バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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フリーズマンのことを度々コールドマンと書きそうになる問題。
彼らギャグっぽく描写されてますけど今回のゴスペルの事件と似たようなことやらかしてるんですよね。
彼らがハッキングした気象衛星と環境維持システムってどっちが強いんでしょう。


バグというもの-1 【本】

 

 

 目にも止まらぬ連撃。

 それらは一つ一つがたった一点に集中している。

 それまでとは違う趣向で繰り広げられる、最も高い強度を持った氷の攻略。

 三分を超えても一切速度が鈍ることなく、同じ威力を絶え間なく叩き込むレヴィア。

 既に三度目であるからか、やってくるウイルスも疎らである。

 ゆえに余裕が出来たロックマンはその激しい攻撃を唖然とした表情で眺めている。

 そして三分二十秒。記録を大幅に更新して氷を粉砕した。

 中のウイルスに暴れさせる暇など与えない。

 それぞれを一突きしてデリートすると、辺りに静けさが満ちる。

 その中で私は、砕け散った青い氷の欠片を拾い上げる。

 一際高いセキュリティレベルを有した青い氷はワクチンの作成に多くの欠片を必要とする。

 だが、氷一つ壊せればなんの問題もない。

 

『これで欠片は全色集めきったな』

『ああ。レヴィアがいてくれて助かった。欠片集めに時間を掛けてなどいられなかったからね』

『なんの反応も示さない的が相手ってのは気に入らないけど。ま、悪い気はしないわね』

 

 どこか得意げなレヴィアを横目に、青い欠片でワクチンの構築を始める。

 ロックマンが持ってきた赤ワクチン、そしてこれまで作成した黄ワクチンと白ワクチン。

 最後に残っていたのがこの青ワクチンだ。

 既に三色はバラッドが十分な数まで複製が完了している。

 あとはこれを完成させれば、全色に対応したワクチンが揃う。

 

『凄え……あっという間だ……』

『達成感を覚えるのはもう少し待つんだ、光少年。キミらにはもう一仕事してもらわないと』

『もう一仕事?』

 

 バラッドが怪訝そうに繰り返す。

 当然、これだけでは終わらない。

 今インターネットに展開されている氷を溶かしたところで、大本を断たなければまた同じことの繰り返しになる。

 いや、今回の対策を取られ、より厄介になるだろう。そんないたちごっこをするつもりはない。

 手早く青ワクチンの構築を完了させる。傍の氷でその効果を試してから、バラッドに手渡し複製を頼む。

 

『ふぅ……。実はね、ゴスペルの目的を知ってから、インターネットにあるウイルスを放っておいた。弱く、デリートすればバグのかけらに変わるようなものだ』

『バグのかけら……? ッ、もしかして――』

『ああ。すぐにウイルスたちは狩られ、バグのかけらは多くがとある場所に運ばれた。日本の掲示板を見たが……バグのかけらをチップやらに交換する物好きがいるらしいね?』

 

 関連性がある、と確信できる訳ではない。

 だが、レアチップと引き換えにしてまで集めるほど、バグのかけらに価値を見出すような者がいるならば、どのみち素性を調べておく意味がある。

 

『……コトブキスクエア!』

『集合住宅の集う住宅街のスクエア。一応探してみる価値はあるんじゃないか?』

 

 とりあえずは、ここにゴスペルの作戦の中枢となる何かがあると判断する。

 あまり大掛かりに動いてプラグアウトされても困る。ゆえにここに突っ込むのに大それた編成などはしない。

 多人数を相手取る可能性は高い。ロックマンにその経験があるかは知らないが――レヴィアとバラッドがいれば、問題は少ないだろう。

 寧ろ私が邪魔だな。ここまでやって一人逃げ出す訳にもいくまいが。

 

『そうかい。んじゃ、とっととワクチン増やしてやるから待ってな。少しでも急いだ方が良いんだろ?』

『む? 別に歩きがてらで構わないが』

『オモテの事情には関わらねえのがウラのやり方だ。ウラから出たらオレの出番はもうねえよ』

 

