バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
ウラインターネットは広大である。
各国のインターネットエリアから一つ、二つは来ることが出来る道があり、その全容は私ですら把握していない。
というか、全てを把握しているのはウラを支配する王ただ一人だろう。
一部のリンクは個人のホームページや何らかの施設の電脳世界にも繋がっており、正しく無法地帯。
そのため特に危険な場所にはあらかじめセキュリティキューブが置かれている。
他にも通行料の支払いやキーの提示、特定の権利の保有など条件をクリアしなければ通れない道が無数に存在し、エリア一つ一つが迷宮のようになっている。
勿論、そんなウラの中心街たるウラスクエアへの入り口が一つな訳がなく、はっきり言って初めて入った者であればスクエアの中央で目を瞑ってその場で十回回れば、何処から入ってきたかすら分からなくなるレベル。
スクエアの案内板くらい作ってやれよとか思わなくもない。ウラとはいえここは基本中立地帯なんだし。
『なあ、スクエアの外に出てきて、何をするんだ?』
ロックマンをオペレートする光少年の声が届く。
現在私たちはウラスクエアを出て、ウラインターネットの通路を歩いている。
実力者が三人もいれば、ウラの厄介なウイルスとて私が視認するまでもない。レヴィアは何もしてないけど。
ロックマンの実力もそうだが、バラッドがいる限りは、ウイルスの相手程度ならば気にしなくても問題がない。
ウラ一の護衛とはよくいったものである。ちなみに言い出したのは私だ。
『キミらが持ってきてくれたワクチンを基に、他の色の氷を壊すワクチンを全て作る。まずはそのための材料集めだ』
『材料って……氷の欠片?』
『そう。正攻法なら世界中のインターネットの何処かで、不具合を起こして崩れた氷から拾うのだろうが……そんなことを悠長にやっている時間はない』
それは本当に最終手段だ。そんなお利口な手段による解決を許すほど、環境維持システムで封じられていた災害は甘くない。
出だしが遅れた以上、何処かでそれを詰めるイカサマが必要なのだ。
それに、欠片を回収するゴスペルの輩がいないとも限らない。連中と競争をするなど馬鹿らしい。
という訳で、まずは手近な黄色い氷の前までやってくる。
近付いても、触れても何も起きないが、不当な手段でのクラッキングもままならないセキュリティにより、通り抜けることは出来ない。
ついでに破壊された時、中から通常のウイルスが飛び出してくるというおまけ付き。とことんまで時間稼ぎが上手だ。
『やっぱり並の硬さじゃないな。レヴィア、これ、壊せるかい?』
興味薄そうに氷を眺めていたレヴィアに尋ねる。
するとレヴィアはその表情のまま氷に近付き――得物である槍を無造作に叩き付けた。
衝撃が加わった一瞬、氷の強度が増す。当然ながら外部からの物理的攻撃への耐性もバッチリなようで、氷には僅かな傷もない。
それを見て落胆した様子のロックマンだが、レヴィアは軽く槍を振って具合を確かめると何でもなさそうに告げてきた。
『五分……いえ、四分ってところかしら』
『結構。欠片を残すというのと、あと二種類あるってことだけ留意して、好きなようにやってくれ。二人とも、離れるように』
百点満点の答えを返してくれたレヴィアにゴーサインを出し、私たちは氷から離れる。
『こ、壊せるの……?』
『難しいだけで壊せない程じゃない。まあ、レヴィアで一つ四分掛かるものだ。全て壊し切るのは不可能だと言っていい』
極論、セキュリティキューブだって力で破壊できなくもないのだ。
その前にオモテではオフィシャル、ウラでは自治をしている物好き、ないしもっと敵に回してはいけない者にしょっ引かれるというだけで。
今回の場合、やっていることは善行である。止められる謂れはないので、全力で出来る。
『さて、キミらはレヴィアが氷を壊すまで、やってくるウイルスとその他諸々の相手を頼む』
『諸々って?』
『ゴスペルに嗅ぎ付けられないとも限らんだろう。デリートしろとは言わないから逃がさないでくれ』
