バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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FINAL TRANSMISSION-3 【本】

 

 

『……事が完全に終わるまでは控えたいのだが』

『プロトが全て凍結すれば、この場で戦うことも叶うまい』

 

 シークレットエリアの暗殺者が生温いほどの戦闘狂だな、彼も。

 ロックマンが前に出る。先程までフォルテと戦っていたのは彼だ。再開するならば戦いは彼らとフォルテのものだろう。だが――

 

『共闘はここまでってことかよ!』

『そも、そのような意識を持っていたのは貴様たちだけだ。ようやく邪魔者は消え去った。あとはここが完全に止まるまでに、貴様たちをデリートする』

 

 プロトに集中したいところではあるが、それで光少年たちが倒されてしまっても困る。

 このような状況でフォルテと戦うことは避けたい。周囲の事など考えず、全ての意識、全ての神経を向けないとならない相手だ。

 ――どうしようか、と考えて、すぐに決める。

 どの道プロトは弱った筈だ。これなら万が一ギガフリーズで凍結し切れていなかったとしても――彼らが何とか出来る。

 

『光少年、ロックマン』

『え……?』

『どうしたの、エールさん?』

 

 前に出たロックマンを下がらせる。

 ここでどうあれ決着がつくのであれば、私にも意地がある。

 

『フォルテへの礼参りというなら、私が先にしたいと思ってね』

『な、何言ってるのさ! またあんな戦い方するつもりじゃ……』

『ああ、あれはしない。今回付けているのはアンダーシャツだけだ。無理やりな回復も痛覚の遮断も気持ち悪くてならない』

 

 先の戦いがどう動いていたかは知らないが、もしかすると――彼らならフォルテを倒すことが出来るかもしれない。

 であれば、彼らに先にやらせていれば、私の番が回ってこないという可能性もあり得る。

 そして、彼らと共に戦うというのも、また無しだ。

 プロトという課題に終わりが見えた今、フォルテと対峙するのは私だけでいい。

 あの時はプロト奪還に際して彼らや伊集院少年とブルースの力を借りざるを得なかったが――やっぱり、それでは駄目だ。

 

『……一度目は抗う気概さえ見せず、二度目も逃げ出した臆病者が、一人でオレに挑むと?』

『ああ、そうさ。ちなみにキミから逃げたのは三回だ。一度目はキミが覚えていないだけでね』

『――ワイリーから貴様の話は聞いた。無謀にもパルストランスミッションで戦う術を得た人間だと。我が物顔で電脳世界を闊歩する人間……ふざけた存在だ』

 

 ――そう聞かされているなら、話は早い。

 

『自覚はあるさ。人間がオペレートするナビではない。純度百パーセントの、キミが憎悪を向け得る対象だ』

 

 ロックマンを手で離れるように促す。

 彼らにも、話している。私がWWWと戦う理由。

 WWWの作戦はもう瓦解したといってもいいほどになってはいるし、あとは最も憎き個人と決着をつけるのみ。

 納得してほしい。私には、既にヤツと一対一で戦う理由があるのだ。

 

『プロトが再び動き出すか、私たちのどちらかが倒れるか。それがタイムリミットだ。異存は?』

『下らん。後者が前者に後れを取ることなどあり得ん』

『え、エールさん――だけど……』

『二人の仕事はプロトを見張ることだ。何かあればすぐに戦いを中断する。それまで――私がプロトを気にする余裕はないからね』

 

 希望としては、決着がつくまで大人しくしていることだが……プロトの力は未知数だ。どうなるか分からない。

 それでも、いざという時まで私はプロトを忘れる。

 役割と矛盾している。メチャクチャだ。それでいいとも。こういう気持ちは、整理するものなのだ。

 二人の答えを待たずに、チップを利用する。

 明確な、フォルテへの宣戦布告。

 彼が纏う再生を可能とするオーラとは別の、ようやくドリームウイルスから抽出することに成功した『ドリームオーラ』。

 再生することはないが、チップ化したこれの耐久値は彼らが纏うものを上回る。

 

『キミのように年月を積み重ねた訳ではないが、私はキミが憎い。キミのそれとぶつけ合えると確信している、強い感情だ』

『繋がり一つを失った程度の憎しみでオレと戦うか――笑止! そのような生温く小さな感情、オレが踏み躙ってくれる!』

 

