バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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ロックマンエグゼ2! 前回との間の三つの出来事!
一つ! コピーフォルテのパワーにスタイルチェンジで立ち回るロックマン!
二つ! コピーフォルテを上回るスピードで確実にダメージを与えるブルース!
三つ! 弾幕合戦に押し負けついに重傷を負うコピーフォルテ!


YOU CAN'T GO BACK-2 【本】

 

 

 戦いの帰趨など最初から分かり切っていた。

 一体どこからフォルテのデータを見つけてきたのかは知らないが、有する攻撃パターンはそこそこの再現度であると言えた。

 だが、所詮は劣化コピーだ。

 青と赤、二人の英雄(ダブルヒーロー)には敵わず、大きく隙を晒したところにロックマンがバスターを打ち込み、見事デリートした。

 不完全なフォルテの機能が切れたように何も発さず消えていく。

 最高のコンビネーションだった。客観的に見てみれば、これに勝つなど至難の業だと分かる。

 

「見事だった――さて」

 

 ゴスペルが作ろうとしていた究極のナビはデリートされた。

 このレベルならば、たとえ複製されようとも世界中のインターネットが落ちることなどあるまい。

 さて――

 

「これで懲りたか? 少年」

 

 どうやらサイバースーツのエネルギーもこのサーバーから供給していたらしい。

 しかし、バグからフォルテの複製を作るコマンドの実行で負荷が掛かったのだろう。

 ゴスペル首領が纏っていたスーツが解除され、素顔が露わになっていた。

 光少年たちより少し上くらいか。銀髪の少年――よもやこんな子供が、ゴスペルを指揮していたのか。

 

「は……? ぼ、僕のサイバースーツが消えてる!?」

「なっ……お前、本当は子供だったのか!?」

 

 ……正直、驚いた。予想外にも程がある。

 ここまで世界中を脅かしていたネットマフィアの真実がこんな始末だとは。

 ――まあ、そういうことなら、それに適したやり方もある。

 たとえ子供だろうとプライド様を害したことを許すつもりはない。

 首領少年に近付いていく。警戒するように後退るが、モニターにその小さな背中が触れる。

 逃げ道がないことは彼が一番理解している筈だ。

 

「な、なんだよ!」

「サーバーを停止したまえ。フォルテなど作れないことは分かっただろう」

「うるさい! さっきのはサーバーパワーが足りなかっただけだ! パワーを上げてもう一回やれば――あぐ!?」

 

 その頭に容赦なく拳を落とす。懲りない少年だ、まったく。

 というか防磁服着ていたんだった。だいぶ硬い素材だったな、すまない。

 

「サイバースーツで電磁波を防いでいたんだろうが。このまま続行したらどうなる。キミのための防磁服なんて誰も用意していないぞ」

 

 既に通常の一万倍もの電磁波が発生している状況でサーバーパワーを上げるなど、自殺行為だ。

 この状態すら生身で浴びていいものじゃない。

 だというのに――その目は負けを認めていなかった。

 あまりにも強い信念、あまりにも強い憎悪が、そこにあった。

 

「くっ……だからどうした! 僕に命令するな! 全部が憎いんだ! もう傷つきたくないんだ! 僕の集大成の、邪魔をするな!」

「っ!」

 

 怒りに任せた絶叫。そして叩き込まれた体当たりにバランスを崩し、服の重みに耐えきれずその場に倒れる。

 起き上がろうとするも上手くはいかず、そうしている間に少年は再びキーボードへと向かっていた。

 

「サーバーパワー百パーセント……いや、百二十パーセント――ぐっ……!?」

『ね、熱斗くん! 電磁波が五万倍を超えてきた! もう熱斗くんたちも危険だ!』

「おい! やめるんだ! お前だって危ないんだぞ!」

 

 どうする――決まっている。まずは彼らだ。

 

「キミたちは今すぐ外に出ろ! 伊集院少年、四人の脱出の指揮を! キミらのスーツではじき持たなくなる!」

「――やむを得ないか……」

「オレは大丈夫! 炎山! 皆を頼む!」

 

 尚も上がり続ける電磁波の数値。これでは本当に不味い。

 あの少年のみならず防磁スーツを着た光少年たちまで安全とは言えなくなる。

 だというのに、この中で一番の頑固者はあろうことかここに残ると言い切った。

 