『デリートするより難しいんだがな、それ』
まあ、単純な方がやりやすいなら今回はそれでいい。私がやる訳でもないし。
ならそのようにと告げて、私はワクチンを組む準備に入る。
私だけ何もしないなんてことはない。ちゃんと働くとも。
『じゃ、始めるわよ――――、ッ!』
先の試しとは比べ物にならない刺突の衝撃が辺りに広がっていく。
弱所を集中して貫く、なんて小賢しいことをレヴィアはしない。
彼女にとっては全てが弱所だ。ゆえに、その一刺しを必殺とすべく、力を注ぐ。
槍が唸りを上げる。
その槍は武器にして楽器。彼女の歌を乗せる音を奏でる弦が光り、水流を巻き起こす。
氷の拒絶を力で押し切る。
今でこそ拮抗しているが氷に迎撃する能力がない以上、そう経たないうちに勝負は決まるだろう。
『す、凄い……』
『ああ、凄い。だが集中しているから後ろが留守になる。卑怯歓迎、不意打ち上等がウラの掟だ。異常を察知した輩がおいでなすった、気張れよガキ』
ナビの性質が悪ければウイルスも悪いのがウラの世界だ。
何かに集中していれば、それを狙ったように襲撃してくる。
氷の向こうからはウイルスも入ってこられないのでまだしも、背後は別だ。
ウイルスの中でも最上位の速度を誇る、猛禽類か、はたまた紙飛行機かという形状のヘルコンドルを先頭にやってくるウイルス共。
ロックマンが構える間にバラッドが前に出て、使用した『ホウガン』を手に持ったままヘルコンドルの鼻っ面に叩き込んだ。いや、投げろよ。ヘルコンドルが正面からひしゃげてかわいそうなことになってるぞ。
『ボクたちも! 行くよ、熱斗くん!』
『おう!』
一歩遅れて、ロックマンも光少年から転送されたチップを使って戦い始める。
作業と並行して傍目で眺めるだけでも、それは見ごたえのある戦いだと言える。
場所が狭いのがマイナスだな。広場の中心で囲まれている状態とかなら臨場感が出るだろうに。
――そんな、他人事な考えを反省する。レヴィアのついでとはいえ今も守ってもらっている状態だ。そんな呑気なことを考えている場合でもあるまい。
ウイルスに紛れて、彼方から駆けてくるナビを視認する。
追加でウイルスを発生させているのを見る限り、氷を攻略されるのを良しとしない者だろう。
ならばまずあの厄介をどうにかしよう。私も少しくらい参加しなければと、ウイルスを出現させけしかける。
さあ行くがいい、ドリームビット。先手必勝というヤツだ。
『――――――――!』
白い小さな体躯から放たれる貫通レーザー。彼方から悲鳴のような、爆音のような音が聞こえる。
悲しい事故だった。生きていることを祈ろう。
『前の時も思っていたけど、それってドリームウイルスの……』
『とあるエリアに流れ着いていたものを貰ってね。ああ、無論安全性に考慮して扱っているのでご安心を。現在も各国のセキュリティとして提供しているが、妙な動きをすれば自壊するようにしているよ』
大元を対処した者として、疑問に思ったのだろう光少年と、どうせこの場を覗いているのだろうコレの本来の管理者に向けて答える。
このウイルスをそのまま拡散したとあらばそれは問題だが、情報漏洩の対策は万全だ。
暴走すれば自壊。解析や盗もうとしても自壊。外見的特徴だけを知ったところでどうにもならない。
ペット――もとい、ウイルスを飼うには責任が伴うのだ。ドリームビットの技術を教えるならば、それは信頼した者でなければならない。
『世間話は程々にしな。奴さん、どうにか避けたみたいだぜ』
『おや、それはそれは。攻撃が直線的なのはどうもな。各属性を早めに取り揃えたいところだが』
ふらふらとした足取りで駆け寄ってくる推定・ゴスペルのナビ。
ドリームビットは自分の攻撃が躱されたことに憤るように、前足を床に打ち付けている。可愛いなコイツ。
『お、オマエたち、何をしている! その氷を壊そうというなら無駄なことだぞ!』
『無駄じゃねえからやってるんだな、これが。邪魔するってんなら相手になるぜ』
『なっ……! クソ、これだからウラの無法者ってのは……オマエ!?』
『え?』
ナビはロックマンを見て、驚愕したように一歩後退る。
