バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

45 / 175
科学最前線の熱い一日-1 【日】【本】

 

 

 ■月■日

 

 本日は早速、光氏をはじめとした面々と緊急会議。

 内容はテトラコードについて。

 どうやら科学省は、テトラコードが一つに集まることを避けるため、あえて狙われるとは思えない三つの民間施設に預けていたらしい。

 秋原小学校、よかよか村動物園、そして、湾岸病院。

 どこも私からすれば預ける対象としては考えられない場所だ。というか現に前者二つは盗られているらしいし。

 セキュリティの高い施設を選ぶのは結構だが、万が一襲われた時のリスクを何も考慮していない。

 その結果が昨日の病院の一件だ。

 

 病院を覆い、医療機器の動作不良を発生させた蔦は、友人の手術を見守るため居合わせていた光少年の活躍で取り除かれた。

 実行ナビ、プラントマンはデリートされ、主犯であるWWW団員……アネッタと言ったか、は逮捕された。

 テトラコードはどうにか守り抜き、私が科学省に返還した。

 ……というのが、報告した内容である。

 一歩間違えば、というかあの場に自由に動けた光少年がいなければ、大事になっていた可能性は高い。

 下手をすれば多くの患者の命が危なかった事件だ。はっきり言って、病院に悪人が狙う可能性のあるプログラムを預けておくのは異常としか思えなかった。

 

 会議の結果、病院のテトラコードは最後の一つと同じく、科学省で保管されることになった。

 あれが全てWWWの手に渡ったとなると大変な事態になる。盤石な守りを用意してもらいたいところだ。

 

 夕方、浦川少年からメールが来ていた。

 体調は回復傾向らしい。主治医殿は、経過を見てこのまま回復が順調ならば退院できると言っていたな。

 手術に打ち勝った彼ならきっと問題なく良くなる筈だ。

 

 ……王様からお礼のメールが来ていたのは驚いたが。アイツ、自分から個人に連絡なんてしてくるんだな。

 

 

 ■月■日

 

 研究に一日使えるのは三日ぶりだ。

 本日は現状飼育しているメットール以外の六種について、チップ化に成功した。

 もうこの技術については確立したと言っても過言ではないな。

 飼育環境とは違い此方はどのウイルスにも同じプログラムを適用することが出来そうだ。

 

 また、このウイルスチップに関してだが、アップデートを行いSP種の使用も可能にした。

 使用するとSP種を含めたウイルスのコピーが出現し、攻撃を行ってくれる。

 SP種はただでさえ強力だ。ナビであっても油断は出来ない。というか、下手をするとナビより手強い。

 彼らの力をスタンダードチップとして利用することが出来るようになったのはかなりの進歩と言えるだろう。

 

 そして、飼育担当のプログラムくんだが最早ウイルスとの簡単な意思疎通くらいなら出来てしまうらしい。

 意味の分からない成長速度だが、友好的なウイルスの(多分)愛情表現で一切怯まない胆力がある辺り、それも頷ける。かもしれない。

 駄目元で私の個人用のプログラムくんにノウハウを学ばせて良いか聞いたら、室長殿に快く許可をいただけた。

 という訳で研修プログラムくんが追加。やはり彼の懐かれ具合にはドン引きしていた。プログラムくんにとっての常識ではないらしい。

 

 午後、随分と久しぶりに六方氏からメールが来ていた。

 N1の一件で逮捕された砂山氏の取り調べに際して、情報提供を願いたいとのこと。

 彼が担当することになったのか。出せる情報なら提供するが、DNNの職員に頼む方が先なのでは。

 

 夜は先日の礼として、緑川氏を食事に誘った。

 何だかんだ、私から誘ったのは初めてだな。

 

 

 ■月■日

 

