バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

51 / 175
ウラ世界の秩序の数字-1 【本】

 

 数日後、特段問題もなく退院の日の朝を迎えると、珍しい客が来た。

 ここ数ヶ月何度かメールで連絡を取り合っていたかつて許しがたい敵であった者。

 

「なるほど。光氏には、そのことを?」

「うん。オフィシャルから、光さんにも話しておいた方が良いって」

 

 ――帯広少年。

 ネットマフィア・ゴスペルの首領だった彼は、今あちこちで毎日のように取り調べを受けている。

 それに抗うことなく素直に応じ、ゴスペルの活動の裏にあったものの情報を提供して、罪を償っているのだ。

 そして、今日はオフィシャルと通ずる者として光氏にあることを話した。

 光氏は別の階に入院しており、私も何度か話しているが、彼はやはり私より重傷らしい。

 彼については、まだ退院にも時間が掛かるだろう。

 

 さて、帯広少年は光氏の後、私の病室にも訪れ、そのことを話してくれた。

 もしかすると、と思っていたことではあるが、彼の証言であるならば間違いはない。

 それは確実に、外部には秘匿すべき情報なのだが……。

 

「……これは、私に話して良いことだったのか? 伊集院少年」

「本部からの許可は出ている。ゴスペル壊滅の折の活躍を、本部は重視したらしい」

 

 彼を連れてきたオフィシャルの面々のうち、この病室にまで同行してきた伊集院少年は幾分私への警戒を解いた雰囲気で告げてきた。

 なんというか、N1の一件である程度、彼からの印象は改善したらしい。

 今回見事に被害者となったことでWWWとの関与の疑いが晴れたとも考えられるが。

 さて――帯広少年が話してくれたのは、ゴスペル結成の真実。

 

 飛行機事故で両親を亡くした後、インターネットの世界へと逃避した帯広少年。

 そんな中で、ある日見知らぬナビが彼に声を掛けた。

 恐らくはWWW――首領ワイリーが操っていただろうナビ。

 そのナビの口車に乗って、帯広少年はゴスペル結成へと動いた。

 組織として動き出し、犯罪を繰り返した帯広少年に、ナビは一つの指示を出した。

 

 ――究極のナビを作れ。

 

 そう、フォルテを複製するという指示。

 電脳世界を征するにはあの究極のナビが必要だと。

 結局、生まれたのは二人のナビにさほどの苦労もなく倒されるほどの紛い物に過ぎなかった。

 しかし問題はそこではない。

 フォルテを作るという指示がワイリー氏から齎されたものであるならば、即ちフォルテを彼が欲していたということ。

 

「……なるほど。その失敗から、真のフォルテと組んだということか」

「真のフォルテ、だと――?」

「ああ。ヤツらはもうフォルテを見つけていて、手を結ぶことに成功している。信頼できる情報筋だ」

 

 伊集院少年の驚愕。ウラの奥地で起きた出来事だ。オフィシャルも把握してはいまい。

 それが失敗したゆえに、ワイリー氏は本物のフォルテに協力を持ちかけたのだろう。

 フォルテがワイリー氏の――人間の言葉に耳を貸すとは思えない。

 だが、何らかの、彼が動くほどの益があるのは確実だ。

 

「ありがとう、帯広少年。そうなると、まだゴスペルの件も決着していないとみるべきか」

「WWWがフォルテを手にして何をしようとしているかは分かりません。ですが、あのナビはフォルテでなければならないと言っていました」

「彼の力を求めてか、力に固執する性質を求めてか……」

 

 どの道、プロトが関わっているのは間違いないか。

 プロトの反乱――あれを今一度繰り返そうとする彼らは、わざわざフォルテという存在を求めている。

 あの事件が私の知っている通りのものであれば、尚更フォルテが手を貸すとは思えない。

 あれはヤツの人間に対する憎悪の根源。それの再演に、再び彼を含めるのだから、相応の理由がある筈だ。

 

「……時間だな。一階で待機している者のもとに行け。十一時から科学省での取り調べがある」

「わかったよ――それじゃあ、エールさん。また」

「もう行くのかい? まあ、また何かあればメールでも寄越してくれ」

 

