バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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三つの事件が勝手に終わったのでようやく本編に介入します。


グレイトバトラーズ-1 【本】

 

 N1グランプリ本戦当日。

 ビーチストリートはメトロの駅からテレビ局まで、人でごった返していた。

 まだ朝も早いぞ。昨日のうちに近場のホテルに移動しておいて良かった、と心の底から思う。

 そのホテルでさえ、念のためと緑川氏が一部屋余分に取っておいてくれたものだ。

 絶対こっちの方が良いわよ、と断言されたので従ったが、大正解だった。

 こんなの馬鹿正直に科学省前の駅からやってきていたらテレビ局に辿り着くまでどれだけ掛かるか分からない。

 世界中の有力ネットバトラーが集う大会。その行列を作っているのは日本人だけでなく、各国の選手を応援するためにやってきた海外のファンも含まれている。

 プライド様もこの大会の中継は見ているらしく、今朝方ここまでの労いのメールが来ていた。眠気が一瞬で覚めた。

 

 この行列の面々は観戦チケットに当選した幸運の持ち主だ。

 彼らはテレビ局のスタジアムで試合を観戦する。

 上位四人が決まるまでのジゴク島での戦いも超大型モニターの迫力ある映像で楽しむことが出来る、まさに特権を有する者たち。

 桜井嬢も観に来ると聞いていたが……流石にこの中から見つけるのは無理だな。

 

 運の良い彼らの横をすり抜けてすいすいと歩く私はさぞ不審に思われようが、残念ながら関係者である。

 軽く人酔いしつつも、彼らの入り口とも、選手入場口とも違う、関係者入り口からテレビ局に入る。

 もう基本的にやるべきことは残っていない。しかし、それでも契約にはN1閉幕までの機器の不具合対応が含まれており、これから何か起きる可能性がゼロではない以上ここにいる義務が発生する。

 ちなみにジゴク島の方の機器は既に私の手を離れている。今後私が対処するのは、上位四人から優勝者を決定するためのたった一台のネットバトルマシンのみ。

 まあ、何も起きるまい。あとは関係者の待機室で観戦するのみだ。

 

 歩きつつも光少年、大山少年、綾小路嬢にはメールで激励を送っておく。

 昨日は綾小路嬢の提案もあり、三人のナビの軽いメンテを行っている。

 一応、調子は最高潮だと言えよう。大山少年のナビ、ガッツマンはナビカスの発売当初、大山少年のミスでバグを発生させてしまっていたらしく、その関係でバグのかけらが十個ほど出てきたのは、本人の反省もあるし笑い話としておこう。

 

 そのガッツマンは名前の通り、フィジカルこそ全てというパワータイプのナビだ。

 それゆえタフではあるが、俊敏性に難あり。大山少年のオペレートの傾向も守りより攻めという感じ。

 白泉氏のメタルマンとの違いは、力押しの中に冷静さがあるかどうか。メタルマンの鉄の如き冷たさとガッツマンの熱意。長期戦になれば不利になるのはガッツマンだ。彼らの活躍は戦いをどれだけ早く終わらせられるかにかかっているな。

 

 次にグライド。彼は家柄に偽りなく高価なカスタマイズが見て取れた。

 全体的に高性能で纏まっているが、元々戦闘特化のナビではないため咄嗟の反応などのセンスにハンデを抱えている。

 それを補うのが、綾小路嬢の知識と高性能なチップの数々。

 不測の事態がありグライドが自力で対応しなければならない状況を強要されたら――少し厳しいか。そうならないようどれだけ自分たちのペースを維持できるか、だな。

 

 最後にロックマン。

 彼に関しては、初めてメンテを請け負ったものの、深いところまで探った訳ではない。

 彼は光氏以外があまり手を出すべきではない、と判断した。なのでメンテは表面部分だけ。

 見事なもので、強化プログラムの初期化からここまでの短期間で彼は上々の力を取り戻していた。

 ナビカスによるカスタマイズも申し分ない。何より彼と光少年の絆があれば、決して優勝も夢ではない。

 不安だったスタイルチェンジに関しては、二つは概ね使いこなせるようになったとのこと。

 火属性のヒートシャドースタイル。地形の影響を受けず、チップよりもさらに短時間の『インビジブル』を標準機能として備え、回避に特化したスタイル。

 そして電気属性のエレキグランドスタイル。此方はヒートシャドーに対し、地形の利用に特化したスタイルらしい。

 チャージショットが床に罅を入れるほどの威力となり、更に床の性質を任意に変更させる能力を持つ。

 そこに誘い込むことが出来れば、強力なコンボに繋げられよう。

 最後に――アクアカスタムスタイルに代わって発現した、アクアバグスタイル。

 これはもう光少年に謝るしかなかった。切り札を思い切り潰してしまったのだから。

 一応、彼は忠告の通りこれを使ってはいないらしい。性能はひたすらに不確定。変化するたびにまったく異なる凄まじい強化や無視できない不具合が起きる。何がスタイルだ、全然制御出来ていないぞこれ。

