バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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王女のためのテロごっこ-1 【本】

 

 人数、密度の違いはあれど、いつも通りの奇異の視線が集まる。

 隣に立つプライド様と、交互に見比べられるような視線。

 慣れていれど、同行する者もその目に晒されるのは些か不愉快で億劫に感じる。

 

「――こんにちは。クリームランド代表として参りました、プライドです。本日はどうぞよろしくお願いします」

 

 アメロッパ城、隠し通路先。

 オフィシャルネットバトラー会議の会場として選ばれた部屋に、私とプライド様は辿り着いていた。

 この部屋の正確な場所自体は、参加者には伝えられていない。

 有事の際に対応する立場の人間として、こうした僅かな違和感から発見できるような部屋さえ見つける観察力や洞察力。

 そうした要素を試す意味合いもあるのだろう。

 

 ホテルから出るのが遅れた――主に私の服装でプライド様と揉めたせいである――からか。

 部屋には既に、参加するオフィシャルのメンバーは揃っていた。

 時間は三十分前。特に礼を欠いているとも思われまい。

 見たところ、光少年だけがまだこの部屋に辿り着いていないらしい。

 まあ、彼は活躍はどうあれ未だ市民ネットバトラーの身。こうした能力で一歩彼らに譲るのは仕方ないだろう。

 

「アメロッパのジョンソンだ! よろしくな、王女様!」

「あたしはジェニファー。ミナミアメロッパのネットバトラーよ」

「ラウルだ。本日は少数部族を代表して参加させてもらう」

「日本代表……の一人、伊集院炎山だ」

 

 いずれも劣らぬ凄腕のネットバトラー。

 この場でゴスペルへの対策を話し合うに足るとされる、世界有数のオペレーターたち。

 第一印象としてこの中で最も能力が高いのは――まあ、ラウル氏か。

 いたずらに年を重ねたのではなく、忍耐の中で培われた力が確かにあると一目で分かる。

 それは、今はまだ子供である伊集院少年がこれから身に付けていくべきもの。

 ネットバトラーとしてではなく、人間としての完成度は彼が突き抜けている。察しを付けられる前に何とかしないと。

 そんな風に彼らを値踏みしていると、当然のように私への疑問が口に出される。

 

「それで、貴女は? あとの参加者は日本の少年と聞いたけど……」

 

 まあ、不思議にも思うだろう。

 追加の参加者としては通知されていないし、見るからに実働寄りの人間ではない、ひょろい白衣女がオフィシャルの実力者だとは判断できまい。

 落ち着いたドレスに身を包むプライド様と並ぶ白衣なぞ奇妙に見えようが、これが私の正装である。

 

医者(デバッガー)だ」

「へ?」

 

 疑問だというなら回答する。向こうが知っていようと知っていまいと、どうでもいい。

 今回の場合は知名度があろうとなかろうとどちらにもメリットがある。

 

「エール・ヴァグリース。クリームランド在住の技術者。本日はプライド様の付き人として参加させてもらう」

 

 少なくとも今のところは、それ以外の何でもない。

 正直発言権すらなくて構わない。突っかかられるのも面倒だし。

 

「バグ医者エール……時折名前は聞くな」

「その、オフィシャルとの関係は?」

「大事なクライアント様兼協力者。個人の依頼も割安で受け付けているので機会があればよろしく」

 

 そのタイミングで、ポケットの中で専用のPETを操作し、この場にいる全員に連絡先を送る。

 そっちが知らなくてもこっちはオフィシャルとの繋がりがあるので連絡先も知らされている――それを伝える意味合いも込めて。

 光少年はこの場にいないが……まあ、後々の自己紹介の手間も減るだろう。

 

「添付したチップデータはお近付きの印。今後の仕事に活用してほしい」

 

 チップは手札だ。あればあるだけ、多くの状況に対応できることになる。

 ゆえに、仕事ではなく趣味で自作しているチップデータは土産物として大いに役立つ。

 以前ウラで同じことをしたとき、翌日にはコピーされて量産された過去があるので、コピー対策は万全である。

 エール印のバトルチップ。誰がどんな戦い方をするかなど知らないので、どんなバトルスタイルでも無駄にはならない『アタック+30 *』。

 既存の『アタック+20』よりさらに強力。既存チップの単純強化はあまり趣味ではないが、こうした場で渡すなら分かりやすい方が良い。

 

 思わず、といった様子でPETに目を向けるネットバトラー一同。

 その間にプライド様の手を引き、用意された席へと向かう。

 

「……エール? さっきのチップデータですけど……その、わたくしにも」

「……去年の誕生日にお渡ししたフォルダに入っている筈ですけど」

「あのフォルダ、編集できないじゃないですか……!」

 

 そんなことをひそひそと話しながら。

 去年の誕生日、プライド様に渡したのは、ナイトマンのスタイルに合った専用フォルダである。

 プライド様は間違いなくクリームランド最強のネットバトラーではあるが、ネットバトルをする機会自体はあまりなく、あまり決まったバトルスタイルも存在しない。

 だから安定して戦うことの出来るパターンの一つにでもなればいいなと思って渡したそれは、私の自作チップを中心に構築されている。

 そのため、本当に念のためだが、フォルダデータの編集も不可能にしてある。

 よって中にあるチップのデータを取り出すことも出来ない。プライド様にはそれが不満なのだろう。仕方ないので今度ちゃんとチップにして渡そう。

 

 

