バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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王女のためのテロごっこ-2 【本】

 

 落下はやがて緩やかな斜面となり、小さな部屋に転がり落ちる。

 厳密な深さは知らなかったが、だいぶ深い。昔のアメロッパ人はなんてものを作ってるんだ。

 

「……痛っ」

 

 ……誤算。いや、怪しまれることを出来る限り避けるため、リハーサルやらをしていないのは故意的なものなのだが。

 普通に痛い。勢いそのまま転がったせいであちこちぶつけた。

 むぅ、せっかくの白衣も汚れてしまった。プライド様、大丈夫だろうか。プライド様の落下先は一番安全と思われる部分にしておいたとは思うが。

 ひとまずプライド様に連絡する。数コールの後、音声だけが返ってきた。

 

『っ、エールですか?』

「はい。無事ですか、プライド様」

『ええ。わたくしは何とか……エールの方は?』

「打撲が少々。まあ、歩くことも出来ますし問題ないです」

 

 互いの無事を確認していると、別の連絡の介入。

 緊急時の回線らしく、プライド様との通信が一時途切れる。

 回線を開くと、参加しているメンバー全員との通信が繋がった。

 

『皆さん、ご無事ですか……?』

 

 回線は全員に繋がっており、とりあえず生きていることは分かる。

 良かった。ここでまさかの事態が起きるとちょっと不味い。

 全員、変な打ち付け方をするような場所には座らせていなかったが、万が一ということもあるし……うん、やっぱり落とし穴とか組み込むものじゃないな。次があったら――あってほしくはないが――気を付けよう。

 

『どうやら今回の会議、既にゴスペルに気付かれていたようです……そして彼らはスパイを送り込み、会議を妨害したのです』

 

 さて。部屋から出る道は一つ。地下の構造は完全に理解している訳ではないため、アドリブが生じる。

 まずやることは誰かとの合流。現状一番怪しい人間は私なんだろうし、全員が健在なうちに疑いが深まるのは面倒臭い。

 

『ゴスペルは城の侵入者撃退システムにハッキングし、各所のトラップを作動させています……そいつは我々の命を――』

 

 言葉を遮る、ノイズ混じりのドス、という重い音。

 小さく唸るような声が聞こえた後、彼の通信は途絶えた。

 

『……聞いたか、皆。非常事態だ。孤立するのは危険だ、何かあったらすぐ連絡を取り合おう』

 

 すぐさま冷静さを取り戻し、方針を固めるラウル氏。やはり、ここぞという時の対処は慣れているようだ。

 

『クソ、おいバグ医者さんよ。そのゴスペルのスパイっての、あんたじゃねえのか?』

 

 早速疑いを掛けてくるジョンソン氏。

 点数は三十点というところ。私自身はゴスペルとはなんの関係もない。

 

「その根拠は?」

『根拠? 会議への飛び入り参加、しかもオフィシャルじゃない部外者。怪しい要素しかねえぜ、あんた』

 

 確かにその通り。言われれば言われるほど、怪しい要素てんこ盛りだ、この立場。

 堅物なオフィシャルならすぐさまとっ捕まえて事情聴取というレベル。

 しかし、まだ証拠は不十分だ。疑いの域を出ないし、こんな早々に誰かを疑い出すなど不和を呼ぶだけ。

 

『彼女がゴスペルに関与? あり得ません。それ以上はクリームランドへの侮辱と取りますよ?』

『どうだか。そいつを連れてきた時点で王女様、あんただって怪しいぜ。第一、なんだってクリームランドなんてド田舎がこんな会議に――』

『やめないかジョンソン! 言い合っている場合ではない!』

「…………」

 

 ――少し、呆気に取られた。

 軽い調子のジョンソン氏ではあったが、こうも無遠慮に地雷を踏み抜いてくるとは。

 ラウル氏に叱責され言葉を止めたジョンソン氏。彼の言い分にはクリームランドへの侮蔑が露骨に見えていた。

 ……確かに、こんなものを、立場上避けられない公の場で幾度となく受けていたのであれば――プライド様が彼らに復讐心を持つのも、分かってしまう。

 …………いや、落ち着け。私はこの場の誰より冷静でなければならない。

 

「プライド様も、どうか冷静に。状況的に私が疑われるのは仕方ないこと。迅速に脱出し、疑いは晴らします」

『ですが……』

「“ですが”も“だって”もありません。ラウル氏、指揮をお願いしてよろしいだろうか」

『分かった。まずは合流を目指そう。全員、誰かと合流次第、皆に連絡すること。そうでなくとも、十分おきに現状の報告をしよう』

 

 堅実だ。報告、連絡、相談は何事においても基本中の基本。それはどの国でも変わらない。

 通信が切れる。あとはプライド様と合流し、脱落を装って一足先に脱出するだけだが、プライド様以外の誰とも会わないというのも得策ではあるまい。

 とりあえず歩いて、誰かを見つけよう。

 既に使われないことが前提になっているこの城の罠はそれぞれの傍に制御装置が付いている。

 大体の罠は、作動していてもそこに近付くだけなら危険は少ない。あとはその装置にプラグインし、罠を停止させればいい。

 それを繰り返せば、やがて脱出は出来る。

 勿論、それぞれの制御装置が生半な実力で突破できるとは思わないでほしいが。

 

「――おや」

「あ!」

 

