バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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光とどく場所 【本】

 

 

 右腕の砲を構える。

 その重さは、従来の外装では決して持ち上げることの出来なかったものだろう。

 この外装を纏い、自ら動きを封じることで、ようやくそれがかなう。

 あとは、ロックマンに()()を当てるのみ。

 

『……この期に及んで治療治療……いつまで夢見てんだよ!』

 

 苛立ちを隠さないロックマンがシェードソウルによる翼を広げ、床を蹴る。

 『ダークソード』を振りかざし突っ込んでくる彼を、トマホークマンが受け止める。

 

『チッ……邪魔くせえな、テメェ! どきやがれ!』

『ダメだな。今のお前には微塵も信念を感じねえ。さっさと元のお前に戻ることだな! じゃなきゃいつまで経っても、オレにその刃は届かねえよ!』

『うるせえ――うるせえうるせえうるせえ! 何が信念だ、そんなもんが闇の力に勝るものかよ!』

 

 真正面から闇の刃を受け止め、その威力に押し切られないガッツはトマホークマンの持ち味だ。

 今のうちにロックマンに照準を向ける。

 治療対象を特定。対象のダークソウルに誘導されるように命令を追記。

 射出に向けた出力の上昇を開始。

 

 ダークソウルに対する確かな威力を発揮するための出力を実現するための一手が、私個人の力ではどうしても手に入らなかった。

 それが解決したのはほんの数日前。

 ブースターシステムにより、外装の性能は必要な領域に達したのだ。

 

『このっ……ぐあ!?』

『随分と露骨な隙よな。お主らしくもない――光熱斗がいなければさしものロックマンもこの程度か』

 

 鍔迫り合いは致命的な隙だった。

 ロックマンの背後に迫っていたシャドーマンによる闇討ちは専用ツールを利用したもの。

 ここまでパネルリベレートシステムによる戦闘がなかったロックマンが初めて受けた痛烈な一撃。

 当然、シャドーマンが力加減を誤ることはなく、デリートにまでは至らない。この引き金を引くまでの時間稼ぎを目的としたのだろう。

 

『――オペレーターなんぞ必要ねえ! テメェらが何をしようとしているのかは知らねえが――』

 

 トマホークマンとの競り合いを続けつつも、ロックマンはこちらに左手を伸ばした。

 

『吹けば飛ぶようなテメェ一人デリートすれば……ッ!』

 

 前に出てきたナイトマンの、そしてカーネルの防御態勢もロックマンは嘲笑う。

 如何に彼らが守っていようとも意味がないとばかりに。

 

 ――次の瞬間放たれた弾丸の嵐。

 

 大半をナイトマンとカーネルが受け止める。

 しかし、『ダークサークル』による弾丸は、狙いを定める必要さえないほどの攻撃範囲を誇っている。

 ロックマンの笑みは、私に向けて飛んできたただの一発により、私がデリートされることの確信からだろう。

 たとえアンダーシャツが発動して耐えようとも、まともに()()を撃てるほどの体力は残らないと。

 まあ――今回ばかりは、たとえ気を失おうと引き金を引いてみせる気概だが、一発であればその気概も必要ない。

 

 『バリア』や『ストーンキューブ』を破壊する強力な攻撃であろうとも。

 『インビジブル』を捉える正確無比な狙撃であろうとも。

 『ドリームオーラ』さえ吹き飛ばす暴風であろうとも。

 

『――は……?』

 

 私を覆う障壁は、それが“一発”である限り防ぎきる。

 弾丸が直撃し、砕け散る障壁。しかし私には衝撃一つ襲ってこない。

 

『……捨てたものじゃないな。遥か古代に知見を得るというのも』

 

 ――それは、デューオとの戦いを終えて落ち着いた後。

 この外装の構築を進める中で、どうにも行き詰った時期があった。

 そんな時に気分を変えるために赴いたのは、かつてプライド様から話を聞き、興味を持っていた土地。

 かつてはアトランピアのように高度な文明が栄えていたというが、あちらに比べ研究は進んでおらず、詳しいことは分かっていない。

 かの文明ゆかりの地に赴き、得られたものは多くない。結局、偶然転がり込んでいたものを解析し、私なりに解釈して外装に組み込めたこの機能のみ。

 元々、これは何を意味していたのだろう。

 戦士の名残か、或いは交流の拒絶か。どうあれ――それを基にした“電脳障壁”を前にすれば、メットールのショックウェーブもゴスペルのブレスも等しく一発だ。

 無論、ダークチップさえ例外ではない。

 