 この病院に来たのも、オフィシャルの指示だろう。

 さらにこれから科学省で取り調べか。仕方ないことだが、大変だな。

 病室を出ていく帯広少年。しかし、伊集院少年はそれを追うことはなく、扉の近くで一度立ち止まった。

 

「それで?」

「一つ聞きたいことがあるが、その前に――貴女と話をしたい者がいるそうだ」

 

 帯広少年と入れ替わりで入ってきたのは、光少年。

 彼と僅かに視線を交わし、部屋に入ったのを見て、伊集院少年は出て行き、扉が閉められる。

 何を言って迎えようかと、考えて、少し時間が過ぎる。

 思った以上に出だしに迷うほどに、あれを複雑に感じている自分を自嘲しているうち、光少年が頭を下げてきた。

 

「ごめん、エールさん! オレ、とんでもないことしちゃって……!」

「……そうだね。私にも責任の一端はある、が……今回ばかりはキミの擁護は難しい。身の危険を感じて電脳世界に逃げるなんて、初めてだった」

 

 あの時の私は、体を捨てようとした。

 冷静になってみれば、考えられないことだ。

 最悪の事態の可能性があったと思うと、ぞっとする話ではある。

 

「……光氏には、話したのかい?」

「……パパには、自分の出来ることで、全力で償えって言われたよ。だから、そのつもり。今からオフィシャルの任務を手伝って、これ以上の事態にならないようにする」

 

 光氏は心優しい人ではあるが、それでもこうした事態には厳しく接する。

 今回の出来事は、オフィシャルからしても許容できないことだろうが――それを考えてはいられない状況か、それとも誰かが配慮したか。

 ……参ったな。どう彼を責めればいいのか、分からない。

 不満がない筈がないというのに。

 

「そうしたまえ。今回の出来事は、キミが一生背負っていかなければならない。その罪を忘れず、糧にし続けるんだ」

「うん――あの、バラッドは……」

「――フォルテにデリートされたようだ。彼に関してはキミは負い目を感じる必要はない。アイツがああなったのは、私の責任だ。悪いが、キミに背負わせる訳にはいかないよ」

 

 これは私の決意だ。

 どれだけ彼が罪悪感を覚えていたとしても、こればかりは背負わせない。

 私が背負うべきこと。彼とロックマンは、その出来事を傍で見ていただけに過ぎない。

 

「……アイツはオペレーターのいないナビだったが、元々は父のナビだったんだ」

「エールさんの……パパの……?」

 

 一体、誰に話したことがあっただろうか。

 ずっと秘めておいても良かったかもしれないけど、気付けば、私は彼に話し始めていた。

 

「父に与えられた本当の名を『コピーマン』という。名の通り、見たナビの特性をそのままコピーして扱うことが出来る。かつて、クリームランドのネットワーク技術の黎明期を父と共に支えていたんだ」

 

 多分、彼にも知っていてほしかったのだと思う。

 誰にでも知らせたい訳ではない。寧ろ、そんなに広めたくはない。

 それでも、最後の戦いに関わった彼になら、良いのでは、と。

 

「父は……だいぶ昔に亡くなったが、その後アイツは独立ナビとなって、ウラで生きつつ、私を支えてくれるようになった。まあ、半ば私が強制したようなものだが」

「……」

「付き合いは長かったが、別れは思いのほか突然だった。だがまあ、私は父の忘れ形見であるアイツに甘えすぎていた節もあった――ここらでようやく親離れということなんだろうな」

 

 もっと話したいことがあったか、と言われれば、特に思いつかない。

 そのくらいは、彼と関わるのは当たり前だったのだ。

 ウラという世界において、私は彼に依存していた。

 彼無しのウラの世界というのは――慣れるのに、時間が掛かりそうだな。

 

「それはそれとして。私にも人並みの感情はあるつもりだ。フォルテを――そしてフォルテを使ったWWWを許せないという気持ちは私にもある。私なりに手は出させてもらうよ」

「フォルテが……WWWと?」

「ああ。アイツが……バラッドが寄越した最後の情報だ。いよいよ、恐怖を乗り越えないといけないらしい」

 

 それだけは――どうにか出来るか分からないが。

 まあ、この情報を渡してきたということは、そうしろということなのだろう。

 アイツが示した最後の道標なのであれば、応じない訳にもいくまい。

 

