バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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FINAL TRANSMISSION-2 【本】

 

 

 数十メートルはあろうかという巨大な腕がゆっくりと振り上げられ、それが落とされる前に最初の爆発が広がった。

 フォルテが手から放った光が外装に直撃したのだ。

 あれだけ大きな的だ。当てることに苦労はしない。

 だが、爆発に巻き込まれて吹き飛んだ外装は見る間に修復される。

 そして完全な形に戻ったと思えば、ノイズが走って勝手に揮発していく――あれだけ不完全なデータの寄せ集めでここまでの見様見真似が出来るのは見事なものだと思えなくもないが。

 

『アレを狙っても意味はない。狙うべきは下の本体だ』

『ふん――』

 

 自分に向かってくる腕――その鋭い爪を見ることもなく、光弾を放って爆散させるとフォルテは同じものを蠢く本体にも叩き込む。

 フォルテの圧倒的な攻撃力といえど、相手はこれだけの大穴を土台に君臨する巨体だ。

 爆発で削れた規模はそのスケールからすれば微々たるもので、若干窪んだ本体は発光しながらその窪みを縮めていく。

 

『そら――!』

『くらえ!』

 

 私が放った『マグナム』が修復中の窪みに放たれ、ロックマンの『エアストーム』はそれをより広げる。

 あの本体に幾ら攻撃を撃ったところで、修復する以上限りなく無意味だ。

 ヤツは本能で動く怪物ではあるが――生まれたてのゴスペルよりは利口なようで、己の弱点を晒したりはしていない。

 であれば、力が集まる核は本体の奥底にあると見るべきだろう。

 それを狙う近道がこれだ。

 とにかく同じ場所を撃ち続け、本体の肉を掘り進めていく。

 問題は――

 

『周囲のバグ共も――活性化したか!』

 

 プロトそのもののせいでかわいく見えるほどの、等身大のアメーバが辺りに沸き始める。

 ヤツらの目的は分かっている。目的、という高尚なものでもないか。

 即ち、捕食。

 此方を外敵と定めたプロト本体とは違い、沸いてくるプロトバグはそこまで成長していない。その不具合の方向性に従って、私たちを餌と判断し、吸収しようとしてくるだけ。

 ゆえに、より厄介だ。

 プロトが下してくる攻撃は、その大きさから危険ではあるが、“攻撃”というものを学んで間もない以上お粗末なもので動きも遅く、此方を傷つけるということはあっても吸収されることはない。

 対してプロトバグは徹底して私たちを吸収しようとする。

 

 飛び掛かってくる一体を、バグイーターで受け止め噛み千切る。

 戦闘が開始されたことで体を構成するバグが駆動をはじめ、私の体力を削ってくる。

 それを補うために、喰らったプロトバグを変換――ゴスペルのように、一部だけそのまま保持しておくのは、無理だな。

 バグにしても特殊過ぎる。コイツとの共存は飼育というよりは寄生だ。堪ったものじゃない。

 全て体の維持のために変換し、戦闘を継続させる力にする。これならば、プロトバグも栄養に出来る。

 何もせずに突っ立っているだけならばそこら中に沸く絶好の栄養源に過ぎないのだが、連中は獲物に向かって全力で飛び掛かってくる。

 

 寧ろ突っ立っているのは倒すべき本体の方だ。

 フォルテが手元に集めたエネルギーを広がっていく窪みに放出し、より損傷を拡大させる。

 ――頭部であるらしい部分が傾げられる。表情のない無機質な顔のその仕草はひどく不気味で、何を考えているか分からない。

 プロト自体も、その動きの意味など知らないのだろう。

 その状態の頭部をジッとフォルテに向けたまま――唐突にそこから赤い光線を放った。

 小さな頭部から放たれた光線とはいえ、私たちの数倍の直径はあるそれが不意打ちの如く放たれたのだ。此方に飛んでこなくて良かったと心から思う。

 フォルテ自身はオーラで防ぎ、反撃でプロトの頭部をへし折ったが、相当の威力は持っていたようでオーラは解れて消えていく。

 

『チッ……小癪なことを』

 

 忌々し気に折れた頭部が修復されていくのを見上げるフォルテ。

 彼が纏うオーラは程なくして機能を取り戻すだろうが、あの頭部まで注意していなければならないとは。

 

