バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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バグというもの-2 【本】

 

 フリーズマンの足元からせり上がる氷柱。

 体を容易に貫かんばかりの鋭さを持ったそれが次々と出現し、ロックマン目掛けて突き進む。

 狙いは向こうに行ったか。まああの程度躱せない筈があるまい。

 今のうちに私は転ばぬ先の『アンダーシャツ』を使用する。

 致死量のダメージを負っても紙一重で持ち堪えるこのチップは、私にとっては生命線にも等しい。

 同時に送信したのは『ラビリング』。ダメージこそ少ないが信頼できる速度を持ち、当たれば相手を麻痺させて動きを封じるこのチップは隙を作るのに向いている。

 ついでに相手は水属性。そしてその足元は氷に満ちている。この状態なら攻撃の威力がぐっと上がる。

 

 危なげなくロックマンは氷を回避し――直後、私を覆った影に悪寒を覚えその場から退避する。

 ナビ一人を押し潰して余りあるほどの氷塊が落下してきたのだ。

 レヴィアにも同じように落ちてきたものの、彼女はフリーズマンに急接近することで躱した。

 ならば、と私はフリーズマンの足に向けて『ラビリング』を射出する。

 電撃の輪、胸の中心を狙った刺突。その二つをフリーズマンは、一度の行動で同時に防御する。

 ――巨大な氷の防壁。

 動きを捨て、自身を分厚い氷で覆うことで方向関係ない強力な防御を可能にしている。

 深く突き刺さったレヴィアの槍。しかしフリーズマンには届いておらず、槍を引き抜こうとする前に氷壁から氷柱が伸びる。

 

『――――』

 

 たった一秒にも満たない時間。

 レヴィアは優秀な演算能力で以て、反撃を対処する。

 

『ほう』

 

 槍の刃を射出し、その衝撃で拘束から逃れ跳躍。

 氷柱は何処までも伸びるものではないらしく、その一跳びで回避する。

 そして刃を再生成、着地するまでの間に弦を弾き、冷たい音を氷の部屋に反響させる。

 発生したのはフリーズマンの氷とは性質の違う氷の弾丸。

 更にもう一度弦を弾くことで先程槍を突き刺した一点に向けてそれを射出。

 氷柱を回避して攻撃の余裕の出来たロックマンも、氷壁を突破する方法を理解したらしい。

 

『こっちも集中攻撃だ、ロックマン!』

『うん! ――テトラニードル!』

 

 光少年が選んだのは、一点集中に向いたバトルチップ。

 針を四発、連続で発射する。

 分厚い氷の、大きな罅の入った部分に突き刺さっては炸裂し、度重なる集中攻撃で限界を迎えた氷壁は爆散する。

 壊した氷がどうなるかなど予想が付く。壊される寸前に配置した『トップウ』が風を巻き起こし、クレイモア地雷の如く飛び散った氷片を押し返す。

 

『ぬぅ……』

 

 背後に聳える氷に背中を打ち付けるフリーズマン。レヴィアがその隙を逃すなどあり得ない。

 床を切り裂きながら薙がれた槍で怒涛の水流を交えた衝撃波が氷を砕いて進む。

 それはまるで海面を裂きながら進む海洋生物の如し。

 当然、防ごうと氷柱を発生させ――

 

『残念、外れ』

『ぐおぉ!?』

 

 寸前で止まった衝撃。一瞬の静けさの後、背後の氷を裂いて突き出てきた鋭い水の奔流がフリーズマンの背を切り裂く。

 正面からの派手な陽動で誘った上で背後から喰らい付く水の棘。

 突然の奇襲に怯んでしまった時点で、レヴィアから逃れるチャンスをヤツは逃した。

 水流と衝撃波に隠れて氷山を駆けあがっていたレヴィアが振り上げたヒールが、フリーズマンの後頭部を捉える。

 高みから此方を見下ろしていたフリーズマンは蹴り飛ばされ、氷山を転がり落ちる。

 それを冷たい目で睨み据えながら、レヴィアは彼に代わり氷山の上に座り、膝を組んだ。

 

『なんだ今の……』

『お、おのれ……!』

 

 驚愕――というよりは若干引いた様子の光少年。

 無理もない。あんな攻撃、初見で見切れる者など余程奇襲に慣れている者くらいだ。

 

『余裕があるわね。戦いの最中に這い蹲るなんて。氷使いが甘く見られるような無様を晒さないでくれる?』

 

