バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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3編開始につき、章分けを行います。
章題は共通してとある意味を持たせますが今はご想像にお任せという形で。

ぶっちゃけ2編で30話も使うと思っていなかったので先が怖いです。


Case File2.『絶対強者』
アップデートの準備が完了していません 【日】【本】


 

 ■月■日

 

 本日から日本、科学省での生活を開始する。

 今回の目的はウイルス利用技術の指南及びウイルス飼育に関する共同研究。

 ゴスペルとの戦いにおいてオフィシャルと協力した際、提供したウイルス式のセキュリティプログラムをどうも注目したらしく、アレを中心としたノウハウを学びたいとのこと。

 私としても彼らが研究しているウイルス飼育技術には興味があるし、医者(デバッガー)としての依頼と並行して構わないとのことだったので引き受けた。

 

 さて、これを引き受けるに際して、住まいなども無いことからその辺りの用意を頼んだところ、科学省内の一角に研究室という名目で部屋を借りることが決まった。

 しかし、用意してくれた場所で寝泊まりしたいことを告げておいたところ、ベッドはともかくユニットバスまで設えたと聞いた時ははっきり言って割と正気を疑った。そこまでするものなのか?

 どうにかしなければならない問題だとは思っていたが、話題に上げる前に向こうが解決してしまうとは思わなかったぞ。

 住居として使えるものになってしまったどころか、本日やってきてみれば中々に快適な始末。

 ……当たり前か。元々私は家でも寝室と仕事部屋くらいしか使っていないんだし。はっきり言っていつもと変わらない。

 

 今日は世話になるウイルス研究室の面々、それから光氏をはじめとした何人かと挨拶を交わした後は部屋で荷物の整理に集中。

 今回は長引くため、流石に我が家のパソコンをつけっぱなしにしておく訳にもいかないことから、レヴィアともこちら側で合流した。

 居候の説明はだいぶ手間を要したが、どうにか科学省エリア経由でこちらのパソコンの一台に連れてくることが出来た。

 ……本人はウラに行きにくいと不満だった。面倒臭い。あとで私のホームページとリンク張るからそれまで我慢してほしい。

 プライド様から激励のメールが来ていた。嬉しい。これで死ぬほど頑張れるというものだ。

 

 

 ■月■日

 

 科学省が現在開発しているウイルス飼育機。

 これは各ウイルスに適した環境の小規模な電脳世界を構築することで、ウイルスにストレスなどの不具合を与えず飼育するという機械らしい。

 本来ウイルスを飼育するというのは大変な危険が伴う。

 拡散、変異などしないように設備はしっかり整えないとならないし、それを維持し続けることも必要だ。

 その上で、それぞれのウイルスの特性を理解しないとならない。

 確かにウイルスを専門的に研究する施設で作る技術としては適している。

 私の場合、捕獲元のエリアと同様の空間に置くことで適した環境の調査を短縮していたのだが、研究機関としてはそれではいけないということか。

 一応、現状で私が知り得ている情報のうち、危険度の低いものは提供する。

 ウラ産のウイルスやら、ドリームビットやらは提供できない。特に後者は貰った側から言い含められているし。科学省の人たちが自力で見つけるまでは私も何も出来ない訳だ。

 

 

 ■月■日

 

 緑川氏から夕食の誘いが来た。

 何かあるんだろうなと予想はしていたが、案の定。

 どうやら近々、DNN主催で世界各国から腕利きのネットバトラーを集め、ネットバトルの大会を開くらしい。

 その大会に利用するネットバトルマシンや各種仕掛けの整備を依頼したいとのこと。テレビ局の主催とはいえ、何故一アナウンサーである緑川氏が来たんだ。

 まあ、とはいえちゃんと報酬のある仕事であれば断る理由もない。

 ゴスペルのような連中と関わることがないのであれば歓迎だ。

 

 

 ■月■日

 

 依頼の話はメールでと言っていた筈なのだが、気付いたらDNNにいた。

 正直流れは覚えていない。緑川氏に今度は昼食に誘われたまでは覚えているが、どうしてこうなったんだっけか。

 仕方ないから対面での打ち合わせ。

 ディレクターだという砂山氏から予定している大会の形式について伺うが……やはりというべきか、中々にツッコミどころの多い内容であった。

 確かにテレビで放送するような大会であるなら、ただバトルを放送するだけでは盛り上がりに欠ける部分もあるのだろうが。

 このために島一つを整備したり、科学省のスクエアを借りたりなど大掛かり。

 ……島って。

 

 

 +

 

 

 科学省での生活が始まって暫く経った。

 ウイルス飼育機では最初の実験として、メットールとラビリーが飼育されている。

 私からある程度のウイルスを提供しても構わなかったのだが、研究室の方針で飼育の対象とするのは何かしらの影響で害意のなくなった安全なウイルスのみであり、この数日で発見されたのがこの二種だった。