『エールさん、後ろ!』

『ッ!』

 

 光少年の声に、腕にゴスペルを表出させながら振り抜き、背後から跳んできていたプロトバグを殴り飛ばす。

 いつの間にか後方に増えていたプロトバグ。十や二十ではない――悪夢のような光景だな。

 さっさとご退場願おう。ゴスペルの口を開かせ、バグという名のリソースを注いでやれば、その口から炎が吐き出され、前に広がる“プロトバグ畑”を一気に焼き払う。

 喰らうか、火を放つか。この姿と共存する獣にさせることと言えば、この二つに大別される。

 あまりリソースを注いだり、自由にすると私も制御出来なくなるが、チップを使わずにそれなりの威力を出せるのは都合がいい。

 

 口を開かせたまま周囲に腕を振り回し、付近にいる危なっかしいバグを焼いていく。

 粗方片付いたら、そのまま修復し出した本体の窪みへ放射。

 瞬間的な威力を発揮できる攻撃ではないため、本体を削るのには不適切だが、ロックマンやフォルテが攻撃出来ない間、修復を遅らせられるだけでも十分だ。

 そうしていると視界の端で大腕が動く。

 流石に継続して攻撃されていれば違和感を覚えざるを得ないか――

 足場にしていた“己の一部”である筈の肉を裂きながら突き進んでくる腕を、早めに移動して回避する。

 これだけ緩慢な動きの攻撃に防御チップを使ってはいられない。この後何をしてくるかもわからないのだ。

 目の前を通り過ぎていく腕。

 その爪が裂いていった道にはプロトが現れた大穴の先と同じ、鮮やかな緑色の海が広がっている。

 中から零れ出す膨大な古いデータリソース――浴びているだけで酔いそうだ。インターネットという単なるバグとは話が違う規模の敵は、此方の武器となり得るデータまで厄介らしい。

 

『だがまあ――使わせてもらうか』

 

 チップを節約できるなら、それに越したことはない。

 溢れるデータに適当に手を伸ばし、めぼしいものを見つけては連続で実行していく。

 大半がアンティークというにも躊躇するジャンクデータだが、当時から利用価値のあったものがその原型をどうにか残しているものも、この膨大なデータの波の中には多数存在する。

 実行したデータがリソースとしてそのゴミたちを吸収し、最後の展開。

 その場に出現したキャノン、キャノン、キャノン――並んで現れた砲台がプロトに向けて砲弾を放つ。

 一つ一つはヤツにしてみれば微々たる威力。

 だがこれだけの連射ならゼータキャノンの真似事にはなる。塵も積もれば、というものだ。

 

『フォルテ! オレたちも!』

『――――』

 

 同様のプログラムアドバンスを使用し、更なる弾幕を叩き込むロックマンたち。

 そしてフォルテは両手に暫し力を集め――現在浴びせているそれらが可愛く覚えるほどの力の嵐をばら撒いた。

 外装も、本体も、そして周囲に生まれるプロトバグたちも纏めて吹き飛ばしていく――ここにいたら私も危ないな、離れよう。

 これでだいぶ削れるか、と思えば、それをまともに受け続ける訳でもないようで、プロトの肩のパーツが開く。

 

『ッ』

 

 そこからばら撒かれる弾丸。

 威力はキャノンにも及ばないが、小さく尋常ではない数が豪雨の如く降り注ぐ。

 

『くっ……! これだけの攻撃でも、向こうにとっては弾幕のいいお手本か……』

 

 幾つか受け、特に深く刺さった一ヶ所を手で押さえつつ、『ストーンキューブ』を置いてその陰に飛び込む。

 リカバリーで回復しつつ、斜めに降る雨が収まるのを待つ。

 ロックマンを見てみれば、彼もウッドシールドスタイルへと変わり、その盾で弾丸を防いでいた。

 フォルテは――気にするだけ無駄か。そろそろオーラは復活していよう。この攻撃なら千発受けたところで揺るぎもすまい。

 雨が止み、私が見ていない隙を狙ってきた光線を『エリアスチール』で回避し、二枚目の『マグナム』を命中。

 まだ読みやすいが、相手の視界というか、認識を把握できるところまで成長したか。優秀なセンスだと脱帽する。

 役目を全うして粉微塵に弾けたキューブの雄姿を見届け、ロックマンのコガラシと同時に『トルネード』を使用。

 純粋な風と木の葉舞い踊る風。二つが本体に吸い込まれる直前で、腕がそれを遮った。

 瞠目する私たちを他所に地を這う闇のエネルギーを向かわせたフォルテも、それがもう片方の腕に叩き潰されるのは予想外だったらしい。

 

