バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
さて、巻き込んだはいいものの。
トードマンって戦えるのか? 私、彼のこと知らないぞ。
なんかネットバトルのロケ企画とかやっているらしいし、光少年もフォルダに入れるほどのナビチップを作れることから、ある程度の実力だろうが――。
『ケロ、いつも通りやるケロ?』
「そ、そうね。相手はWWWよ、トードマン、油断しないで!」
『了解だケロ!』
自身の領域である砂を徐々に広げるデザートマンを注視しつつ、私はひとまず『バリア』を展開。
攻撃を無傷で抑えるための基本チップだ。『アンダーシャツ』とこれは私の生命線だと言って良い。
光少年はデザートマンの様子からすぐに得意とする戦法を察したのか、すぐにロックマンのスタイルチェンジを指示。
エレキグランドスタイルへと変わり、自分たちとデザートマンを隔てるように床に穴を開けると、砂は飛び越えるようなことはなく穴に落ちていく。
そうしている間にトードマンも床を操作し、溜め池のような水場を展開。そこに飛び込んだ。
さらにデザートマンを囲むように幾つか現れる水場。
あれは、トードマン専用のポータルか。
間違いなく彼は耐久力に難がある。私が言えた話ではないが。
それを補うのがあの水場。制限された区域内ではあるが、自在な移動を可能として相手を翻弄し攻撃を加えていく。
問題は、緑川氏はテレビ局の人間であり、砂川氏は当然その戦法を知っているだろうということ。
「知ってるぜケロちゃん、そこからしか出てこれないなら、近付かず潰していくだけサ!」
デザートマンの巨大な腕が、手近な二つの水場に覆いかぶさる。
小規模な水場は簡単に潰されてしまい、砂地に変わってしまった。
しかし防御手段だろう腕が離れた。あの顔がデザートマンの核であり、弱点だということは想像がつく。
「今だ、ロックマン!」
『ハイキャノン!』
『そら、私もだ』
ロックマンが放った『ハイキャノン』に続いて『ラビリング』を放つ。
砲撃の後に襲い掛かる電気の輪は、更なる連撃に繋がる、筈だったが。
「駄目なんだよなァ、それじゃあ!」
ハイキャノンはデザートマンに直撃し――その顔が弾けた。
砂の造形物に衝撃を加えて、当たり前にばらばらになったように。
狙う者のいなくなった私の攻撃はそのまま素通りし、崩れ去ったデザートマンは辺りの砂と同化する。
……ダメージが入ったのかどうかも怪しいな、これでは。
広がった砂地。先程とは少し離れた場所が盛り上がり、再びデザートマンが現れる。
それならこれはどうだ――と使用したのは『グリーンロープ』。
砂地を突き破って出てきた蔦がデザートマンに襲い掛かり拘束しようとしてやはり崩れ去った。
「無駄な足掻きもいいけど、天丼は飽きられるからね。ボクの番だよ!」
ロックマンに腕が向けられる。
既に全員の足元が砂で満たされており、ところどころにある水場や穴だけが砂の侵食に耐えている。
砂で動きを阻害され避けにくくなっている状態で、二つの腕が獅子の顔の形を取りロックマンに迫っていった。
二つ並んで突っ込む獅子は、当然だが砂で動きが鈍ったりはしない。
ロックマンはすかさず間に穴を開けるが、短時間で用意した程度の穴では獅子の進行を防ぐことが出来ず、突き抜けてきた砂の塊を真正面から受け止めることとなった。
『くっ……!』
「ロックマン、追撃が来る!」
一撃ならまだしも、流石に追撃は不味い。
体勢を立て直そうとするロックマンに喰らい付かんと大口を開ける獅子の顔。
その一方目掛けて『トルネード』を使用する。
砂を巻き上げ、本来のチップ以上の勢いとなって吹き荒ぶ竜巻は、片方の獅子の口に飛び込み四散させる。
これほどの威力であればデザートマンの本体でも、と思うが恐らく駄目か。初撃で多少の傷を付けられるくらいが関の山だろう。
『トードマン、残りを!』
『ケロー!』
残る一つの腕の対処は難しいと判断し、トードマンに任せる。
新たな水場を発生させ、ロックマンの前に飛び出す彼の体躯は小さい。巨大な獅子と比べると、挑むのは無謀にしか見えない。
だが、恐れることなくトードマンは獅子に立ち向かう。
『喰らうケロ! カエルパーンチ!』
獅子の鼻っ面に叩き込まれる、小さな拳。
押し負けるどころか完全に威力で勝り、砂の塊を真っ向から吹き飛ばした。
……恐ろしい。人は見かけによらないし、ナビも見かけには寄らないものだが、あそこまでのパワーを持っているとは。
