バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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バグ医者の一番弟子-1 【本】

 

 

 

 

 日暮氏のチームへの加入、そしてチーム・オブ・ブルースとの共同戦線の発表から数日が経った。

 まだエンドエリア5のリベレートミッションを行う日程は決定していない。

 これには伊集院少年らの考えがあるようで、作戦の決行にはまだもう少し掛かるそうだ。

 彼らと共に戦うというのなら、私としてはパネルリベレートシステムの拡張と、彼らのチームメンバーに対応した専用ツールの開発を進めたいところだが、彼らのナビについて分からなければそれも出来ない。

 メンテナンスの経験から、作業を進められるのはブルース、サーチマン、ギャラクシーマンか。

 ただ、彼らの方針としてギャラクシーマンは作戦エリアの現地対応メンバーとしては関わらないとは聞いている……もう少し、向こうの考えを知りたいところではあるな。

 彼らのエリア解放時の映像が欲しいとバレル氏に要求してみたが、オフィシャルの機密事項とのことで、これの開示にも時間が掛かるようだ。ままならない。

 

 そんな訳で、この数日間で作戦に向けての進展は一つ。

 ミヤビ氏とシャドーマンによる、エンドエリア5の偵察である。

 現状、オモテのインターネット侵攻におけるネビュラの戦力の大半が集まっているといえるエンドエリア5だが、それでも彼らは可能な限りの情報を集めてくれた。

 エンドエリア5がウラへのルートを背にしていることもあって、寧ろウラに精通している彼らとしてはこれまで以上に楽な仕事だったのかもしれない。

 

 まず、オモテ――エンドエリア4から入るルートについて。

 ここは私たちが作戦決行の際に赴くことになるルートだが、こちらの入り口を塞ぐのは極めて強固なセキュリティドア。

 確認のため私も赴いてみたが、あれほどのものは科学省でもどれだけ運用されているかというレベルだ。

 はっきり言って、私では一時間や二時間は優に掛かるだろうし、構成するパスワードの変更タイミングの関係上それでは間に合わない。

 だが、幸いこの手のセキュリティに対するスペシャリストともいえるメンバーが加入したばかり。

 ライカ少年やグレース嬢もいる以上、決して突破不可能な障害ではないだろう。

 

 さらにシャドーマンが持ってきたのは、エンドエリア5そのものの情報。

 日本のインターネットの中でも最大規模を誇るこのエリア全域に広がる闇の力は、これまで解放してきたエリア以上に濃いもの。

 内部には多数のネビュラ構成員がうろついており、これまで通りの攻略は困難と思われる。

 加えて、エリアのあちこちには闇に混じって罠の類が仕込まれているらしく、闇によって停止しているそれらは解放と共に起動してしまうとのこと。

 一撃でデリートされるほどの傷を負うレベルではないが、これにより、我々は迂闊に闇を晴らすことも出来ないということか。

 ともなると、この罠を起動する前に解除する手段が必要となるな。

 求められるのは、闇の奥のどこにそれがあるのかを素早く把握し、罠の構造を解析する演算能力……正しく、ナンバーマンに打ってつけだ。

 やはり行き当たりばったり感は否めないが、彼のためのツールの方針は決まったと言えよう。

 罠のプログラムを一つ二つ持ち帰ってもらえれば構築もより進んだのだが、シャドーマンはあくまで偵察役。

 これまで以上に危険な中でこれだけの情報を得てきたのだから十分だ。

 

 エンドエリア5の攻略に向けた準備は着々と進んでいる。

 そんな中、光少年はどうやらチームでの行動とは違う、別のことを調査しているらしい。

 光氏のコンピュータから発見された、例のテキストデータ。そこから光少年は何かの手掛かりを得たようだ。

 こちらについては、光少年からの連絡があれば支援するつもりではある。

 その先にあるものがネビュラとの戦いに関わる代物である可能性は低いものの、その後あちこちを飛び回っているらしい光少年の様子を聞く限り、中々大きな話だろうから。

 

 

 ――さて、そんな状況の中で、私はデンサンシティを離れ、日本の西にある都市……エンドシティに来ていた。

 少し前にプライド様に伝えられた公務の関係で、数日滞在することになる。

 古き良き、とでも言えばいいのだろうか。まるで日本が最先端を行くネットワーク社会から置いていかれたような、時代錯誤を感じさせる街並みは、タイムスリップでもした気分にさせる。

 

『コ、コノ前見タ、時代劇ミタイダナ』

「ああいう時代の建築物がそのまま残っているらしいからね」

 