『何!?』

『……早すぎるぞ。もう身の守り方まで覚えただって?』

 

 破損した両腕は豊富過ぎるリソースが即座に修復する。

 見様見真似の腕といってもプロトという大規模な存在が再現したものだ。脆いが硬い――簡単に砕けるものの、貫くことは容易ではない。

 それが壊した傍から復活するのだ。ふざけているにも程がある。

 そして私たちが驚愕している間に本体も修復を始め、開けた窪みは塞がっていく。……どうあれ、最初からのやり直しだけは避けねば。

 

『――切るか』

 

 確実な攻略が難しくなった以上、此方もより苛烈に攻めるしかない。

 守りを学んだのであれば――それを無駄だと思わせる。

 それで不要なものだと捨て去ってくれれば楽になるのだが。

 

『それなら、これだ!』

 

 ロックマンが再度のスタイルチェンジ。

 エレキグランドスタイルとなる――なんだ? 周囲に溶岩を張り巡らせていく。

 勿論、自身の立つ場所は開けた上で。プロトバグたちは近寄ってこれなくなっているが、これでは彼も動けないぞ。

 いや……これは、あのチップか。

 

 フォルテが右手に力を集め、プロトの頭の高さまで飛び上がった後、突っ込んでいく。

 両腕で防いだプロトはそれで動きが止まったフォルテにすかさず光線を放ち、フォルテはオーラでそれを防ぎつつ、無理やり守りを突破した隙を逃さず攻撃。

 勿論、私や二人もそれを利用しない手はない。

 ロックマンの、辺りのマグマを吸い込み火力を引き上げる噴火の如き炎弾。

 そして私は音を切り裂く、先の『トルネード』より大規模に発現した突風。

 

『マグマキャノン!』

『――ノイズストーム』

 

 フォルテとロックマンの攻撃が肉を深く穿ち、それを黒みがかった竜巻がこじ開けていく。

 そして――見えた。

 

 周囲の肉に比べて幾分淀んだ、プロトの核。

 

『逃がすか!』

 

 それがまた肉の内に潜っていく前に、足元から伸ばした鎖で繋いだゴスペルを放つ。

 そいつで核に喰らい付き、二本三本とそれを増やしていく。

 核を引き抜けるほどの力は持たないが、継続した傷にはなる。

 それに、僅かでも引っ張り出すことが出来れば、あの核を攻略するのも少しは楽になる。

 当然、そんな異常をプロト自身が放置する筈もない。

 両手で鎖を断ち切ろうとするが――フォルテがそれぞれに放った力で爆破し、行動を封じる。

 さらに核に向かって一撃。

 ――けたたましく上がった、金切り声のような悲鳴はプロトにとって初めての痛みの証なのだろう。

 

『効いてる!』

『よし――二人とも、ギガフリーズの用意を。あの核に叩き込むのが、最も有効だ』

『分かった、ロックマン!』

『うん! ギガフリーズ、実行……ッ!』

 

 あれだけ強力で、大容量な解凍プログラムだ、実行するにも時間が掛かる。

 その間、私は鎖を増やしてプロトの気を逸らしつつ、二人に集まるプロトバグを掃除する。

 

『フォルテ! 間もなくプロトへの凍結プログラムを使う! 合図をしたらプロトから離れろ!』

『……』

 

 返答はないが、聞いていないということもあるまい。

 私とて言葉を返してほしい訳ではない。はっきり言って、一緒に凍り付いてくれるならそれも良しだ。

 だが、どんなに憎い相手であっても今は共闘中だ。最低限の連絡くらいは行う。

 