『ロックマン! ゴスペル要注意人物リストAランク、見つけたら即デリートすべしのロックマンじゃないか!』
『バラッド、逃がすな』
『あいよ』
親切なことに自分の素性とロックマンの重要性を教えてくれた愉快なナビは残念ながら逃がす訳にはいかなくなった。
指示を出した瞬間その場から消えたバラッド。
ナビがそれに反応した時にはその胸には巨大な十字型の刃が突き刺さり、怯んだと同時にその背後に現れると、片方にしか刃のない特徴的な形状のソードでその首を叩き落としていた。そこまでしろとは言っていないんだが……。
パラパラと残骸データとなって消えていくゴスペルのナビ。僅かな間、それに目を閉じた後、その場に落ちたセキュリティキーを拾い上げる。
――ゴスペルの会員証だな、これ。持っておいた方が良さそうだ。
『それ、シャドーマンの刀……』
『おう、良く知ってるな。別にヤツが化けてる訳じゃねえから安心しろ。どちらかというとオレがヤツに化けてるのさ』
何処か得意げに、バラッドは先程ナビの首を落としたソードを見せびらかす。
ウラにおける代表的な死刑宣告。黒き暗殺請負人、シャドーマンが持つカタナ――ムラマサといったか。
自身の傷に比例して切れ味を増すという物騒な性能を持ったソード。シャドーマンほどの力を持つナビであれば、瀕死の状態でそれを振るえば悍ましいダメージを発揮するだろう。
そんなものを持つバラッドだが、当然シャドーマン本人ではない。本人、真偽は不明だがデリート説出ているし。……なんでロックマン、ヤツのこと知ってるんだ?
バラッドのそれは単なる模倣。本物と比べれば経験や癖の分劣るだろう。
というか割と苦い思い出があるので私の前でそれ使うのやめてほしいんだが。レヴィアの仕事が終わってなくてよかった。
『よっと……ところでガキ。オマエ、普通のオモテのナビに見えたが、意外とやることやってるみたいじゃねえか。ゴスペルに喧嘩売るなんざいい度胸してやがる』
残ったウイルスたちを蹴散らしつつ、バラッドはロックマンを評価する。
会議の時、やけにゴスペルとの遭遇に慣れている様子だったが、まさか要注意人物リストとやらに載っているとは。
だからこそワクチンを渡されるなど重要な役目を背負っていたのか。
……子供に任せるような内容にも思えないが。
肩を竦めた直後の快音。
三分五十四秒。殆ど宣言通りにレヴィアが氷を破壊した。
荒れ狂う水流を伴う刺突はそのまま中のウイルスを粉砕し、さして疲弊していないレヴィアは槍を肩に置く。
『骨が無いわね』
『氷だからね。お疲れ様、レヴィア。あと二つ、行けるかい?』
『この程度なら、二つでも三つでも』
まったく、頼りになるものだ。
拾い上げた黄色い氷の欠片を分析する。うん、これなら問題なし。
欠片を中心にプログラムを組み上げる。完成したそれを少し離れてもう一つ置かれた黄色い氷に使用すれば、瞬く間に溶けていく。完璧だ。
それをレヴィアに対処させつつ、黄色用のワクチンをバラッドに渡す。
『またかよ』
『言っておくが全色だ。どんどん増やしてくれ』
レヴィアが氷の破壊を可能であると確認出来たところで、オフィシャルの副長官殿にメールを出す。
一時間後を目途に全色に対応したワクチンと広域散布プログラムを送る。そこから更に一時間以内に各国に必要数を配布し、全て同時に解凍を開始すること。
また、氷の破壊時ウイルスが発生するため各エリアにオフィシャルの部隊を展開すること。実行時間は必ず此方にも伝えること。
解凍に合わせて環境維持システムを迅速に復旧できるようそちらの準備も怠らないようこと。
同じ旨のメールをプライド様と、今も解決に奔走しているだろう光氏にも送る。
すぐにプライド様からちゃんと護衛を使えという説教と、末尾に激励が添えられた返信が届く。
よし、元気出た。護衛は万全だ。次に行くとしよう。
フリーズマンに全力で喧嘩を売る裏技攻略。
フリーズマン自体が青い欠片とか彼を倒したら全部壊れたとか色々台無しになるのでその辺りは変更します。
結果として一斉解凍作戦が実行待機状態に入りました。