 プログラムくんが飼育しているラビリーとチャマッシュたちから聞いた情報を整理すると、湾岸病院に彼らのリーダーがいるらしい。

 許可をいただき、病院内の機器のうち、目ぼしいものを調べていった結果、無事二体のSP種を発見することが出来た。

 ラビリーSPとチャマッシュSP。

 どちらも活発で元気な種であり、飼育エリアが余計に賑やかになった。

 ど突かれる数が三体から四体に増えてもプログラムくんは耐えていた。凄まじいガッツである。

 ついでに浦川少年の見舞いも行おうと思ったが、今回は検査と時間が被ってしまい叶わなかった。次の機会としよう。

 

 そういえば、先日の病院の一件で光少年には後日、感謝状が渡されることとなった。

 私は辞退だ。蔦を止め、病院の危機を解決したのは光少年だし、私がいなかったとしてもテトラコードがどうなるかの違いだけだっただろう。

 浦川少年の手術まで至れたのも彼のおかげだ。私は彼の後ろを付いていっただけ。

 それを感謝されるというのは、心苦しい。

 

 

 ……

 

 

 +

 

 

 日曜日であっても、科学省内は人が少なくなったくらいでそれ以外は変わらず動いている。

 ここの職員は働き詰めで、何日も家に帰っていないという者も多い。

 光氏はその代表例だ。何日どころか、ここ数ヶ月は帰っていないんじゃないだろうか。

 少なくとも私がここで研究を行うようになってからは、殆ど毎日夜まで姿を見る。

 何というか、彼はもっと家族との時間を作ってもいいと思うのだが。

 そんなことを考える、少し静かな日曜日の午前中、光氏はご子息が高く評価される瞬間を前にしていた。

 

 

「貴方は先日発生したWWWによる病院襲撃事件を見事解決し多くの命を守りました。よってその栄誉を称え、感謝状を贈ります」

 

 ウイルス研究室で行われた、感謝状の授与式。

 科学省の職員たちの前で、光少年はその功績を認められた。

 彼の活躍を思い返せば表彰の一つや二つ当然だとは思うが、それらはあくまで公にする訳にはいかなかった事件だ。

 そんな事情を加味しても、多くの命が関わった今回の一件は明らかに表彰に値する。そう判断されたらしい。

 

「よくやったね、光熱斗くん!」

「ありがとうございます!」

 

 感謝状を受け取った光少年に、職員たちが一斉に拍手を送る。

 光少年は照れくさそうに笑っていたが、今回ばかりは誇らしく感じても良いことだ。

 

「病院から連絡があったが、あの時手術を受けていた子も、経過は順調みたいだ。また見舞いに来てほしいとのことだよ」

「そりゃ良かった! ロックマン、帰りに病院に寄ってこうぜ」

『そうだね。そうしよう!』

 

 私も今日あたり、見舞いに行ってみるか。

 あれから浦川少年からのメールで元気である旨は聞いているが、それでも会ってみなければ分からない変化もあろう。

 夕方にはなってしまうだろうな……ここでの研究内容について話もしてみよう。

 せっかく成果であるチップが揃ったことだし、話せる内容は多いぞ。

 

「熱斗、よくやった。けど、あまり心配はさせないでくれよ」

 

 光氏はその顔に笑みを浮かべつつも、それだけはしっかりと告げる。

 これまでのことを省みても、彼が心配をかけているということを否定は出来ない。

 光少年も自覚はあるのか、少しだけ元気をなくしてしまった。

 

「まあまあ、光さん。男の子はこれくらい元気な方がいいですよ。それに、結果として多くの命を救ったんですから」

「そうですよ。光くん、君は秋原町のヒーローよ!」

 

 とはいえ、今回は咎めるべき大人である職員たちの多くは光少年の味方であるらしい。

 ご子息を称える声に、降参とばかりに光氏は両手を挙げ、部屋に笑いが起きる。

 

「ヒーロー……オレがヒーローかぁ……カッコいいじゃん、へへ!」

『熱斗くんったら、すぐ調子に乗るんだから!』

 

 和やかな雰囲気で、表彰式は終了する。

 それで本日の大きなイベントは終わり、またのんびりとした研究が夕方まで続く。

 その後は病院へ向かって浦川少年の元気な様子を見て、安心した気持ちで一日が終わる。

 

 ――その筈だった。

 

