バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
■月■日
(感情的になりキーボードを何度か叩いたことで打たれたような文字列が並んでいる)
■月■日
昨日のよかよか村動物園の動物暴走事件は、動物たちの体調管理のために埋め込まれたチップに犯人が特定の信号を送った結果発生したらしい。
檻の動物は殆どが脱走し、客に危害を加える個体までいた。
さらに数匹は動物園の外にも逃げ出し、うらかわ旅館に侵入した動物もいたとか。
女将殿に連絡をしたが、彼女と白泉氏が協力して動物たちを食い止め、宿泊客を避難させたらしい。二人にも怪我はなく、旅館の設備……あれも無事とのこと。安心したがなんなんだあの人たち。
さて、その事件だが犯人は動物園の園長で、自身をWWWの手先と名乗った。
つまるところ、WWWは壊滅した訳ではなく、ゴスペル事件の裏で活動を続けていたのだ。
事件自体は居合わせた小学生により解決。……やはりというべきか、光少年だ。
彼にも事件について聞いたところ、少し前……科学省で再会したその日の夜も、学校に侵入した不審者と戦ったらしい。夜の学校に彼らがいた理由は置いておくとして、なんでそんなに事件に巻き込まれる。呪われているのか、彼。
とりあえず彼が解決したという点は称賛しつつも、無茶はするなと釘は刺しておく。
あとは、一応日本にいるうちは手を貸せることもあるから何か事件に巻き込まれたら連絡するように、とも。
ナビカスについても昨日色々と書く予定だったが、印象が殆ど吹っ飛んだので、『アンダーシャツ』を今後フォルダに入れなくて済むという特記事項のみ記しておく。
■月■日
ウイルス飼育機に新たなウイルスが入ることになった。
チャマッシュ。スカーフを巻いたキノコのようなウイルスだ。困っているような笑っているような、何とも言えない表情が特徴である。
科学省が管理している科学省エリアの一角で発見された。
上位種であるキマッシュ、クロマッシュも同様。
管理室からエリアの一部が草で覆われているとの報告があり、行ってみれば案の定だ。
この種族は必ず草の生い茂る場所に現れる。というか、足元に十分な植物がないと何もできない。
臆病というよりはかなり好戦的なのだ。しかしもの凄く内弁慶であり、性能を発揮するには自身の戦場である必要がある。
その戦場である草むらを焼き払われたりすると、途端に震えて動かなくなってしまう。
性質上、このウイルスは木属性の特権として有する、電脳世界に茂る植物からエネルギーを吸収する機能を、活動している間は常に受けている。
そのため常に元気が有り余っており、飼育エリアを特有の素早さで移動しまくっており見ていて飽きない。
ただ、様子を見に行くのは慎重にしないとな。
害意がないとはいえ、この種は駆け回りながら震えることで胞子をまき散らし、外敵の思考プログラムに障害を与える。
世話用のプログラムくんはひとまず、この胞子対策を施した。
どうやらそれで自身の毒に侵されない他種と判断され、懐かれてしまったようで世話のために飼育エリアに入るたびに物凄い速さで突っ込まれておしくら饅頭状態になっているが。
それと、もう一種、昨日それらしい報告を受けている。
明日現場の電脳のある島には仕事で向かう予定だし、あわよくばそちらも保護しておこう。
■月■日
本日はN1グランプリの本戦で使用する無人島、通称ジゴク島にやってきた。誰だこんな名前付けたの。
仕事はここに搬入されたネットバトルマシンとこの島のエリア、そして各種仕掛けのデバッグ。
鬼か悪魔を想像させる仰々しい外見だが、小さい島なのでエリア自体は狭い。
本戦で利用するマシンの一台からジゴク島エリアに入れるがそれ以前からインターネット自体は繋がっていたのだろう。
マシンの調子は一切問題なし。ここに持ってくるまでにウイルス仕込まれたりどこかに強くぶつけたりなどという雑な扱いはしていないようで何より。
仕掛けに関しても特に異常は見られない……が、落とし穴って。
移動する橋の強度とかはともかくとして、落とし穴って。また落とし穴か。数ヶ月で二回も関わるような代物じゃないぞ。
砂山氏曰く、「敗北者は消え去るのみ、その容赦のない緊張感が視聴者の注目を集めるのサ!」とのこと。
そういえば、参加者をこの島に招くまでに船内で催眠ガスを使い眠らせた彼らのPETを弄り予備フォルダを書き換えるなんてこともするとか言っていたな。日本のテレビはどうなってるんだ。放送倫理とかないのか。予備フォルダも私みたいに理由があって特別なものを使ってる者がいるかもしれないんだぞ。
更にもう一つ、舞台となるジゴク島エリア。ウラインターネットに繋がっていた。
ジゴク島内部からは通常の手段では行ける場所ではない。調べてみたところビーチストリートのインターネットエリアから不正アクセスするためのバックドアのようだ。
……一応、ここで行われるらしい本戦の競技にはどうやっても関わらないようだが、色々と大丈夫か?