『おらぁ!』

『ッ!』

 

 呆けているロックマンをこれ幸いにとトマホークマンが打ち上げる。

 同時に、出力が上限値に達したことを確認し――引き金を引く。

 

『――――発射(シュート)

 

 砲を構成するバグを散らしながら射出された弾丸は、過たずロックマンに撃ち込まれる。

 

『ぐ――ぁぁぁぁああああああああああ――――ッ!』

 

 膨大な闇がロックマンから零れ出す。

 ダークソウルを増幅し強化するダークチップの闇を浄化し始めたのだ。

 

『闇が……オレの闇が、薄れていく!? ふざけるな……この体は渡さねえ!』

『……』

 

 カーネルたちが油断なくロックマンを包囲する。万が一があった時、これ以上長引かせないために。

 それは最悪の想定。こうまでやっても、未だその可能性は付き纏う。

 

『――熱――斗――くん――』

『ロックマン……!? 聞こえるか、ロックマン!』

 

 その時に聞こえた声は、紛れもなく本来のロックマンのもの。

 そうだ――ダークチップの影響を薄れさせた時、彼はダークソウルを抑えこめるだけの力を持っている。

 デューオとの戦いで、ロックマンはそれを証明した。今は闇の方が強くとも、そこに近付ければ、彼は決して負けはしない。

 

『クソォ! クソ……クソがぁ! 大人しくしていやがれ! 何故オレを、闇の力を拒む!? 何故この力を望まない!?』

『ロックマン! 負けちゃ駄目だ!』

『――そうだ……ボクには熱斗くんが……皆がいる。ダークソウルに支配されてまで強くなんことなんか、ボクは求めてない……っ!』

『ぐおお、ぉ……!』

 

 闇を纏いながらも、開かれた目には強い想いがあった。

 光少年の呼びかけで完全に目覚めたロックマンのソウルが優勢に傾き始めている。

 あと一歩――

 

『うわああああぁぁぁぁぁ――――!』

『これは……!』

 

 ――次の瞬間、体から弾き出されるように、闇に覆われたもう一人のロックマンが転がり落ちた。

 

『ロックマン!』

『ダークソウルに反発したのか……気を付けろ光少年、デューオの時と同じだ』

 

 ふらつくロックマンに対し、戸惑いの表情を見せていたダークソウルは状況を把握して立ち上がる。

 あのダークソウルには、拒絶した“ダークロックマン”としての自我が残されている。

 焦燥、激昂。周囲に散った闇を再度集め、右腕に闇色の刃を形成すると、ロックマンに飛び掛かった。

 

『その体を……返せェ――!』

『ぐっ……!』

 

 防御しようと突き出した腕に刃が突き刺さる。

 しかし、刃はそれ以上に進まない。そして――離すこともしない。

 

『……いくよ、熱斗くん!』

『ああ――! フルシンクロ……全力でやるぜ、ロックマン!』

 

 体を取り戻したロックマンと、すかさずそのオペレートに入った光少年が、その意識を同調させる。

 本来、ダメージを負った状態でのシンクロは決して推奨できない。行き過ぎたシンクロ状態は、ナビの苦痛をオペレーターにフィードバックさせる危険があるためだ。

 だが――それさえ、今回に限っては有効だった。

 光少年とロックマンが共にある。それを二人の中で何よりも強く感じさせるのだから。

 

『ボクは熱斗くんと一緒に強くなる。熱斗くんと一緒なら、どこまでも強くなれる! だから――!』

『ダークソウルなんかに……オレたちは絶対負けないっ!』

 

 ソウルユニゾン――ブルースのソウルとの共鳴に、突き刺さった闇の刃が吸収される。

 闇を制御した黒い姿。デューオとの戦いを勝利に導いた三重奏。

 徒手となり、呆然と立つダークソウルに向けて、彼らは闇色に染まったソードを振りかざす。

 

『いっけえええええええええええ――――!』

『……――――完敗かよ』

 

 ぼそりと聞こえた一言。その直後、ダークソウルはソードによって切り裂かれた。

 形を崩し、再びロックマンの体へと戻っていく闇の粒。それは最早、ロックマンを再度支配するほどの強大さはない。

 共鳴が解かれ、ロックマンが膝をついたのを見届けるように、エリア全体の闇も晴れていく。

 ほんの数秒後には、それまで戦っていた闇の形跡さえ感じられないほどに、エンドエリア2は元通りになっていた。

 

