バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
■月■日
色々と整理がついたので、久しぶりに日記を残す。
このくらい、さしたる負荷ではないというのにそれすら出来ていなかった辺り、相当参っていたのだと思う。
ダークソウルを浄化する力について、目途はついた。
問題は私の外装無しで安定した効果を実現し、誰に対しても実行できるようにするための技術の確立。
これはもう少し時間が掛かるだろう。
光氏を連れ戻すことさえ出来たら、助力を願っても良いかもしれない。
無論、これは私が主体として進めるべき事柄ではあるのだが……今やダークチップ乱用による被害は世界的なものだ。
一刻も早くこれを解決するためには、光氏のような世界屈指の技術者の手を借りるのが最も近く確実な道だろう。
……そういったことを考えられるくらいには、冷静になることができた。
さて、本日は依頼という訳でもないが、昨日のリベレートミッションで大きなダメージを受けたナイトマンのメンテナンスを行った。
チームの防御役として、ナイトマンには高い負荷が掛かっている。
ロックマンの苛烈な攻撃を受け止めてなおデリートされなかった彼だが、一切影響なしというわけにもいかない。
いくつか構成するプログラムに破損が見られ、このまま放置していれば重大なバグに繋がっていただろう。
改めて驚くのは彼の圧倒的な耐久力。流石はプライド様のナビだ。
しかし、彼の負担が私がいるために高まっていることは事実。
以降のリベレートミッションにエールオールを起用する許可は下りないだろうし、エールハーフに例の電脳障壁を実装できれば彼の動きも多少自由になるのだが。
■月■日
ロックマンのメンテナンスを行ったのだが、彼にはかなり不思議な現象が起きていた。
まず、ダークチップの力を注がれたことによる悪影響は残っていないと断言して良い。
副作用として生じるバグの数々――修復できるものからできないものまで洗いざらい確認したが、それらしいものは見つからなかった。
ただ一つ、変化として見つかったのが、先日のダークソウルを抑え込む際に発現した、ソウルユニゾンの特殊形態だ。
デューオとの戦いでも確認できたそれを、ロックマンは自分の意思で使用できるようになったのだ。
暴走しようとするダークソウルを、共鳴したナビのソウルと共に抑え込み、利用する。
それによりごく短時間ながら、ダークチップにも匹敵する凄まじい攻撃力を実現可能となるだろう。
ソウルユニゾンの際のように、光少年と共に一度動きを確認し、これを正式に「カオスユニゾン」と命名。
光少年とロックマンの新たな力となったが、これは簡単に利用できるものではない。
ダークソウルを意図的に呼び起こすなどという芸当、ロックマンでも不可能だ。
したがって、カオスユニゾンには暴走しない程度の呼び水が必要となる。
光少年には今はどうにもならないと言っておいたが、一つ考えられる手段はある。どうするべきか……考え物だな。
■月■日
先日行ったエンドエリア2の解放。
あれと一切関係がある訳ではないものの、近くエンドシティへ行くことが決まった。
というのも、プライド様の公務の関係。
なんでもエンドシティのシンボルたる城のメインコンピュータに我が国のセキュリティシステムを組み込むことが決まっているようで、その実作業のためだとか。
相変わらずプライド様が直接赴くようなことでもない。いや、作業自体は私が行うのだが。
どうやらその城のメインコンピュータはエンドエリア全域の通信システムにも関係しているらしいのだが、だからというべきか、不正アクセスの頻度が随分と多いらしい。
観光名所にそんな重要なシステムを置くなと言いたいが、恐らく政治の側面もあるのだろう。
ともかく、デンサンシティからはだいぶ離れた、古き街並みが今なお残る都市である。
プライド様も観光の時間は取れると言っていたし、仕事以外の面ではそれなりに楽しめるだろう。
+
――ロックマンのオペレーター、光熱斗。
――ナイトマンのオペレーター、プリンセス・プライド。
――シャドーマンのオペレーター、ダーク・ミヤビ。
――トマホークマンのオペレーター、ディンゴ。
――そしてシステム管理者、エール・ヴァグリース。
「……全員揃ったようだな」
その日、バレル氏の招集を受けて、私たちは科学省の指令室に集まっていた。
なんの用事かは知らされていない。私だけでなくプライド様も呼んでいる辺り、相応に重要な話ではあるのだろうが。
……しかし、こうしてみると実に異様なメンバーだ。
相変わらずそのまま闇に溶けてしまいそうなミヤビ氏の違和感が凄まじい。
「それでバレルさん、用事ってなんなの?」
「ああ。お前たちを今日ここに呼んだ理由は四つある。一つはメンバー……特にミヤビとディンゴの顔合わせ。常にこうして全員を揃えてミッションに臨むわけではないが、念のためな」
「そっか。前のミッションの時はミヤビがいなかったもんな」
ミヤビ氏はチームに所属しつつも、普段の生業を休止してはいない。
前回のリベレートミッションの際に顔を出していなかったのもそういう理由だ。
