バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
お遊びみたいなもので無くても内容の把握に支障はありませんのでご了承ください。
また、脚注タグ利用のため本編と後書きの間に数行混じってますがそれも気にしなくて大丈夫です。
ある意味私が待ちに待っていた日は、いつも通り何事もなくやってきた。
その日の仕事を終え、入浴を済ませ寝間着に着替えてからパソコンに向かい、PETを繋ぐ。
その様を、別のモニターからレヴィアが呆れた表情で見つめてきていた。
『……エール。家ならともかく、出先でそんな恰好で仕事するのはどうかと思うのだけど』
「家のようなものさ。あと、これは仕事じゃないからね」
知らない間にやけに常識的になっていたレヴィアに少し感動しつつも、そう答える。
家より設備は少ないが、やっていることは同じだ。
『仕事じゃないの?』
「ああ。今夜はコイツを色々と弄ってみようと思ってる」
『何それ――ナビカスタマイザー? そういえば掲示板で盛り上がってたわね』
そう。何を隠そう本日はナビカスタマイザー――通称ナビカスの発売日である。
光氏主導の下、この科学省で開発された、専門的な知識がなくとも直感的にナビのカスタマイズを行えるツール。
本日世界中で一斉発売され、ダウンロード購入を行った場合は日が変わった瞬間から使い始めることが出来る。
既に多くのネットバトラー諸君がこれに触れ、掲示板で情報共有など行っているだろう。
デバッグに携わった際に中身を見せてもらったが、これはかなり画期的な発明だ。
個人の癖に合わせたカスタマイズを簡単に出来るようになるこれが普及すれば、素人の改造にも幅が生まれるだろう。
通常のカスタマイズでは不可能な能力も、このナビカスに適応させたパーツを作れば実現可能となる。
技術の無い者には救世主となり、技術のある者には更なる可能性を与えるツールと言える。
『まあ、どの道私には関係ないんでしょ?』
「PET内で
ナビカスは最終的にナビに効果を発現させるための実行をPETで行う。
この時点でレヴィアとしては無関係なツールだ。
かく言う私もナビを持ってなどいないのだが、エールハーフ、及びエールオールにこれを適用させることが出来るのは確認済みである。
早速ナビカスを起動すると、表示されるのは縦四、横四のマス目のメモリMAP。
ここに任意のパーツを干渉しないように組み込むことで、ナビにそれまではなかった効果を発現させるのである。
ナビカスにおけるルールは大きく分けて四つ。
能力の付加に関わるプログラムパーツは、コマンドラインと呼ぶ決まった横一列を必ず通して置かなければならない。
基本性能の強化に関わるプラスパーツは、反対にコマンドラインに置いてはいけない。
同色のパーツ同士を隣り合って置いてはいけない。
そして、置けるのは決まった色だけ。
簡単なルールだが、これらに抵触すると、ナビにバグが発生するようになってしまう。
他はともかく、問題は四つ目だな。新たなパーツを作る上で、構成上デフォルトとは異なる色のパーツを作らなければならない場合は多いだろう。
しかし、どうやらそんな非公式のパーツは、基本的に置くとエラーとなり実行できないようになっているらしい。
実行不可能の制限は……まあ、簡単に取り払えるが、その場合でも非公式パーツを複数配置するのは難しそうだな。
あとはメモリMAPそのものの拡張もどうにかやれば出来そうだ。あと、出来ればコマンドラインそのものを大きくしたいのだが――と、悪巧みは後にしよう。
まずは実際に動かしてみてからだ。
一応、本日同時に発売した公式の初期パーツは全て購入している。
ナビの耐久力を増やす『HP+100』、ナビに備えられた一部攻撃の威力を高める『アタック+1』、そして――致死ダメージを瀕死にまで抑える命綱、『アンダーシャツ』。
私にとってはこれは何より大きい。
これまで、私は戦いの始まりに毎回この効果を発揮するチップを使用してきた。
転ばぬ先のレギュラーチップ。カスタマイズではどうしても付与できないこの効果が、遂にチップを介さずとも利用できるようになったのである。
これの効果が証明されれば、数年間のレギュラーチップの務めからこのチップが解放されることになる。厳密にはずっと使っていたチップデータはこの前のゴスペル戦でぶっ壊したので違うデータなのだが。
ひとまずはこれを。
そして『アタック+1』は私の性質上あまり有効ではないので一旦放置し、あとは一縷の望みをかけて『HP+100』をセットする。
ルールに抵触していないことを確認――まあパーツ二つでルール違反するようならナビカスに向いていないと言わざるを得ないが――し、実行。滞りなく完了する。