 片手間でワクチンを複製しつつ、バラッドは宣言する。

 ……まあ、それもそうか。私とは違い、彼はずっとウラの住民だ。

 ウラはオモテとは関わらない。それはウラに住む者の大原則。

 コイツらは何だかんだ、保守的なのだ。オモテへの態度は悪いものの、自分たちの生活圏を脅かされない限り、露骨にオモテに干渉したりはしない。

 そんな思想が全体に根付いているからこそ、閉鎖的で慣れ合いを良しとしない独特のコミュニティが形成されているのである。

 

『それなら、仕方ないか。ウラでのワクチンの散布は頼めるかな?』

『そっちはやっとく。時間が来たら連絡しな』

 

 そして、そんな中で生きる自立型ネットナビであるバラッドだが、こんな風に変に付き合いが良いのだ。

 だからこそ、オモテの仕事もやってくれるのではと考えていたものの、その辺りの線引きはしっかりしているということか。

 

『レヴィア、キミはどうする?』

『行くわよ。ウラのやり方とか知ったことじゃないわ。本番はここからでしょ?』

 

 ――ウラの原則を理解していてまるで従わないフリーダムな自立型ネットナビも存在する訳だが。

 あくまで自立型、である。専用のチップフォルダを持ち、戦闘を可能とする彼女にもオペレーターは必要ない。

 レヴィアはうちの居候だ。私のPETに入ったことなど一度もないし、私がオペレートしたこともない。なんというか、人間とナビの関係性としてはかなり特殊なものなのだ。

 

『では、ワクチンの複製が完了し、それをオフィシャルに送付次第、コトブキスクエアに向かう。ロックマン、光少年、案内は頼むよ』

『うん、任せて!』

『おう! ……って、一緒に戦ってくれるってことで良いのか?』

『共闘という形になるかは微妙なところだがね』

 

 素知らぬ顔のレヴィアに目を向けつつ肩を竦める。

 こんな彼女だが、ウラの掟の第一たるものは守っている。

 即ち、力こそ全て。そんなレヴィアがロックマンとの共闘を可能とするかは、正直分からない。

 まあそれでもいないよりはマシだろうが。せめてロックマンは巻き込まないよう言い含めておこう。

 

 

 

 コトブキスクエア――小国たるクリームランドからすると、町一つにスクエアがあること自体あまりピンと来ない。

 世界のネットワーク技術の最先端を担う科学省を擁するゆえか。日本のネットワークは他国のそれより広大で、その分、設置されるスクエアの数も多い。

 だからこそ、組織の隠れ家とするのには絶好の場所なのかもしれない。

 

『……なんとまあ。管理者の名前すら無い扉をよく許容するものだ』

 

 スクエアに企業や施設のスペースが設けられることはどの国でもよくある。

 そういうスペースにはほぼ必ずセキュリティが張られており、入り口には何処が管理しているかの記述があるものだ。

 表札や企業の看板のようなものである。企業の場合は管理能力の監査対象ともなるだろうし、スクエアにスペースを設けることを許された以上、隠す意味は全くと言っていいほどない。

 そんな中で、これである。

 スペースの所有者どころか管理者の名前すらない。よくもこれで許可が通ったものである。

 いや……スクエアのクセに一切人気のないそこは、元々がこの組織のためだけに用意されたのかもしれない。

 先程ウラで手に入れたゴスペルの会員証を提示する。

 セキュリティが解かれ消えていく防壁に、呆れのようなものを覚えた。

 

『ここが……ゴスペルの?』

『何らかの重要な施設であることは間違いないな』

 

 さてさて何が出てくるか。

 慎重に進んでいくと、みるみるうちに辺りが暗くなっていく。

 雰囲気づくりは本格的だ。その割に中に人気が無いというのが気になるが――まさかとは思うがゴスペルもいよいよ人材不足か?