「ねえ、エールさん。エールさんって、フォルテと面識があったの?」

「向こうは覚えていないだろうがね。私が電脳世界に出入りできることはご存知の通りだろう?」

「うん……」

「で、一度殺されかけた。本気でね。生死の淵を彷徨って、どうにか父に助けられたが――トラウマというヤツだ」

 

 懐かしい、と回顧したくない思い出。

 痛かった。もう、何処が痛いのか分からないくらい、痛かった。

 何より父を悲しませ、苦しませてしまったことが、私にとっても苦痛だった。

 あの時があるから今の私がある――という、運命の相手ではあるのだが、だからといって感謝したいということは一切ない。

 私にとってフォルテという存在は、何より恐怖の対象なのだ。

 

「――話し過ぎた。キミにとっては関係ない話だろうが、聞いてくれて感謝するよ」

「ううん……オレ、エールさんに感謝されるようなことは――」

「まずはそのネガティブ思考をやめたまえよ。失った信頼は行動で取り返したまえ。幸い、私は過去の評価をあっさり覆す性分だからね」

 

 そう言ってから、拳を作り、軽く彼の頭に落とす。

 

「終わりだ。これ以降、やたらに掘り返すんじゃない。キミらしくしていれば、すぐに信頼を取り戻せるよ」

「――わかった。オレ、頑張るよ。出来ることを精一杯やって、絶対信頼を取り戻す!」

「そうしてくれ」

 

 これでまあ、いつも通りの光少年に戻ったことだろう。

 彼はここまでWWWに関わった者として、今なお連中に敵視されている筈だ。

 どう動くにせよ、光少年はいつも通りであることがベストといえる。

 

「炎山! 話終わったぜ!」

 

 彼が部屋の外に向かって声を上げると、呆れた表情の伊集院少年が入ってくる。

 

「……病院では静かにしろという常識を知らないのか」

「んだよ。話が終わったら呼べって言ったのはお前だろ?」

 

 何というか……二人は相変わらずだな。

 

「待たせてすまないね」

「……なんの話をしていたかは知らないし探るつもりもない。このくらいの時間なら、まだ猶予はあるしな」

 

 なるほど。伊集院少年は、そういう選択をした訳だ。

 彼にも案外優しいところがあるものだな。口に出すと間違いなく厄介なことになるからしないが。

 

「それで。私に何の用だい?」

「光にとある任務を頼もうとしたのだが、その前に貴女に話を聞いた方が効率的だと思ってな。場合によっては光だけでなく、オレも同行することになる」

「ほう。私が今回の件で、オフィシャル以上に知っていることなんて少ないと思うけど」

「そうでもない。ウラの深部に関することは、オフィシャルであればこそ情報が入って来にくいからな」

 

 ウラの話か――そりゃあオフィシャルの専売特許にして苦手項目でもあるな。

 確かにそれならオフィシャルよりは私の方が持っている情報は多いかもしれない。

 

「調べた結果、ウラにはプロトを凍結させるほどの力を持った禁断のプログラムがあるということが分かった」

「――――」

「そして、それを持つナビは“S”と呼ばれ、ウラに存在する独自の序列制度、一位から十位の『ウラランキング』の一人だという」

 

 ――正直、そこまで調べがついていること自体が驚愕だ。

 ウラランキングという制度についてはともかく、連中も忘れた禁断のプログラムの存在を知ったとは。

 いや、というよりは……オフィシャルの上層部がネットワーク史最初期のトップシークレットを開示しても良いと判断するほどの事態ということか。

 

「光にはその“S”に接触し、禁断のプログラムを手に入れてもらう予定だ。近く、そのランキングに動きが発生するようで、それに潜入してもらおうと思ったのだがどうにもその先の情報が得られなくてな」

「……まあ、連中がランクを奪い合うライバルをわざわざ増やす情報をばら撒く理由がないからね」

「このウラランキングというのがどういう制度なのか。また、どういう手段で動きが起きるのかは分からん。だがどちらにせよ、何か情報があれば開示してもらいたい」

 

 どうするべきか、と思案する。

 そこまで情報を手に入れることが出来たのは見事だ。

 だが、これでは動きが遅い。まさかランクを手に入れることから始めて、ランカーを一人ひとり洗って“S”を探すと?