 他人の氷に腰掛け、肘をつくその姿、まるで女王。

 どうやら最初の一撃を彼が防いだ時点で、レヴィアは彼を見限ったようだ。

 “楽しむ”戦いではなく、“敵を狩る”戦い。

 全力を以て正面からぶつかることこそレヴィアの本懐。

 ゴスペル最高司令官ともなればその対象になるかと、戦いの初めは思っていたが――そうではなかったらしい。

 卑怯歓迎、不意打ち上等。その上で徹底的に相手を貶める、戦士ではなく、ウラの馬鹿共を支配する女王(アイドル)としての側面。

 この二面性こそ彼女がウラでも随一の力量を持つと言われる所以。

 レヴィアがどちらの面を出すか考える余裕のあるうちは、それを超えることなど決して出来ない。

 

 殆ど人前に姿を現すことがないものの、仮にも王が存在するウラの世界で支配者のような振る舞いは如何なものか、と何年か前にそれとなく聞いたことがある。

 対してレヴィアはあっけらかんと答えた。

 

 ――生憎、会ったこともない者に媚びへつらうような信仰心はインストールされていないの。

 

 ――それならまだ、目の前にいる貴女に跪くわ、私。

 

 彼女が力を認めるのは、実際に相対し、武を交えた者のみ。

 具体的に言うと、同じく槍を得物とするウラの王が重用する片腕とか、最後の最後で自分に差し迫り相打ちにまで持ち込んだシャドーマンとか。

 そんなウラのカーストにおいて、力で上位に座すレヴィアに、そこいらのナビが追いつくのは、或いはその野望を果たすよりも難しい。

 立ち上がるフリーズマンはレヴィアを見上げる。三人に囲まれる形になったが、先の動揺は既に消えている。

 

『……些か侮っていた。だがそれもここまでだ』

 

 ――――足元!

 

 突き出てきた氷柱を間一髪、『インビジブル』で回避する。

 ロックマンに対しては無数の氷片を弾丸として放ち、レヴィアには雨のように氷柱を降らせ、同時に攻撃する。

 

『シールドスタイル!』

 

 スタイルチェンジを実行し、盾を装備した緑の姿に変わると、ロックマンはその盾で弾丸を危なげなく防御。

 レヴィアは片手間と言わんばかりに槍を振るい、頭上に自身の氷を集め屋根を形成する。

 氷柱が屋根に突き刺さり、詰み上がっていき――限界を迎える前にレヴィアは氷山を滑りながら降りてきた。

 

『まだだ。我が力の粋、存分に味わうがいい』

 

 せり上がる氷山の如き柱。上から降り注ぐ氷柱。

 その隙間を吹雪に乗って氷片が暴れ回り、逃げ場を塞いでいく。

 部屋全体に氷の暴威は広がっていく。『インビジブル』の効果時間でそれは終わらないと判断し、私は次の手を用意し始めた。

 二人を確認している暇はない。レヴィアは問題ないとして、ロックマンは――大丈夫そうだな。何やら氷の向こうから激しく抵抗する音が聞こえる。

 それなら遠慮なく自身を守る。まだ無事である床に立ち、『ホーリーパネル』を使用。

 聖なる光の中で纏わせるのは『エレキオーラ』。

 弱点である木属性の攻撃でも打ち込まれない限り、一定水準以下の攻撃を防ぎきる上位のオーラチップと、降り掛かる攻撃の威力を削減するホーリーパネルは守りに特化するにおいて相性が良い。

 本当はドリームビットを解析した結果、成分を抽出出来た弱点のないオーラを利用したかったが、残念ながらアレはまだチップ化には至っていない。

 

『っ、ここは冷凍庫か』

 

 氷に満ちた部屋はどんどん狭くなっていく。

 世界中に己の力をばら撒くことが出来るナビであれば、このくらいは容易いということか。

 まったく、レヴィアは挑発し過ぎだ。これでは自衛が精一杯になる。

 氷壁で囲まれ満足に動けなくなった今の状況に溜息をつき、選択可能なチップを整理する。

 いつもより少し多めに入れた攻撃チップ。電気属性で纏めたそのデータをカスタム領域の拡張に使い、選択肢を増やす。

 そんなことをしていると、近くの氷に罅が入っていき、やがて打ち砕かれる。

 反対側からの破壊力ある射撃。レヴィアのように、強度ある氷を破壊可能なまでに攻撃力を高めた赤いロックマンがそこにいた。

 右腕は分厚い手甲に覆われ、力強さを醸している。辺りの氷を放った炎で砕きながら、此方に走ってきた。

 

『エールさん、大丈夫?』

『此方は今のところ無傷だ。しかし火の力をわざわざ使うとは蛮勇だな。こっちに来るといい、少しはマシだろう』

 

 ホーリーパネルの上にロックマンを招く。

 彼の現在のスタイルが持つ属性は火。パワーで氷を砕くには向いているだろうが、その氷自体が今の姿の弱点になる。

 この聖域の中ならば大ダメージを抑えることは出来る。狭いから攻撃を避けることが出来ないが。

 

