バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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“今度こそ”の重み-1 【日】【本】

 

 

 ■月■日

 

 時間を掛けて関わったN1グランプリが中止となって一日。

 案の定掲示板ではだいぶ騒がれており、オモテからの一見メールも多く来ていたため、さっさと新規の依頼の受付を打ち切っておいた。

 こういう時はほとぼりが冷めるまで待つに限る。

 

 さて、N1の仕事に関する依頼料は先払いだったため中止になろうと問題はないのだが、あの大会が齎した不幸が一つ。

 綾小路嬢が脱落し落下した時、打ちどころが悪く入院沙汰になってしまったのだという。

 だから怪我とか問題ないのか、と何度も聞いていたのに。強行してでも安全性に気を遣うべきだったな。

 落とし穴という罠のノウハウは偶然にもあったのだからもっと作成に関わってもよかった。

 こうなると、少なからず責任を感じてしまう。

 

 大事ではないようだが、彼女が富豪のご令嬢ということもあってか検査をしっかり行うそうで、一週間以上の入院となるようだ。

 本日は午後に見舞いへ行ったが、特に調子に変化はないようだった。

 しかし砂山氏への怒りがかなりのものだったな。彼はお勤めを終えても楽な未来は待っていないだろう。

 さて……当然だが、浦川少年にはしっかりと見られてしまっていたようで、それはもう色々と聞かれた。

 まったく、彼のネットバトルへの関心も相当なものだ。

 もし私の名前が出てこなくとも、彼にはエールハーフの姿を知られている以上、追及は避けられなかった。

 光少年とロックマンについてもかなり興味を持っていたようだ。

 彼らも綾小路嬢の見舞いには来るだろうし……もしかするとすれ違ったりはするだろうか。

 

 それから、プライド様は私が結果的にWWWと敵対してしまったことについて、それはもうお怒りだった。

 出来れば今すぐ戻ってほしいと言われたが、流石に今の研究を放置してはおけない。

 今後はWWWには関わるつもりはないと必死で説得しどうにか許しを貰えたが……今後は流石に変に関わるのは自重した方が良いな。

 

 余談だがオフィシャルに、砂山氏のPETからWWWの連絡先を調べて教えてほしいと頼んだが却下された。

 私にはれっきとした理由があるんだぞ。

 

 

 ■月■日

 

 昨日の夜、ビーチエリアにて一種、ウラインターネットで一種の無害ウイルスが発見され、保護することになった。

 後者は見つけたのが私の知人のウラの住人であり、私のやり方を良く知っていたことから結構高額を請求されることになったが、背に腹は代えられまい。

 

 保護したウイルス、まずはジェリー。

 海岸線に位置するビーチストリートのインターネットエリアに相応しい、クラゲ型のウイルス。

 移動の仕方が特徴的なウイルスで、ふわふわと浮いては沈んでを繰り返しながらたゆたい、その体によって巻き起こされたとは思えない高さの津波で攻撃する。

 基本種はその見た目に違わず水属性を有しているが、上位種たるジェリーヒート、ジェリーアースはそれぞれ火属性、木属性であり、同じ対処法では痛い目を見る。

 さて、本種を保護した上で困ったのが、彼らに適したエリアの構築だ。

 属性が異なり、かつ落ち着いた状態ではあてもなく浮いて移動しているのでエリアを隔てておかないと想定外の事態を起こしかねない。

 一応、ジェリー種の共通要素に適したエリアを三つに分けて各属性に合わせている。

 これで問題なければ良いのだが、三分の一になってしまったエリアに不満を持たないだろうか。

 

 さて、もう一種はスウォーディン。

 此方はこの科学省のインターネットエリアでも見かけることのある、騎士の姿をしたウイルス。

 ……うん。ナイトマンを思い出すな。彼は元気だろうか。

 彼とは異なり、スウォーディンの武器はソードだ。最も高い知名度を持つプログラムアドバンスたる『ドリームソード』にも使うメジャーなソードチップ『ロングソード』はこの種から抽出することが出来る。