 それから暫く。

 ジョンソン氏に絡まれネットバトルに誘われて断ったりラウル氏に持ちナビであるサンダーマンの簡単なチェックを頼まれたりプライド様と談笑しながらシステムの制御を乗っ取ったりしていると、時間ギリギリで部屋に最後の一人が飛び込んできた。

 

「っし――! 間に合ったよな、ロックマン!」

『うん、時間一分前、だけど……』

 

 その年齢相応の騒がしさが相応しくない場であることに気付くナビと、気付かないオペレーター。

 青いバンダナが特徴的な少年は部屋を見渡し、途轍もなく渋い表情の同国同世代の少年を見つけるとすっ飛んでいく。

 彼が光少年、WWWの魔の手から世界を守った小学生、か。

 

「よう炎山! お前ももう来てたんだな!」

「……とっとと座れ。あとはしゃぐな。オレまで同類に見られる」

「チェッ、相変わらず嫌味なヤツ……」

 

 相変わらずだとして、今回の嫌味は八割がたキミのせいだと思うが。

 如何に会場の部屋が知らされていなかったとはいえ、一分前というのは……うん、あまり褒められたものではない。

 時間ピッタリになり、それを待っていたように部屋に入ってくる、司会を務めるオフィシャル職員。

 彼がいなければ、光少年と話す時間もあっただろうが、まあいいか。

 

「皆さま、本日はゴスペル対策会議にお集まりいただきありがとうございます。時間になりましたので、始めさせていただきます」

 

 その頃には、既に仕掛けは終わっていた。

 しかしながら、合図が来るまでは何もしない。そんな、起爆スイッチに指だけ触れているような状態。

 

「我々はゴスペルについて、重要な情報を入手しました。彼らの目的は、どうやら“究極のナビ”の開発のようです」

「……究極のナビ?」

「はい。如何なるナビでも通用しない、圧倒的な力を持ったナビ――そんなものが生まれてしまえば、最早誰も対処は出来ないでしょう」

 

 究極のナビ、ねぇ……。

 圧倒的な力とは言うがやや曖昧だ。

 攻撃性という意味ならば、それがあまりに突き抜けていない限り脅威には感じない。

 私が知る限り最も強いナビ――違う、あっちじゃない、黒じゃなくて金の方だ――には、単純な力押しは通用しないからだ。

 まあ、アレが動いてオモテにまで出てくるというならそれはそれで恐ろしい事態ではあるのだろうが。

 

「また、ゴスペルはそのナビの作成のため……大量のバグを集めていると」

 

 おっと?

 流石に聞き捨てならない。一部の視線が集まるのは気にしないとして、バグでナビを作るだって?

 

「ヴァグリース氏。貴女の見解をお聞きしてよろしいですか?」

「……まず断言するが、バグを集めてもそれだけじゃあナビにはならない。山ほど集めて融合させれば化ける可能性も無いでもないが、完成するのは制御の利かない獣。悪名高いグレイガが好例だ」

 

 初期型インターネットの大暴走、『プロトの反乱』が収まって暫く。

 復興が軌道に乗ってきた中で発生した第二の災害、電脳獣の出現。

 アレの原因は黎明期にインターネットに漂っていた膨大なバグが集まったことだ。

 私がこういう生を歩むきっかけになった事件――それは置いておくとして、バグの融合体というのはかの電脳獣グレイガが最初の例だ。

 その後も、大きな被害にはなっていないまでも同様の事象は何度か確認されているが、全てにおいて共通点がある。

 バグの融合体は獣の姿を取り、暴走すること。ナビなど程遠い怪物だ。制御できるような代物ではない。

 ……光少年が「グレイガ……?」とか呟いていたが、無視しよう。インターネットの歴史の初歩くらい勉強したまえ。

 

「何らかのナビのデータを使ってコピーしようというなら、似姿は作れなくもない。だがオリジナルは超えられないな。結論、究極のナビは作れない。出来て『究極の怪物』だ。今度は良くも悪くも対抗出来たファルザーの真似事は気軽には出来ないだろうが」

 

 まあ、たとえ究極のナビなど不可能であっても危険であるというのは変わりあるまい。

 ナビのように理性を持ってないので話し合いの余地なくデリートしなければならないとなっただけ。

 そして凶暴で見境なく暴れまわり、ついでにバグもまき散らす存在。うん、悪化しているなこれ。

 光少年が「ファルザー……?」とか呟いていたが、無視しよう。もし祖父や父の後を追うなら勉強したまえ。必須科目だ。

 

「……なるほど。なおさら、絶対に阻止しなければならなくなりましたね。それでは、続いて――」

 

 しかし、その勉強する機会は果たして訪れるかどうか。

 何せここから先は彼らにとって運も試される。

 さて、しばらくは悪役の時間だ。最早段取りを話し合う必要もない。出された合図を受けて、作戦を開始する。

 

「――っ!?」

 

 誰かが息を呑む。

 床のさらに下を這うように通り過ぎていく地鳴り。

 プライド様と目を合わせる。その目に宿っているのは、不安と決意。

 話した通りに動きます――そんな意思を込めて頷く。

 ――大丈夫だ。プライド様は絶対に助ける。何も、心配する必要はない。

 

「くっ、みんな、気を付け――」

 

 ジェニファー氏が立ち上がろうとして――しかし、行動するには遅すぎる。

 次の瞬間床が抜けた。奈落の先は地下通路、プライド様と別れ落ちていく。

 さあオフィシャルの一同。その実力、しかと試させてもらおう。




原作主人公との出会い。
そしてお近付きの印に後のメガクラスチップをばら撒く価値観バグ。
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