バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
防磁服の効果は万全なようで、凄まじい電磁波が飛び交っているコトブキ町の中にいてもその影響は感じられない。
万が一感じるようなことがあれば一大事なのだが、その心配はなさそうだ。
伊集院少年も問題ないらしく、辺りを注意深く見渡している。
人っ子一人いない町中を歩き、すぐに問題のマンションに辿り着く。
電脳世界でも見ないような禍々しい光景に若干圧倒されつつも、そこで止まっていてはどうにもならないと中に入り込む。
光少年はもう既にこの中の何処かにいるのだろう。一刻も早く手を貸すためにも――
「おわ!?」
――声を出したのは向こうながら、私も流石に驚いた。
一階のロビーに立っていた、三人の少年少女。
アメロッパ製の防磁ウェアに身を包んでいる辺り、どう考えてもこの町の住民ではない子供たちがそこにいたのだから。
「な、な、ななななんだ!? 宇宙人!?」
「せめて宇宙飛行士と言ってくれないか、不審な少年」
「あ、あんたのがよっぽど不審者じゃないの!?」
ごもっとも。厳重装備ですまない。
だが冷静に考えてほしい。
私を宇宙人呼ばわりした大柄な少年と、不審者呼ばわりした小柄な少女。そして見るからに引いた――割と怯えた様子の少女。
ちゃんと理由があってここに来た私からするとキミたちも結構な不審者なのだが……。
「……お前たちは何をしているんだ」
「その声――え、炎山!?」
呆れやら苛立ちやら焦りやら、色々とマイナス面のものが混ざったトーン。
伊集院少年の声に向こうの少年は驚愕する。二人の少女も似たような反応をしている辺り、知り合いではあるようだ。
というか彼らも軽装だな。電磁波を侮り過ぎでは?
「オフィシャルの精鋭かな? それなら情報共有くらいはしておいてほしいのだが」
「…………一般市民だ」
「無謀かつアクティブ過ぎやしないかい?」
私も呆れざるを得ないぞ。そんなものを着ている以上、この町のことは知っていたのだろう。
で、その上で乗り込んできたというなら勇気はあるが褒められたものじゃない。
やはり日本の子供たちはどこかおかしいんじゃないか?
「熱斗が上で戦ってんだ! オレたちが何もしねぇ訳にもいかねえんだよ!」
「光少年の友人か……彼も彼なら周りも周りということだな」
だが、それなら大人の一人でも頼るべきだ。
むう……光氏はご子息を向かわせたのは苦渋の決断だったようだが、ここまで子供が集まっていると私も色々と思わずにはいられない。
……それは、今は考えずとも良いか。先に電磁波異常を――ゴスペルをどうにかしてからだ。
「あの……貴女は? 炎山くんと一緒ってことは、オフィシャルの人ですか?」
「オフィシャルと協力しているがオフィシャルではないよ。ゴスペルに思うところがあるだけの
三人を通り過ぎて、エレベーターのボタンを押す。
最上階に停まっていたエレベーターが徐々に下降してくる。恐らく光少年はあそこかな。
「おい炎山! オレたちもいくぜ! いいだろ?」
「……来るなと言って素直に従うお前たちじゃないだろう」
「ったりめぇだ! この大山デカオ様を甘く見るなよ!」
正直今すぐにでもこのマンションから――いや、この町から追い出したいのだが。
それを出来る体力も時間もなく、伊集院少年が折れるという貴重な光景を前にした以上出来ることもない。
少年――大山と名乗っていたか――彼を筆頭に、今更帰ろうなどという常識的な子は一人もいないらしい。
色々と言いたい文句を呑み込み、階の多さゆえのエレベーターの遅さに苛立ちを覚えながらも、一応は大人の立場から彼らに告げる。
「いいかい。体に不調を感じたらすぐに言うこと。あとは、これが終わったら念のため全員病院に行きたまえよ」
迷いなく頷いた三人に、私は改めて溜息をついた。
ちなみに他人事みたいに余所見をしているが伊集院少年、キミもだからな。
最上階に辿り着いた私たちを待ち受けていたのは、ここは科学省かと言いたくなるほどのサーバー室だった。
どうやら更に奥に続いているようだが、ご丁寧に電子ロックが掛かっている。