 さらに上位種であるスウォードラ、スウォータルから入手できる『フレイムソード』、『アクアソード』も他のプログラムアドバンスに対応しているという、ソードを得意とする者には無視できないウイルスだろう。

 この種はとにかく大人しい。何も指示しなければ、あまり動くこともなく待機している。

 保護した三体もまったく同じようで、静かなものだ。

 時々鍛錬でもしているのか打ち合っていることもあるが。怪我はしてくれるなよ。

 しかし彼も餌を食しているのは中々シュールな光景だな。

 

 

 ……

 

 

 ■月■日

 

 メットールとラビリーだが、遂にチップの作成に成功した。

 それぞれ、飼育しているウイルスの個体をコピーし、ナビチップのように攻撃させることが出来る。

 最大の特徴は、餌を与え調子の良い状態のウイルスから取り出したデータだと攻撃の威力が上がるという点。

 ナビが自身で扱えるチップに比べ汎用性や応用力は劣るが、状態によってはナビチップに匹敵する威力は魅力だろう。

 

 そして何故かは知らないが、担当のプログラムくんがウイルスの言葉を何となく理解できるようになっていた。

 変なバグが起きていないかと確かめたが、なんら不調はない。

 どうやら役割により適応した結果らしい。凄いな。私も自分で管理しているウイルスたちの世話をプログラムくんに任せてみようか。

 ウイルスたちの意思は私もはっきりとは分からないし、通訳がいるのはありがたいぞ。

 

 

 ……

 

 

 ■月■日

 

 光少年たちの学校の校長殿から、無害ウイルスを提供いただいた。

 どうやら学校内の電脳世界に発生していたようで、ウイルス研究室の話を知っていたことから連絡をしてくれたようだ。

 

 提供いただいた種だが、まず一つはキラーズアイ。

 何故ウラに棲息するウイルスがこの学校の独立した電脳にいたのかは不明だが、害のあるこの種はいないようなのでひとまず安心。

 大人しい無害種なので見つめ合っていてもビームなど撃ってくることはない。

 害がないと余計に可愛らしいな。一匹ドライアイ気味になっているが。

 この種は活発な時とじっと待機している時がはっきりと分かれており、目を開け、黒目をキョロキョロと動かしながら停止している時は警戒しているサインだ。

 この時に不意に近づいたりするといくら無害種とは言え危険なため注意。

 

 さて、もう一種だが……メットールの最上位種だ。

 灰色のヘルメットを被った、メットールSP。SP種というのは各ウイルスに特殊な改造プログラムを施したもので、かなり希少だ。

 その希少性に違わず非常に強力で、ウラでもこれを上手く使うウイルス使いは一目置かれる。

 雑に使って強みを台無しにする輩が後を絶たないのは嘆かわしい。

 このメットールSPは、どうやらここで飼育しているメットールたちのリーダー格だったようで、随分と再会を喜んでいた。

 感動の再会だったらしくプログラムくんが涙ぐんでいた。泣くのか、彼。

 

 SP種からもチップのためのデータが採取出来た。

 これでメットールのチップは完成と言えるだろうか。

 そして、ラビリーにもリーダー格がいたという話をプログラムくんが聞いたらしい。

 もしかすると、無害ウイルスの共通点かもしれないな。だとすれば、私個人でも手に入れるヒントとなりそうだが。

 

 夜、緑川氏に誘われ久々に食事を共にした。

 あれから一週間。N1の事後処理は大変だったが、最後のネットバトルがきっかけで早くもレギュラー番組の追加が決まったらしい。

 災難がどう転ぶかは分からないものだ。私の方には丸っきり恩恵がなかったが。

 

 

 +

 

 