「そ、そんなのダメ! 熱斗だって危ないんでしょ! だったら私も熱斗と戦う!」

「メイル――馬鹿! 無茶言うなって!」

「無茶はキミだ光少年! ロックマンの話が理解できなかったのか!」

 

 防磁服を提供することは出来ない。

 この状況で彼らを少しでも確実に助ける方法など、今すぐ脱出させることしかない。

 電磁波は六万倍を超えた。オフィシャルの防磁スーツだって、もう許容量を超えた可能性もある。

 

「オレたちはパパに任されたんだ! オレたちはパパの息子なんだ! ()()()電磁波でギブアップしてたまるか!」

 

 オレたち――? いや、疑問を抱いている場合ではない。

 電磁波を侮り過ぎだ。たかが、と軽視できるようなものならそこの少年が頭を押さえているのは何だというのか。

 

「で、でも、熱斗を置いていくなんて……」

「――メイル。熱斗を信じようぜ。この中でまだ大丈夫そうなのは、あの人以外には熱斗しかいないんだ」

 

 待て、大山少年まで何を言っている。

 私が無事なのはこんなものを着込んでいるからだ。

 光少年にはこれほどの重装備はないんだぞ。

 

「熱斗を……信じる――」

「すぐに皆を追いかける! だから――行ってくれ!」

 

 机を杖にしてようやく立ち上がる。

 しかしその時には、あまりにも無茶な説得は成功してしまっていた。

 

「……わかった。でも、わたしの気持ちは、熱斗の中に置いていくんだからね!」

「あんたたち……グズッ……光くん! 絶対戻ってきなさいよ!」

「ああ!」

「おい……キミたち――」

「エールさん」

 

 いい加減にしろ、と言い掛けたところで、桜井嬢に名を呼ばれる。

 防磁ゴーグルの透明なレンズの奥、決意の込められた真剣な目が向けられていた。

 

「熱斗を――お願いします」

 

 ――何故そうも、先程会ったばかりの者に任せられる。

 いや、それほどまでに、なりふり構っていられないのだろう。

 桜井嬢は光少年を残して行くことを決め、彼のために私に頼ろうとしている。

 ああ、もう――こんなことをしている間にも電磁波は強くなっていく。ここで黙っていたらいつまで経っても彼女たちが出ていかないじゃないか。

 

「……さっさと行きたまえ。光少年が危なくなったら窓から突き落としてでもここから逃がすからな」

 

 こう言うしかないだろう。そうしないと光少年は抵抗し続ける。

 桜井嬢はこっちに深々と頭を下げると、駆け足で出ていった。さらに綾小路嬢、大山少年、伊集院少年の順に、部屋を去っていく。

 部屋の外のサーバーからプラグインしていたブルースもまた、電脳世界から去る。ゴスペルサーバーの電脳には、ロックマンが一人残された。

 

「……エールさん、ありがと」

「礼を言うなら今すぐ逃げるべきだ、くそ……後でキミの父とは話をさせてもらうからな」

 

 時間を取られた。サーバーパワーは更に引き上げられている。

 ……光少年の表情は険しい。どんな状態かなど、明らかだった。

 窓から突き落とすだと? そんなこと、非力な私に出来る筈がない。

 外からのアクセス方法なりなんなり、これを回避する手段を模索しておくべきだった、という後悔などもう遅い。

 光少年、それから電磁波に生身を晒しているあの馬鹿を一刻も早く救うには、やることは一つしかなくなったということだ。

 

「サーバーパワー、二百パーセントッ! これが! 本物のフォルテだっ!」

 

 机にもたれかかりながらも、少年はモニターを見て叫ぶ。

 ロックマンの目の前には、先と同じく黒き“最強”の紛い物がいた。

 

「……それも偽物だ。もう諦めろ。その方法ではフォルテは作れない」

「黙れ! こいつは本物だ! フォルテ、そのナビをデリートしろ! 今度はしくじるなよ!」

 

 確かに厳しい戦いになるだろうが、あの贋作なら、ロックマンが勝てない相手ではない。

 速やかにデリートして、この凶行を終わらせ――

 ――――待て、あれは。

 

『……グ、ゴガギギ……』

『な、なんだ!?』

 