その辺りの観点を念のため報告して仕事は終了。
ついでにこのジゴク島に置かれた像の電脳を確認し、内部にいた無害ウイルスを保護。
これは数日前、島の整備を行っていたテレビ局の職員によって発見されたものだ。
普通のウイルスとは違う様子だったことからデリートせず科学省に連絡をくれたのは大変ありがたい。
種類はガルー。火属性のウイルスと聞けばまず最初に思い浮かぶだろう、一般的なエリアでも比較的良く見るウイルスだ。
姿は毛の逆立った狼といったところ。ウイルスの中でも大型な部類で、四足でありながら通常のナビと大差のない体高を持つ。
獰猛で動きが素早く、口からは火を放つ。単体だと攻撃のパターンが単調なことからさほど対処は難しくないが、群れを成すと途端に危険度が跳ね上がる要注意ウイルスと言える。
上位種と共に群れを作りながらも大人しいガルーは、飼育機に入れても目立った行動はしない。
同じくすばしっこさを特徴とするチャマッシュたちとは大違いだな。彼らは今日もエリア内を目的もなく猛ダッシュ三昧だ。よく疲れないな。
余談だがこのガルー、簡単に手に入る割に厄介なチャマッシュ対策として非常に有効だ。
せっかく草を用意しても即座に燃やし尽くせるガルーにとって、チャマッシュは大変都合の良い餌なのだ。
十二体のクロマッシュによる攻撃が一体のガルーにより三分も経たずに鎮圧された、なんていうのは嘘のような実話である。
……
■月■日
また光少年が事件を解決したらしい。何度目だ少年。
聞くところによると、桜井嬢の家で新たに購入した家電がWWWの手で開発されたもので、そこから強力な泡が発生。
桜井嬢と、ちょうど居合わせていた先生殿が泡に閉じ込められ、解決のために奔走したとか。意味が分からんぞ。
というか事件に巻き込まれたら連絡しろとは言ったが、事後に報告しろなんて言っていない。何も手伝えないだろうが。
いや、まあ、今回は大事なく解決したらしいので良しとするが。
何やら途中、犯人を追うのに必要な圧縮プログラムをナビに適用させるための改造を私に依頼しようとしたところ、通りかかった親切な男性が対応してくれたらしい。
何とも偶然な話だ。それもかなりのプログラミング技術とのこと。恐らく、別口でその事件を追っていた何者かだろう。
その男性が気になりはするが、それ以上ヒントもなさそうだったので置いておく。
それから光少年、大山少年、綾小路嬢はN1グランプリの本戦出場を決めたようだ。
桜井嬢も挑戦していたが、惜しくも最終予選で脱落してしまったという。
よほど悔しかったのか、私にネットバトルを教えてほしいと言ってきた。
一応、時間のある時に可能なアドバイスはするとは伝えたものの、実践の相手を出来ないのは申し訳ないな。
ウイルスを使ったシミュレーションくらいは提供しようか。
……
+
ナビカス発売から暫く。
新たなカスタマイズツールは無事受け入れられて恐ろしい速度で浸透していた。
各社が出す新規パーツが店頭に並び、今日も互いの製品の性能を競い合う。
ナビのカスタマイズの幅はそれこそ無限であり、だからこそこの競争は長いこと続くだろう、と思う。
そんな中で、ナビカスについて起きた大きな変化といえば、改造ツールとプログラムパーツの圧縮についてだろう。
ナビカスの発売後、間もなく個人によるオリジナルパーツが出回り始めた。
それらは公式パーツとして使われる色とは違う色を持ったものが多く、実行しようとするとエラーが発生する。
これは過度のカスタマイズによりかえって負荷が高くなり、未知のバグが発生することを防ぐための仕様なのだが、それを突破するための非公式ツールが早速開発されたのだ。
実行時にエラーが出るような非公式パーツを特定のコードで誤認させ、実行を正常終了させるそれは普通にグレーなのだが、ツールが出回ってからはこのコードを求めて、科学省スクエアでも質問の書き込みが相次ぐ始末。
確かに一パーツの誤認くらいならバグにはならない。しかし、流石にどうかと光氏に苦言してみたが、どうやら予想の範囲内らしい。
彼が認めているようなら、と受け入れ、早速私も利用することにした次第だ。
そして圧縮については、私も解析してよく情報を流している。
メモリMAPが限られている以上、パーツを圧縮することはそのまま組み込めるパーツを増やすことにも繋がり、ナビカスの可能性を増やすのだ。
耐久値などを上昇させるプラスパーツはどうにも圧縮出来ないようだが、そちらはどうでもいい。どうせ私には関係ないし。