『はぁ……はぁ……、やった、よ……熱斗くん……』

『ああ……お帰り、ロックマン』

『……うん、ただいま、熱斗くん……!』

 

 力を使い果たして倒れそうになるロックマンを、傍にいたトマホークマンが思わずといった様子で支える。

 

『おっと……大丈夫か?』

『う、うん……トマホークマン、だよね?』

『おう。見せてもらったぜ、ダークソウルに打ち勝つお前の信念。オレにガツンと響いた』

『ボクも――届いてた。深い闇の中でも、確かにボクのソウルに共鳴していたよ。君の、強い信念が』

 

 ――大きな安堵と共に、各システムを終了させる。

 それと同時に、ロックマンがプラグアウトする。

 ネビュラとの戦いが終わった訳ではないが……大きな戦いが、一つ終わった。

 

『……どうやら、一件落着のようですな』

『闇に潜む己の凌駕……或いは和解か。興味深いものを見た。クク、ウラの住民には些かばかり眩しい光よな、薬師』

『……否定はしないよ』

 

 こちらに同意を求められても困るが……最後の後押しとなったのは、やはり光少年とロックマンの絆だったか。

 このような事例、ウラでは決して見ることが出来まい。

 物珍しいものを見たシャドーマンはどこか上機嫌だった。一体どういう立場を気取っているつもりなのだか分かったものじゃない。

 

『皆、よくやってくれた。ロックマンを無事に取り戻すことが出来たのは皆の力あってこそだ。これにて、第四次リベレートミッションを終了する』

『ああ! 皆、本当にありがとう! エールさんも!』

『どういたしまして。後日、改めてロックマンを見せてくれ。ダークチップの影響が残っていないか確かめるよ』

『うん、お願い!』

 

 カーネルが作戦の完了を宣言する。

 あとはダークチップの影響がなければ、ロックマンは完全に元通り。

 いや……あれの再現性が取れたということは或いは、更なる力を得たとも考えられるか。

 多用は出来ず、きわめて慎重に使わないとならない、危険な力ではあるが。

 

『次のミッションについてはまた後日伝えよう。各自、本日はゆっくりと休んでくれ』

『ウム。ワタシも今回ばかりは中々に堪えた。エール殿、明日にでも、メンテナンスを頼めますかな』

『了解だよ。お疲れ様、ナイトマン』

 

 あれだけ攻撃を受け止めたのだ。ナイトマンとはいえ、かなり消耗していよう。

 明日、と言ったのは私への気遣いか。まあ……ダメージを負っていないとはいえ、私も今日はこれ以上何か出来る気はしないが。

 

『んじゃ、オレも戻るかぁ。また次のミッションが決まったら教えてくれよ』

『拙者も失礼する。カーネル、お主もゆるりと休むが良い。バレル殿のもとで、な』

『フ……では、そうさせてもらおう』

 

 ナビたちがそれぞれ、プラグアウトしていく。

 私もナイトマンに合わせるように、パルスアウトを行う。

 ……なんか、久しぶりな気がするな。エールオールを本格的な戦いに用いて、()()()に事が終わるのは。

 口には出さないようにしよう。プライド様の前で言ったら笑い話では済まされなさそうだ。

 

「……お帰りなさい。お疲れ様です、エール」

「はい――色々と迷惑を掛けました、プライド様」

 

 目を開き、体を起こす。

 どうにもならない頭痛と気怠さがあるが、戻ってきて即気絶などということはない。

 一つ、大きな仕事を終えたからか。少しだけ自信を持って、プライド様と向き合えた。

 

「これきりであることを期待します――なんて。また入院沙汰になどなったら、それこそバレル氏に話をつけてあなたをクリームランドに送還することも考えていましたから」

「……」

 

 少なくともその笑みと共に告げられた言葉は冗談ではなかった。

 多少……無茶は自重せねばなるまい。ネビュラとの決着をつける前に帰国など、今更そんな選択肢もないのだ。

 

「ひとまず、今日は休んでください。ナイトマンも言っていた通り、明日メンテナンスを頼めれば、と」

「分かりました」

 

 とりあえず、今日はゆっくりと休もう。

 肩の荷が下りた、という訳でもないが――いつもよりは、気分よく眠ることが出来そうだ。




これにてダークロックマン戦終了。
色々あって病み気味だったエールさんですが、少し持ち直したようです。

この後、ウラ掲示板を経て5編の後半戦に入ります。
掲示板回、何故かは知りませんがとても久しぶりな気がしますね。
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