 やはり禁止して正解だった。碌なものではないと、昨日改めて言ってあるが、残る三つのスタイルでも彼らは十分戦えるだろう。スタイルの変化によって攻撃力は大いに落ちたが、よりトリッキーな戦法が可能となった筈だ。

 

 テレビ局の上階、一般の立ち入りを禁止する関係者だけの通路。

 恐らくここを通るだろう最終日である今日になって、ようやく好奇の目がなくなったと思えた。

 まったく、私より妙な格好のタレントなんて山ほどいるだろうに。

 私たちN1スタッフの控室――その隣の部屋は、編集室だった。

 そこからはスタジアムを窓越しに見下ろすことが出来る。聞いた話では中には今回のスポンサーがいるようだ。

 IPCの会長、伊集院秀石。

 伊集院少年の父である彼は、息子の晴れ舞台を見に来た――という訳ではないか。

 寒気がするほど緻密なスケジュールで行動している人物だと聞くし、これも仕事ということなのだろう。

 そこを通り過ぎ、控室の扉を開ける。

 

「どうも」

 

 一言挨拶をすれば、多少なり会話したことのある面々からも初対面のスタッフからも軽い挨拶が返ってくる。

 科学省のように堅苦しくない雰囲気。私にとってある意味こちらの方が合っているように感じる。

 これまでも何度か使っている部屋で、大体定位置たる席は決まっていた。

 

「ハーイ、どもどもエールちゃん今日はヨロシク!」

「こちらこそ。とはいえ私の出る幕などない方が良いのだが」

 

 せかせかと忙しなく駆けてくるディレクター殿はいつも通り。

 彼――砂山ノボルこそ今回の大会を企画し、自ら進行を務め番組を盛り上げる役割を負った男性である。

 とにかく拘りの強い仕事人だ。この大会に対する意気込みは、スタッフの中でも群を抜いていると言える。

 大会のために島一つ借りたのも、彼が視聴者が楽しむための“絵”を求めてのもの。

 機器の数々の点検に携わった者として、彼と話す機会は多かった。

 彼の気概は本物だ。まるで、人生を賭けているかの如き熱意は好感が持てる。

 こういう者の依頼は受け甲斐があるというものだ。

 

「んじゃもうボク出るから、ケロちゃんは時間通りに待機忘れずにね!」

「はーい」

 

 挨拶もそこそこに砂山氏はトレードマークのテンガロンハットを被り、どたばたと部屋を出て行く。

 ここから先は彼も大忙しだ。

 四つのブロックに分かれた選手たちを会場で紹介し、ジゴク島へと案内する。

 視聴者や観客を飽きさせないように、四度同じことをするのだから大変なものだ。

 他人事に思いつつ、緑川氏の隣に座る。私としてはもう観客の気分である。とはいえ必要とあらば全力を尽くすが。

 

「キミは今日やることはあるのかい?」

「ええ。ベスト4の選手がスタジアムに戻ってきてからね。準決勝からの司会は私よ」

「そうか。では一番白熱する場面の盛り上げ役って訳だ。これは期待できるな」

「ちょっと! 緊張煽るのやめて!」

 

 なんだ、彼女も緊張とかするのか。

 あまりそういう印象はなかったというか、いつも元気いっぱいなイメージだったのだが。

 日本に来てから彼女の姿をテレビで観ることもあったが、緊張している様子はなかったぞ。

 

「気を張りたまえ。世界中が注目している大会だ。ここで大成功すればさらに人気になること間違いなしだよ」

「言葉にしないで!? ガチの緊張だから!」

「プライド様――クリームランドの王女も観ているそうだ。此処には来られなかったプライド様のためにも、最高の戦いを最高の司会で盛り上げていただきたい。そのためにもリラックスだ」

「リラックスさせる気ないでしょエールちゃん!? 今までの強引なあれこれの恨み!?」

 

