バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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“力”の選択-2 【本】

 

 

 普段は人前に姿を現さず、床の下に外部の影響を受けない小規模の空間を掘り、潜んでいるモグラのようなウイルス。

 そして近くに寄ると迎撃のために穴を広げ、外敵の背後に飛び出して攻撃してくる。

 それがモモグランだ。

 この空間の内部には普通の攻撃を届かせることが出来ない。

 ただし、空間自体はそれを作った床に依存しており、床を破壊するような攻撃が有効となる。

 ドリルマンの攻撃は彼らにとって天敵にも等しいものだったのだろう。

 自分たちの空間ごと掘り返され、突然の事態に震える彼らに近付き、バグのかけらを傍に置く。

 

『……おい、そんなことをしている場合では』

『分かっている。だが放っておく訳にもいくまい』

 

 ――伊集院少年たちからすれば、放っておいても構わない存在なのだろうが、そうそう見つからない無害ウイルスだ。

 こういう事態であっても余裕があれば保護しておくに越したことはない。

 

 モモグランたちは困惑して、私とバグのかけらを交互に見ている。

 戦いの最中だ。そう時間はない。言葉が通じるかは知らないが……通じないとしても、多分ここから動くことはないか。

 PETに有していた保護ケースをバグのかけらの隣に配置して、彼らに告げる。

 

『怪しい者じゃない。キミたちの巣を荒らした輩を片付けるために来た。その中なら安全だし、そこに入ってくれれば今後も安全な場所にキミたちを送る。出来れば、入ってほしい』

 

 ウイルスとはいえ、自由な、野生の存在だ。

 彼らが保護というものを求めているかは知らないが、ひとまず言うだけ言って、離れる。

 入れば良し。即座にウイルス研究室に転送する用意はある。

 そうでなければ、彼らを巻き込まないように戦うまでだ。

 

『よくもオレの穴にプラズマボールなど突っ込んでくれたな!』

『なんだ、有効だったのか』

 

 今度は上空から落下してくるドリルマンを跳んで回避。

 突撃の威力は確かなものだ。あの手の攻撃には並の防御手段が通用しないことなど、分かり切っている。

 かといって、当たれば当然一瞬でアンダーシャツが発動することになるだろうし、私に許されているのは回避だけだ。

 

『喰らいやがれ!』

 

 誰を狙うでもない――全員を狙って、前方に開いた三つの穴から飛び出してくる、ドリルの嵐。

 その中に本体はいない。ひたすらに、一方的な弾丸が放たれる。

 

『これじゃ攻撃出来ねえじゃん!』

『こんなこと出来るなら最初からやれと言いたいんだが』

 

 光少年の叫びに軽口で返しつつも、対処法を考える。

 ドリルマンは姿を見せておらず、恐らくはあの三つの穴のいずれかの先。

 先程のように攻撃でも飛び込ませればいいのだろうが、断続的に放たれるドリルによる迎撃を避けてそれを行うのは中々の難行だ。

 もしも、ロックマンにかつての、ヒートガッツスタイルのような一撃の力があればドリルを粉砕して攻撃も可能だっただろうが、今それを可能にする手段は、使わせたくないし不確実でもあるバグスタイルしかない。

 ブルースも攻めあぐねている。

 高速の一振りにより斬撃を飛ばすソニックブームも、ドリルの回転に押し負けて散逸してしまう。

 

『であれば――』

 

 思い浮かぶ攻略法といえば、小型の自立飛行バグ――バグビットを飛び込ませること。

 ドリルの間隙を狙って放てば先程の『プラズマボール』と同様のことが出来るだろう。

 よし、と判断し、用意の前にふとモモグランたちの方を見て――その姿が消えていることに気付く。

 

『――?』

 

 保護ケースは開いたままだ。

 置いておいたバグのかけらは無くなっているが、肝心のモモグランたちがいない。

 まさか今の攻撃に巻き込まれたか……? と、あまり考えたくない想像をする。

 しかし、それが杞憂であったことを、全く予想外に変化した戦況が証明した。

 

『な、なんだお前ら!』

 

 急に穴から襲い掛かってくるドリルが無くなり、何事かと思えば、ドリルマンの動揺の声。

 

『やめろ! デリートされたいのか――ぐはっ!?』

 

 脅迫――それから腹でも殴られたかのような悲鳴。

 

『ごふ!? ぬぁ!? おのれ、同じ穴倉使いの情けで見逃してやったのに――ぐぁっ!』

『……な、何が起きてるんだ?』

『まさかとは思うが……』

『多分、ヤツとしては見逃したつもりでも彼らにとっては巣穴をメチャクチャにした敵、と映ったんだろうな』

 