軽いハッキングで履歴を見る限り光少年はこの先にいるようだ。追い詰めたのか閉じ込められたのか――どちらにせよ急いで開錠しなければ。
「三分だな。その間に、キミたちはサーバーにプラグイン。ロックマンが先に行っているようなら、援護を」
「よっしゃ!」
戦いも大詰めであるという状況ならロックマンがプラグインしていてもおかしくない。
ピンチである可能性も考えられる。三人の実力がどれほどのものかは不明だが、伊集院少年が大きな力となることは間違いない。
大山少年、綾小路嬢、桜井嬢――ここに来るまでの間に自己紹介を済ませておいた――がサーバーにPETを繋ぎ、一拍遅れて伊集院少年も続く。
「あっ、ガッツマンたちをコピーしてやがる! いけ、ガッツマン! 本物の力見せてやれ!」
「グライド! 同じ姿だからって手加減はなしよ、やっちゃいなさい!」
「ロールもお願い! ロックマンを助けてあげて!」
聞く限り、随分と悪趣味なことになっているらしい。
友人のナビの似姿……或いは、この子たちから奪ったとでも嘯いていたか。
どちらもロックマンの攻撃の手を鈍らせるには有効な手段だろう。
ただ、致命的な事態は避けられたようだ。偽物が本物に敵う訳もないか。
――ガッツマンって聞き覚えがあると思ったら、光少年が持っていたナビチップか。彼があのナビのオペレーターだったようだ。
「ってああ! ぶ、ブルース!?」
「チッ……ブルース、相手は偽物だ。三秒で仕留めろ!」
まさか私の偽物などいないだろうな、と考え若干身が強張ったが、それでも手は動き続け、滞りなく開錠は完了した。
PETの接続を切っている間に伊集院少年は開いた扉の先へと歩いていく。
チラ、とプラグインしていた端子を見れば、無線プラグが刺さっている。アメロッパ城での超技術を思い出し、微妙な気持ちになった。
どうやら大山少年たちのナビはブルースの偽物に痛打を受けたらしい。それぞれプラグアウトをすると、伊集院少年に続いて駆けていく。
「オフィシャルのネットバトラー――伊集院炎山! くっ、海外の陽動部隊は何をしている!」
「少し梃子摺ったが、今頃お寝んねだろうさ」
扉の奥から聞こえてくる、聞き覚えのない男の声。
全ての黒幕と対面する時が来たようだ。少年少女たちの後を追うように、私も部屋に入る。
「む――? なんだ、貴様は……!」
「
そこは、先の部屋より高性能のサーバーが立ち並ぶ部屋。
見たところメインサーバールームか。そして光少年と対峙している、蛍光色に光る髪を伸ばしたサイバースーツの男こそが――
「エールさん……なの!?」
「ああ。こんな格好で失礼。早速だが、光少年――彼がゴスペルの首領で間違いないね?」
「う、うん……」
よし。ようやく会えた。
ここまで多くの少年少女がいる場となるとは思わなかったが、ともかくここでゴスペルとの決着をつけることが出来そうだ。
光少年も防磁スーツを着ている。恐らくは科学省のもの――もしかすると伊集院少年のそれよりも高性能かもしれない。
ゴスペル首領の方は知らん。サイバースーツなら多分電磁波も防げるだろうが。
「エール・ヴァグリース――そうか、お前が! お前が王女を利用した作戦を台無しにしたのだな!」
「そこまで分かっているのであれば、私がここまで来た理由も分かるね?」
何か思い至ったような伊集院少年に「オフレコで頼む」と視線で告げる。ゴーグルがあるから伝わっているかは分からない。
決定的なことは言われていないし、まだどうとでも誤魔化しようがあるが、プライド様本人に聞かれると不味い。
「ふん! 今更デバッガー一人やってきて何が出来る!」
「
「無駄だ! 最早小細工など通用せん! バグ融合はたった今完了した! あとはこのボタンをクリックするだけで究極のナビは完成する!」
――彼らの計画は虚偽のもので真実は別にある。その可能性を考えなくもなかったが。
どうやら彼は本気で信じているらしい。大量のバグの融合によって、究極のナビが作れるなどという絵空事を。
「親切心も兼ねて言うが、下らないことはやめろ。バグで究極のナビなど出来ん。制御出来ない化け物が生まれて大惨事になるぞ」
