バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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二話ほど短めの話が続きます。

そういえば、タグにチームオブカーネルとありますが、その他の2バージョン作品に関しても片方を主軸として物語を展開していきます。
ただし一部の話でもう片方の要素を取り扱うことも予定しているためあらかじめご了承ください。


すべてが飛び込む場所へ-1 【本】【日】

 

「――ル、エール」

 

 どこか遠くで、声が聞こえた気がした。

 しかしそれははっきりとせず、残響のようにもっと遠くへと離れていく。

 完全に消える前に、体が揺れて、再び声が届く。

 

「エール、起きてください。こんなところで寝ていたら、体に悪いですよ」

「………………ん」

 

 その声が、すぐに反応しなければならない声だと分かっていても、思いのほか意識が動き出すのは遅く、体に反映するのは余計に遅れる。

 意識を取り戻して数秒、異常に重い目蓋と戦いつつ、身じろぎする。

 凝り固まっていた体に響く鈍痛。妙な体勢で寝ていたのか、と他愛もなく考えて、暫くして寝転がっているのではなく机に突っ伏していたことに気付く。

 曲げられた肘が、背中が。横を向いていた首が悲鳴を上げる。

 頭をゆっくりと上げれば、枕にしていた腕に血が巡っていき妙な熱さを感じる。

 

「……ぅ、痛……」

「変な体勢で寝ているからですよ、エール」

 

 感覚の戻っていない手で首を押さえつつ体を起こす。

 ――迂闊だった。どうやら(エールハーフ)をプラグアウトさせてすぐに意識を失ったらしい。

 まさか眠気の限界がそんなに近くまで来ていたとは。

 

「おはようございます、エール。起こしてしまってすみません」

「いえ……おはようございます、プライド様。此方こそ……まったく気付かなかったみたいで」

 

 インターホンの音にも気付かないなんて。よほど深い眠りだったらしい。

 別に数日寝ていないということもなかったのだが……。数日ゴスペル対策である程度睡眠を削ってはいたが、思いのほか疲労は溜まっていたらしい。

 意識を覚醒させつつ、時計を見る。

 朝九時。寝たと思しき時間を考えるとだいぶ早いが、まあ仕方ない。

 そういえばベッドに入っていないからインターホンの自動プログラムも動いていなかったのか。そりゃあプライド様も起きていると判断して入ってきてもおかしくない。

 あれ? ところでどうしてここに……。

 

「……プライド様、またお一人で来たんですか?」

「車を出してもらっていますよ。今日は城に招くのも申し訳ないので此方から参りました」

「……そうですか」

 

 別に起きた後であれば城くらいすぐに向かうのだが……。

 そうでなくとも個人の家にごく普通にやってくるというのは果たしてどうなのか、と思わないでもない。

 ……まあ、悪い気はしないんだけども。

 

「……すみません。話の前にシャワー浴びてきていいですか? 多分事が終わったあとそのまま寝たと思うので」

「構いません。待たせていただきますわ」

 

 もう一度、すみませんと頭を下げ、立ち上がる。

 仕える王女が家まで来ているのにこの要求は自分でもどうかと思うが、このままだと途中で再び落ちかねない。

 ひとまずは熱いシャワーを浴びて、しっかり目を覚まそう。

 頼みたいこともあるし、今後の話は詰めておかなければ。

 

 

 

 きっちり、無理やり目を覚まし、ようやくまともに話を始める。

 内容は勿論昨晩のゴスペルとの一件について。

 

「では、ウラの住民と、それからレヴィアに協力を仰いだと」

「はい。それとレヴィアも思いっきりウラの住民です」

 

 つけっぱなしのパソコンにレヴィアの姿はない。

 どうやらまた何処かに行っているらしい。

 彼女の存在はプライド様も把握している。どうもプライド様が来ている時、姿を現わそうとしない節があるが……。

 

「……あまりウラには関与してほしくはないのですが」

「使えるものなら何でも使いますよ。せっかくそれが出来る立場なんですから」

 

 まともな仕事であるならまだしも、今回のそれはゴスペルとの戦いだった。

 世界の存亡がかかったような一件であれば、全力でウラの力も使う。

 王様もドリームビットを使った件以外は特に文句は言ってこなかったし。

 

「まあ、そちらはいつもの事なのでしょうが……こっちは意外でした。光熱斗との共闘とは」

「ちょうど向こうから連絡がありまして。成り行きですが、ずいぶん助かりましたよ」

 

 彼が光氏の開発したワクチンを持ってきてくれたのは大きい。

 それがなければ、最悪今も対処に掛かり切りだった可能性がある。

 

「……であれば、わたくしの名でもお礼をしておきます。結果としてゴスペルの壊滅にまで至ったのですから」

 

 氷型ウイルスの全滅。その後、中にいたウイルスの退治も大事なく完了し、各国の環境維持システムも復旧した。

 そしてゴスペルの本部を発見し内部で最高司令官を名乗るナビをデリートした。

 数時間の大規模な戦いは完全勝利と言える。

 なんかウイルス退治ではウイルス式セキュリティが使用されウイルス同士の闘争という地獄の様相となったらしいが、結果として私の――クリームランドの功績が大きくなったらしい。