 声だけしか聞こえないため、何が起きているかはっきりとは分からない。

 だが一つ言えることは、此方に敵意がないことを示していたのは功を奏したということ。

 無害ウイルスでなくともそうした例はたまにある。

 元々害意のない個体だ。片方は友好的に接して、片方には巣穴を巻き込んで辺り一面堀り荒らされれば、どちらを信頼するかなど明らかだ。

 予想外だったのは、臆病な性質のモモグランがここまで勇気を出したこと。

 

『ぐあああぁぁぁっ!』

 

 彼らに己が作り出した穴に入り込まれ、武器であるスコップでボコボコにされたらしいドリルマンが叫びを上げて穴から追い出される。

 そしてそれに続くように飛び出したモモグランたちは私の前に立ち、スコップに杖のように手を置いて何処か誇らしげに胸を張った。

 

『……うん。お手柄だ、キミたち。さあ、保護ケースへ』

 

 今度こそひょこひょことケースに向かっていくモモグランを見届けていれば、隙だらけで抵抗できないドリルマンを二人が追い詰めていた。

 

『終わりだ』

『行っけえええええ!』

 

 ノーマルスタイルに戻ったロックマンのバスターから放たれるチャージショットと、ブルースのソニックブーム。

 それを躱す程の体力も彼には残っておらず――

 

『くっ、ウイルス如きにやられるとは――ワイリー様、申し訳ありません! ば、バブルマン! 今オレもそっちに行くぜ――!』

 

 二つの攻撃が直撃し、堪らずその存在を散らした。

 それを見届けてから蓋の閉じられた保護ケースを拾い上げ、PETに送信する。

 あとは戻ってから飼育機にまで持っていくだけ。

 そして、あと一つ。ここまで来た目的。

 

『さあ、プロトを――』

 

 回収しようとして――

 

 

『――プロトは渡さん』

 

 

 一瞬でこの場を支配した圧倒的な覇気に、体が縛り付けられたように動かなくなる。

 ……いや。分かっていた。ヤツと対峙することを、想定していた。

 だから動かなきゃ駄目だ。震えていようが、ヤツを見据えろと体に命令する。

 絶対強者と、視線が交わった。

 

『くそ、こんな時に……!』

『この力の波動……まさかあれが』

『……ああ。フォルテだ』

 

 伊集院少年にとっては、本物と出会うのは初めてだろう。

 コピー体とは比べ物にならないその雰囲気は、一度でも相対すればその違いはすぐに分かる。

 

『貴様らのように慣れ合う弱者共に敗北するとは……やはり人間に従うナビになど、初めから任せるに値しなかったか』

 

 現れたフォルテは、私たちを敵とも思っていないように通り過ぎていき、部屋の隅に置かれていたプロトを拾う。

 

『待て! それを返すんだ!』

 

 ロックマンが一歩前に出て、バスターを向ける。

 対してフォルテは、ひたすらに凄まじい圧の視線で返す。

 

『力づくで奪い取れ。弱者の戯言を聞く耳など持たん』

『――ロックマン、リベンジだ。行くぜ!』

『うん!』

『ブルース。連戦だが、いけるな?』

『問題ありません、炎山様』

 

 続けざまの戦闘の相手というには、冗談のきつすぎる相手。

 戦うのだとすれば、それはベストコンディションで臨むべき敵ではあったが――そう、今がその時らしい。

 大丈夫だ。体は動く。怖いけれど、その恐怖を押し殺さないと、何も出来ない。

 今ここで――フォルテを倒す。

 

『群れることを良しとする者に――オレは倒せん!』

 

 ヤツの戦意が沸き上がり、空間が軋むと同時に、私はフォルテに向けて手を突き出す。

 咄嗟に込められる限りの力を込めたバグイーターを放ち、一瞬遅れて伸ばされた彼の手に灯る力で迎撃させる。

 ゴスペルの頭部を模したバグが開いた大口に、視えるほどにまで集束された力が吸い込まれ、その威力を殺すように口を閉じさせた直後、バグイーターは爆散した。

 

『くっ……!』

 

 だが私にまでフォルテの攻撃は届かない。

 寧ろ、バグイーターが喰らったことで多少なりその力が変換され、黙っていても削れていく私の体力に還元される。

 

『――オレの力に震えているだけの取るに足らん弱者だと思っていたが』

『昔のトラウマを掘り返されたらそうもなるさ。だが、今は――恐怖より強い感情がある』

『……面白い。弱者が弱者のままどこまでやれるか、オレが試してやる』

 