 憎悪を交差させる。フォルテのそれが一際強くなった直後、その姿は目の前に迫っていた。

 両手のソードを受け止めるのは『シラハドリ』。

 ソード系統の不意打ちを防ぐ罠により初撃を防ぎ、速度を重視した『ビーアロー』でそのオーラを穿つ。

 小さくとも綻びが生まれれば、一度オーラは解除される。

 すかさずバグイーターを放ち、迎撃のためにフォルテが光弾を放ったタイミングで足元から鎖を伸ばし拘束。

 光弾をオーラで防ぎ――ダメージはなくとも衝撃が体の奥にまで伝わる感覚を不快に思いつつ、次の一手を用意。

 

『小細工を!』

『そうしないとキミに迫れないものでね』

 

 力を己の足元に叩き込み、多少の傷を無視して鎖を粉砕するフォルテに、ジャミングアイを浴びせる。

 鎖が剥がれたばかりの足を包む結晶は、彼の力任せな速度を緩めるには至らないかもしれない。

 だが――飛行を封じることは出来る。

 上空は私も対処のし難い場所だ。こうして、地に足を付けて戦わなければ、万に一つの勝ちも得られない。

 

 重さに気付いたのだろう。より鋭い視線を此方に向け、その場からの攻撃を選んだフォルテに『ノイズストーム』で対抗。

 このチップが出来た経緯は不明だが、私から見れば随分イカれた効果を持っているといえる。

 使用者の身に発生しているバグの密度に反応して規模を広げる突風。

 この姿はバグの塊だ。発現する威力は通常のナビを意図的にバグらせても不可能な域にある。

 フォルテの力の嵐とぶつかり合う竜巻はフォルテまでは届かず、辺りに吹き荒ぶ。

 両者の間の暴風の壁を突き破ってくることを、分かっていた。

 右手にエネルギーを集めて突っ込んできたフォルテに、意趣返しのように対応する。

 纏ったソードの重みは、正直私が振るうに適していない。

 普段私がソード系のチップをメス状に変換して使っているのはそのためだ。

 だが、今回ばかりは別だ。最大威力を発揮するため、右手に装備し本来の刀身を維持する。

 

『――オオオオオォォ!』

 

 世界を砕かんばかりの一撃の直前に、その腹にソードを突き刺し、直後に襲い来る衝撃を正面から受ける。

 

『ぐぅ――――っ!』

 

 体の中がかき回されるほどの衝撃と共に、『ドリームオーラ』が粉々になる。

 十分だ。フォルテが操る攻撃の中で最もシンプルかつ強力な今の攻撃を一度だけ防げただけで、役目は果たしたと言える。

 突き刺したソードをそのまま横に払い、切り裂く。

 そのチップの代償が、体の表面を蠢き始める。ざわざわと外装が抑えられない衝動を訴える。

 ああ――うるさい。探すな。この体にはコレが侵すようなプログラムなんぞ備わっていないというのに。

 仕方ないか。これが私が使ったチップの代償。

 一人の存在が持つには大きすぎる力を、復讐の刃として選んだのだ。どうせ効かないとしても、甘んじて受けなければ。

 

『く……その力は』

『私はどうしようもなく弱いからね。力の選り好みはしていられないんだ』

 

 構築難易度の低いプログラムアドバンスに匹敵するほどの威力をたった一枚で実現させるチップ。

 ウラの住人であれば誰しも噂くらいは聞いたことのあるものだろう。

 近年、ウラがオフィシャルにより警戒されるようになった理由がこれだ。

 使うつもりはなかった。だが、先の戦いとこれで、フォルテに対して二度、私は使った。

 追撃から逃れるためか、フォルテが一度距離を離す。

 一度激突が終わったと見たのか、ロックマンが駆け寄ってくる。

 

『エールさん!』

『プロトに何か?』

『い、いや、そっちは大丈夫だけど……大丈夫なの!?』

『問題ないよ。プロトを見ていてくれと言っただろう。心配してくれるのはありがたいのだが、あっちが何か起きた時、キミが頼りになるんだ』

 

 ――邪魔をするなと、言外に告げる。

 距離を開けている間にフォルテのオーラが蘇る。

 

『……下らんな。所詮借り物の闇だ』

『借り物だろうと何だろうといいさ』

 