一応、シャドーマンさえ寄越してくれれば問題はないのだが――シャドーマンがいない状態で一体何をしていたのだろうか。
相手の事情は詮索しない。商売に関わるなら猶更、なんていうのはウラで信頼を得るためのコツではあるのだが、微妙に気になるところだ。
「ってことは、もしかしてあんたがシャドーマンのオペレーターなのか?」
「然様。そしてお主がトマホークマンの使い手か。なるほど……光熱斗といいお主といい、若さとは侮れぬものよ」
……それには同意ではあるな。
この一年間、未成年ながらかなりの力量を持ったオペレーターを多く見てきた。
その爆発力もさることながら、ナビとの絆も彼らの武器。
ネットワーク社会の未来は明るい、というべきか。
「さて。二つ目の理由だが……顔合わせついでだ。このチームの新しいメンバーを紹介する」
「新しいメンバー……?」
それらしい話は聞いていないな。他のメンバーも同様らしい。
「入ってくれ」
バレル氏の合図で扉を開いて入ってきたのは、見たことのない青年だった。
眼鏡にワイシャツ姿の、この指令室を出て科学省を歩き回ればすぐに似た特徴の人物を見つけられそうだ、という印象。
少なくとも、私の知るような著名人ではなさそうだ。
――そう思っていたところ、彼に特別大きな反応を示したのが光少年だった。
「ひ……日暮さん!?」
「光少年、知り合いなのか?」
「知り合いも何も、オレの町のチップ屋さんだよ!」
チップ屋……? 光少年の反応からして、親しい人物ではあるようだが。
その驚愕に、ドッキリが成功したかのような笑みを浮かべ、日暮氏は私たちの前に立つ。
「日暮闇太郎でマス! よろしくお願いするでマス!」
「な、なんだって日暮さんがこんなところにいるのさ!」
「熱斗くん……詳しく話すことは出来んでマスが……一つ言えることは、オトコになるためでマス! そのためにも、ネビュラと戦うことを決意したのでマス!」
よくわからないが、ネビュラと戦うという意思ははっきりとしたものらしい。
なんというか、このチームに入るにおいて、どうにも正しい動機とは思えないところだが、ここにいるということはバレル氏が認めたのだろう。
バレル氏に目を向ければ、ミヤビ氏の報酬絡みの時とは違った気疲れを思わせる表情を浮かべていた。大丈夫かこれ?
「一体どこで聞きつけたのかは知らんが……どうしてもこのチームに入れてくれと泣きつかれてな」
「情報統制などどうなっていますの?」
「……非公式部隊の名目を持っている以上、権限にも限界がある。幸いオモテの掲示板では、我々の話題は上がっていないようだが」
なんか一気に不安になったぞ。話を聞く限り、日暮氏は一般人なのだろう。
チームに勧誘すべき事情が特別ない人物に存在が知られるというのは……良くないのではないだろうか。
特にプライド様は公人だ。何かあれば不祥事では済まないぞ。
それにオモテで、とはいうが、ではウラはどうなのか。
日本側のウラインターネットがネビュラに占領されていることもあって、最近はウラスクエアにも行っておらず連中の間でどういう話題が盛り上がっているかもわからない。
相変わらず複雑なルートを通ってまで向こうに行っているのだろうレヴィアにも、これは聞くわけにはいかない話題だし……難しいところだ。
「オトコになるためって……相手はネビュラだよ? いくらなんでも流石に……」
「アッシは本気でマス! ネビュラとの戦いを通して、大切な人を守れる立派なオトコになる――アッシはやるでマスよ!」
「いいじゃんか熱斗! 誰かのためにっていう想いを持つヤツは強い! オレが保証するぜ!」
あえて否定はしないが……そういうものなのだろうか。
どうやらその強い信念がディンゴ少年には響いたらしい。
「ふむ……バレル。お主が認めた以上、相応の力量はあるのだろうな? 我らの相手はネビュラ。足手まといを引き入れる余裕はなかろう?」
「ディンゴの言葉にはオレも異論はない。確かに大した力は持っていないが、その男のナビ、ナンバーマンの計算能力は重要だ」
「そういうことでマス! アッシのナンバーマンのスーパーコンピュータにも匹敵する計算能力、必ず役に立つでマスよ!」
ほう、演算能力に特化したナビなのか。
確かにそういった能力に優れたナビはこのチームにはいなかった。
私が担当こそしていたが、私の本業は
ちょうどこのチームに足りていなかった役割、ということか。
「さあ、バレルさん。早くミッションの説明を聞かせてほしいでマス!」
「……いいだろう。皆を集めた理由の三つ目。次のミッションについて説明する」
バレル氏は前方のボードに映像を映し出す。
秋原エリア、オラン島エリア、科学省エリア、エンドエリア……これまでこのチームが仲間を集めながらも解放してきたエリアだ。
ネビュラの占領を示すマークがそれぞれ消えていくが、エンドエリアのそれはまだ残っていた。
「前回のリベレートミッションでエンドエリア2を解放したが、あそこはあのエリアにおける前線基地に過ぎない。だが、それと同時にエンドエリアの前半の解放は、ネビュラに王手を掛けたことを意味する」