 確実に間に合わない。WWWが今日にも動き出すことだって考えられるのだ。

 光少年であっても何日掛かるか分からないことをさせても、利益を得られる可能性は限りなく低い。

 

「……まず、ランクの取り合いに今から入り込もうとしても遅い。もう既に決まっていても良い頃合いだ。それと、ランカーを一人ひとり探っていくのも論外。その方法では、ランクを持っていないと途中で詰む」

 

 ……まったく、早速こういうことになるか。

 いいだろう。決意を固めたばかりだ。全力で関わって、世話を焼いてやる。

 非常事態ではあるし――話を付けておこう。

 

「考えているらしい任務の通りには動けないが、違う道で案内してやることは出来る。それでいいかい?」

「って、エールさん、その“S”ってヤツを知ってるってこと?」

「私は“S”とは呼ばないがね。ランカーのうち三人のイニシャルがSだってのに」

 

 “S”というのは畏怖から呼ばれるようになった名だが、前提を知らなければ候補が三人もいることになる。

 今の情報量だとこれも余計に混乱を招く要因になるだろう。

 

「時間は取れるかい? 少し移動することになるけど」

「何処へだ?」

「よかよか村さ。無駄骨にはさせない。禁断のプログラムが手に入るかは別として、その“S”には謁見させてやれる……と思う」

 

 確信は出来ない。何せこの二人はオモテのナビであるし――もうバラッドもいないし。

 レヴィアは……付いてはこないだろうな。この経路だと特に。

 ロックマンとブルースが彼の代わりを務められるほどの護衛の力を持っていれば良いのだが。

 

「……いいだろう。今日退院だと聞いた。すぐに出るぞ」

「分かった。では、暫し外で待っているように」

「……? 何か用事があるのか?」

「……着替えくらいさせたまえよ、キミ」

 

 急かすのは良いがこちとら入院着だぞ。

 流石にこのまま外に出ることは出来ないし、人前で着替えるほど弁えていない訳でもない。

 多少、気まずくなった空気から逃げるように二人は病室を出ていく。

 それを見送ってから、私はいそいそと着替えだした。




・コピーマン
3に登場する、ウラランキング三位の実力を持つナビ。
一度見たナビの姿と能力を模倣する力を持ち、原作では四位から六位のナビを一撃で全滅させたガッツマンの姿を使いロックマンに襲い掛かってくる。
本来の姿を見せることはなく、ガッツマンの姿で出てきてガッツマンの姿のまま退場する。
本作では設定を大いに捏造。
元はエールの父のナビであり、各国より早くインターネットを導入したクリームランドの技術の黎明期を支えた。
エールの父の死後はエールに受け継がれることはなく、独立ナビとなってそれまでも行き来していたウラに篭るようになった。
その後は一度として本来の名を自ら名乗らず、呼び名を度々変えている。
ウラの住民からはもっぱら『物真似ヤロウ』とか『コピーヤロウ』とか呼ばれている。


・ウラランキング
3に登場する、ウラインターネットにおける序列制度。
ウラには一位から十位までの数字を持っている者がおり、原作ではその中にいる“S”というナビの持つ禁断のプログラムを求めてランキングに潜入することになる。
3以外では登場しない設定であり、だいぶ雑に大半の順位が消化される。
本作ではシリーズ通しての設定とする上で、この制度そのものの設定を大幅に変更。以下が概要。
ウラという独特のコミュニティの運営を円滑に進めるための秩序であり、ランクを持たない者からは特別視される。
しかし一位であるウラの王と、その両腕とされている二位、三位以外は原則として同列であり、四位が十位を蔑むはなく、数字が力量順という訳でもない。欠番が出ればそこに最も新入りが組み込まれることもある。
強さが全てのウラの世界における事実上の上位者のため、勿論大半はウラ屈指の強者であるが、中には武力ではない力を誇示する者もいる。


寝たきりだと置いてけぼりになるので叩き起こします。動けるならとっとと退院せい。
という訳でエールの過去を少し明かし、熱斗と炎山がパーティ追加。過程をだいぶすっ飛ばしてウラの最奥へ。
そしてバラッドの正体判明。いただいていた感想では何故かバレバレでしたが。
彼に関しては、ここで退場となります。エールがメンタル回復しちゃうし。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。