 

「……ふむ」

 

 ともあれ、正念場になると思う。

 現実世界の私は体を伸ばし、エナジードリンクの残りを飲み干す。

 眠気と疲労がどっと押し寄せてくるのもそう遠くはない。それまでに終わらせなければ。

 

『あの先かな』

 

 ゴスペルのスペースに入り込んで暫く。

 やがて一つのリンクが見えてきた。

 レヴィアはあくまで自然体。ロックマンは息を呑み、手を主装備であるらしいバスターに変化させる。

 移動した後、すぐに襲撃を受けても良いように。

 そうして、万全の準備で、三人同時にリンクの先へと足を進める。

 

 

 ――至ったのは、戦うのに申し分のないだろう黒い広場。

 

 これまでワクチンを作ってきた四色の氷が連なり、一つの氷山を作り出している。

 見上げる先、巨大な玉座にも見える氷の上に、一人のナビが立っていた。

 黒い上着を身に着けた氷の男。

 顔は元々何の形にもなっていなかった氷を削って作ったように無骨で、能面の如き無表情。

 肩や腕、足から伸びる氷柱はこれでもかというほどにその属性を主張している。

 ナビは無機質な瞳で此方を見下ろしてきている。まるでこれこそが実力の差であるとでも言うように。

 

『来たか。思ったよりも早い到着だな、ロックマン.EXE。ゴスペルの本部へようこそ』

『お前は誰だ!』

『ワタシはフリーズマン。ゴスペルの最高司令官だ』

 

 ナビは外見相応の、温度の感じられない声色でフリーズマンと名乗る。

 ……ネットナビが最高司令官か。果たしてオペレーターがいるのか、それとも――

 

『残る二人は初めて見る。何者だ?』

医者(デバッガー)だ。クリームランド、エール・ヴァグリースの名代エールハーフ。今回の事件を執刀させてもらった』

 

 レヴィアはまるで聞こえていないかのように無視。これから戦場となるこの場所を見渡している。

 対して私は名乗っておく。許しがたい敵だとしても、最低限の礼儀だけは欠かさない。

 

『――バグ医者エール。クリームランド、か。なるほど、先の計画が失敗に終わったのはお前が原因だな』

『その節はどうも。大切な人が道を外しかけていたので、手を出した。おかげでクリームランドの立場が上がったことだけは感謝しないでもない』

 

 それだけは、ゴスペルの干渉がなければ叶わなかったことだと言っていいだろう。

 だが、その代わりにプライド様は追い詰められた。私は決してそれを許すつもりはない。

 慰謝料も賠償もいらないが、プライド様の苦しみに付け込み利用した落とし前は、きっちりと支払ってもらう。

 

『下らん。落ちぶれた国が今更どうなろうと関係はない。どの道、世界は今日終末を迎えるのだからな』

 

 計画の一つを利用し、瓦解させたこと。それを気にしていないようにフリーズマンは吐き捨てる。

 やはり、環境維持システムの停止による世界の崩壊――それが目的か。

 

『間もなく世界全てを震度十の地震が襲う。世界中から発される強大な自然エネルギーに晒されればたかが小国の環境維持システムが動いていようとどうにもならん。無駄な足掻きはやめ、世界の終わりを見届けようではないか』

 

 最早計画は結実したとばかりに腕を広げるフリーズマン。

 確かにこのまま待っていれば、クリームランドのシステムだけでは抑えきれない状況になる。

 果たしてその限界はいつやってくるか。

 答えは「やってこない」だ。それにこの時点で気付いていないフリーズマンの計画は、既に崩れ始めている。

 

『断る。手早く全ての氷を溶かして事件を終わらせる。とっとと寝たいんだ』

『ふっ、残念だが、青い氷のサンプルデータは我が内にある。ワタシを倒さぬ限り、全ての氷を溶かすことは――』

 

 その言葉が終わる前に、持っていた青ワクチンを展開し、フリーズマンの近くの氷に投げつける。

 氷はワクチンに反応し、音を立てて崩れ落ち、溶けていく。ふむ、この辺りの氷にはウイルスが仕込まれていないのか。

 黒い目を僅かに見開いたフリーズマンに対し、勝ち誇ったように言ったのは光少年だった。

 