ボードに続けて表示されたのは、私たちが関与していないいくつかのエリア。
ビーチエリア、パークエリア、セントラルエリア……ネビュラの被害を受けつつも、このチームの攻略対象とはならなかったエリアの数々。
それらに付いていたマークも消えていった。
「見ての通り、我々が解放したエリア以外にもネビュラの占領エリアは存在したが、オフィシャルや……褒められた話ではないが、一般人の抵抗によりネビュラを撤退させることに成功した」
「オレたち以外にも、ネビュラと戦う人たちがいたんだな……じゃあ、バレルさん。残ったエリアって……」
「ああ。エンドエリア5――ここを解放すれば、オモテのインターネットは全て取り戻したことになる」
――遂に、ここまで来たか。
オフィシャルの解放作戦や一般人の抵抗は、私たちが活動している最中にも多くのエリアを解放していたのだ。
インターネットは全体的に平和な空気に戻りつつあり、各地のホームページの掲示板も賑わいを見せているらしい。
そして、オモテにおける解放が必要なエリアはあと一つ。
一つのエリアに限定すれば日本最大級の規模を誇る、エンドエリア5。
その規模に比例するように、ネビュラが膨大な戦力を置いているというエリアだ。
「このエリアに居座るネビュラを撃退すれば、連中はウラインターネットへと逃げ込むだろう。その後、ウラでネビュラを一網打尽にする……という想定だが、そこは目下のところ未定だ」
「以前はウラも解放する予定と聞いていましたが?」
「ウラにおけるネビュラの抵抗勢力は不定期に激しい攻撃を仕掛けているようでな。下手に近付けばネビュラどころかウラの住民も相手取ることになりかねん。おいそれとミッションを行う判断は出来ない状況だ」
「なるほど……好戦的な彼らならば、そうなるだろうね」
ウラの連中がエリアの奪還を目指しているという話は聞いているが、まだ解放は出来ていないようだ。
とはいえ、では私たちが代わりに、という訳にもいかないのが実情。
ウラの抗争にわざわざ巻き込まれに行くなど愚かな話。
現状リベレートミッションを行える状況でさえないということか。
「ともかく、我々が考えるべきはエンドエリア5の奪還だが――」
『バレル。彼が科学省に到着した。この指令室に向かわせるぞ』
「――そうか。ちょうど良いタイミングだな」
その時、バレル氏の話をカーネルが中断させる。
誰か来ているのか……? まさかもう一人新メンバーなどということはないだろうが、この部屋に招くということはチームのことを知っている……?
「誰が来ているんだい?」
「実際に会った方が話は早いだろう。次のミッションに関わってくるのでな」
やはり話を聞かされているメンバーはいないらしい。日暮氏も首を傾げている。
少しの間待っていると、扉が叩かれた。
バレル氏が入室を許可すれば、入ってきたのは――
「……もうある程度想像も出来ていたから、何故ここにいるとも言わないが、新鮮味も幾分薄れるな」
「え、炎山!?」
入って早々、呆れ混じりに私と光少年を見てきた伊集院少年は前に出てバレル氏に並ぶ。
「――初対面の者に紹介しておこう。彼は伊集院炎山。オフィシャルネットバトラーであり、我々と同じくインターネットの解放を行うネビュラ討伐部隊、チーム・オブ・ブルースの代表だ」
「……つまるところ、次のミッションというのは」
「そうだ――エンドエリア5解放は、彼のチームと共に執り行う」
オモテのインターネットにおける最後にして最難関であろうミッションに向けた、大胆な作戦。
それはもう一つのチームとの共同戦線だった。
・日暮闇太郎
今作初登場。1から5まで登場するレギュラーキャラクター。持ちナビはナンバーマン。
熱斗の住む秋原町でチップショップ・ヒグレヤを経営している。
1での初登場時はWWWの団員として登場したが、改心してからは熱斗の味方として要所要所で力を貸してくれる。ダークチップ『フォレストボム1 *』をくれたり。
どうにも野暮ったい恰好に「~でマス」という語尾など、冴えない雰囲気だが決める時は決める。
1以外では4ブルームーンで大会の対戦相手として戦えるほか、5チームオブカーネルではチームに参加する。
参加の動機やらとある一件での対応やらが物議を醸したりしたが、それでも頼れる大人である。
・チーム・オブ・ブルース
5チームオブブルースに登場するネビュラ討伐部隊。その名の通り、ブルースがリーダーを務める。
ブルース版では熱斗はこちらに所属し、ネビュラと戦うことになる。
こちらはオフィシャル公認の正規部隊であり海外の軍人なども味方に引き入れている。
ちなみにカーネルの方は度々チームオブ犯罪者呼ばわりされているが、こっちもこっちで領空侵犯やらかしたメンバーがいるなど結構やることやっている。
エールにとっての闇との戦いに一区切りつき、ここからはテーマに変化が生まれる5編の後半戦となります。
割と原作沿いで進めていたのに何故かここまで出てこなかった日暮さんとの出会い、そして炎山くんとの再会。
日暮さんの印象が薄れることは否めないのですが、ちゃんと彼にも見せ場はあると思います。きっと。