 ジャンクマンが言っているのは何の話かと思ったが、この前レヴィアがウラから持ち帰ってきたデータの中に入っていたドラマの話か。

 どうやらゲリラライブの投げ銭代わりにどこぞから流れてきた映像データを寄越してきた者がいるようで、持ってきたレヴィアも不可解な表情だったのを覚えている。

 そうした非合法なデータが不規則に飛び回り、すぐに足取りを追えなくなるウラの世界。

 ゆえにその世界の住民であるレヴィアがそれを持ち帰ってくることを咎めはしないが、ジャンクマンやアイリスに悪影響がありそうだから出来れば控えてほしい。

 

 その映像データは日本の時代劇だった。

 私は外装の調整であまり見てはいなかったが、ジャンクマンとアイリスは楽しめていたらしい。

 ――カタナだの槍だのの打ち合いを見て何か嫌な記憶でも過ぎったのか、持ち帰った本人であるレヴィアが早々に視聴をやめたのは知っている。

 それを指摘すると面倒臭い絡まれ方をされかねないので言わないでおいたが。

 

「なんだか新鮮ですわね。日本のこうした歴史的な都市を目にするのは」

「デンサンシティにはない雰囲気ですからね。向こうにも城はありますが、日本らしいものではないですし」

 

 プライド様もこの都市を直接訪れるのは初めてのようだ。

 彼女が見上げているのは古い街並みの中で一際目立つ、背の高い城。

 屋根の上に鎮座する黄金に輝く二匹の魚はシャチホコというらしい。曰く、火事などから城を守る守り神のような存在だという。

 二匹のシャチホコが見守るその城の名はずばりシャチホコ城。

 歴史的な武将が建てた重要な文化財にして、今では内部にネットワークが構築され、さらに日本東西の通信を統括する通信システムの要ともなっているらしい。

 いいのか、それで。これが落ちれば文字通り日本が分断されることになりかねないのだし、やはりもう少し、物理的なセキュリティを高めた方が良いと思う。

 

 デンサンシティに建つ城には、数ヶ月前に関わったことがある。

 といっても、シェロ・カスティロにあるまさかり姫の城のことだが。もうホークトーナメントも懐かしいな。

 あれは洋風の城だった。こうした和風の城というのは私も間近で見ることはなく新鮮だ。

 

「ひとまず本日は時間があります。街並みを見て回りましょうか」

「はい」

 

 プライド様の公務は明日からだ。

 中には私も関わるものがあり、二人揃っての空き時間は割と少ない。

 ひとまず、今日のところは観光を楽しむことが出来るのだろう。

 

 比較的今回の訪日では時間を取れている方だとは思うが、それでもプライド様には自由な時間というものが少ない。

 全て必要な公務だからとは言うものの、今回のエンドシティで請け負うものも含めて、やはりプライド様が赴くことではないような気がする。

 まあ……今回はエンドシティの観光を共に出来るという点もあり、悪いことばかりではないのだが。

 “おしのびスタイル”のプライド様は普段より羽目を外しているようで、最近見ることの少なくなった自然な笑顔を浮かべている。

 その一因になれているならば本望である。

 

 ……しかし、甘味が多いな、この街。

 観光地だからだろうか。ここまで甘味処というのが並ぶ光景も見たことがない。

 日本の甘味というのも嫌いな訳ではないが……こうも推されていると気後れするところがあるな。

 

「……プライド様、よく食べますね」

「ふふ、こういうものはお城にいると中々自由に味わえませんから」

「……ナイトマン、大丈夫なのかい?」

『ム……ウム。こうした暇はプライド様にとって希少ですからな』

 

 私がそこまで積極的に手を出せない中で、プライド様は自由時間を満喫しているようだった。

 ……ストレス、溜まっているのだろうか。まあ一日くらいであれば、こうして存分に楽しむのも悪くはないが……。

 とりあえず、プライド様が羽目を外し過ぎないようにしなければなるまい。制止役として、今日のナイトマンは期待できそうにないし。

 プライド様がブレーキを壊すというのは想像できないが、甘味で人が違った一面を見せるというのは間違いないだろうから。

 

 若干の呆れを覚えつつも、プライド様に付いていく。

 行き交う人々を見てみると、海外からの観光客と思しき人も多い。

 何というか……昔ながらの日本らしさというものが出ているこの都市は海外から絶大な人気を誇っているようだ。

 あまり知らない者が思い描く日本の光景に最も近しい光景が見られるのだから、無理もない。

 この街のインターネットエリアであるエンドエリアも、本来はこの古い街並みを再現した様相が広がっている。

 先日エンドエリア2を解放したことで、エンドエリア最大の観光スポットである城のあるエリア3も取り戻せている。

 まだエリア4から先はネビュラが徘徊しているようだが、それより前のエリアは観光を目的としたナビの姿も増えてきているとのこと。

 人通りが戻ってきているということは、人々に相応の余裕が戻ってきたことを意味する。

 今や科学省エリアやビーチエリアなんかはほぼ元通りの賑わいを見せていると聞くし、このままオモテのインターネットを完全に奪還し、ネビュラを追い詰めたいところだ。

 