ただ、この圧縮は考えなしに行うとかえってコマンドラインを占有したりする。
ウラでは私が暇潰しに作った『メガフォルダ1』のパーツを圧縮したら、コマンドラインを二マスも潰す羽目になったとかお怒りの書き込みがあったな。喧しい、何も考えずに非可逆圧縮なんざ掛けるからそうなるんだ。買い直せ。
私もメモリMAPを拡張し、このナビカスは大いに活用させてもらっている。
自作パーツの中には――型破りが過ぎて今後も外には出せないようなものが幾つか紛れているが。
この改造の中身なんて誰に見せるということもない。悪用するだけ得というヤツだ。
さて、そんなナビカス激動期の中、今の世間の新鮮な話題は概ね二つに分かれている。
WWWとN1グランプリについて。
ゴスペルの事件がようやく過去のものとなり平穏が訪れた日本を再び騒がせたWWWの暗躍。
動物園の事件から始まり、家電の暴走事件――いや、光少年の学校の侵入者もヤツらの手先と見て良いだろう。
この短期間のうちに立て続けに事件が起き、市民には不安が広がっている。
どちらも鎮圧されたものの、最悪死人が出てもおかしくない事件だ。
そんな中で予告通り開催されると発表されたN1は、その暗い空気を吹き飛ばすほどの熱気となるだろうか。
予選を通過し本戦に出場が決定したネットバトラーは三十二名。
その中には光少年たち三人に加え、伊集院少年やラウル氏、ジョンソン氏にジェニファー氏という、世界会議で世話になった面々の名前もあった。
ちなみにプライド様は公務の関係で参加していないものの、ゴスペルの一件から一気に注目されたこともあってか我らがクリームランドからも二名選手が出ている。期待しておこう。
他にも白泉氏の名前もある。うらかわ旅館の女将殿の妹で、長いこと旅館に併設する土産屋を営んでいる。
彼女のメタルマンは大変力強く、強力なナビだ。敵の猛攻に怯むことなく接近し鉄腕を振り下ろす姿は、彼女にネットバトルを挑んだ多くの者のトラウマになっているだろう。
それから……本名、国籍全てが不明の実力者、ネットバトラーQ。誰だコイツ。というかこんなのの参加許可するなよ。
いや、何の考えもなく正体不明の人間をこんな大会に参加させるとも考えにくい。砂山氏が用意した、視聴者の興味を煽るダークホースといったところだろうか。あとで聞いてみよう。
ふむ、こうして見ると、無名の選手もそこそこいるな。
対して、実力があると言えるネットバトラーが参加していないこともあったり。これもテレビの関係か?
まあ、そうした無名から新たなスターを発見できる可能性もあるだろうし、そこそこ楽しみだ、と思いながら情報を眺めつつ歩き――気付けば目的地に到着していた。
科学省勤めとなってからは二度目。その大きな建物に入る前に、すぐ前の砂浜を見下ろし――やはりその小さな姿が見えたことで、足を進める方向を変える。
砂浜に下りるための道は緩やかなスロープになっており、ハンデを抱えた者でも苦労なく砂浜に辿り着くことが出来る。
そこからの水平線の眺めは中々のもので、好む者も多い。
彼もまた、その一人だ。
スロープを下りて、彼に近付く。足を取られる砂浜の感触は、私自身は好きではないが、彼はタイヤが砂浜を行く感覚も好みだという。
やがて向こうも気付いたようで、振り向いたタイミングで手を小さく上げて声を掛ける。
「やあ、浦川少年」
「お姉さん!」
車椅子の少年の名は、浦川まもる。
重い心臓病でこの湾岸病院に三歳の頃から入院している、うらかわ旅館の一人息子。
そして同時に、その肩に背負うにはまだ重すぎる、途轍もない大任を父から受け継いだ子供だ。
「体調は平気かい?」
「うん、いつも通り。最近は発作もないし、元気だよ」
「それはよかった」
彼と出会ったのは、彼が生まれて間もない、まだ病の兆しも無かった頃。
一年に何度かは仕事のためうらかわ旅館を訪れていた私は、そこに一人息子が生まれたことも彼の父から聞かされた。
彼が入院してからも、定期的に日本にやってくる際は必ずこの病院に顔を出している。
そうでなくとも割と連絡する機会は多い――ゆえに、実のところ彼の主治医をはじめとして院内に顔なじみはそこそこいる。
この前ここに運び込まれた時、そこだけは多少気まずかった。
「そうだ、お姉さん。N1の選手、発表されたね」
「ああ。キミは誰か応援したい選手でもいるのか?」
「うんと……たま子さんと伊集院選手かな。どっちも凄く強いネットバトラーだもん」