 何のことやら。私は恨みを晴らすならそんな陰湿なことしないぞ。

 少し前のフリーズマンのような私らしい堂々とした手段を使う。

 ――そういえばフリーズマンだが、帯広少年曰くナビを持つことを許可されたら彼をバックアップから復活させて持ちナビとする予定らしい。

 以降の彼が使うなら、今度は間違った道を歩むまい。それならあの氷の化身とも、悪くない関係が築けるだろうか。

 忘れていた緊張を思い出してしまったらしくぎゃーぎゃーと騒ぐ緑川氏を適当に宥めつつ、部屋に設えられた大型モニターに目を向ける。

 時間になったようで砂川氏が大袈裟な身振り手振りで観客を盛り上げる。

 さあ、N1の開幕だ。

 

 

 本戦はAブロックから順に、ジゴク島で戦いを繰り広げる。

 まずジゴク島エリアを舞台とした一回戦。そこで八名のうち、四名が脱落。

 その後Aブロックの四名とBブロックの四名、Cブロックの四名とDブロックの四名がそれぞれネットバトルを行うのが二回戦。結果、ABから合計四名、CDから合計四名、計八名の準々決勝進出者を決定。

 そしてその八名がランダムな組み合わせでバトルを行い、勝利した四名がDNNのスタジアムで準決勝を戦う権利を得る。

 それを継続して放送しないとならないことから、準々決勝まではかなりスタッフにとって過密なスケジュールである。

 大忙しなスケジュールの分、大会の中継は手に汗握る展開の連続で視聴者を飽きさせない。

 寧ろ胸焼けするのではと言う程の密度で、Cブロックの一回戦までが終了した。

 

 残るはDブロックの八名。彼らのうち四名が二回戦へと進み、Cブロックの勝者たちとたった四枠を競うことになる。

 ここまで、大山少年に綾小路嬢、伊集院少年にラウル氏、白泉氏と、注目している面々は勝ち残っている。

 クリームランドの代表も一人がBブロックで二回戦まで進んだものの、そこで当たったのが伊集院少年だったのが運の尽き。

 よく粘った方だとは思うが、あまり有効打を与えられないまま敗北してしまった。

 まあ、それでもブルースを相手に序盤はほぼ互角といえる戦いが出来たのだ。恥じる結果ではないだろう。

 そんな風にそれまでの戦いを思い返しつつ、四度会場に現れた砂山氏をモニター越しに眺める。

 

「ンレディース、エン、ジェントルメーン! 株式会社IPCプレゼンツ、N1グランプリ!」

 

 まったく同じ出だしであっても、会場の熱気は変わらない。

 寧ろ三つのブロックの戦いを終え、更に白熱している。死ぬほど暑苦しそうだな。あの場にいなくてよかった。

 

「どうも皆様、当番組ディレクター、砂山ノボルです! さあ、ここまで三つのブロックの選手たちを送り出し、残るはDブロックのみ! 果たして彼らの中から最強ネットバトラーの栄冠を掴む者は現れるのか! カモン、選手たち!」

 

 ここまで叫びっぱなしなのに喉が枯れる気配も見せない砂山氏は、会場の高いテンションを牽引して誰よりも声を張る。

 彼の合図でステージに現れる八人のネットバトラー。

 その中には光少年の姿もあった。

 

「まずは! WWWから世界を守ったスーパー小学生! ロックマンとのコンビネーションは天下一品、光ィィィ、熱斗ォォォ!」

 

 それ言っていいのか? いや、知れ渡っていることではあるんだけど……。

 こういう場で紹介すると要らぬ注目を浴びかねないと思うのだが。

 

「相手の百手先を読む! キングマンと共に紡ぐは完璧な戦術! 戦略ネットバトラー! 荒駒ァァァ、トラキチィィィ!」

 

 ほう、彼も光少年とそんなに年齢は変わらないな。

 それでもここまでくる辺りが彼の才能を証明している。

 光少年たちの実力を知っている時点で子供を侮るつもりはない。彼もまた、かなりの技量の持ち主なのだろう。

 更に選手たちの紹介が続く。

 このブロックにはジェニファー氏やジョンソン氏もいた。

 オフィシャルの中でも敏腕で知られる二人が光少年の最初のライバルとなる訳だ。

 そして――

 

「お前は一体誰なんだ! 年齢性別出身地、一切不明! ナゾ・ナゾ・ナゾのナゾだらけ! ネットバトラァァァァ・Qゥゥゥ!」

 

