バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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Uの守護者/復讐者の唯一の呪い 【本】

 

 シークレットエリアはセキュリティの関係からプラグアウトが不可能になっている。

 そのため、通常のウラのエリアまでは徒歩で戻らないといけない。

 禁断のプログラムを受け取り、再びその道を行くのはまた命がけだ。

 強力なウイルス共は帰りも決して油断させず、私たちの脅威となる。

 一方で――外からやってくる者を狙う戦闘狂は、戻る者を討つことはない。

 通路の端でじっと此方を見てくるばかり。それはそれで不気味だがまあ襲ってくることはないだけマシだ。

 見慣れた黒いエリアまで帰ってきたところでパルスアウト。ロックマンとブルースも戻ってきて、ようやく任務が完了する。

 

「多少予想外はあったが、何はともあれ確保出来たな」

「ああ。これでプロトをどうにか出来るぜ!」

「よし――すぐに科学省に向かうぞ」

 

 そんな私たちに近付くタイヤの音には、サーバーの駆動音により部屋のすぐ前に来るまで気付かなかった。

 警戒する光少年と伊集院少年――だがそれは必要ない。

 この場所を知っていて、かつやってくるような者は限られているのだから。

 

「流石だね、熱斗くん。禁断のプログラム取得、お疲れ様」

「ま……まもる!?」

 

 車椅子で部屋の中までやってきたのは、浦川少年。

 こんなところで出会うなどとは思わなかったのだろう。光少年の困惑は相当のものだった。

 

「なんでこんなところに!? ここが何なのか分かっているのか!?」

「知っているよ。“うらかわ”の地下で、ウラインターネットのサーバー室でしょ」

 

 そもそも不思議でも何でもない。

 確かにここを訪れた経験は、私より少ないだろう。

 しかし、本来彼こそが、何よりこの場所に通じているべき人間なのだ。

 

「初めまして、伊集院選手――えっと、炎山くんって呼んでいいかな?」

「……好きにしろ。お前は一体何者だ?」

 

 初対面の伊集院少年の誰何を受けて、浦川少年は名乗る。

 光少年に、己の本来の役割を告げる意味も込めて。

 

 

「浦川まもる。この旅館の一人息子で――ウラインターネットの管理人だよ」

 

 

 名乗って、彼は車椅子の側面を見せる。

 タイヤに描かれたナビマーク。

 ネットナビの持つそれと同じものを何処かしらに身に着けることは、ナビのカスタマイズを行うオペレーターの通例と言える。

 緑が基調となる、Uの字を描くようなマークは、先程ロックマンが受け取ったそれを圧縮していたプログラムに浮かんでいたものと同じ。

 更に言えば――二人は知らないが、ウラの王の胸にあるナビマークと同じもの。

 何にせよ、ウラの秘宝と彼が密接な関係にあることは、これで証明される。

 

「ま、まもるが……ウラインターネットの、管理人……?」

 

 信じられないと此方に視線を向けてくる光少年に、それでも信じろと首肯を返してやる。

 

「年に一度、彼の見舞いに来ていると言っただろう? このサーバーのメンテの報告も兼ねたものだよ」

「うん。僕のお父さんと、お姉さんのお父さんの頃から、年に一回やっていたことなんだ」

 

 もう既に、互いの父の時代は終わり、私たちにその役割は回ってきている。

 浦川少年はまだ早すぎるとは思うが――残念なことにそう言って逃れることは許されなかった。

 病床にありながら彼は精一杯その役割を遂行してきたのだ。

 

「でも、何でまもるが……?」

「――ウラインターネットを作ったのはね、科学省で働いていた、僕のお父さんなんだ」

「ッ、科学省が作っただと!?」

「ウラは元々、プロト対策の最終兵器――つまりは、さっき熱斗くんたちが手に入れた禁断のプログラム、ギガフリーズを開発、保存するためのエリアだったんだ」

 

 既にその本来の目的は忘れ去られている。

 当然だ。かの災厄が再び蘇ることがないならば、使われることのないプログラムなのだから。

 

「そいつは世界最高の凍結プログラムだ。プロトを完全に凍結させるほどの力を持っているからこそ――一歩間違えれば、全世界のネットワークに繋がっているエリア全てがフリーズしてしまう」

「だから、一般的なエリアからは離れたところに広いエリアを作ったんだ。もしも事故が起きても最低限の被害で収まるように」

「……それが、犯罪者たちの隠れ処として使われるようになったということか」

 

