バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
科学省エリアに降り立ち、すぐに走り始める。
エリア内では警報が鳴り響いており、一般ナビのプラグアウトを求めていた。
『緊急事態が発生しました! 一般のナビはただちにプラグアウトしてください!』
一般ナビには解放されていない道を駆け上がり、プロトの保管エリアに向かう。
先程の連絡と共に送られてきたフロアマップの情報通り。
特殊なプログラムやデータを保存した重要エリアの更に奥。
科学省エリアの最奥部に、テトラゲートと呼ばれるプロテクトが存在する。
テトラコードを集めなければ、科学省内部の人間でも開くことは出来ない守り。
集まっている職員のナビたちを押し退けてその前まで辿り着けば――そこにある筈のプロテクトは解除されていた。
ロックマンとブルースもまた、後ろから駆けてくる。
『プロトは!?』
『どうだか――とにかく行こう』
ここで突っ立っていても何も変わらない。
ゲートの先へと走り、プロトの保管室が見えてくる。
プロトの安置。それ以外に役割の与えられていない部屋は小さい。
その小部屋に――球体になった禁断を抱えたナビがいた。
『プロトを渡せ。抵抗するな』
ブルースが前に出て、ソードを突き出し警告する。
逃げ場はなく、戦えるような場所でもない。並の犯罪者であれば、詰みの状態ではあるのだが。
『フン、ブルース――それにバグ医者と、ロックマンか! 最高だ! オレは実に運がいい!』
頭と両手に付いたドリル。そして両足の先は一つが分かれたドリルが構成している。
肩の装甲もドリルの一部――なんとも分かりやすいデザインのナビ。
彼はロックマンの姿を見て何やら喜びを露わにすると、此方にプロトを見せびらかすように掲げてくる。
『プロトを返してほしくば追ってこい! 相手をしてやるよ!』
そう言うと彼は体を変形させた。
肩と一体化し、巨大になった頭のドリルを回転させ、ブルースの一閃を弾き返すと、そのまま何もない空間に向かって突撃し――そこに穴を開け、中に飛び込んだ。
『――空間破壊ナビか。簡易的なバックドアの作成、行き先は……ウラだな』
『通っても問題ないものか?』
『ああ。寧ろ早くしないと消えるものだ。すぐに追うぞ』
答えを聞くが早いか、ブルースは飛び込んだ。
……一言で信用し過ぎじゃないか。もうちょっと慎重になっても良いと思うが。
まあ、事態が事態だ。今回は問題ない。
ロックマンにも促し、私も飛び込む。
科学省エリアからウラインターネットへ――本来の目的からすれば繋がっていてもおかしくはないのだが、現在はセキュリティの関係から両エリアは繋がっていない。
この時ばかりの直通ゲートを通れば、薄暗いウラの世界が視界に広がっていた。
『このエリアだと――向こうに広場がある。待ち構えているならそこだろうが……』
『どの道手掛かりはない。行くぞ』
ブルースを先頭に進む。
相変わらずの厄介なウイルス共は、彼とロックマンのおかげで近付きもしない。
私も始まる前に体力が減ることは避けたいし、ありがたい。戦闘態勢に移れば直ちに体力を喰らい始める厄介な姿は、もともと油断できないウイルス戦が余計油断ならなくなるのだ。
そうして辿り着いた、ウラに置いて無数に存在する行き止まりの一つ。
誰が何のために作ったかもわからない広場に、件のナビは待ち構えていた。
『WWWのナビで間違いないな?』
『その通り! オレはドリルマン! ワイリー様の命令で、プロトをいただきにきた!』
そう言ってナビ――ドリルマンはプロトを部屋の角に放り投げる。
戦いの邪魔になると。ここに来てしまった以上、ここからアレを持って科学省エリアまで逃げる側は此方になったのだ。
今プロトに手を出しても、荷物になるだけか。
『三人を一人で相手取ると?』
『その通り! ロックマン、ブルース、お前たちだけは許さん! オレの怒りのドリルで、風穴開けてくれる!』
『知り合いかい? キミたち』
『いや……初めて見るけど』
『覚えがないな』
ドリルマンは随分とご立腹だ。