 ――なんだアレは。

 例えるならおとぎ話に出てくる仮面の魔法使いのような装束に身を包む最後の選手。

 それはここまでの三十一人の個性豊かな選手たちと比べても一際異質で、彼の紹介だけ歓声と拍手がやや小さかった。

 

「……緑川氏」

「ん?」

「あのQとかいう選手、番組が用意した者だと踏んでいるが、一体何なんだ?」

「あー……それ。ごめん、知らないわ。砂山ディレクターのとっておきみたいで、スタッフたちにも何も話してくれなかったのよ」

「筋金入りの拘りようだな、彼も……ああいうのが一人はいた方が盛り上がるだろうが、そこまでとは」

 

 しかし謎を極めすぎだな。あれではダークホースというよりはヴィランだ。

 倒されるべき悪役。あの存在が巻き起こす波乱への期待よりも不安の方が大きく見える。

 というか、外見が不気味過ぎる。そういう役回りはもう少し地味な方が務まると思うが。

 

「以上八名の選手がDブロックを戦います! 皆様、選手たちに盛大な拍手を!」

 

 しかしQへの不安など知ったことかと砂山氏は進行を続ける。

 寧ろその不安が彼の望んだことだとでも言うように。

 

「さあ選手たち。AブロックからCブロックの選手たちは、もう試合会場に移動している。ここでバトルするためには、今から案内する会場で試合を行い、ベスト4に入らないといけないのサ!」

 

 当然、ここで全ての試合を行うと思っていたのだろう選手たちは驚愕する。

 そして今から彼らも、既に半数以上が散ったジゴク島へと招かれるのだ。

 

「おっさん、それならはよ案内してくれや。ワイはバトルしたくてウズウズしてるんや!」

 

 選手の一人――荒駒少年が好戦的な笑みで砂山氏に指を突きつける。

 何だろうな。彼、光少年と気が合いそうだ。もう話したのだろうか。

 

「お、おっさん……こほん。今、テレビ局の前に一隻の船が停まっている。その船がキミたちを誘ってくれるサ――試合会場となる絶海の孤島、ジゴク島へ!」

 

 仰々しい名前に動揺する選手たち。

 それはこれまでの三ブロックも同じこと。

 ここからは暫く休憩だな、と席を立つ。

 

「あれ? どしたの?」

「飲み物を買ってくる。光少年の戦いは見ものだからね」

「あ、それなら私も。熱斗くんは間違いなくベスト4まで上がってくるだろうけど、荒駒選手も中々――」

 

 今から戦いを繰り広げることになるDブロックの選手たちについて意見を交わしつつ、部屋を出る。

 彼らがジゴク島に着いたら、目を離せぬ戦いの連続となるだろう。

 一体誰がこの会場まで戻ってくるか。中々に心が躍っている。

 これなら、さぞ浦川少年も楽しめるだろう、と思いつつ、私は緑川氏と自販機へと向かった。




・N1グランプリ
3の序盤で予選を行い、中盤の連続バトルのシナリオを担う大会。
世界中のネットバトラーを集め、最強を決める大会。
日本の選手がやたら多いように見えるのはやはり主催が日本のテレビ局だからだろうか。海外での予選はどうしていたか気になるところである。
世界中が盛り上がる大会の裏で進む計画は大規模ではあるがどう考えても現場の人間だけでは無理があるしぶっちゃけ簡単に鎮圧出来そうだが、多分この計画も含めて視聴者や観客には企画のうちと判断されたのかもしれない。

・砂山ノボル
3のみで登場するキャラの中で最初に顔出しを行う、DNNのディレクター。
一般人にも業界用語を連発するが、それも仕事熱心ゆえか。
N1の本戦でも自ら司会進行を務める。
その正体は案の定だが、作者的には結構嫌いになれないキャラではある。

・荒駒トラキチ
3においてこのN1グランプリから登場する少年。持ちナビは公募キャラのキングマン。
アキンドシティからやってきた中学一年生で、二つ下の光少年に礼儀を指摘するのがファーストコンタクト。
大会を通して光少年と打ち解け、その後のシナリオにも登場し、終盤まで活躍する。
公募キャラが持ちナビのため仕方ないかもしれないが、彼も次作以降で登場してもおかしくなかったキャラである。


そんな訳で介入といっても基本観戦しているだけのN1編。
もう役目は大体終わったと呑気に楽しんでいるので特に何事もなく終わると思いますん。
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