 私なりの宣戦布告。

 此方に意識が向いていることを隙と見たか、ブルースが一瞬の踏み込みでフォルテの懐に入り込む。

 彼の、速度で上を行く者などいないだろうと思われていた斬撃を――フォルテが右腕に顕現させた伝説の刃が受け止める。

 

『ッ、パラディンソードだと――!』

 

 片手はブルースを受け止め、もう片手にはプロトを抱える。

 迎撃するための手を失ったフォルテに、ロックマンが『メガキャノン』を放つが――その弾は彼に届く前に、掻き消される。

 彼の纏うオーラ。あれは一定水準以下の攻撃の一切を通さないものだろう。

 オーラを破るための常套手段である弱点属性は――ない。

 その防御力を知っていた。未だ私がチップ化に成功していない、あのウイルス群の特性。

 

『ドリームオーラ……! ってことは……』

『並の攻撃では、ヤツに傷を与えるチャンスすら作れないという事らしいな……』

 

 聖騎士のソードでブルースを押し返し、本来の形に戻った手に光が宿る。

 浮き上がって此方を見下ろすフォルテが何をしようとしているかを、本能的に悟る。

 

『ッ!』

 

 二人に警告をしている余裕はなかった。

 『インビジブル』を使った直後、光弾の嵐が戦場を蹂躙する。

 先程のドリルマンの弾丸とは、数も、速度も、威力も段違い。

 たった一発でも十分に攻撃として機能するほどのそれの乱れ撃ちを、私は自身の力で回避し切れるとは思えなかった。

 きっと二人も、どうにか防げている。そう信じて、すり抜ける弾幕の中を走る。

 嵐の影響から逃れたところまで走り抜け、バグを足場にして駆け上がる。

 そして寸前まで迫り、バグイーターを構える。

 

『遅い』

 

 無情な一言で、嵐の射出を終えた手が向けられ、先程と同じ激突が起きる。

 今度は両者のすぐ傍。僅かな延命手段であった『インビジブル』の効果時間も終わり、爆発の衝撃が体の内側まで震わせる。

 ――たったそれだけで、アンダーシャツが発動した。だが、これからだ。

 爆発の衝撃を受けたのは私だけではない。

 自身の力と私のバグの衝突で起きた爆風は彼のオーラも破っている。

 私自身は吹き飛ばされ、追撃は出来ないが――布石は既に打った。

 

『――真下がガラ空きだ、ってね!』

 

 ここに駆け上がる前、フォルテの真下に設置した一枚のチップ。

 バグイーターを受け止められることは想定内だ。寧ろ、オーラをこれで剥がすことは出来ないだろうから、受け止めてもらうことが重要だった。

 オーラが剥がされることを、彼は重く見ていない。それが無くともそもそも追撃など受けないから。

 発動してから暫くの間待機していたそれが、吹き飛ばされながらの私の命令を受けて起動する。

 上空にまで一直線に飛翔するのは『ビーアロー』。

 雷の矢が無防備なフォルテを斬り裂いた。

 

『――! ……、オレに傷を負わせるとは――』

 

 瀕死の状態で着地する。

 二人も持ち前のシールドを駆使して、被害はある程度抑えたらしくまだ戦闘は可能のようだ。

 ここまで消耗して、ようやく一撃。『ビーアロー』の衝撃で巻き上がったマントの隙間から――フォルテの古傷が覗く。

 ナビマークを中心に斜めに刻まれた斬撃痕。

 その由来こそ、私は知らないが――思い当たる節はある。

 

『……フォルテ。キミ、WWWがプロトを利用しようとしている事に何も思わないのか?』

『人間の下らぬ計画などどうでもいい。オレが求めるのは、圧倒的な力ただ一つ!』

 

 彼にとって、プロトとは力への渇望の始まりだ。

 それがWWWに狙われており、それに加担していることは、私からしてみれば不可解に過ぎなかった。

 だというのに、フォルテは一蹴する。

 

『力を得るのに手段は択ばん。人間が浅知恵をどう巡らせようとも、オレはその一切を凌駕する力を得る。その邪魔にならない限り、プロトがどうなろうと、オレの知ったことではない』

 

 その渇望に矜持すら滲ませて、フォルテは言い放つ。

 彼の求めに応じるように、体に再び巡っていく強大なオーラ。

 無駄話をしている暇ではなかったか――と浅慮を後悔しつつも、体の調子を確かめる。

 瀕死となり、停止したバグの侵食。

 その隙を縫って――ナビカスに組み込んだ自動回復機能が働いているのを確認し、まだいけると頷いた。




モモグラン大奮闘。ここまで出していなかったのはドリルマンと戦わせたかったから。
そしてフォルテとの連戦。
これまでとは違う戦法をもって彼へのリベンジマッチとなります。
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