『完全に氷に覆われてる……』

『これなら、何処からでも攻撃され放題という訳だ』

 

 勿論、フリーズマンが此方の様子を窺うことが出来れば、の話だが。

 というか今は何をしているのか。先の広範囲の攻撃が継続しているのかもしれないし、レヴィアが攻撃をしているのかもしれない。

 どうにも外を確かめる手段がない。分かることは、この氷が未だ制御されておりフリーズマンが健在であるということだけ。

 

『一気に高火力を叩き込める手段はあるかい? プログラムアドバンスとか』

『まだチップが来てないよ、カスタムスタイルにチェンジしても駄目だ』

 

 私たちを囲んでいる氷は生半可な火力で破壊できるものではないだろう。

 今のロックマンのスタイルは攻撃特化のようだが、それでも道を開くには時間が掛かる。

 ゆえに最適解はプログラムアドバンス。私たちとの戦いで見せたスタイルの一つが、どうやらチップの複数枚利用を補助するものらしい。

 しかし、そのスタイルでも大元のチップが無ければ有効にはならない。この場でいま一度カスタム領域を広げる時間があるかと言えば、そんな保障はない。

 つまるところ――現状の打開策はたった一つしかない訳だ。

 

『ロックマン、これを』

 

 とりあえずその準備のため、ロックマンに『バリア』を使用する。

 一回限りだがこれで大きなダメージの被害も抑えられる。

 

『で、向こうに火を放ってくれ。衝撃に備える準備をしながらね』

『な、何をするの?』

『氷を壊すだけだよ。レヴィアが心配だからね、早くここを脱出しないと』

 

 さあ、と急かす。それ以外に今は選択肢がないのだ。向こう見ずに、がむしゃらに突き進む時だ。

 

『考えている時間はないか……他に方法もないし、ロックマン!』

『りょ、了解!』

 

 まだ微妙に納得していない様子のロックマンだが、光少年からもゴーサインが出ると一か八かと火炎を放射する。

 出だしの速度に難はあるが威力は高い。チップと使い分ければ強力だろう攻撃手段。

 すぐに、とはいかないまでもその火炎は氷にも通用するようで、少しずつだが氷を削っている。

 よし、よし。これほどの火力なら問題ない。

 私はオーラを纏っており、ロックマンにはバリアを張ってある。衝撃に備える旨は伝えたし、準備は整った。

 もしこのすぐ傍にレヴィアがいたりしたら少し危険だが、彼女のことだ。仮に範囲にいたとしてもすぐに察知して避けるだろう。

 という訳で、チップを使用する。

 フリーズマンの属性に対して相性が良いとは言えないこのチップを何故私がフォルダに組み込んでいたか。

 なんてことはない――威力が高いからだ。

 

『そいっ』

 

 我ながら覇気のない掛け声と共に放られた、巨大な黒球。

 そのチップは放つためのキャノンや砲台など付いてこない。あまりにも分かりやすい“それ”が手元に現れるだけ。

 そして、単体では内に秘めた火力を発揮しない。ハッキリ言って、使いにくいチップだ。

 だがそこは適材適所。ここは氷の壁の中。脱出するのに、一番単純明快な手段はこれである。

 

『ちょ――』

 

 その、あまりにも“らしい”形状からか。私の行動からか。それとも、修羅場を幾度も潜り抜けてきたことで磨かれた直感からか。

 光少年が声を上げたと同時、黒球は炎の波の中に飛び込んで。

 

 ――その火力を炸裂させ、巻き起こった爆風は辺り一面を清々しい程に吹き飛ばした。




・ヒートガッツスタイル
2より登場したスタイルチェンジの一つ。属性は火。
バスターを多用するバトルスタイルの場合、ガッツスタイルに変化する。
バスターの威力が二倍になる。本来の性能を最大まで上げると威力は10となり、下手なチップよりバスター連射の方が強力になる。
代償として、バスターの連射力は最低値となる。
2からの基本スタイルの中でデメリットが設けられている唯一のスタイル。
連射力を補うには敵に近付くリスクを負わなければならないが、スーパーアーマーが付加されているため捨て身の戦法も可能。
3ではスーパーアーマーがデフォルトではなくなったものの、ナビカスのパーツとなったことで他スタイルにも持ち込めるようになった。


・ブラックボム
2における隠しチップの一つ。3以降は普通に手に入る。
不発弾を投げる。これ単体では爆発せず、火属性の攻撃を与える必要がある。
4ではコールドマンと当たると必ず手に入れなければならなくなる。要4000ゼニー。
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