 それぞれ上位種も揃っており、害意のないそれらが快適な空間で過ごしている姿は普通の動物のようで妙な愛嬌がある。

 ふむ、この機構はやはり私も個人で用意したいな。

 ドリームビットなど、こうして飼育しておけばさぞ楽しいのではないか。

 ……そのためには今私が管理している、本来の性質のものから攻撃性を一時的に制限しているものではなく、自主的に攻撃を仕掛けないようなものを探さなくてはならないが。

 もう一回ヤツに交渉してみようかな。頑張ればそんな特別な個体くらい見つかるかもしれない。

 そちらの研究は良いとして、本日は一つ、無視できない問題と対峙していた。

 

『エール。まだ終わらないの?』

「……もう少し」

 

 此方で新たに設えたパソコンの一台にやってきているレヴィアに催促され、少しの苛立ちを含んだ返事をかえす。

 先日、しばらくぶりにチップデータの基準に改定が成された。

 それにより、最新の更新プログラムを当てたナビとPETで、従来のチップが不可能になったのだ。

 チップデータの容量や構成により三段階のクラスが設けられ、今後のチップフォルダはこのルールを適用した状態で構築しなければならない。

 通常のチップに位置するスタンダードクラスは制限は少ない。

 これまで通り同名チップの枚数に規定はあるが、それ以外は自由に組むことが出来る。

 そして、メガクラスチップは従来のナビチップやデータ容量が大きく強力なチップが該当する。

 此方はフォルダに同名チップを含めることが出来ず、メガクラスは合計五枚しかフォルダに入れられない。

 最後にギガクラスチップ。メガクラスを超えるほどの、戦局を変え得る力を持ったチップとなり、フォルダにいずれか一枚しか含めることが出来ない。

 今後、チップデータはこの基準で統一され、それ以外のチップは利用できなくなる。

 一般に流通されているチップや、特定のルールで構築されているナビチップは自動的に新基準で更新が行われたのだが――問題は自分で作ったりして流通していないチップ。

 これらはチップの自動更新が行われない。

 オフィシャルにチップデータを送れば更新をしてくれるらしい。

 だがまあ……そんな簡単に渡したりは出来ないというもの。そういう変なプライドがあったり事情があったりする者は、基準に則した変換を自分で行う必要があるのだ。

 

 私が作ったチップは多い。

 それら一つ一つを変換していたら、一日二日では終わらなくなる。

 よって、作っているのが汎用更新プログラム。これで決められた基準の下、チップを自動で変換させる。

 これは問題ない。もうじき終わり、完成したら所持しているチップデータを対象にして自動実行させておけばいい。

 この後に待ち受けているのが――チップフォルダの編集。

 つまるところ、今のフォルダでは変換後、ルールに思いっきり抵触するようになるのである。

 

 これまで当たり前に利用できていたチップが、変換後はメガクラスチップに切り替わる。

 それによりフォルダがルール違反となり、装備すら出来なくなる。

 変換だけでなく、チップフォルダを改めて構築し直す必要が生まれたのだ。

 本来、そのような状況の対策として用意される予備フォルダも、私の利用法的に今回の事象にまったく対応できていない。

 ゴスペルとの戦いから数週間。せっかく構築し直したフォルダも予備フォルダも全て使用不可能となった。

 という訳で、私のフォルダの再構築が三つ。

 そして、私が作成したプライド様とレヴィアのフォルダが一つずつ。

 計五つのフォルダに再構築が必要となり、最優先のタスクとなってしまった。

 レヴィアの催促は、それに対してのこと。

 独立ナビであるレヴィアはフォルダを装備する必要がないのだが、フォルダ無しでの行動を禁止したのは他でもない私自身。そんな訳で、ここにきて本日中の対応という期限が出され、結果として私の首を絞めることになった。

 

「ところでレヴィア。これを機にメガクラスチップは組み直そうと思うが。方向性の希望はあるかい?」

『ナビチップはいらないわ。発動が鈍いのもお断り。そういうものしかないようならスタンダードで纏めてくれていいわ』

 

 チップを使うことはあまりないレヴィアだが、強いて言えば速攻型のチップを好む。

 彼女はとにかく、自分のペースを素早く構築するタイプだ。

 ナビチップのように、ナビのコピーモデルを出力、その後チップに登録された行動パターンを実行というプロセスを踏む関係で、使用してから効果を発動するまでにどうしても時間が掛かる。

 そのため、ペースや攻撃のテンポを大事にするスタイルの者には合わない場合が多いのだ。

 勿論、高い技術で作られたナビチップには周囲の敵を自動的に捕捉したり、使用者の判断で異なる攻撃パターンを実現させたりというものも存在するのだが、それらもレヴィアは使わない。