『ありがとう、二人とも!』
「よし、反撃だぜ!」
光少年が送信したチップによって床から伸びてデザートマンに突き刺さる竹槍。
『バンブーランス』――崩れ去るのは気にせず、威力の高いチップで有効打を与えていくか。
恐らくそれでも、デザートマンはその内限界を迎えるだろうが……それでずっと攻めていくとしたら私たちの方が先に限界を迎える可能性が高い。
であれば、一つ試してみるか。
『――そこ!』
次に姿を現した地点を向くように設置するのは『キラーセンサー』。
ウラで見かけるようになった大目玉のウイルス、キラーズアイのコピーを出力、配置し、見据えた先の敵目掛けて、電流を乗せた視線を放つ。
監視先の相手が『インビジブル』などで透明になっていようと捉え、視線に威力を与えるという性質から速度に秀でた一撃は――実のところ私の天敵である。
だが此度は味方だ。電流はデザートマンを捉え、小さな穴を開けると同時にその塊を痺れさせ拘束した。
『どうやらこれなら有効なようだね』
「それなら! トードマンも続くわよ!」
『もっと痺れるケロ! ショッキングメロディー!』
ゲコ、とカエルの鳴き声が響き、電気を纏った音符がデザートマンの本体に走っていく。
そして、命中して弾けると同時に、キラーセンサーによる麻痺の更に上から縛り上げる。
麻痺の効果を持った攻撃二連続による、長期拘束。あの体が崩れないのであれば、本来の二倍有効と言える。
「やってくれるじゃないの! だけどこちとらやられてばっかじゃないのサ!」
痺れている間にロックマンが更に追撃しようとして、その足元が沈んだ。
いや、彼だけではない――私たちもか!
アリ地獄の如く、沈んでいく砂地。
広がっていく穴に更に砂が零れ落ちてきて、足を埋めていく――
『チッ――』
それの本質は攻撃ではなく、私たちと同じ拘束だと判断し、『インビジブル』を使用。
次の瞬間、真上から巨大なブロックが落ちてきて私のいた場所が押し潰された。
バリアが堪らず粉砕される。緊急回避を選んでいなければ、バリアごと潰されていただろう。
そのブロックを足場にして脱出する。するとブロックは崩れて砂になり、腕を形作った。あれ腕かよ。
そうしているうちにデザートマンは麻痺から逃れ、再び新たな位置に移動していた。
『キラーセンサー』の再充填は間に合わなかったか。あわよくば、さらに上から痺れさせることも出来るかと思っていたんだが。
ロックマンもどうにか脱出。トードマンは多少ダメージを受けたようだが、再び水場に逃げ込んだ。
「光少年、シャドースタイルだ。アレと陣取り合戦していても勝ち目はない」
「そ、そうだな――ロックマン、スタイルチェンジだ!」
『了解!』
グランドスタイルで砂を食い止めることは出来るが、あの獅子のように攻撃性を持たれると咄嗟の対処ではどうにもならない。
であれば、ロックマンだけでもシャドースタイルの素早い動きで回避して対応する方が良い。
そして――
『よし……これなら動ける!』
何より、あの赤い姿であれば砂に足を奪われることもない。
ほんの僅かに床から浮いて移動することで地形の効果を受けずに戦闘を可能とするフロートシューズ。
シャドースタイルにはその能力が備わっている。
あの姿でいる限り、ロックマンは地形を気にする必要はなくなる。
「これも突破するんだ……いやはや流石。ゴスペルを倒した二人はともかく、ケロちゃんまでこんなに戦えるとはネ」
また足を取られては面倒なため、『ストーンキューブ』を設置してその上に乗る。
麻痺によって与えたダメージはそれなりのものだったとは思うが、まだ十分に戦闘可能らしい。
今のデザートマンの位置は私たち三人から離れている。砂地全てが彼の武器だと言って良い以上、ここから攻撃するのは骨だが……。
「だがまだデザートマンにはあの技が残っている! CMのあと、三人を襲う急展開!」
「む……」
気付けば編集機材のコントロール装置まで進行していた砂地が電波に流す内容を操作する。
画面を見れば、IPCのCM――つまりこの間は特に私たちの様子は流れていないと。
「どういうつもりだい?」
「言ったろ? 天丼は飽きられる。もう視聴者にお披露目した後だからネ。九十秒後、皆が観るのはキミたちのピンチだけサ!」
その意図であればヤツの行動は――ただ一つ。それが行われる前の最後のチップ使用は、どうにか間に合った。
腕が塔に変化する。先程の伊集院少年との戦いで披露したそれは、ナビに対する強力な視界ハッキング――!