 一分も歩かないうちに、早くも第一村人――第一地下人の発見。

 唯一、彼とはまだ自己紹介を交わしていなかった。

 向こうとしてはそんな呑気なものではなく容疑者最有力候補に早速出くわしてしまった状況だが。いやまあ容疑者じゃなくて犯人なんだけど。

 

「やあ、さっきぶり」

「あ、ああ。えっと――」

「エール・ヴァグリース。先程自己紹介のメールを送らせてもらったが、見てもらえただろうか」

「――あ! 『アタック+30』の人!」

「……その呼称は如何なものか」

 

 送ったチップデータの印象が強くなるのは仕方ないが、それで呼ぶのは些か礼に欠けるぞ。

 

「で、キミは光少年で構わないね?」

「あ、そっか、オレも挨拶する暇なかったんだ。光熱斗、そしてこっちがナビのロックマンだ」

『よろしく、エールさん……でいいのかな?』

「うん、その辺りが無難で好ましい。よろしく頼む、二人とも」

 

 光少年が見せてきたPETの画面には、彼のパートナーたる青い少年ナビが映っている。

 ふむ……外見のカスタマイズはされているが、容姿だけでは何に秀でたナビなのかは分からないな。

 まあ、これから否応にも見る機会があるか。

 

 ひとまず光少年と合流した旨を皆に連絡する。

 これで少なくとも、私は単独行動などという怪しさ満点の動きをしていない証明になる。

 

「では、注意しつつ進むとしよう」

「うん……ところで、エールさんのナビは?」

 

 当然、そこは気になるか。

 光少年がロックマンを紹介したというのに、私自身からの紹介がないのは不自然だろう。

 だが、それに対して彼が求めているだろう答えを出すことはできない。

 

「御覧の通り」

 

 手首に巻かれたバンドに装着されたPETの画面を見せる。

 光少年の、伊集院PETカンパニー(IPC)最新モデルのものとはデザインが大いに異なる、私専用のPET。

 クリームランドで作られた、既に一世代前のもの。

 だがIPCのように量産を前提としたものではないため、機能は決して劣らない。……当の技術の量産化はIPCに先を越されるだろうが。

 

 それはともかく、光少年に見せている画面にはナビの「ナ」の字もない。

 幾つかプログラムをまとめたフォルダがあるだけで、受け答えをする者はなく静かな空間。

 ついでにオペレート機能が動いていないこと、ナビのインストール履歴もないことを見せておく。

 

「……ナビ、持ってないの?」

「そういうこと。オフィシャルどころか、ネットバトラーですらない。クリームランドに住む、一介の医者(デバッガー)だ」

 

 生まれてこの方、自分のナビなど持ったことがない。

 時折、必要に駆られて適当に雇ったりもしているものの、それで事足りているのでわざわざ専用のナビを用意するほどではないというのが現状だ。

 ……家のPCに一人、居候がいなくもないが。私が買った訳でも作った訳でも、まして捨てナビを連れてきた訳でもなく勝手に住み着いているうえ、仕事も手伝わないクセに私の名前を出して何やら妙な活動をしているヤツを持ちナビとは言うまい。

 

「ネットバトラーじゃないって、それならなんで今日の会議に?」

「プライド様――クリームランド代表、プリンセス・プライドのお付きとして。それから、今回の会議のアドバイザー。だからこれからの戦力としては大して期待しないでくれ。援護くらいしか出来ん」

 

 そこはしっかり明言しておく。

 こちとらしっかり準備しないとウイルス一匹倒すことすら苦労するほど軟弱なのだ。

 光少年の実際の実力がどの程度なのかは知らないが、キルスコア九対一どころか十対零になってもおかしくない。

 

「そ、そうなんだ……けど、それだとウイルスバスティングとか――」

「ストップ」

「ぐえ!?」

 

 先行しつつ追及しようとした光少年の襟を掴んで引き戻す。

 文句が来れば弁解もしたが、それより前に光少年の足元に突き刺さった矢が彼の言葉を封殺する。

 

「……」

「地下に落とした侵入者を殲滅する罠だな。まったく、今の時代こんなもの残してあっても使わないだろうに」

 

 というか、残すなら残すで殺意を減らしても良いと思うのだが。利用している身とはいえ、怖いなアメロッパ。

 

「さて。どうする? 一か八か突貫するというならそれでもいいが」

「まさか! 多分、制御しているのはあのスイッチだ! プラグインして罠を止めるしかない!」

 

 当然この地下から、全ての罠を制御しているメインコンピュータにアクセスすることなど出来ない。

 これの攻略は、脱出するには必須だ。

 

「ではそうしよう。ナビ――ロックマンといったね。彼を送ってくれ。私がそれを援護する」

「了解! ロックマン、頼むぞ!」

『うん!』

 

 まったくの無力をアピールするのもいいが、最低限協力はしておいた方が良いだろう。

 傍にいて、こんな子供だけに仕事をさせるというのもなんか罪悪感があるし。

 ――現在進行形で悪事を働いている真っ最中なことを棚に上げて、そんなことを考える。

 光少年がスイッチに走り寄り、PETのプラグを繋ぐ。

 私も準備を整える。

 各電脳に仕込んだウイルスはオフィシャル相手に戦える程度のレベルを考えている。ウラの浅層は単独で歩けるくらいではないと突破は出来ない。

 唯一オフィシャルではない彼がどのくらいの実力なのか。お手並み拝見といこう。

 

 

「プラグイン! ロックマン.EXE、トランスミッション!」




エール『は』ゴスペル『には』関与していない。
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