| >> | >> | >> | >> |
そして再びエールハーフの状態を確認し、一縷の望みは吹き飛んだ。
いや、知っていた。知っていたのだが――期待もしていたのだ。
このパーツにより、私も少しは頑丈になるのではないかと。
ナビの能力を数値化したステータス表。
そこには、何一つ変わりない、いつも通り初級ウイルスに迫れる程度の貧弱な数値が記されていた。
「……はぁ」
当然だ。エールハーフにエールオール、パルストランスミッションで実行するプログラムは精神データにナビを模したスーツを纏わせるだけ。
外殻の耐久値ならば改造次第で多少は増やせようが、ここで何をしようと中身である精神データが補強される訳ではないのだ。
だからHPメモリの類も一切効果がない。
容器を拡張してもそこに注ぐ力がそもそも少ないのだから、寧ろ虚しさが増すばかりである。
「まあ、レギュラーチップが浮いただけでも私からすればありがたいが」
これで随分、初手で取れる可能性が広がった。
さらにフォルダに一枚新しいチップを入れられるということにもなるし、他の幾つかのチップも類似する効果を持ったプログラムパーツを構築できるかもしれない。
ひとまずは、そんな先の可能性が生まれたことを喜ぼう。
そう、ポジティブに考えつつ、エールハーフのプログラムを起動、パルストランスミッションを実行する。
パルスインする先は、レヴィアがいるパソコン。
『あら?』
降り立って、体の様子を確かめる。特に問題はなさそうだな。
体を構成しているバグがナビカスの効果に干渉していることもない。新しく調整する必要はないか。
『どうしたの? こっちにやってくるなんて』
『ああ、少しキミに頼みがあってね』
首を傾げるレヴィアに向き合い、軽く手を広げて要望する。
『一回刺してくれないか?』
後から思い返せば何故ここまで説明のない直球な言葉が出てきたのかは分からない。
ただ、本能的に小さく一歩後退った時のレヴィアの表情を、私は忘れることはないと思う。
レヴィアにそれを頼んだのは、あくまでナビカスに組み込んだ『アンダーシャツ』の効果を確かめるためである。
それを先に説明すれば他意がないことなど分かるだろうに、順序を間違えた結果色々と話が拗れることになった。
結果として、その実践は十分遅れたが、一応レヴィアに僅かな誤解が残ったくらいで済んだと思う。
『じゃあ、行くわよ』
『ああ、いつでも』
若干、気が乗らない様子のレヴィアに了承を示す。
彼女としてもまったく望んでいない瞬間だろう。申し訳ないが、大事なことだ。
くるりと槍が回る。それは彼女なりの切り替えのサイン。やる気はともかくとして彼女は――
『ッ――』
――刺すと決めたその槍に、手は抜かない。
思い切り腹を貫いた槍は易々と背中を貫通し、レヴィアの顔が目の前に現れる。
一瞬遅れてやってきた激痛に顔を歪め――そして、安堵した。
体がばらけることはない。
『アンダーシャツ』はナビカスプログラムとして、確かに効果を発揮しているようだ。
『…………むぅ』
数センチの距離にあったレヴィアの表情が不満を訴えると同時に、槍が引き抜かれる。
思わず蹲りつつも、まだギリギリで体を維持できていることを確認する。
『やっぱり、“ごっこ”だと何か違うのよね。どっちも死力を尽くした戦いじゃないと』
『そうか、それは……待った、つつくな、今は不味い』
退屈そうに槍の先端でつついてくるレヴィア。
洒落にならない。それが僅かに深く刺さっただけで飛ぶぞ、私の半身。
焦りつつもリカバリーを使用する。痛み、疲労感はそのままに傷が癒えて――
『……む?』
『何よ』
『すまない、レヴィア。もう一発頼む――ッ』
『貴女、ゴスペルとの戦いでどこかおかしくなったの?』
再度の要求に心配するように、レヴィアは顔を覗きこんでくる。
より心臓に近い位置に槍を刺したうえで。器用なことをしてくれるな。
『いや、そういう訳じゃなくて……少し試したかったんだ』
もう一回引き抜かれたことで余計に痛む体に再びリカバリーを使う。
思った通りだ。これは素晴らしいぞ、光氏。
『発動後に回復すれば、再度『アンダーシャツ』が起動する。素晴らしい、これなら悲しいほどの紙耐久も補える』
『……』
心配が「何言ってるんだこいつ」とでも言いたそうな表情に変わった。何故。
『……エール。言っておくけど、耐えられると戦えるは違うわよ。貴女そんな気合無いでしょう』
『気張らないといけない状況ならそうするよ、私は』
ゴスペルの時だって一度死にかけた痛みをそのままに戦ったのだ。
そうやろうと思えばできる。やりたくないだけだ。
今回はその、いざという時のための実験。連続で攻撃を受けることがなければ、理論上リカバリーの枚数分は攻撃を耐えられるようになる。