 自分が使用するためのチップに何で自分から合わせに行かないとならないのか、とはレヴィアの弁である。

 であれば、と変換プログラムの構築がてら、レヴィアの新しいフォルダを考案する。

 新たなルールに反することから外れることになる幾つかの枠。

 そこに入る新たなチップは速度を重視、さらに相手の好機を潰して付け入る隙を増やすような――

 

「……」

『……? エール、手が止まってるわよ?』

 

 ふと思いついた、今回めでたくメガクラスに格上げされることになったチップを思い出し、手を止めた。

 ――やめておこう。こんなの入れていて他意があるのではと勘繰られたら凄まじく面倒だ。

 相手が選択しているチップデータを即時にクラックし、ダメージを与えると共に相手の戦法を潰すチップ。

 レヴィアにはピッタリだ、という感想は、胸に仕舞い込むことにした。

 

 メガクラスは『フルカスタム』に『ダイフンスイ』と言ったところか。

 前者はデータのストックが幾つかあるし、後者はそもそも私やナイトマンでは扱えないので、被ることもない。

 ……しかし、『フルカスタム』がメガクラス化したのは痛いな。

 これは直接的な攻撃力も持たなければ体力が回復する訳でもなく、防御に効果を発揮することもない。

 ただ、一度ナビにチップを送ってから次に送れるようになるまでの、カスタムデータの待機時間をカットする。

 これにより、同時に送れる五枚を超えた枚数による連続攻撃や、コードの異なるチップの組み合わせも疑似的に使用できるようになるのである。

 どんなフォルダでも複数入れて無駄にならない万能なチップだったし、だからこそ数を集めるのにそれなりに苦労したのだが。大量に不良在庫が出るな。

 私やプライド様のフォルダにも引き続き一枚ずつは入れるとして、残った奴はどうしよう。

 知り合い連中にでも送り付けておくか。光少年はまだフォルダも十分に出来上がっていないだろうし困ることもあるまい。

 浦川少年……は持っていた筈。というか、実力者の間では有名なチップだし所持している者は多いだろうなぁ。

 そういえばこの前アジーナのファラン氏が欲しがっていたっけ。

 で、それでも残ったものは……仕方ない。バグピーストレーダーに放り込んだり、適当な値段で売ることにしよう。

 依頼の受付を再開したことで、ウラにある私のスペースにもぽつぽつとアクセスが見られるようになってきた。

 ウラの連中は金に糸目はつけない者も多いし、有効なチップならすぐに売れるだろう。

 

 そんなこんなで、変換プログラムが完成したのはあと二時間で日も変わるといった頃。

 そこからチップの変換をはじめ、ひとまずレヴィアのフォルダだけでも完成させる。

 あとは、既に休まれているらしいプライド様に、明日には新しいフォルダを送る旨だけ連絡し、残った全チップの自動変換を動かしてから寝ることにしよう。

 

 新たな運命の動き始める日の前日は、そんな風に慌ただしく過ぎていった。




・ウイルス飼育機
3に登場するシステムで、やり込み要素の一つ。
害意のないウイルスを科学省内の機械で飼育し、研究するために開発された。
ウイルスを入手するとそのウイルスを呼び出すチップが貰え、バグのかけらを餌として与えることで攻撃力を上げられる。
3でガッツマンがバグのかけらマンとか呼ばれ乱獲されたのは大体これとバグピーストレーダーのせい。
4以降も継続してほしかったシステム第一位。6ではこれを意識したようなシステムは出た。

・ジェラシー
2から登場するチップ。3以降はメガクラスチップ。
相手が選択しているチップ分のダメージを与える。
ストーリー中でもチップを持っている敵が一部存在するため、まったくの対戦専用という訳でもない。ちなみにゴスペルにも効く。
何故ここに説明の項を設けたかはあえて言うまい。

・パクチー・ファラン
6に登場する、アジーナ出身の料理人。熱斗の通う学校で家庭科の非常勤講師も務める。
持ちナビはスラッシュマン。ナビマークはかなりセンスが良いがアジーナで漢字が一般的なのかは不明。
ターバンに挿さったナイフはおしゃれらしいが日本の、それも小学校でそんなファッションしていて良いのかも不明。

・やけに豪華な部屋
多分どっかの王女が「無理やりでもまともな生活が送れるようにしてください」って口利きしてる。

・ゴスペルのような連中と関わることがないのであれば歓迎だ。
ゴスペルには関わらない。


という訳で3へのシステム変更の回。
せっかく直したフォルダも含めて全滅したので作り直し。とはいっても基本戦法は変わりません。
あくまで、今後メガだのギガだのという用語を普通に使うための説明回みたいな感じです。
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