 

 

「でもさ、エールさんはいいの? 解決したの、オレだけの力じゃないのに」

「キミらの言葉が無いと私はどの道、あの日病院にはいなかったと思う。流石に今回の件で私が感謝されるのは、私のなけなしの尊厳が許さないよ」

「ふーん……そういうもんなのか」

 

 表彰式が終わり、病院へと向かう光少年を見送るため、私は科学省のエントランスまで来ていた。

 彼は少し引っかかっている様子だったが、それでも私は今回の一件は光少年のおかげだと思っている。

 私が動くことでプラントマンを倒せたというなら、私を動かしたのが光少年なのだ。

 

「それに、患者の避難もままならなかった蔦をどうにかしたのはキミじゃないか。迷いなく誇って良いと思うぞ、ヒーロー殿」

「そう言われると俄然燃えてきちゃうな、オレ。WWW、いつでも掛かってきな! 秋原町のスーパーヒーロー、光熱斗が相手になるぜってな!」

「煽っておいてなんだが、あまり調子に乗り過ぎると足をすくわれるから注意したまえよ」

「大丈夫大丈夫、どんな困難だってオレとロックマンが――」

 

 こういう時は相応に力も発揮するが、同じくらい何を仕出かすか分からない危険さもある。

 ほどほどに調子に乗るくらいが一番だ。

 ……まあ、今日くらいは良いか、と肩を竦める。

 次に何かあった時に同じ調子では困るが、幸い何が起きている訳でもないのだし。

 ――などと考えていた時、光少年が急に立ち止まった。

 

「……? どうした?」

「――あ、アイツ!」

 

 と思えば駆け出して、受付にいる見慣れない人物に寄っていく。

 なんだ、知り合いか?

 

「ヒノケン!」

「あン? 誰だ? このヒノケン様を呼び捨てにするヤツぁ……ってお前かよ」

 

 ――炎のようだな、という第一印象だった。

 後ろで纏めた、燃えるような赤い髪を揺らし、光少年を睨みつけた男は、一転して視線の熱を消す。

 知り合いではあるらしいが……それにしては光少年の様子が変だ。

 

「久しぶりじゃねえか、光熱斗。いつかの空港以来か?」

「久しぶり、じゃねーよ。こんなところで何してんだ。まさかまた……」

 

 妙に一方的な、光少年からの敵意。

 明らかに彼は警戒している。対して男の方はそれを飄々と受けていた。

 

「……光少年、彼は?」

「ヒノケンって言って、WWWのオペレーターだよ!」

「――は?」

「おいおい語弊があるぜ。オレはとっくにWWWから足を洗ってるっての。今は立派なカタギの人間だぜ?」

 

 手を振って弁解する男――ヒノケン氏。

 元WWW、というとゴスペルの前に活動していた時の団員か?

 光少年と知り合っているということは彼が加担した何らかの事件で遭遇したということだろうか。

 だとすればあまり信用は出来ないな。私が言えた義理でもないが。

 

「そのカタギの人間が、科学省にどんな用件で?」

「今日から此処の世話になるってことさ。あれ? 話が行ってないのか?」

 

 ここで働く、ねぇ……。

 まあ、省内で話が通っているのであれば私が何か言う必要もないのだろうが……。

 

「悪いが私は外部の研究者でね。特に採用周りは聞いていないんだ」

「そういうことかい。ま、そんな訳さ。WWWを抜けた後、海より深く反省したオレは決めたのさ。今度は世のため人のために燃えてみるってな!」

「ホントかよ……なんか怪しいな」

 

 暑苦しいなこの人。いるだけで室温が上がりそうだ。

 何処に配属されることになっているのか知らないがウイルス研究室でないことを祈ろう。もしそうだったら研究室に来る回数を減らそう。

 彼の言葉を聞いても、光少年のヒノケン氏への疑念は晴れないらしい。

 

「疑り深いヤツだな。な、見ろよオレの目を。正義の炎に目覚めたオレの熱い眼をよ!」

「……」

「……」

 

