。だが、この勢いを削ぐべきではないと判断したのだろう。

 庇われたトマホークマンも、止まることはない。

 ナイトマンが防ぎきると確信し、自身の役割を遂行する。

 

『行くぜ、デカブツ!』

 

 斧を大きく振るい、その遠心力で体を回転させ、ウイルスに向けて突っ込んでいく。

 それをウイルスは先ほどのように剣で防御する。

 トマホークマンの攻撃力をもってしても、それを容易に切り崩すことはできない。

 だが、それは彼の――そして光少年の想定通り。

 

『喰らいやがれ!』

『――――!?』

 

 追撃は、剣を持った腕に向けて。

 斧を剣に引っ掛け、軽快に飛び上がったトマホークマンは斧をドリルに変化させ、その腕に叩き込む。

 『ドリルアーム』で腕を奪った。彼はその上で黒騎士の肩に乗る。

 鈍重なウイルスでは、それを振り払うことは出来ない。動き出そうとした時には、トマホークマンは既に斧を振り上げていた。

 

『思いっきりやっちまえ! トマホークマン!』

『これで終わりだ――トマホーク……スイングッ!』

 

 頭に向けて振り下ろされた斧。

 その衝撃は辺りの闇を巻き込み、余りある威力が奥にあった闇の穴にさえ罅を入れた。

 堪らずその体を散らしていく黒騎士から飛び降り、ついでとばかりにトマホークマンは蹴りを入れる。

 闇の穴に突っ込んで爆発した黒騎士。爆発に巻き込まれ、闇の穴もまた消えていく。

 それはどうやら、砦の堅牢さを維持していた最後の一つであったらしい。

 闇が急激に晴れていき、大半が靄に包まれていたその全容が見えてくる。

 

『チィッ……!』

 

 ロックマンが腰掛けていた壁が崩れ去る。

 最早目の前のそれは、砦としての防衛能力を発揮できまい。

 倒すべき敵はもういない。ロックマンがこれまで行ってきていた不意打ちも意味をなさなくなる。

 

『あとはお前だけだ、ロックマン』

 

 カーネルが剣を彼に突き付ける。

 ロックマンは不快げに鼻を鳴らし、罅の入った砦に背を預ける。

 

『正直驚いたぜ。結構邪魔してやったが、息切れする前にコイツをデリートするなんてな』

 

 足元にまで転がってきた黒騎士の破片を踏み潰して消し飛ばしながら、ロックマンはここまでの侵攻を評価する。

 

『やっぱりアンタからデリートしておくべきだったかな、エールサンよぉ。色々世話になったよしみで見逃してやっていたが、こうも邪魔になるとはな』

『そのまま見逃してくれれば助かるんだがね。そうすれば、君を治療することに集中できる』

『まだそんなこと言ってんのかよ。ダークソウルは完全にこの体を支配している! あんたが何をしたところで手遅れなんだよ!』

 

 さて――大一番だ。

 私にとっても、光少年にとっても。

 

『いけるね、光少年?』

『うん……! 頼むぜ、みんな――ロックマンを元に戻すんだ!』

『甘いこと言ってんじゃねえよ! オレとまともにやり合いたいってんなら、本気でデリートするつもりで来やがれ!』

 

 ロックマンは右腕に『ダークソード』を構え、レーザーソウルへと姿を変える。

 

『さあ、誰から来る? いいぜ、雑魚どもの出番はここまでだ。オレが正面から相手してやるよ!』

『フッ……誰から来る、か。我々が何をするにもお利口に事を進める集団だとでも思っているようだが、認識を改めることだな』

『あぁ……?』

 

 ダークソウルに染まった自身は倒すほかない。それがロックマン自身の認識なのだろう。

 私たちの言葉はどこまでも実現不可能な与太話だとしか考えていない彼の想定通りには、我々は事を進めない。

 カーネルは左手でサインを出す。

 チームのリーダーの指示により、ナイトマンが、トマホークマンが構える。

 

『ッ――!』

 

 殺気を感じたのだろう。

 反射的に振り返り、背にしていた砦の壁を『ダークソード』で切り崩す。

 構成していた闇の力を相殺し、いとも容易く崩れ落ちていく城砦。

 空中に飛び出したシャドーマンを、ロックマンはジェネレーターからのレーザーで狙うが、それに吞み込まれる寸前にその姿は消えた。

 レーザーすれすれを飛んで迫る十字の刃をロックマンは切り捨てる。

 

『余所見をしている暇があるのか?』

『なっ……!』

 

 シャドーマンの攻撃を凌いだロックマンだが、それは我々に背を晒すということ。

 カーネルの斬撃、さらにナイトマンが鉄球を振るい接近する。

 咄嗟に闇の刃で迎撃。

 それをナイトマンが思いきり打ち上げれば、先の変わり身の術(カワリミマジック)からさらに跳躍したシャドーマンへと繋がり、彼はムラマサの背を叩き付け追撃する。

 

『トマホークマン!』

『ウラァ――――ッ!』

 

 床に落ちたタイミングを的確に狙い、光少年がトマホークマンにバトルチップを送る。

 『エリアスチール』で踏み込み、床を削りながら振るわれた斧がロックマンに突き刺さる。

 

『ぐあ……テメェら……ッ!』

 