白泉たま子――白泉氏は彼の叔母にあたり、気持ちの良い姉御肌である彼女は浦川少年も気に掛けている。
旅館の切り盛りでこの病院に来られる日の少ない女将殿に代わって見舞いに来ることも多いと聞くし、彼にとっても頼りになる人物だろう。
そして伊集院少年。若いながらオフィシャルのエースとも言える彼への注目は世界共通だが、取り分け日本での人気は凄まじい。
N1本戦出場の報せはファンにとっては待望でもあり、ある種当然とも取られていた。
「確かに、二人とも本戦を戦うのに相応しいな。伊集院少年とは二ヶ月ほど前に戦ったが、噂通りの実力だったよ」
「え!? 伊集院選手と――あのブルースと戦ったの!? “あの”お姉さんが!?」
「うん、“この”私がね。色々とあって避けられない戦いだったが、まあ、してやられた。十分に優勝候補だと思う」
浦川少年の驚愕は、伊集院少年とのバトルの経験というよりは、彼を知っていながら私が戦ったという事実に対してだろう。
私がやっていることを、浦川少年は知っている。
パルストランスミッションによって戦闘が可能になるだけの私がどれだけ弱いか、彼は知っている。
その上で私がネットバトルをしないことも分かっているから、そうした“遊び”が好きな彼に付き合ったこともない。
――もっとも付き合ったところで勝負の形にすらならないだろうが。
「すごい……ねえ、伊集院選手のサインって貰えないかな!?」
「無理だと思うぞ……大して話してはいないが、彼がその手のサービスが苦手なことは分かった。サインどころか、テレビのインタビューすらまともに受けるのか不安がある」
「そうなんだ……なんか、クールでかっこいいね」
――物は言いよう、というところか。
確かに、その素っ気ない態度が逆に彼の人気を高めているのかもしれない。
そして彼はその人気を裏切らない。圧倒的な実力は、今回のN1でも優勝の最有力候補と言っていいだろう。
私としては、現状見える実力では彼と光少年がツートップだと思うが――果たしてどうなるか。
「僕、N1は絶対テレビで観るんだ。その日はお昼の検査もお休みしたいって話したの」
「それは結構だが……検査はしっかり受けるべきだよ。治るものも治らないぞ」
「いいの。ボクの病気、もう治らないって分かってるし」
……彼も中々に頑固、というかその諦観はある種仕方のないことかもしれないが。
だが検査を受けないというのはいただけないぞ。それで何か些細な変化を見逃したらどうするんだ。
「最近、キミの病気に有効な治療法が見つかったと聞く。成功率もかなり高いらしい。託す価値はあると思うよ」
「ううん、前の時も、先生がそう言ってたけど治らなかった。だから、僕はもういいの」
「……」
自身の体について、彼は完全に塞ぎ込んでしまっている。
やはり、その心を開くことは私では出来ないか。
或いはもっと踏み込んでみれば――というのは、考えるだけ。そのつもりで日本に来たというのに、その一歩が出ない。
「ね、病室に行こう。お姉さん、N1についてのお仕事してるんでしょ? 色々聞かせて!」
「――ああ、いいとも。ただし本番のネタバレにならない程度だがね」
結局、彼を説得するような言葉は今日も言えず、彼の笑顔に流されるように車椅子を引いて病院へと向かう。
N1まであと数日。そこで起きることと、その後に彼に待つ出会い。
どちらも知らないまま、私たちは他愛のない話に花を咲かせていた。
一行で分かる今話の裏側で起きたこと:バブルマンまで死んだ。
・落とし穴
フィクションにおける大変メジャーな罠。罠といえばこれ。罠という概念のあるゲームには大体ある。
エグゼシリーズでも出てくる。やたら出てくる。
2では本作でも扱ったようにプライド様が落とし穴に関わった。5でもプライド様が関わった。
・改造ツール
3のみに登場するナビカスの追加機能。ゲーム内でも普通に使われる用語であり、決して不正の外部ツールではない。
通常の状態では置けない色のパーツを、パーツごとに決められたコードを入力することでRUN可能にする。
さらに、それを利用しない場合は特殊なコードを入力可能で、HPなどをさらに引き上げることが出来る。
幾つかはゲーム内の掲示板などで分かるがほぼ攻略情報頼りになる機能である。
エグゼ世界ではテレビ局にも倫理がないのは常識。そりゃケロさんもアグレッシブになる。
ちなみにBPOという組織が設立されたのは2003年であり、エグゼ3発売当時はまだ別組織が同様の役割を担っていたらしいですよ。