「やれ、デザートマン!」
『デザート・ミラージュ!』
光を放つと同時、ぐにゃりと曲がり距離感が狂わされる。
砂地が反転したように見えて、デザートマンが遥か彼方に遠のいたような感覚。
『くっ、これは……!?』
『ケロ!? ど、どうなってるケロ~!?』
それが作用するのは、ナビだけ。
オペレーターは無事ではあるが、完全に精神を同期しない限りは距離を正確に伝えることが出来ない。
その難易度が高すぎる活路が逆にナビとオペレーターの不和を齎し、余計にデザートマンにとって有利な環境を作り出す。
何より、この混乱した環境で今から精神同期など出来ない。
思ったより厄介な攻撃だったな。伊集院少年の、ブルースの感覚に任せたという攻略法は的確だったのか。
「と、トードマン! とにかく今は出てきちゃ駄目よ!」
「ロックマン、こっちで指示する! ひとまずはカワリミの準備を――」
どっちも正しい。トードマンの潜水能力であればこの状態でも有効だし、光少年とロックマンなら、この状態でもフルシンクロ出来る可能性はある。
とにかく防御に徹するというのもまた、この状況ならば当然だ。
しかし、攻略手段を素早く見つけ出さなければジリ貧となる。そんな展開に持ち込むつもりはない。
「さあどうする、三人とも!」
「ふむ……お決まりの台詞ではあるが」
『――その技は一度見た、ってね』
新たなチップを使用し、きっかり三秒。
今立っているキューブの上から飛び降りて、『インビジブル』で緊急回避。
瞬間――『ストーンキューブ』が派手に爆発を起こした。
『ウォオオオオオオ!?』
設置から三秒後に爆発を引き起こす『カウントボム』。
ボム系のチップの中でも広い範囲を持つチップではあるが、ここからデザートマンに届かせることは出来ない。
届ける必要もない。『ストーンキューブ』が爆発に呑み込まれれば、それでいい。
「馬鹿な!? どうしたデザートマン!?」
『哀れなキューブにシンパシーを感じてしまっただけさ』
蜃気楼に捕われるより前に使ったのは、対象二つを指定して実行する『コピーダメージ』。
一方へのダメージをもう一方に届かせるこのチップはウイルスの同時デリートに使われるものだが、『ストーンキューブ』を対象としたことでデザートマンがどこにいようと、私にとっては足元にいるも同然の状態となった。
使用を把握していれば簡単に解除できるチップなのだが――強い光はオペレーターの視界も多少なり封じることになる。
まさかナビにこのチップが通用する時が来るなんて……と妙な感慨を抱く。
爆発に晒されて、なおも健在である『ストーンキューブ』に背中を置く。
怯んだことで視界ハッキングが解け、ぼやけた視界は正常を取り戻していた。
『熱斗くん、今ならいける!』
『ケロ! こっちもいけるケロ!』
「よっしゃ! これ以上好きにはさせないぜ!」
「よーし……! とっておきでいくわよ、トードマン!」
ロックマンとトードマンも視界を取り戻す。
相手の秘策も潰したことだし――この勢いを落とす必要もないか。
『なら、この隙に一気に叩き込め!』
避難すべく、潜り込もうとするデザートマンを逃がしはしない。
その一撃は『キラーセンサー』よりも素早く彼を捉える。
使用するナビが何かを背にしていた場合のみ効果を発揮する『NOビーム』。
高速で飛び込んでいった一撃が齎すのは、再度の麻痺。
更に攻撃を叩き込むのであれば、十分過ぎる隙。
『バブルスプレッドだケロー!』
これ幸いと水場から飛び出したトードマンが発動したプログラムアドバンスにより、巨大な泡の塊が射出される。