「フハハハハハ! 信じられないか! だが我が計画に狂いはない! 今ここに完成するのだ、究極のナビ――フォルテが!」
「――――――――は?」
声高らかに宣言するゴスペル首領。
その言葉に不意を打たれ、暫く思考が止まる。無意識のうちに後退った片足を、力を込めて堪えた。
フォルテ。その名が示すナビはただ一人。
正気か? そう口にすることも出来なかった。絶句した、とはこのことを言うのだろう。
「フォルテだと……!?」
伊集院少年はどうやら知っているらしい。ゴスペル首領はその反応に笑みを深める。
「ほう、知っていたか。流石はオフィシャルといったところだな」
「炎山? 何だよ、フォルテって……?」
「……手に入れたチップのデータを取り込みいつでも発動できるという完全無敵のナビだ。まさか実在するとでも……」
「――実在するよ。世界最強のナビの一角、そう断言できる」
私が思うに、最強のナビとして選択肢に挙げられる恐怖は二つ。
一つは慈悲という名の恐怖。強さこそ全ての世界を統治する、金のナビ。
一つは純粋な力という恐怖。孤高にして手段を択ばぬ、黒のナビ。
後者の名こそフォルテ。唯一、絶対無敵のウラの王に並ぶかもしれない絶望の象徴。
「だが、最強とされるその力は一朝一夕のものではない。バグを固めてヤツを生み出そうなど冗談にしても低品質に過ぎる」
「ならば冗談かどうかその目で確かめてみるがいい! 降臨せよ、フォルテ!」
部屋の向こうの壁に設置されたモニターがゴスペルのサーバーの電脳世界を映し出す。
ロックマンとブルースの前に出現した、バグが高密度で合わさった強力なエネルギー。
それが徐々に形を変え――真なる強者の姿を形成した。
「……」
「――これが、フォルテ!」
側頭部を通って後ろへと流れる耳のような形が特徴の頭部。
体を覆うマント。
そして力というものを極限まで圧縮したような鋭い目。
マントをはためかせながら浮遊し、ロックマンとブルースを睥睨するその姿は、紛れもなくフォルテだった。
「ハハハハハハハ! どうだ! これだけではないぞ! 我がフォルテプロジェクトにはこの先がある! オレはフォルテの無限増殖に成功した! これより無数のフォルテを使い全世界のネットワークを支配する!」
「……」
もしも、フォルテという存在が複数現れ、世界各国への攻撃を開始すれば。
恐らくはかつての電脳獣に匹敵するほどの被害になる。同時に展開されればヤツらのような最終手段を取ることも出来ない。
だが――ここに至って、恐怖も焦りも感じていない自分がいた。
「さて。まず手始めに、フォルテよ――目の前にいる二体のナビをデリートするのだ!」
『――いいだろう。戦いなら、オレに任せろ』
身構えるロックマンとブルース。
彼らもそんなに戦慄する必要はない。オペレーターたる二人の少年に、助言する。
「光少年、伊集院少年」
「な、なんだよ!?」
「……」
「怖気づくな。あれは偽物だ。本物の足元にも及ばない、ガワだけの存在だ。キミたちならば必ず倒せる」
アレには覇気というものがない。
動く姿を目にするだけで恐怖をまき散らすような力の圧というものがない。
フォルテと同じ姿を取っていても、まったくと言って良いほど別物だ。
であれば、彼らならどうということもない。あの時見せた力があれば、アレは容易に打倒できる存在だ。
「――どっちみち、やるしかないぜ。なあ、炎山!」
「ヤツを外に出す訳にもいかんからな。足手まといにはなるなよ、光」
私の言葉の影響かどうかはどうでもいい。奮起してくれたのならば、最早彼らに負けの目はない。
なおも信じているならば、ゴスペル首領はすぐに知ることになるだろう。
バグでフォルテを真似たところで、どうしようもないモノしか出来ないということを。
秋原三人組との出会い。
今後、一部で関わったり関わらなかったりするかもしれません。
大ボスの前に遂に辿り着く少年少女+宇宙人系不審者。
そして原作と違い、偽フォルテと戦うのはダブルヒーロー。
ここで言っておきますけど彼との戦闘は全カットします。偽物だし。