 これを機にクリームランドの地位を向上させるという目的において中々の結果を残せたと言って良いだろう。

 

 プライド様曰く、ゴスペルは指揮系統の崩壊により組織としては事実上壊滅したというニュースは、オフィシャルによって既に朝の速報として知らされているらしい。

 恐らく今日か明日には世界中で大ニュースとなっている。

 とはいえ――はいそうですか、と納得の出来ない自分がいた。

 

「プライド様、今後の動きに関してなのですが……」

「……ゴスペルはまだ残っている、と――貴女はそう考えていると?」

 

 頷く。その確信があるという訳ではない。念には念を、という話。

 もしもまだ残っているというのであれば、油断して手遅れになるという結果も考えられる。

 だから今の内に、打てる手は打っておきたい。

 

「プライド様に頼みたいことがあるんです。これは私にはどうにもならないので」

「まずは話を聞きましょう。電脳医療部の要望として出来る限り通すつもりですが、それも限度がありますので」

 

 正直、その限度を超えるかもしれない。

 何分かの国との関係の実態を完全に把握している訳ではないし、そもそも国の機密であるという可能性も高い。

 だが恐らくクリームランド国内では十分なものを用意できない。

 一番安心できるようなものを用意できると思ったのは、あの国なのだ。

 

「――シャーロのネットワーク部隊か、宇宙開発部隊辺りから借用していただきたいものがあります」

「……思った以上のものでしたね」

 

 かなり無茶な要望だというのは理解している。だが、最悪の場合これは必要となるのだ。

 昨晩のうちに調べていた資料を見せつつ要求を告げると、やろうとしていることを察したのかプライド様は苦い表情を浮かべる。

 

「……貴女用のものですか?」

「そうです」

「貴女が、そこまでやる理由はあるんですか?」

「ゴスペルが集めたバグをどうにかしないといけないので」

 

 それに、私はどうも、苦手なのだ。

 既に乗ってしまった船から下りるという不義理が。

 そう伝えれば、プライド様はその表情を少しだけ悲しそうなものに変化させつつも、出来る限りは交渉すると言ってくれた。

 

 

 +

 

 

 ■月■日

 

 復旧した環境維持システムの確認依頼が多数来ていた。

 日本、およびアメロッパのものは光氏が請け負ってくれたので、ありがたく任せて残りに集中する。

 シャーロのネットワーク軍から依頼が来ていたのは好都合だ。ここで恩を売っておけば交渉もそれなりに有利になるだろう。

 

 

 ■月■日

 

 久しぶりにまともに寝た気がする。目覚めたらもう夕方だった。

 ニュースを眺めつつオフィシャルの依頼を進めていたが……本当にもしかするかもしれない。

 

 久しぶりな気がするネット犯罪。テロには発展しなかったものの、やり口が似ている。

 オフィシャルの方でも注意する旨の一斉メールが出ている。

 やはり覚悟が必要なようだ。

 

 

 ……

 

 

 ■月■日

 

 朝いちばんにプライド様から連絡。

 シャーロから例の品が届いたらしい。それも最新式の飛び切り高性能なもの。

 ありがたい。場合によっては現状以上の数値が発生する可能性もあるし、私自身がそれに耐えられるとは思わないため、性能は高いほど良い。

 城でそれを受け取った後、すぐに発つ。

 これが正真正銘、ゴスペルとの最後の戦いになるだろう。

 

 

 ■月■日

 

 思った通りだ。連日起きるテロ行為はゴスペルのものであると確証が取れた。

 オフィシャルのメンバーがその対応に掛かり切りになっていたことで、市民ネットバトラーに依頼されたコトブキスクエアの再調査。

 光少年がそれを行ったところ、例のゴスペル本部に多くのメンバーの姿が見られたとのことだ。

 つまりフリーズマンがデリートされてもゴスペルは壊滅しておらず、活動を続けていたということ。

 

 現実世界における彼らの本拠地はコトブキ町。

 スクエアのある町にそのまま本拠地を作っており、不審な行動を隠そうともしていない。

 ヤツらの活動により、コトブキ町一帯には尋常な数値ではない電磁波が飛び交っており、生身で外に出ていれば異常が発生するのにそう時間は掛からない。

 既に住民の大半は避難しており、それがよりヤツらの乱暴狼藉を加速させているらしい。

 電磁波の発生地はコトブキ町のとあるマンション。ここがゴスペルの本拠地と見て良いだろう。

 町中に飛び交っている電磁波は推定で通常の一万倍。であれば、マンション内はそれ以上の数値が出ていると考えられる。

 

 あろうことか、既に光少年が向かっているらしい。

 電磁波をある程度防ぐ防磁スーツを持ってはいるらしいが、子供一人で行くなど幾ら何でも危険が過ぎる。

 この記録を書き終えたら、私もすぐにコトブキ町に向かう。

 現在私がいるのは、日本。マリンハーバーのホテル。

 ゴスペルとの決戦のため訪日したのが昨日。

 戦いがようやく終わる時が来た。プライド様に勝利を報告するために――今日こそ、あれをやる日となりそうだ。




ラスダンにも参戦。そのためにシャーロから何やら取り寄せるバグ医者。
次回はコトブキ町への移動となります。
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