 いい加減あれは邪魔だ。ちょうどカスタム領域にやってきたチップを即座に使用する。

 

『……何?』

 

 電脳世界に吹く筈のない風がやってくる。

 それは私の後方から。追い風の如く吹いてくるそれはナビでもウイルスでもなく、特定のチップに作用する。

 私が使っていたものはフォルテによって破壊された。であれば、いつまでも彼だけに纏わせておくのも癪だ。

 やがて強風へと変わったそれはヤツのオーラを――それを纏う機能ごと霧散させる。

 バリアやオーラを、耐久値に関わらず消失させる『スーパーキタカゼ』。これが吹く間は、どちらも下手な守りは使えない。

 数枚のチップもあれば十分対処できるバリアチップや、そもそも殆ど見かけないオーラチップの対策チップである以上、ウラでもそうそう見かけないほど絶対数の少ないチップだ。

 こんなものがまさか有効に使える日が来るなんて――そんな感慨を抱いている暇などなかった。己の守りが剥がされた驚愕による僅かな硬直を突くように放った『ラビリング』が、その無防備を延長させる。

 

『チッ……オレがそのようなチップに――!』

『基礎は大事ということだよ……ッ!』

 

 距離を離したのなら、それを詰めるための時間を確実に作ればいい。

 麻痺したフォルテに接近するのに、『エリアスチール』の必要はなかった。

 闇の刃を振るった以上、その存在に敵から逃げることは許されない。

 外装が先走るかのような衝動に応じ、足を動かす。普段の私では出来ないような高速移動で、フォルテと距離を詰める。

 

『さあ、次だ!』

『ぐ、ぅぅ――ッ!』

 

 闇から生まれた螺旋。

 先のソードを超える重みのドリルをフォルテに叩き込む。

 それは一回転ごとに敵を粉砕し、引き裂いていく。小手先の防御を打ち崩し、壁の先にどんな未来が待っていようと使い手に従いその道を切り拓く。

 そして――回転と同時に外装が軋んでいく。

 私が纏うそれと共存できない代償であちこちが罅割れ、立っている足場にまでバグが侵食していく。

 螺旋で再び離れていくフォルテに、もう一枚で追撃。

 それまでの二枚と同じく、闇色の一撃。

 津波の如き水流は離れたフォルテの回避を許さず、その芯をも貫いていく。

 

『逃げるな――』

 

 黒い水流を追うようにバグイーターを放ち、フォルテに喰らい付く。

 申し訳程度の体力の回復。さらに手元に生成したゴスペルの口を開かせ、バグを変質させたエネルギーを充填させる。

 

『勝たせてもらうぞ、フォルテ』

『図に乗るな……人間!』

 

 フォルテが放った力と、私が放ったゴスペルの火炎がぶつかり合う。

 彼に炎は届かなかったが――私もフォルテの力からは逃れ、巻き起こる爆発を突き抜けて迫るフォルテへの対策を急ぐ。

 

『砕け散れ!』

『お断りだ!』

 

 ここでようやく切った『インビジブル』で、破壊を纏わせた手を躱す。

 足場であるプロトの肉に罅を入れ、粉砕したフォルテの後ろに回り込み――勝つための一手を切る。

 溜め込んだエネルギーをそのままに振り返り此方に叩き付けようとしてくるフォルテよりも、反撃の一枚は早い。

 その懐に踏み込んで、()()()を突き立てる。

 

『がっ――――貴様――!』

『キミを倒すために、手段は選べないんだ――何度だって、使ってやる。使わないと、私ではキミには勝てない!』

 

 フォルダのチップは一つの戦いで一度しか使えない。それはネットバトルにおける大原則だ。

 そのルールの原則を無視することが出来るチップが、たった一枚だけ存在する。

 

 ソードを突き刺した状態で更にチップを使用。

 先程よりも更に勢いを増した『ノイズストーム』が、フォルテを切り裂いていく。

 風が切る音の中で、何かが囁く声がする。

 ……侵すプログラムも無いというのに。幻聴だ。そんなもの、都市伝説に過ぎない。

 何が、ナビを更なる闇へと誘う囁きか。他でもない私にだけは、そんなものはあり得ない。

 

『だから――何度でも。何度でも、何度でも!』

『ッ、この……っ!』

 