 全身から異音を吐き出しながら痙攣する偽フォルテ。

 その目は大きく見開かれ、己に発生した異常を理解できないかのように震えている。

 体にぽつぽつと現れ始める、小さな四角い光。

 ――それはバグが高密度で集まった際に現れる特徴的な現象。黄色信号を超え、赤信号が点ったことを表す、最も危険な状況の証。

 

「お、おい! どうしたんだよフォルテ!」

「今すぐサーバーを止めろ! フォルテどころか、偽物ですらないモノが生まれるぞ!」

「え――」

 

 瞬間、膨大なエネルギーが爆発する。

 驚異的な速度で上昇した力がフォルテを象った体を食い破り、相応しい新たな形状となって顕現する。

 

 ――当たり前のように、それは獣の姿となった。

 鋭い爪を備えた強靭な四肢。それが支える、ロックマンの数倍はある黒い巨体。

 口先の尖った狼の如き頭部から伸びるのは、不定に形を変えるたてがみ。

 赤い瞳は傍にいる小さな獲物を傲岸に見下ろす。

 はじまりの電脳獣を思わせる全身に小さな光が無数に灯る。

 強大なバグ融合体。案の定だった――これが、ネットマフィアが計画の末に至った末路。

 

「なんだ、コイツ……」

「フ――ハハハハハハハッ! それがお前の本当の姿か! いいじゃん、強そうじゃんか!」

 

 何を呑気なことを――コイツはもうキミが求めるようなものじゃない。

 これは人間が支配できるものではない。正真正銘の化け物なのだ。

 使うほかない、と判断する。傍にあったゴスペル首領――少年のものだろう椅子をひったくり、そこに座る。

 

「エールさん、アレ……」

「ああ、アレは外に出してはならない。この場で完全に消し去る。私も出るから、手伝ってくれ」

「わ、分かった!」

「それと――ここにこの体を置いておくからそのつもりで」

「え?」

 

 PETに備えられたチップホルダー。

 フォルダとは別の、いくつかの予備チップを入れるためのそこから、一枚のチップを取り出す。

 私専用であることを証明するナビマークをデザインした、青黒いチップ。

 それをチップスロットに送り込み、機能のロックを解除。エールハーフを実行するプログラムの更に下層に、もう一つの実行ファイルが現れる。

 プログラムを実行。赤外線でPETとゴスペルサーバーを繋ぐ。

 エールハーフはともかく、これは極力使うなと、プライド様から強く言われている。

 私の半分での対応が難しい、それでも医者(デバッガー)として対処しなければならない事象が発生した時、本当に緊急の場合だけ、その他に方法がないか模索した上で使用すること。

 今回のあの獣は、それに該当する。あれはバグ、何があっても除去すべき、災厄の種だ。

 

 

 安全地帯確保:OK

 

 電脳世界とのパス形成完了

 

 パスの推定維持時間2時間以上

 

 転送成功確率98.1%

 ※成功確率が規定ラインを下回っています。

  パルストランスミッションシステムは成功確率99%未満での実行を推奨しません。

  この状態での実行時、指定のメールアドレスに通知メールが送信されます。

 

 転送許可:OK

 

 パルストランスミッションシステム構築完了

 

 

 準備完了。迷う時間、躊躇う時間はない。

 元々このつもりだったのだ。電磁波の影響かだいぶ確率が落ちているが、それでも止まるには至らない。

 さまざまな理由から、それは危険な行為だ。

 だがそれも承知の上。私の半分で駄目ならば――私のすべてで飛び込むまで。

 

 

 転送準備:OK

 

 パルストランスミッションを開始します

 

 3

 

 2

 

 1

 

 

「――解凍」

 

 

 エールオール.EXE

 パルストランスミッション

 

 

 

 

 エールハーフとは、私の精神を二つに分け、一つを精神データに変換して電脳世界に送信するものだ。

 この場合、現実世界の(エール)が電脳世界の(エールハーフ)をオペレートする形になる。

 だが、この緊急コマンドはそれとは違う。

 精神を切り分けることなく、全てを変換して電脳世界へと送信し、より強い負荷の掛かる(アバター)を運用することで、修復困難なバグを除去するためのもの。

 現実世界の私は精神が不在となり、眠ったような状態となる。

 そして電脳世界に降り立った完全な私は、エールハーフではないもう一つの姿となっていた。

 