 それ以上の追撃を許さず、シェードソウルへと切り替えたロックマンは距離をとる。

 その表情は焦りと驚愕に満ちていた。

 リベレートミッションは、光少年がオペレートするナビを切り替えて侵攻していくことが大原則であり、そのようにここまでも進めてきた。

 適切なオペレートでナビのポテンシャルを発揮するための方針だが、戦闘にオペレーターの指示が必須というわけでもない。

 エリアへのアクセス制限によりオペレートしているナビしかバトルチップの恩恵は受けられず、持前の機能により戦うことしか出来ず、私の提供したパネルリベレートシステムも利用できない。

 

『何を企んでやがる……ご自慢のシステムはリソース切れかよ?』

 

 システムの力を利用せず、光少年がオペレートするナビを短時間で切り替え、状況に応じてチップを使用する。

 他のナビはそれぞれの判断で、己の武装のみを利用して戦う。

 この方法で闇の力を持った相手を倒すのであれば、それこそ日が暮れるまで戦い続けなければならない。

 だが――今回はそれで構わない。

 

『そんな闇雲にオレを攻撃したところで、闇の力はいくらでもオレに力を与え続ける! 無駄なことは――グゥ……!?』

 

 鳴り響いた不協和音がロックマンの言葉を掻き消す。

 ナイトマンが設置した『ディスコード』は聞いた者の思考プログラムを乱して正常な判断を困難にさせる音声をかき鳴らす。

 鬱陶しそうに頭を押さえながらも、ロックマンはその音の出どころを即座に見つけた。

 

『耳障りなんだよォ!』

 

 ソードを振り上げ、『ディスコード』に飛び掛かるロックマン。

 ナイトマンはそれを防ごうとはしない。行動を起こしたのは一人のみ。

 カーネルのサインに応じて、『ディスコード』の中から飛び出した兵士が構えた銃の弾丸を――突如として思考プログラムが戻ったロックマンは避けられない。

 

『なんだと――!?』

 

 ダメージとしては決して大きいものではないが、その不意打ちはロックマンの動きを的確に封じる。

 削れていく闇は、それでも彼が持つものの百分の一にも満たないだろう。

 ――十分だ。散った闇は私の手元へと集まって、サンプルとして成立する量となった。

 

『各員――ロックマンのダークソウルの解析が完了した。作戦の最終段階に移行する』

『了解! エールさん!』

 

 手元のそれへの的確な対処方法が算出される。

 一口にダークソウルといっても、その染まり方は千差万別。ナビが本来有するソウルによっても質は変化する。

 ダークソウルに呑まれたナビを元に戻す方法がないとされるのはそれが大きな理由。

 一度沈めば二度と這い上がれない不治の(バグ)――かつてそう諭されて、このプログラムの開発に関わった。

 

 ダークチップなど影も形もない頃の話だ。

 ウラ中の技術屋を集めたウラの王が、光と闇を同時に操る己の性質をもとに、心を闇から救い上げる手段を用意した。

 それはウラの奥深く、ブラックアースに真実を映す鏡とともに安置された。

 救いを求めるならば、あえて闇の深奥に浸らねばならない。闇を支配してこそ、その先に救いは与えられる。

 そんなウラの王の考えから、五大暗黒チップによって封印されたブラックアースの秘宝。

 

 その名はソウルクリーナー。

 ダークライセンスに対するアンチプログラムという認識が強いが、その本質はまったく異なる。

 他者の助けを受けず、己のダークソウルと向き合う内に、救いの道を見出し導く修行プログラムなのだ。

 

『解析結果を外装にインストール。治療武装の構築フェーズを開始』

 

 手元の闇を握り潰し、外装に浸み込ませる。

 外装に組み込まれたソウルクリーナーがフィードバックした解析結果をもとに、治療方法が確立される。

 

 私を覆うバグの外装が剥がれていき、内側の白い外装が周囲を照らす。

 右腕には赤のらせんを、左腕には青のらせんを。それだけが、最低限の自己主張。

 これまでの数ある貸し全てを代金に助力に応じさせた、大いなるスポンサーの姿を模した外装は、普段の外装を考えればあまりにも()()

 剥がれたバグで構築し、右腕に装備された巨大な砲。“薬”を弾として込めた、この場限りの治療道具。

 私の周囲を覆うらせんの光が強くなり、動くことを禁ずる代償に、その砲を持ち上げ固定することを可能とする。

 

構築完了(コンプリート)――エールオール、モデルSX。これよりロックマンの治療を開始する』




・エールオール[モデルSX]
エール・ヴァグリースが開発した、エールハーフ及び従来モデル『エールオール[モデルAX]』に次ぐ第三の外装。
本外装の役割はダークソウル特効。ナビの制御を本来のソウルへと戻す特殊治療を目的として開発された。
組み込まれたソウルクリーナーにより、ダークソウルの解析を行った後、モデルAXを分離させることで形態を移行する。
モデルAXを構築していたバグは、解析によって確立した治療手段を実行する武装へと自動変換される。
独自の防御手段を有する一方で負荷が強く移動が困難。
その姿は『大いなるスポンサー』を模している。新たにデザインを起こす余裕がなかったため、本人に無許可のままパクったらしい。
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