――ちなみにそこまでやったら流石に気を失う方が早いと断言できる。
『ともかく、この効果は実証出来た。ありがとう、レヴィア』
『私が言うのもなんだけど、刺されてありがとうは気持ち悪いわ』
ごもっとも。辛辣な言葉を受け取りつつも、パルスアウトを行う。
「っ、ぐっ……!」
戻ってきたと同時に、現実世界にある本体の痛覚が全力で刺激される。
何度やっても慣れない体中の悲鳴と、その始まりでありひときわ目立つ頭痛。
鎮痛剤を呷り、暫く机に突っ伏す。
警報の如き動悸を響かせる胸を押さえつけながら荒く息を吐いて――どれだけ経ったか、ようやく痛みが引いてきた。体を起こして背もたれに預けると微妙な表情のレヴィアと目が合う。
『……大丈夫なの?』
「ああ……こればっかりは仕方のないことだと思っている。私が選んでこうしている訳だしね」
現実世界にいる私が電脳世界のバグを対応するのに、最も適した方法がこれなのだ。
その姿を頑丈にするための実験なら、この程度の痛みは軽いもの。そう、自分に言い聞かせ、感じる痛みを和らげる。
……まったく、入浴は済ませたというのに、汗でぐっしょりだ。
あとでシャワーを浴び直そうとか思いつつ、エールハーフに対しメンテナンスプログラムを掛ける。
本格的な修復は明日にしよう。そんな気力は残っていない。朝に試さないで良かった。
「さて、と……」
足元に置いた小型冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し、乾いた喉を潤す。
ここしばらく、科学省で過ごすまでは馴染みのなかった緑茶はなかなかに美味い。
コーヒーとは違う、よくわからない苦味は喉を潤すのに向いている。よく冷えたものだと特に。
メンテと並行して、メールのチェック。
方々から来る依頼を確認しては、適当に優先順位を付けていく。
ナビカスを実行してから調子が悪い――予想はしていたけど多すぎだろこれ。まだ初日だぞ。プログラムパーツだってまだ三種類しか出ていない状況だぞ。
というかこの手の依頼がウラからも来る辺り始末が悪い。お前ら泣く子も黙るウラの住民だろう。このくらいでバグ起こすなよ。私が泣くぞ。
とりあえずこの手の依頼にはテンプレートの対応作っておこう。
ルールを確かめろ。それでも分からなければナビカスのスクリーンショットと組み込もうとしたプログラムパーツ書いて寄越せ。そのくらいでいいか。
これで報酬貰うのもなんか馬鹿馬鹿しいぞ。かといって無料対応にしたら、そこから発展して色々と面倒なことになりかねないからしないが――お前ら本当にこれで謝礼を払うつもりなのか?
せっかく光氏が直感的に触れられるシステムを作ってくれたのに――と呆れながらもメールを消化していき、お茶を再び口に含みつつ次のメールを開く。
日本に来てから取り始めたメールマガジン。その日の毒にも薬にもならないニュースを列挙した夕刊に目を通し――
――よかよか村動物園の動物が暴走、うらかわ旅館に侵入も!
――吹き出しかけたお茶を寸でのところで飲み込んで噎せ返る私に、レヴィアは冷めた目を向けるのだった。
今話の一方その頃で起きたこと:ビーストマンも死んだ。
・ナビカスタマイザー
みんな大好きナビカス。3から登場し6まで続投した、エグゼシリーズを象徴するゲームシステム。
パズルのような感覚で組み込んだパーツによりロックマンを強化することが出来る。
HPを上げたり、バスターの攻撃力を上げたり、プレイスタイルによって多彩なカスタマイズが可能。
3では改造コード(正規)でやりたい放題でき、4ではバグストッパーが小さすぎてやりたい放題でき、5でようやく落ち着いたと思ったら6で盤外にパーツをはみ出させることが可能となってやっぱりやりたい放題できる状態で幕を閉じた。
・アンダーシャツ(ナビカス)
全シリーズのナビカスで最初から貰えるパーツ。
チップだったアンダーシャツがナビカスとなり、フォルダに入れる必要がなくなった。
ナビカスに装備しておけば致死量のダメージを受けてもHP1で耐える。
チップとの違いは一度発動しても、HP2以上となれば再発動するようになること。
これにより、木属性で草むらパネルの上に立ち、自動回復と併せるゾンビ戦法が編み出された。倫理もクソもあったものじゃない。
本作ではチップを基に作られた、デリート防止用緊急保護プログラムとして扱う。フォールトトレラントである。
ナビカス画面。今後再使用するかは知りません。
プラスパーツは表現が面倒くさかった難しかったのであんな感じに。まあ分かればOKでしょう。
表上のパーツにマウスオーバーで配置しているパーツ名が分かるようになっています。
あ、上ではビーストマンのことしか書いてないですけどなんかWWWが壊滅していなかったことも判明したらしいですよ。