 全身の白が黒に反転した姿は、一転して医者には見えなくなったと感じる。

 各所が鋭角的になり、手先にしかなかった小さな光は全身に灯っている。

 そしてその間を縫うように張り巡らされた光のライン。

 手首に巻かれた鎖の断片が、何より医者らしさを無くしている。纏っている私でさえ、物々しいとか不気味だと思う意匠。

 それが、エールオール。

 切り札たる姿でもって、ロックマンに並ぶ。

 

『え、エールさん……? その姿……』

『アレを切除するための全力の姿というヤツさ。ブルースとまでは言えないが、これなら少しはマシなことが出来る』

 

 まあ、由来が由来ゆえ、あの獣に似てしまっているのが複雑だが。

 とはいえアレはロックマンの敵で私はロックマンの味方。それは間違いない。

 耐久力もエールハーフのように軟弱ではない。並の攻撃ならば多少は耐えられる。

 これならば、許された能力を最大限引き出すことが出来る。

 

『オオオオオオォォォ――――――!!』

 

 獣が吠える。轟く咆哮は電脳世界を軋ませ、私たちの全身に威圧感を叩き付ける。

 宣戦布告か、上等だ。それでこそ、対処のし甲斐があるというもの。

 

『光少年、ロックマン。ヤツは強い。恐らくは、今までキミたちが戦ってきた何よりもだ。本音を言えば、キミたちには逃げてもらいたいのだが……本当に私を手伝ってくれるかい?』

『……ああ。ここで倒さなきゃアイツが外に飛び出して大変なことになる! それなら、ここにいるオレたちがどうにかするしかないんだ!』

『うん! エールさん、ボクたちなら大丈夫! 一緒にアレを――『ゴスペル』を倒そう!』

 

 ……やはり、キミたちはそう言うのか。

 であればもう何も言うまい。どの道、いま電脳世界にいる私に光少年をどうにかすることなど出来ないのだ。

 とことんまで働いてもらい速やかにヤツを倒す。誰かと共闘してのバグ消しなどそう経験はないが、彼らなら十分に隣を任せられる。

 

『よく言った。それではこれより、バグ融合体――否、ゴスペル除去を開始する』

『行くぜロックマン! ラストオペレーション、セット!』

『イン!』




・帯広シュン
ゴスペルの首領たる少年。勿論原作では鉄拳制裁など受けていない。
五年前のとある事件をきっかけに世界に絶望し、復讐心からゴスペルを立ち上げた。
原作ではプライド様の事件を終え、アメロッパから帰国する際に同じ飛行機に搭乗。
その飛行機に搭載されたプログラムをゴスペルのガウス・マグネッツが計画のために奪取したのだが、その際に発生した飛行機の異常で事故に巻き込まれかけている。
洒落になってないが、そのくらい情報共有が杜撰な組織だったのかもしれない。それならプライド様もどうにか助けられる。筈。

・ゴスペル
2におけるラスボス。バグ融合体であり、狼のような獣の形状を持つ。
バグが一か所に集まると獣の姿になるという設定があり、同じくバグによって発生した電脳獣グレイガに酷似した姿となっている。
HPは2000。今後のシリーズにおけるラスボスHPの先駆けといえよう。
口を閉じている間はダメージを与えられず、攻撃時などで開いたタイミングを狙わなければならない。
ラスボスに相応しい回避しにくい攻撃を複数持っているのだが、2はチップやプログラムアドバンスの威力が高いためあまり強いイメージは持たれにくい。
HPが減るにつれてパターンが代わり、最終的に必殺技をぶっ放してくるのだがその前に倒せることもままある。


そんな訳で2のラストオペレーション。
実際、この口上は4からだった気がするのですがノリでやります。ラストじゃなくてもやります。
伊集院少年たちはこれで退場。
ゴスペルとの最終決戦で全力フォームのお披露目となりました。HPも高くなってガッツパンチならきっと耐えられるくらいにはなったぞ! やったな!
初期の構想ではフリーズマンの事件は完全に裏方で戦わない予定だったんですが、それだと二度目の出撃がコレになってしまうので実働部隊に変更したという経緯があります。
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