 ――プロトの頭部がじっと此方を捉えていることに気付いたのはその時。

 反撃の光線が放たれる前にこの場を動こうと思った瞬間、その頭部が切り飛ばされた。

 フォルテが振るった、闇色のソードの影響だ。

 ……いや、そんなに殊勝なヤツではないな。単なる偶然だろう。

 

 鎖を十分に増やしてから、核を埋めようとする肉をもう一度焼き払って的を広げる。

 ロックマンが手元に出現させた天敵のプログラムを本能的に脅威と見たのだろう、近くにいたプロトバグも彼らの方に向かっていく。

 

『チッ……そっちのが厄介だってのに』

 

 狙いが二つになったとしてもそれぞれに分散してくれた方が、この数であれば対処しやすい。

 『プラズマボール』と『ニードルマシン』で手の回せない分を対処し、ロックマンの傍に立って辺りに炎をまき散らす。

 フォルテは完全に無視だ。こっちに気付いていないかのように、核の周りを剥がし、腕や頭部、肩に弾を撃って牽制している。それはそれでありがたいが。

 辛うじて、協力の姿勢といえるか。ヤツとしても早く片付けたい相手ではあるだろうし。

 

 行列を待てない慌てん坊のプロトバグがまだ離れたところから跳んでくるプロトバグを殴り付け、今が使い時か、と用意しておいたサブチップを使う。

 プロトウォッシャー――周辺のプロトバグを一掃し、舞台を整える。

 

『エールさん、行ける!』

『了解だ……フォルテ、離れろ!』

 

 起動して眩く輝くギガフリーズを一瞥したフォルテは、もう一度両手を破壊し離れていく。

 場は整ったか。

 

『よし、行……ッ!?』

 

 消滅させてもすぐに湧いてくるプロトバグたちを警戒しつつゴーサインを出そうとした寸前、片足が急に重くなった。

 湧きながら喰いついてくるとは、器用な……!

 

『エールさん!?』

『構わない、打ち込め!』

『う、うん!』

 

 せっかちなプロトバグの頭部を押し潰し、組み付いているものを蹴散らして脱出する。

 ……吸収効率が結構早い。足に纏っていたバグが思った以上に減っていることに焦りを覚えつつも、リカバリーで応急措置を行う。

 そうしている間に、ギガフリーズは剥き出しの核に放たれた。

 

『いっけええええええ!』

 

 その他の予想外に防がれることもなく、最高の切り札は吸い込まれる。

 ビクリと震えたプロトの核。

 淀んだ紫色のそれが見る間に白く変わっていき――核への侵食より早く、私が放った鎖が凄まじい速度で凍結する。

 

『っ……不味い』

 

 一瞬で此方の制御を受け付けなくなっていく鎖の無事な部分を即座に消失させる。

 危ないな……鎖との接続を切っていなかったら私まで氷漬けだぞ。

 白く染まる核。

 巻き込まれた私の鎖が張られたまま凍り付き、まるで槍でも突き刺さったようになっている。

 

 プロトは何が起きているかも分かっていないようだった。

 外敵と定めた私たちを攻撃することもなく、己に起きている異常の対処を判断しているうちに核は全域が真っ白になり、その後凍結は辺りの肉に浸透していく。

 自動修復が停止する。肉を伝わって、大穴の下へと氷が攻め込む。

 このまま完全な凍結を待たなければいけないが……いつまでも電脳世界にいてもいけないな。恐らくこの周辺も含めて全て凍り付く。

 核が凍結したからか――プロトバグの発生も止まっていた。

 

『……倒した……のか?』

『核は完全に停止した筈だが……全ての凍結が終わるまで様子を見なければ』

『では、終わりだな』

 

 上から掛かる声。

 これで決着と見たのか、即座に脆かった関係を切り捨てた孤独の強者が両手に闇の集ったソードを装備して、下りてくる。

 第一幕が下りた確証もないというのに、早くも第二幕が開くらしい。




3対1+αのプロト戦。
捕食の本能のみであり、ゴスペルのように暴れるという思考も持たないため、再生する的が学習していく感じに。
しかし三人に勝てる訳がないので無事氷漬けになりました。禁断のプログラムの面目躍如です。勝ったな、風呂入ってくる。

ちなみにフォルテに対し魔が差しかけてる場面がありますが、そのくらい複雑な相手という訳です。
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