 そのメールを読んだのは、ビーチストリートに向かうメトロの中だった。

 差出人は大山少年。

 綾小路嬢は無事退院し、結局見舞いの時間が被ることはなく、N1以来の連絡となったが――その内容はあまり喜ばしいと言えるものではなかった。

 どうやら本日は彼がアメロッパへと転校する日のようで、その報告とのことだ。

 恐らく、あのN1という舞台はその前の最後の晴れ舞台といったところなのだろう。

 光少年たちにも話していなかったが、出発前にバレてしまったようで、結局は騒がしい見送りがあったようだ。

 ふむ……しかし、アメロッパか。

 仕事でたまに行くことはあっても、日本のように毎年という訳ではない。

 いつ戻るかは分からないとのことだが、私が日本にいる間ではあるまい。次に会うのはいつになるやら。

 まあ、今はインターネットで世界中が繋がる時代。その上で会おうと思えば大して時間も取らないが。

 ともかく、メールを寄越された以上は此方も餞別に色々と送ってやろう。

 次に光少年たちに会ってネットバトルでもした時、驚かせられるだろうものがある。

 元より、彼のナビの力を基にしたあのパンチには関心があったんだ。私がロックマンに負けた時の決め技でもあったし、あれが大山少年にとって更なる武器となるならこの情報くらいは無料で提供してやってもいい。

 あとは、チップを一枚。いざという時の『リカバリー200』。

 後先考えずに突っ込むのは良いが、回復だけは忘れないように。

 『バッドメディスン』の心配は……まあ、ないか。彼の知り合いに渡るような経路で流通はしていないだろうし。

 

 

 本日このビーチストリートに来た目的。

 湾岸病院の前の砂浜を見下ろしてみれば――会いに来た一人と、もう一人の知り合いの姿を見つける。

 やはり知り合っていたのか。

 スロープを下って砂浜に辿り着き、二人に向かって歩けば、すぐに片方が此方に気付く。

 

「エールさん!」

「え? あ、お姉さん!」

「どうも、二人とも。どちらも元気だったかい?」

 

 光少年と浦川少年に手を振る。

 この砂浜は浦川少年のお気に入りの場所だ。光少年もそれを知っていたのだろう。

 

「オレはいつも通りだぜ。な、ロックマン!」

『うん。まもるくんからメールが来て、すぐにここまで来るくらいはね』

「えへへ……僕も元気だよ」

「それは良かった。しかし二人が知り合っていたとはね」

 

 彼らの話を聞く限りでは、出会ったのはN1の次の日。やはり綾小路嬢の見舞いの時に出会ったらしい。

 出会ったのもこの場所で彼らはすぐに打ち解けたようだ。

 

「エールさんもまもると知り合いだったんだ?」

「ああ。一応、彼が生まれて間もない頃からの付き合いさ」

「え!? そうなの!?」

「色々と、仕事の関係でね。年に一度は見舞いに来ているよ」

 

 夕方のやや強い風に、捲っていた袖を戻し、海の向こうの景色に目を細めながら答える。

 涼しいだけなら良いが、べたついた潮風は個人的にはあまり好きではない。

 ゆえに、このビーチストリートという場所自体が、実のところ好みではなかったりするが、この景色だけは良いものだ。

 浦川少年がこれを好むのも頷ける。

 

「年に一度……?」

「うん。僕ね、三歳の時からここに入院しているんだ。お姉さんは毎年来てくれるの。……僕はもっとたくさん来てほしいって思ってるけど」

「……善処しよう。色々と仕事が片付かない時期が多くてね」

 

 その無茶ぶりもまあ、分かっていてのことだろう。そう信じたい。

 彼が少々の欲を見せてくれるというのは私としては望ましいことだ。

 というのも――いつだったか。一番近しい子供であったことから、彼の前で『あえて言うなら弟のようなものだ』と口走ってしまったことがあったのだが、随分と本気に取られてしまったというか。

 失言にも程がある。あれを女将殿と白泉氏に明かされた時は誤解を解くのにかなり掛かった。

 ……彼からの呼称が変わったのってあの頃だったっけ。やはり考えをすぐ口に出す癖は治した方が良いのだろうか……。

 

「そっか……じゃあ、まもるはずっとこの病院に?」

「そうなんだ。――ここ、良い景色でしょ。僕、この景色をずっと見てきたんだ。学校にも行ってないし、友達もいないけど……この景色を眺めていると、そういう寂しい気分なんて飛んでっちゃうから」

 

