バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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友人の王女がテロ組織に入ってた-2 【本】【日】

 

 

 ネットマフィア・ゴスペルなる連中が幅を利かせ始めたのは、WWWが壊滅してから二ヶ月ほど経った頃。

 最初はWWWの模倣犯だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

 日本国内で活動していたWWWとは違い、世界中の、それも最悪の場合、現実世界に被害を齎すようなテロ行為を繰り返している。

 今のところ、いずれもオフィシャルや物好きで勇猛果敢な一般市民により最小限の被害で収束しているが、先日は大国アジーナのネットワーク中枢を攻撃するなんてこともやらかしている。

 非常事態ということで、こんな有名なだけのフリーの技術者にも末端修復の依頼が来ていた。

 冗談交じりにありがとうゴスペルなんて思っていたものだが、どうやらあの礼は取り消さないといけないらしい。

 

「…………」

「……まあ、なんというか……理由にも察しは付きますけど」

 

 プライド様の沈黙に、堪らず言葉を続ける。

 彼女のPETをチェックしていて見つけたのは、国外との通信記録。それから、近いうちにあるという公務の本当の目的だろう命令が記されたメール。

 曰く、アメロッパで開催されるオフィシャル世界会議において、各国より集う有力なネットバトラーたちを抹殺せよ、と。

 沈黙は了承と受け取るのはいつものことだ。ゆえにPETもしっかり調べさせてもらったが――藪を突いたら蛇より厄介なものが出てきてしまった。

 被害を受けたモノを直すのとは訳が違う。関わるには危険過ぎるが、知らぬ存ぜぬを決め込めるなんざ不可能だ。

 

「……わたくしには、無理でした。この数年間の他国からの扱いに、何も思うななどと……」

 

 ――ネットワーク技術の黎明期。クリームランドは何処よりも早くこれを取り入れ、発展させた。その頃はそちらの知識には疎かったし、特に覚えているようなこともないが、その判断は正しくこの国は一躍先進国の仲間入りを果たした。

 栄華は三年と続かず。他国がそれに倣い次々とネットワーク技術を取り入れたことで、当たり前のようにこの国の目新しさは消え去った。

 小国が中途半端に力を持っていても更なる発展には邪魔なだけだと、技術者は次々他国に引き抜かれ、クリームランドはあっという間に衰えた。

 今でもこの国に愛着を持つ技術者により、この国のネットワーク技術は中堅程度を維持している。

 だが、碌でもない誹りによる過小評価は免れない。国を預かる者として、プライド様はこの近年の歴史に激しく憤りを感じているのだろう。

 

「それに、他国の迫害さえなければ、貴女の――」

「ストップ。気にしないでくださいってもう十回は言ってますよ、プライド様」

 

 そんな圧力の中で起きてしまった胸糞悪い悲劇もある。

 最初期のインターネットに発生した大災害。その被害を、技術の粋を以て防ごうとした英雄。

 彼は他国の誹りに抗い、やがて屈した。

 あの人の死に、他でもない私が何も感じていない訳がない。だが、それは私が他国に恨みや復讐心を持つ理由にはならない。

 ……友人――少なくとも私はそう思っている――が、ここまで冷めていることも、プライド様が只ならぬ想いを抱くことに繋がっていると考えるのは、つらかった。

 

「……ただ、今もあの人のことを残念だと思ってくれているなら。ありがとうございます。あの人も、きっと浮かばれます」

「当たり前です、我が国の隆盛に、無くてはならない人でした。だからこそ、わたくしは許せない。この国から多くを奪っておきながら、すまし顔で発展を続ける国々が」

「それが、ゴスペルに入った理由ですか?」

 

 首肯。国を愛する気持ちが、連中に隙を与えたのだ。

 ……ほんの数秒、自分の中で友と己を秤にかける。すぐに、それを恥じた。

 選択肢なんて一つしかない。プライド様がゴスペルの下で悪を成すというなら、危険な目なんて幾らでも遭ってやるし、非難だって無限に浴びてやろう。

 

「……プライド様。件の会議、私も同行できますか?」

「え……」

「同行が駄目なら、独断で行きます」

「ま、待って! 待ちなさい、エール・ヴァグリース! 何を考えてるんですか――貴女が行く理由なんてないでしょう!」

「今出来ました。他の誰もプライド様を助けないなら私が助けます。助けさせてください。お願いします」

 