しかも、難癖のようなものではない。確証のある怒りが、そこにある。
『ならばその身に刻んでやる! オレの弟分、バブルマンを消された恨みをな! ――ドリルモード!』
再び頭と肩を合体させ、大型のドリルを形作ると、それを回転させて空間に穴を開ける。
今度は逃げるためではない。
剥き出しの怒りと敵意は私たちに向いている。
ヤツが空間に穴を開けられるということは――私たちをどの方向からも狙えるということだ。
バブルマンなるナビは知らないが、二人には覚えがあるらしい。
『来るぞ、ロックマン! 気を付けろ!』
『うん!』
辺りを見渡し――バックドアが開かれる音に構える。
一ヶ所ではない。三ヶ所からだ。
『そういう手段か――!』
誰か一人を、ではなく私たち全員を同時に狙って、穴が開かれる。
空間を砕いて出てきたドリルの一つを躱す。同時に飛んできたのは三つ。そしてその中の一つは大きい――ドリルマン本体だ。
それぞれが突撃を躱せばその先でドリルマンと二つの独立ドリルは穴を開けて消え去り、追撃を封じる。
実に単純。あの突撃こそがヤツの必殺の一撃。
自分が自在に利用できる空間移動で、方向転換時の隙を無くす。
私たちが対処しなければならないのは常に此方に向けて突き進むドリル。
そして、それに対して攻撃を仕掛けてみれば、硬度も相当のようで簡単に押し負け、砕かれる。
むう……これだと困るな。リカバリー頼りの回復は控えたいのだが。
それに案外、突撃一辺倒という訳でもないらしい。
『チッ……』
突撃を躱し、すれ違いざまに斬り裂こうとしたブルースのソードを、突撃に利用していない両手のドリルで受け止める。
同じように回避後すぐに放たれるロックマンのバスターを受けるのは、足が合体した後方のドリル。
何処に対しても決して無防備ではないからこそ、突撃のみを繰り返すことが出来ているのだ。
ならば――こんなのはどうだろうか。
『……』
気付かれない程度に跳躍での回避を繰り返し、立ち位置を変えていく。
やはり彼にとって本命はロックマンとブルースの方らしく、私に本体が飛んでくることは少ない。
だが、それでも皆無という訳でもない。
わざとらしく回避の時によろけてみれば、好機とばかりに本体が突っ込んできた。
それなら遠慮なく突っ込んで来い、と『エリアスチール』で躱し、道を開けてやる。
『うぉわ!?』
『前方注意だ』
私の背後にあったのはプロト。
コイツが突っ込んだくらいで傷つくものでもないが、しかし命令を受けて回収した以上それに傷を付けることは出来ない。
急停止して足を床に叩きつけ人型に戻ってブレーキを掛けるドリルマン。
隙だらけとなったその横腹に、バグイーターを叩き込む。
――ゴスペルの一部を組み込んでから、その大口の意匠は変化し、あの獣の頭部となっていた。
それゆえに腹に喰らい付く様は正しく捕食のようであり――私に還元されるエネルギーを些か複雑に感じる。
『おのれ!』
もう一度空間の裂け目に逃げ込むドリルマン。
今の戦法は次に狙うとしたらより慎重さが必要だろう。
であれば、さらに自然に行うまで。
もしも本体が此方を狙ってこなくなったとしたら、飛んでくるドリルを一つ潰してやろう。
『戦法は読めた。ブルース、切り伏せろ』
『はっ!』
『こっちもいくぜロックマン!』
『うん――スタイルチェンジ!』
一撃与えている間に、彼らも対処法を見出したらしい。
確かにヤツは厄介なナビだ。もしも一対一であれば、独立して行動するドリルとの連携も相まって回避しにくい断続的な突撃を相手取ることになっただろう。
だが、数の有利は此方にある。
そしてその中で誰か一人を狙うのではなく、一人にドリル一つを宛がって戦うことを彼は選んだ。
同じことの繰り返しであれば、対処など幾らでも考え付く。
ロックマンに突撃したドリルマン。
それを彼は、シャドースタイルに切り替え、ごく短時間の『インビジブル』を張って回避する。
そしてその間に向きを反転。飛び退いて回避するよりも少ない動きで対応したことで、ドリルに覆われていない背中を捉えることに成功する。
『いけ――マグナム!』
『がっふぅ!?』