 何の時間だこれ。何故私は二人が見つめ合っている――睨み合っているともいう――光景を前にしているんだ。

 ここ受付だぞ。係員が困惑しているじゃないか。

 とりあえず退かそうかと考えていると、先程表彰式にも参加した光少年とも知り合いであるらしい職員が焦った様子で駆けてきた。

 

「熱斗くん! すまないが力を貸してくれ! WWWのヤツらが現れてよかよかエリアで大暴れしているんだ!」

「――ヒノケン! お前まさか!」

「まだ疑ってんのかよ。オレは何にも関係ないぜ。それより早く向かった方が良いんじゃねえか?」

 

 WWWか――あまり一般人の助けを借りるのもどうかとは思うが、何を企んでいるか分からない以上彼の力を借りるのが有効だとでも判断したのだろう。

 光少年がその気なら止めようとはしないが……。

 

「なんか引っかかるけど……今はそっちが優先か!」

「なにか手伝うかい?」

「大丈夫! 終わったら病院に行くから、エールさんも仕事に戻っていいよ!」

 

 そう言ってプラグイン出来る部屋まで走っていく光少年。

 まあ、そういうならお言葉に甘えて仕事に戻るとしようか。

 本日の餌やりが終わっていないし、記録も残っている。ルーチンワークだからこそ、忘れてはいけない。

 

「じゃあ、私もこれで」

「ああ。仕事で関わるようなことがあれば、色々とご教示お願いするぜ」

「私が教えられることなんてそうそうないがね」

 

 ヒノケン氏とも別れる。受付にいたということは、彼にもまだ手続きなりなんなり残っているだろう。

 再びウイルス研究室に戻り――もう一度彼と関わることになるのは、意外にも午後に入ってすぐのことだった。




・火野ケンイチ
通称ヒノケン。1から4、6に登場し、登場回数で言えばワイリーよりも多い名物キャラ。
持ちナビはシリーズによって変わる。1と4ではファイアマン。2と6ではヒートマン。3ではフレイムマン。
名前の通り全て火属性であり、エグゼシリーズにおいて火といえば彼という印象も強い。
エグゼシリーズの記念すべき最初の敵。秋原町で火災事件を引き起こし逮捕される。
しかし2時点で釈放されており、ゴスペルには関わっていないと言い切り、空港でネットバトルを受けてくれる。
3で科学省を標的とし、作中屈指の外道手段で事件を引き起こし熱斗に深いトラウマを与える。
その事件では逃げ切るも最終的に逮捕される。だが4レッドサンでまた釈放されておりWWWに代わる犯罪組織を作ろうと企んでいる。
何やかんやあって良い話っぽく終わり今度は自首する形で退場。なのにシナリオの分岐によっては舌の根も乾かないうちにまたボヤ騒ぎをやらかす。そっちの分岐じゃなくても最終局面でなんか釈放されている。
5では出演せず皆勤賞を逃す。ナパームマンの枠に参戦予定だったが火力が足りなかったとか。あれだけ火力がどうこう言ってたのに。
ちなみにナパームマンの枠だとすると豪華客船でとあるプログラムを盗むという役回りであり、またやらかすことになっていたと思われる。
6グレイガではようやく完全な味方ポジションとなり、熱斗の通う学校の臨時講師として赴任する。この世界の教職は犯罪歴を気にしないらしい。
とまあ、シナリオに関わるたびに「また何かやらかすんだろうな」ってなるお騒がせキャラ。ヒートマンは唯一犯罪に加担していないナビ。
WWWも科学省を狙うなら最初からやれと思わなくもない。ネビュラを見習え。


エール「私……今日の仕事が終わったらお見舞いするんだ」
科学最前線の熱い一日(物理)ということで、シリーズ準皆勤賞のヒノケン氏。本名を聞いていないのでこんな謎の呼称に。
既に暑苦しくて苦手意識を持っています。多分評価がプラスになることはないです。
ところで6で『クォォォォォ!』のヤツが出てきた時「まーたヒノケンか……」ってなった人はきっといる。絶対いる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。