 それでも――浦川少年の笑顔は何処か寂しげだった。

 学校や友人。それは、遠くの国にいる一人のデバッガーにはどうしようも出来ない問題である。

 私では絶対に彼に与えることなんて不可能なもの。

 しかし、それを聞いても光少年は強く笑って、浦川少年の正面に立って告げた。

 

「何言ってんだ。友達ならここにいるじゃん! オレたち、もう友達だろ?」

 

 ――そんな風に、事も無げに。

 あっさりと光少年は、浦川少年の心に踏み込んだ。

 

「……熱斗くん」

 

 それが間違いではなく、浦川少年が求めていたものであったことは、彼の表情を見れば明らかだった。

 ――敵わないな、と思う。

 私がついぞ溶かすことのできないものと思っていた彼の心の壁を、ほんの一週間で破ってしまうなんて。

 

「そうだ! まもる、今欲しいチップとかってあるか?」

「え? ……そうだなぁ」

 

 少しだけ、自分の不甲斐なさというやつを悔しく思っていると、光少年がそんなことを問う。

 浦川少年は暫く考え込んだ後、あっ、と声を零した。

 

「いま、ビーチスクエアで話題になっているチップがあるんだ。『コオリホウガン M』っていう、すごく珍しいチップらしいんだけど……」

「よし! それならそのチップ、オレがゲットしたらまもるにやるよ。オレたちの“友情の証”にさ!」

「ほんと!? やったあ!」

 

 これは――大きく出たな。

 あのチップの噂なら聞いたことがある。オモテでは伝説のレアチップなんて言われていたな。

 ウイルスが生息している場所だけは判明しているが、それっきりだったか。

 私もこのチップはまだ手に入れていない。一度お目に掛かってみたい代物ではあるが。

 友情の証、か。確かに、それほどの代物なら相応しいだろう。

 

「やった、やっ――ッ」

「――まもる?」

 

 ――彼に変化が起きたのは、その時。

 

「くっ……っ……ぁ」

「――発作だ!」

 

 胸を押さえて荒い呼吸を繰り返す浦川少年。

 いつ以来だ――と思い返しながら、対処法を記憶から引っ張り出す。

 

「落ち着いて、力を抜くんだ。ゆっくりと深呼吸を繰り返して――光少年、病院へ。彼の主治医を呼んできてくれ、今すぐ」

「わ、分かった!」

 

 私より彼が走った方が戻ってくるのは早くなる。

 すぐに主治医殿は来るだろうが、発作はすぐに落ち着けないと危険だ。

 病院へと走っていく光少年を見送って、浦川少年に指示を出し続ける。

 胸の奥が震える感覚、急激な喉の渇き。それらは、彼よりも冷静にならないとと逆に焦る私を嘲笑うようだった。




・SP
ナビ、ウイルスの最上位に位置付けられるランク。
ナビについては一部作品、特定のナビではさらに上のランクが存在することも。
通常ランクと比べ、HPや速度、攻撃の威力が大幅に上がる。
3ではSPウイルスが終盤に差し掛かる頃からストーリー中に登場し始め、組み合わせによっては凄まじい速度でHPが減らされる。
飼育するウイルスもSPが存在し、入手するには一種につきバグのかけらが百個必要。
つまりナビリサイクル=フォルダリターン=SPウイルス一種である。どうなってやがる。

・コオリホウガン M
3において、まもると熱斗を繋ぐ友情のチップ。
主にビーチスクエアで話題になっている伝説のチップであり、物凄く強いチップ。らしい。
このチップを落とすウイルス『コルドボルズ』はただ探すだけでは出現せず、ナビカスのパーツ『アイムフィッシュ』を付けなければならない。
物欲センサーが猛威を振るうのかヒントが少ないのか、3のプレイヤーのトラウマの一つとして根強く刻まれている。


デカオの転校についてはさらっと。まあどうせすぐに帰ってくるし。
リカバリー200については2で使ってくることから。バッドメディスンとかしてないですよね?
ちなみに病院に来ている時は流石に白衣は着ていないです。
多分昔これで入り込んで勘違いされた挙句面倒な事態になったりしたのでしょう。
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