「エール、次は向こうに行ってみましょう」

「はい、プライド様――」

 

 まあ、今はネビュラのことを忘れ、エンドシティを楽しもう。

 ひとまずそう考えて、プライド様に付いていこうとした時だった。

 

「――――お師匠ッ!」

「ぅぐっ……!?」

「エール!?」

 

 横腹に何かが突き刺さってきて思わず体勢を崩し、プライド様に支えられる。

 こんな場所で一体何が……ん? お師匠……?

 その呼称には覚えがあった。見下ろせば、横腹に飛びついてきたのは日本で出会うとは思っていなかった知人であった。

 

「……どうしてここに」

「やっぱりお師匠! 間違いないと思ったネ!」

「……えっと、エール……? お弟子さん、ですか?」

「いえ、私は弟子を取ったことはないです」

 

 どう説明したものかと考える。

 いや、本来そこまで説明に複雑さを要する関係になる筈はなかったのだが、どうしてこうなったのか。

 私に弟子などいない。桜井嬢のあれは、師弟関係とはまた違うものだし。

 とりあえず、少女を引き剥がす。

 切り揃えた黒い髪やチョイナの白い民族衣装は変わらないながら……うん、背が伸びたか。彼女の年で、一年以上会っていないのだから当然だが。

 

「プライド様、彼女は……」

 

 紹介しようと並んで立たせれば、彼女は私が名前を呼ぶ前にプライド様に踏み出した。

 

「プライドサマって……プライド様!? クリームランドの王女さまカ?」

「え、ええ、そうですが……あなたは?」

「わぁ……! やっとお会い出来た、光栄ネ! 私はジャスミン! チョイナから医学を学びに日本にやってきた、お師匠の一番弟子ヨ!」

 

 こんな人通りのある場所であまり騒がないでほしいのだが……。

 彼女――ジャスミン嬢がプライド様と会えたことを感激してしまう理由の一端を私が作ってしまったのだから何も言えない。

 そこを含めて説明するべきか、想定外の状況に頭が痛む。

 少なくとも、彼女が私の弟子ではないという点だけは、何としてでも訂正しておかなければならないところだが。




・エンドシティ
5に登場する日本の西側にある都市。
巨大な城、シャチホコ城とその城下町が歩き回れるマップとして登場する。
古都のような雰囲気だが時代を感じさせる文化財の修繕などには最新の技術が使われており、各所にプラグイン可能。
シャチホコ城では日本の東西の通信の要となるシステムが管理されており、メインコンピュータはその最上階……のさらに上である屋根上のシャチホコに存在している。
5のシナリオ中ではこのメインコンピュータを修復するためや、ガウの秘密を追う中でたびたび屋根に上る。時々シャチホコの上に某チームメンバーもいたりする。自由な街である。
5において悪名高い百人切りやシャチホコの電脳はここにある。
名前の由来は尾張(終わり)と江戸。洒落たネーミングセンスである。

・ジャスミン
5チームオブブルースに登場する人物。持ちナビはメディ。
医学・薬学を学ぶチョイナ出身の少女。そのためか、「~ネ」などの語尾が目立つ。
祖父の病気を治すため、ウラインターネットに眠るとされる医学書を探し求めている。
熱斗にウラへの行き方を尋ねるが断られると自力でルートを発見。道を封じる扉を強行突破してウラへと赴こうとする。
その結果、カーネル版におけるケロさんと同様のやらかしをしてしまい、その責任を取るためにチーム入りを志願。
そこでもひと悶着あり、最終的にウラでメディと共に熱斗に発破をかけ、正式にチーム入りすることになった。
こちらは割と手段を選んでいられない理由があるため、ケロさんに比べると問題視されることは少ない。あくまで比較的だが。
熱斗たちと同年代ということからか、アニメでも準レギュラー的な立ち位置として登場した。クロスフュージョン時のデザインの可愛さは異常。


おいでませエンドシティ。プライド様との観光、それから自称一番弟子との遭遇。
ちょこっとだけ名前の出ていたジャスミン嬢の登場。チーム・オブ・ブルースとの関わりはない一般人です。
一般人(クリームランド在住のバグ医者をお師匠と呼ぶチョイナ出身の医学者見習い)です。
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