 ウラがここまで広くなったのは、元々はこの凍結プログラムの暴走に備えてのものだった。

 知られなくなった今も、アングラなネタを取り扱う者たちによって次々と広げられているが、はみ出し者たちが見出す前からウラという世界は広かったのだ。

 しかし、それでもギガフリーズが暴走すれば、やがてオモテも凍結し尽くすことになる。

 それほどまでに強大なプログラムなのだ――プロトという存在一つを封じるためのそれは。

 

「さあ、早く科学省に。それはプロトへの切り札にはなるけれど、そもそも復活させないのが一番だから」

 

 そうだ。これを手に入れて終わりではない。

 間違いなくWWWは、これからプロトを狙ってくる。

 この切り札を手に入れることは重要だ。だが、これを使うのはプロトを奪取されるという最悪の事態があればの話。

 それを防ぐことが出来れば、全て解決なのだ。

 

「……行くぞ。すぐに科学省に戻る」

「ああ! またな、まもる!」

「うん――あ、そうだ、お姉さん」

「ん?」

 

 ――退院おめでとう。

 

 まさか、彼に言われることがあるとは、と思わず面食らう。

 何故か少し得意げになった浦川少年に少しの間、目を瞬かせた後、嘆息しつつその頭に手を置いた。

 

「でも、まだ無茶しちゃ駄目だよ。まだ調子悪そうだもん」

「私自身はそう思えないんだけどね……」

 

 なんか病院でも心配されたな……プライド様もそうだったし、付き合いの長い者には何か分かる違いがあるのだろうか。

 何となく釈然としないながらも、一応、その忠告は受けておくことにしよう。

 プロトに何もなければ、もう暫くは早めの就寝を心がける、とか。

 

 

 

 数日ぶりに訪れた科学省の自室は、火災後の確認があったのか多少私物が片付いているだけで変化はなかった。

 その私物についても、別に気にするようなものはない。

 パソコンの一台は相変わらずつけっぱなし。

 椅子に座り、その画面に目を向ければ、そこで向こうも気付いたようで暇そうなレヴィアと目が合う。

 

『退院したのね』

「ああ、色々と迷惑を掛けたね、レヴィア」

 

 ようやく戻ってきた、と機器を確かめつつ、実感する。

 ネットに繋いでいないノートパソコンたちも――特に問題なさそうだな。

 よかった。WWWに追加の損害賠償を請求する必要はないらしい。

 

『……で、平気なの?』

「正直、先日のことは本当にすまなかったと思っている。バラッドにも――最後に情けないところを見せてしまった」

『向こうが未練を持ってこの世に居座ってなきゃいいけど。そんな顔、アレには見せられないわね』

「……キミもか。自分ではよく分からないんだが、どういう顔をしてるんだ?」

 

 プライド様、浦川少年、そしてレヴィア。

 全員長い付き合いではあるが、等しくそんなことを言われている。

 引き出しから手鏡を取り出して見てみるも、やはり映っているのは特に変わらない顔。

 ――科学省勤めになってから若干早寝を心がけているせいか、少し健康的になっている気もしなくもないが。

 レヴィアはそんな私をどうでも良さそうな表情で眺めながら、評する。

 

『縋る者のいない迷い子、手段を選んでられない復讐者、どっちか選びなさい』

「選びなさいって……まあ、間違ってはいないか」

 

 まさしくその通り。

 親ではないが、似たような間柄の者を喪った。だからこそWWWと戦う道を選んだ。

 今の私は迷い子でもあり復讐者でもある。そして、どうやら私はそれが一目で分かる顔をしているらしい。どんな顔だ。

 

『手段を選ばない貴女は好みではあるけど、今の貴女はちょっと違うわね』

「そうか。まあ、確かに」

 

 ――普段なら存在しない手段でも、選択肢として見出すかもしれない。

 

 口にはせず、やるべき作業に手を付ける。

 エールハーフは後回しだ。まずはエールオールの点検から。

 それから、フォルダの編集とナビカスの調整。

 他でもない、近いうちに起こるだろう戦いに向けて。

 

 此方からは、未だにWWWに攻撃できる手段がない。

 逮捕されたWWW団員のPETからアクセス情報を割り出せるかと思っていたが、ワイリー氏もそこまで甘くはないらしい。

 こうなると間違いなく、連中がプロトを奪いにやってくるのが先となる。

 正直、保管場所を変えるべきだと思っている。あんなものを誰もが入れるインターネットエリアに置いておく科学省の気が知れない。

 だが、今更言ったところで遅い。一日二日で保管場所を変えられるようなものでもなく、その作業中に無防備を晒すよりは今の方がまだ少しはマシだ。

 完全に不利な状態ではあるが、私たちはこの状態でプロトを守り切るしかない。

 