 捲し立てるように、思いつく限りの懇願を並べる。

 ゴスペルがこのテロ活動の先、一体何を最終目標にしているかなど知らない。もしかするとテロ自体が目的かもしれないが、どうでもいい。

 プライド様が“悪”というものに手を出すというのなら、片棒を担ぐ。

 ――ちょっと修正。

 プライド様に悪事などさせない。最低でもプライド様の逃げ道だけは作る。

 

「……テロ行為、なんですよ?」

「承知しています」

「…………、人を、手に掛けるんですよ?」

「覚悟の上です」

 

 仕える家臣を、巻き込む訳にはいかなかったのだろう。

 ゴスペルへの加担は、彼女一人によるものだった。

 ゆえに、誰にも相談出来なかった。孤独に憎悪を募らせ、孤独に悪に手を染めようとした。

 それなら、ここまで力になれていなかった分、震える手を支えてやる。

 これは家臣ではない私にしか出来ないこと。忠義ではなく友情だ。

 

「……エー、ル……」

 

 縋るように寄り掛かり、顔を埋めてくる友人を抱き留める。

 プライド様にいなかったのは、理解者。そして、こうしてやれる相手。

 ならば、私がそうなる。――自分勝手なお節介を全力で焼いたうえで。

 その結果嫌われるとしても、プライド様の行く末も、彼女が憂うこの国の未来も、多少なり良いものになる筈。

 

 プライド様を宥めながら、思考を巡らせる。

 世界会議の会場。参加者。二つをまずは把握する必要がある。

 で、確かあのメールは捨ててはいない筈。返してすらいないが、まあ、忙しかったとでも言い訳しておけばいい。

 あとは、参加者の連中がどれだけ真面目で、どれだけ冗談が分かる性質か。

 ……これはいいか。最悪どうとでもなるし。

 

 

 

 +

 

 

 

 ■月■日

 

 プライド様からアメロッパへの同行の許可を受けた。

 会議への参加はプライド様から頼んでもらえるらしいので、それに先立って準備を進める。

 

 アメロッパに行く前に、依頼の残件を片付ける。暫くは新規の依頼は受け付けない。

 予想通り、ナビカスは把握済みの問題以外は発見されなかった。光氏並びに日本科学省の技術には感嘆する。

 

 

 ■月■日

 

 どうやら会議の参加の許可は貰えたようだ。

 会議の場所と、参加するオフィシャルネットバトラーについての情報を渡された。

 場所はアメロッパ城。もしかすると、この場所を選んだのもゴスペルの差し金かもしれない。

 侵入者を排除するために作られた数々の罠は現在コンピュータで管理されており、そこに入り込み制御を手にすることが出来れば、非常に高い攻撃性を発揮する。

 ……都合がいいといえば都合がいいが、管理方法以前になんでまだ使えるようにしているんだこんなもの。

 

 それはともかく、重要なのは参加するネットバトラーの面々。

 ラウル氏、ジョンソン氏、ジェニファー氏、伊集院少年……いずれもオフィシャルの代表として申し分ない実力者である。

 日本の伊集院少年はオフィシャル屈指の実力があるとはいえ、こういう場に立つには若すぎる気もするが。

 それと、まさかの光少年の名前も。

 光氏のご子息で、優秀なネットバトラーとは聞いている。

 しかし伊集院少年とは違い、オフィシャルには属していない。

 WWW壊滅の功労者とはいえ、オフィシャルの会議に招集するということに若干の疑問を感じなくもない。

 ……まあ、彼の参加が既に決まっていたことが、ネットバトルについては論外な私が「ネットバトラーの会議」へ参加を許された要因かもしれない。

 さて、問題はプライド様に黙っていなければならないことと、プライド様を騙すこと。あと、事が終わったら絶対怒られる。覚悟はしておこう。

 

 

 ■月■日

 

 オフィシャルと話が付いた。相変わらず連中は話が早い。

 クリームランドへの蔑視はあるかもしれないが、それとこれとは話が別だ。

 相手は得体の知れないテロ組織。それを前にして、差別を二の次にしないヤツはどうかしている。

 後はアメロッパ城のセキュリティだが、流石にこれを今、何処にいるともしれない私に明け渡すことは出来ないらしい。ごもっとも。

 

 という訳で、予定に当日ぶっつけ本番のクラッキングを追加。お膳立てのための仕掛けはしてくれるらしいのでそこは安心。

 あとはある程度話を詰めるだけ。……伊集院少年、流石にちょっとキツイなぁ。

 話が通じないって界隈じゃ有名だし。ナビを家に忘れたとかやらかしてくれないだろうか。

 

 

 ■月■日

 