直撃したデザートマンは――弾けることなく、水に濡れて固まった。
なんだ、そんな弱点があったのか。
それなら他に対処のしようもあったのだが、生憎もう閉幕である。
「ま、待った! せめてCM明けまで――」
『ドリームソードッ!』
砂の戦場をものともしない素早さで、泥のように固まったデザートマンに攻め寄ったロックマン。
彼が振るう巨大な剣は、彼を横一線にぶった切り――CM明けを待つまでもなくデザートマンはデリートされた。
「う、嘘だろ……デザートマンがやられるなんてっ」
デザートマンの統率がなくなった砂は彼を追うように消滅していく。
これ以上この場にいる必要もないか。外の騒々しい足音は、砂山氏の詰みが近付いてくる音。
最後にコントロール装置を弄り、CM明けにこの編集室内を映すようにしてから、パルスアウトを行う。
「さあ、二人とも、行くよ。後はオフィシャルたちの仕事だ」
ナビをプラグアウトさせた光少年と緑川氏の手を引いて、部屋を出て行く。
我に返ったように逃げようとする砂山氏を――すれ違いで部屋に入ってきたオフィシャルたちがあっという間に包囲した。
部屋を出てから、PETで放送を確認。
ちょうどCMが明ける九十秒。囲まれた砂山氏は、両手を上げて――苦笑を零す。
「へ、へへ……結局こういう結末か。いいねェ、王道。悪が裁かれる展開ってのは、いつでも清々しいもんサ。ねえ……今回の番組さ、視聴率出たら、教えてくれない?」
そう懇願した砂山氏は、元々は誠実なディレクターというヤツだったのかもしれない。
WWWに出会ってしまったことが、彼を歪めたのだろう。
私は彼を助けてやることの出来る関係ではなかったが、もしも事前に知っていれば、とは思わなくもない。
彼の仕事への拘りという一面は、決して嫌いではなかったから。
砂山氏を確保したオフィシャルの面々から一歩遅れて、伊集院少年が駆けてくる。
そして部屋に入る前に、一言。
「……父から話は聞いた。感謝する」
「どういたしまして」
会話はそれだけ。伊集院少年は中のオフィシャルと合流し、本部への連絡を始める。
視聴者は混乱しただろうな。砂山氏が厄介なことに名前を出してしまったし、ほとぼりが冷めるまでまた依頼を制限しておいた方が良さそうだ。
どのみち、これでN1グランプリは中止となる。
あとはテレビ局の者が何とかするだろうと思いつつ、会場へと戻る二人と一旦別れ、廊下で放送の視聴を続ける。
と、その時メールが届く。
何だろうとメールソフトを開き――
『プライド様からの未読メール:15件』
「――――」
久しぶりに、肝が冷える感覚を味わうのだった。
・コピーダメージ
初出は3。敵一体を指定し、別の敵に与えたダメージを対象にも与える特殊なチップ。
主に同時デリートやチップの節約に使われる。
奥にいる敵にソード系のダメージを与えることも出来たり、かなり広く応用できる。
3の隠しエリアではこのチップの使い方を知らないと突破出来ないある意味最強の敵がいる。
N1編終了。デザートマン戦はサクサクと。
ほんの少しだけ伊集院少年の警戒が抜けたようです。殆ど変わらないと思います。
視聴者からしたら意味の分からない流れで謎の三対一のバトル始まってCM入ったと思ったらディレクターが逮捕されていたZ級映画みたいな超展開ですね。責任はDNNが取ります。そりゃあ『暴動鎮圧』なんて物騒な依頼も出る。
次回は掲示板回。若干悪ふざけが過ぎた感じだけど多分気のせい。