『氷を溶かすワクチンならとっくに用意してあるぜ! 後はお前を倒すだけだ!』

 

 うん、勝気な物言いは実に彼らしい。私が淡々と勝利宣言してやるよりも気持ちが良いものだ。

 

『……馬鹿な。物理干渉を跳ね除ける我が氷が砕ける筈がない』

『ゴスペルってのは常識も知らないのね。どんなに頑丈なものでも、それ以上の力を加えれば砕けるのよ』

 

 そこで初めて口を開くレヴィア。それは常識ではないぞ。

 だがまあ、正解だ。レヴィアは氷の耐久性を凌駕することで打ち砕いた。

 フリーズマンにとっては経験のないことだろう。安心してほしい、それが出来るレヴィアが異常なだけだ。

 

『――さしたる問題ではない。お前たちをこの場でデリートし、対策を施した氷をもう一度放つまでだ』

『上昇志向は良いことだ』

 

 転んでもただでは起きないフリーズマンの宣言に軽口で返す。

 直後、来た道が床からせり上がった巨大な氷で塞がれた。

 アレは対処してきた氷型ウイルスではなく、生成速度と攻撃力を重視した、戦闘用の氷。

 ゴスペル最高司令官を名乗るナビだ。氷型ウイルスだけが能力の全てという訳ではあるまい。

 みるみるうちに部屋が氷で覆われる。どうやら一部のコマンドを遮断しているようで、プラグアウトを封じたようだ。

 己の逃げ場も断つ行動。それほどまでに勝利を確信しているのか。自信作らしい氷を砕いた張本人もいるのだが。

 と、そうだ。戦う前に明らかにしておきたいことがある。いや――ある種確信があるから、フォルダは既に編集済みだ。

 

『キミ。ゴスペルが目標としているらしい究極のナビとやら、バグを集めて作ろうというのは本当か?』

『ほう。知っていたか。そうだ、コトブキスクエアで集めた大量のバグのかけらや、我らが計画の数々で発生したバグ。それらを融合させることで、悲願たる究極のナビは完成するのだよ』

 

 ――どうやら、本気で言っているらしい。

 今更口で説明したところで、納得はすまい。バグを知らない者は、本気でバグの力とやらを信じている。

 

『バグ医者エール。お前は依頼でバグのかけらを集めているそうだな? それを差し出せ。そうすれば、この場でのデリートは見逃してやろう』

『どの道待つのは滅びじゃないか。それに、バグの価値を知らない輩に、そう簡単に商売道具を渡すと思うか?』

 

 聞きたいことは聞いた。話は終わりだ。

 広がっていく氷を眺めていたレヴィアが此方に振り向く。そして、ようやく面白い獲物に会えたとばかりに、小さく笑みを浮かべた。

 

『戦っていいのね?』

『私やロックマンを巻き込まない程度にね』

 

 さて、私も集中だ。

 今回はそれこそ、敵に対し容赦はしないだろうゴスペルのナビ。

 ナイトマンのように安心して守りを任せられる者もいない以上、気を張らなければ。

 

『やるぞ、ロックマン! バトルオペレーション、セット!』

『イン!』




■バラッドがログアウトしました。


・フリーズマン
ゴスペル最高司令官。ゴスペルでは首領に次ぐ力を持つ。
インターネット中に氷型ウイルスを放って環境維持システムをフリーズさせ、世界中で震度十の大地震を巻き起こそうとした。
原作では氷を溶かすために必要な青い欠片の最後の一つでもあり、デリートされてもワクチンを作る時間はないと勝ち誇っていたが制御を失った氷は勝手に壊れた。なんでや。

本作では『青い氷を溶かすための重要なサンプルデータ』ということになっています。特に意味はないですが。
ちなみに震度十という日本ではあまり馴染みのない数値ですが、日本以外では大体十二階級による区分けが多いようです。
ただしそちらの場合は震度と表現はしないので結局よくわからないです。多分エグゼ世界特有の区分けがあるのでしょう。
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