 おかしいな。ウラ経由の依頼がまだ来てる。

 ヤツには依頼を受け付けない旨は伝えておいた筈なんだが。

 

 スクエアの掲示板を見に行ったら案の定共有されていない。

 ウラの住民のクセに情報収集を怠るんじゃない、まったく。ウラは情報が命だろうに。

 というか勝手に殺すな。人の生き死にで盛り上がってるんじゃないよ。

 

 

 ■月■日

 

 アメロッパ行きの日。

 いつ以来の外国行きだろうか。諸々の手続きはプライド様がしてくれているので私がやることは数日分の日用品の支度くらい。

 とはいえ、旅行気分ではない。いつもの仕事以上に気を引き締める。

 この計画が成功するか否かで、プライド様の未来が決まってしまうのだから。

 

 城に行ったらプライド様に白衣を引っぺがされた。何故。

 

 

 ■月■日

 

 アメロッパは暑い。クリームランドとは比べ物にならない。

 もしかするとゴスペルはこの暑さでオフィシャルを仕留める算段だったのかもしれない。

 他にも他国からの旅行者らしき人間は多いのに何故こんなに平然としていられるのか。死ねるぞこれ。

 というか何故かプライド様も平気そうだった。何故。

 

 会議は明日。本日は到着の連絡くらいで、オフィシャルの集まりもないようなので、プライド様と街を散策することになった。

 正直この暑さは我慢ならないが、プライド様のお誘いを無下に出来る筈もない。

 

 宝石店に立ち寄ったのは間違いだった。まさかミリオネア氏と会うとは。

 暇を持て余すのは大いに結構だが、私を巻き込むのは勘弁してほしい。ネットバトルは苦手だからしたくないと何度も言っているだろうに。

 断ったら代わりにPETのメンテを依頼された。プライド様が受けて良いと言ったので仕方なく引き受けたが、私はこの人と出来るだけ関わりたくない。

 訂正。この人というより、ナビが苦手。

 スネークマンのデザインは素晴らしい。およそ私が知る中で最も好ましい姿をしたナビだと言えるが、とにかくコイツの値下げ交渉はしつこい。

 こちとら一ゼニーとて安くするつもりはないのに、いつまでも食い下がってくるから時間が無駄に過ぎてしょうがないのだ。金持ちのナビなんだしケチケチするんじゃない。

 決めた。今度から「値下げ交渉は一切受け付けません」の文言を約款に加えておこう。

 暗黙の了解のつもりだった。書いてないことはやっていいということにはならないだろうに。




・プライド様
遥か北の島国「クリームランド」の王女。持ちナビはナイトマン。
国の行く末を憂い、国を邪魔者扱いしてきた他国への復讐心からゴスペルに加入した。
原作では熱斗の活躍で計画が失敗し逮捕されるが、5チームオブカーネル時点で釈放されていたようで、国の復興のために頑張っている。
5では完全に改心しており、熱斗の味方として悪と戦ってくれる。
2の公式イラストでは化粧でも消せないほどのスーパークマがあるが、5ではすっかり消えて麗しい笑みを浮かべている。かわいい。

・ラウル氏
アメロッパの裏通りで少数部族を束ねているネットバトラー。
持ちナビはサンダーマン。2のほか、3、4レッドサンにも登場する。3ではほぼモブだけど。

・ジョンソン氏
アメロッパを代表する自由と平和を愛するネットバトラー。
ホラー映画で最初に死ぬ人。

・ジェニファー氏
ミナミアメロッパ大陸からやってきたネットバトラー。
ホラー映画で中盤まで生き残るセクシー枠。

・伊集院少年
日本からやってきた卵の殻を被った凄腕ネットバトラー。持ちナビはブルース。
ジョンソン氏は「こんな子供を寄越すなんて日本は何考えてるんだ」とか悪態をついていたがまったくその通りである。
原作では熱斗のライバルポジションで1~6まで通して登場する。

・光少年
オフィシャルネットバトラーではないがここ最近の活躍が評価されて世界会議に呼ばれた市民ネットバトラー。
数ヶ月前に世界を一度救っている。持ちナビはロックマン。
数メートル離れた機械の端子にワイヤレスプラグを投擲して見事はめ込む凄まじいテクニックを持つ。
言わずもがな、原作では主人公である。
本作でも基本的に決めるところは彼に決めてもらう予定である。

・ミリオネア氏
アメロッパの宝石店にいる金持ち。高貴な方らしいが何をしているかは不明。
発言がいちいち危ないが、おばさんと呼んでも流してくれる広い度量の持ち主である。
持ちナビはスネークマン。2のみの登場。
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