『さて。私はちょっと出てくるわ。ゲリラライブの通知をしているの』

「通知していたらゲリラとは言わないと思うが」

 

 珍しいな、彼女が自分で組んだ予定の通知を行うなんて。

 基本的にレヴィアのライブは私がウラ掲示板に通知をしたうえで行われるが、そうでない小規模のものも存在する。

 レヴィアが勝手に決めて、勝手に開催しているもの。

 その場合は規模も小さくなり、何よりいわゆる路上ライブのように特定の場所ではなく彼女が適当に決めた場所が会場となる。

 決められた入場料なども存在しないが、代わりに彼女のライブ特有のイベントという名の虐殺ショーがない。

 純粋に彼女の歌のみを目的としているならこれ以上はないということだ。

 ――だというのに、決まった代金が存在しないことから投げ銭の如く高額なクレジットをぶん投げてくる連中も多く、時々普通のライブより多額のゼニーを持ち帰ってくることもあるのだが。

 通知したからには、今回もそんな風になるんだろうなと思いつつ、去っていく彼女を見送る。

 出来れば彼女にもプロトを守る戦いには参加してほしかったが――無理な話か。

 下手すると自分に影響があることであっても、興味が無ければ見向きもしないのがレヴィアである訳だし。

 

「……」

 

 戦いに向けた、フォルダの構築。

 WWWと戦うにおいて、心のどこかでフォルテを仮想敵に定めている自分がいた。

 勝てる訳がない。というか、再び出会ったところでまともに対峙出来る自信もないというのに。

 私は彼という存在が怖い。身が竦んで、頭の命令を受け付けなくなって、誰かの足を致命的に引っ張ってしまうくらい。

 だとしても――私が戦うとすれば、彼の気がした。

 

「手段を選んでいられない復讐者、か」

 

 何とも厄介なものだ。

 どんな手段を用いてでも復讐したい、とかではなく、復讐すべき相手に勝るには手段を選ぶ余裕がない、とは。

 力が欲しい、などと思ったことはないが、こういう状況になると――選択肢は多く欲しい、とは感じる。

 ヤツを思い出しながら、あらゆる状況を想定してチップを組む。

 初めて会った時のフォルテと先日会った時のフォルテ、その違い。

 考えられる攻略手段――など、どの道一つに集約されるか。

 とはいえ、だ。

 

「……死にたくはないな」

 

 するべき無茶と、生への執着。

 それを意味もなく秤に掛けながら、私は一つ、声に出さずに謝罪する。

 ――すみません。多分、また無茶をします。

 フォルダを確定する。これで勝率は、ゼロではなくなったと思う。

 あとはナビカスの編集。エールオールに適用していたそれは元々攻撃寄りのものだった。

 戦っている間は文字通り身を削ることになる以上、短期決戦を想定していたから。

 だが、多分それでは駄目だ。向こうが規格外ならば此方もまともに挑んではいられない。

 

 非公式パーツゆえのエラーを不具合として誤認させ握り潰す。

 それによって発生するバグは、私の構築した抑制パーツで封じ込めればいい。

 さらに、組み込めなかったパーツを改造ツールでコマンド化し、打ち込むことで追加の機能として発動させる。

 効果を知って、有用だとは思ったがこれまで使うつもりはなかった。

 誰だよこんなパーツ作ったの。正気の沙汰じゃないぞ。ナビの気持ちを少しは考えろ。ありがたく使わせてもらおう。

 構築、実行を終えたその時、部屋に警報が響く。

 

『緊急事態発生! テトラゲートに侵入者あり! 各員、プロトを死守せよ!』

 

 何というタイミング。

 騒然としているだろう各部屋の様子は私には分からない。

 ただ、私にもオート電話があって、室長殿が可能なら助力が欲しいと言ってきた。

 そのつもりだ。一つ深呼吸をして気を引き締める。

 そしてベッドに寝転んだ。ふざけているのではない。本気だからこそ――戻ってきた時に倒れることが無いように。

 PETとパソコンとのパスを繋ぐ。エールオール、実行。

 さあ――正念場だ。




※帰りのダークマンは橋の隅っこにいるカオナシのイメージ。


まもるくんの秘密判明。そして、公式では示唆されるのみに留まっていた設定の言及。
それからレヴィアによるカウンセリング。
フォルテに対する明確な感情の変化。その上で、プロト奪還戦にエールオールで参加となります。
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