高速で揺れ動く照準を追う反応速度があってこそ、真価を発揮する狙撃チップ。
シャドースタイルの身のこなしは動体視力にも影響しているのか、見事ドリルマンの背中という小さな的に弾は叩き込まれる。
扱いが難しい分、その威力はお墨付きだ。
たまらず突撃体勢を崩し、転倒して床を転がっていったドリルマン。
頭の回転が続いていたことでメチャクチャな軌道になり、床を叩いて跳ねまわりながらブルースとすれ違い――その刹那、一斬がドリルマンを襲った。
チップの能力だけによらない、超高速の『イアイフォーム』。
被弾を恐れない覚悟があればこのチップはスタンダードチップの中でも指折りの威力を発揮する。
追撃とばかりにバグイーターを射出するが、それは彼を防ぐように飛んでいったドリルに迎撃される。
焦りながら空間を開いて裂け目に逃げ込んだドリルマン。どうやら今の一撃ずつで、結構な追い込みを掛けられたらしい。
『特殊な機能に特化していると耐久を捨てざるを得なくなる。一度対策を取られると厳しいタイプだな、アレは』
『よし、どこからでも来い! このまま押し切るぜ!』
光少年の啖呵に応じるようにガリガリと空間を削る音は聞こえるが、まだ場所が特定できるほどではない。
此方を狙ってはいるものの、追い込まれて慎重になっているようだ。
前方では当然駄目。背後も直線での攻撃となる以上、前方から突っ込んでくるより反撃しやすい。
角度をつけても、対処は慣れてきている。
つまり私たちを襲うつもりがあるならば、今まで使っていない経路――
『――――下だ!』
後ろに飛び退けば、床をぶち抜いてドリルの先端が姿を見せる。
下から上への移動であれば反撃に利用できる時間も少なくなる。
今回は無理か――早々に諦めをつけて体勢を立て直すのに集中する。床を砕いた三つのドリルが上方へと上っていき――
『……む?』
私の躱したそれに巻き込まれたらしい三つの塊がぽて、と軽い音を立てて落ちてくる。
『う、ウイルス!?』
『こんな時に――』
『待った! コイツらは……』
それはどうやらこの戦いに巻き込まれたらしい三体のウイルスだった。
彼らは近くにいる私たちに攻撃してくることもなく、慌てた様子で広場の隅まで駆けていくと、身を寄せ合って震えている。
……まさかとは思うが、こんな場所に? このタイミングで?
ひとまずドリルマンが開けた穴に向かって『プラズマボール』を飛び込ませる。
自立移動し、敵に近付くと放電して攻撃を仕掛ける、元となったウイルスに程近い性能を持ったチップだ。
多分ダメージは望めないが、ヤツを動揺させて多少なり引き籠らせることは可能だろう。
慎重に近付く。二匹はより震え、一番上位種である黄色い個体はせめて二匹を守ろうとしてか、得物をこちらに向けて、やっぱり震えている。
種族そのものの特徴は有しているようで、臆病だ。
私から近付いてみても、構えているだけで得物を振り回すことはない。
此方に害を与える様子は、一切見られない。
『エールさん、コイツら、まさか……』
『ああ、保護している無害ウイルスだ――』
スウォーディンの例から、ウラにもいる可能性があることは分かっていたが――こんな時に。
とはいえ、無視する訳にもいくまい。
彼ら――モモグランを保護しなければ。
・ドリルマン
3のシナリオ中最後に登場するナビ。
電脳世界の空間に穴を開ける能力を持ち、その力を利用してプロトを科学省エリアから奪取する。
バブルマンは弟分のようなものであり、彼を倒したロックマンを恨んでいる。
一筋縄ではいかない3の敵ナビの中でも特に対処が必要なナビで、前方からの攻撃はドリルで防がれるため攻撃を当てにくい。
フォルダ構成によっては詰みかねないが、N1の頃に手に入るナビカスパーツ、ブレイクチャージを使うとだいぶマシになる。
ドリルマン戦。エールは一切心当たりはありませんがバブルマンの仇がいるのでなんか一緒に襲われました。
引き続きロックマン、ブルースと共闘。プロトを盾にするのは後にも先にもバグ医者だけだと思う。
そしてここまで出てきていなかった飼育ウイルス・モモグランの登場。
本来の棲み処から移動してきたのはストーリー上の都合です。