 闇のドリルを、闇の水流を、叩き込んでいく。

 ミシミシと外装が軋み、罅がより広がり、肌を這うような気持ち悪さが増していく。

 それだけだ。湧き上がる衝動は、外装に戦いを強要しようとするチップの残留効果による錯覚に過ぎない。

 ――うるさい。私の復讐の邪魔をするな。

 再度、原則を破る。攻撃でも防御でもない。しかし、何度でもフォルダの“やり直し”を可能とするという特殊過ぎる効果によりギガクラスとなったチップの名を、『フォルダリターン』。

 使用したフォルダが再び待機状態に戻り、即座にカスタム領域を開くことを可能とする『フルカスタム』の効果を有した一枚。

 そして、一度でも使えば同じ闇を優先的にカスタム領域に呼ぶ性質から――連続的にその力を振るえる。

 

『ここで終わらせる! アイツの仇を! ここで取る!』

 

 再度発現させた、闇の刃。

 追い込んでいる。フォルテをあと一歩まで追い詰めている。

 しかし、それでもヤツはまだ倒れない。最強の名は、決して伊達ではない。

 ならば倒れるまで刃を振り続ける。フォルダに入れた三枚の闇を何度でも使い回す。

 他のことなどどうでもいい。ようやく訪れた、この時だ。これで――

 

『――よく分かったぞ、貴様のことが』

 

 その刃を躱されたと認識した直後、首に衝撃が走った。

 大きな損傷を負い、データを散らすフォルテの顔が、目の前にあった。

 ならば、一度攻撃を止めるだけ。『インビジブル』で退避しようとした直前。

 

『復讐を掲げて振るった闇がこの程度か。見苦しいな、紛い物』

『――なにを』

 

 フォルテから放たれた言葉に、判断が止まった。

 

『貴様如きが憎悪を語るなど、虫唾が走る。憎み方も知らない人形風情が――オレと張り合おうなどと!』

『っ!』

 

 ――悍ましいほどの感情が、叩き付けられる。

 それに感じたモノが致命的であったと知ったのは、カスタム領域から残る二枚の闇が消滅したあと。

 

『所詮貴様が抱ける真の感情などその恐怖だけだ。復讐が生む闇とはもっと深く、強い。身を以て知れ、紛い物!』

 

 抑えていた、或いは麻痺していた感情が、その瞬間湧き起こされた。

 フォルテが今私に向けているのは、弱者への侮蔑ではない。

 怒りと憎悪――しかし、彼の根源である人間に対するそれではない。

 

 ――――そんな感情を持つに値せぬ紛い物が憎悪の真似事をするな――――

 

 首にもう片方の手が添えられる。

 息苦しさを感じる間もなく――私が本来彼に持つべき、恐怖が満ちて、闇が爆発する。

 

『――ダークネスオーバーロード!』

 

 フォルテが持つ闇の最大出力。闇という力を持つに相応しい、真の憎悪。

 見たこともない、見たくもなかった、絶対的な闇。

 それをもって――私は確信した。

 ――私では、その憎悪の怪物には、絶対に勝てないと。

 

 ああ――怖い。

 やっぱり駄目だ。私にはこの恐怖はどれだけ経っても克服できないし、そうである以上絶対に勝つことは出来ない。

 恐怖に怯える者に、あのチップたちは力を貸さない。

 ゆえに、ここからの逆転は不可能。

 試すことすら、私が使った闇は許さない。

 体を駆け巡るそれは、果たして痛みと称するものなのだろうか。

 圧倒的なその力は私の体をいとも簡単に呑み込み、蹂躙する――手に持っていた“それ”も当然のように巻き込んで。

 

 全身から力が抜ける。空間が歪むほどの闇の蹂躙が治まっていく。

 首を掴んでいた手が離された。倒れていく体――一瞬先を行くフォルテの理解できないという表情に、一本取ったことを確信した。

 

『……言った、だろう? 借り物でも良いと』

『――――』

 

 いつの間にか、手元にあった因果応報の人形は消えていた。

 既に宣言はしていたぞ。この場で発現できる最大の闇を、借りてやった。

 フォルテが放った闇は私のみならず、『ワラニンギョウ』まで巻き込み、小さな人形は呪いとしてダメージを反射したのだ。

 倒れ込んだフォルテを見届けてすぐ、私も続く。

 闇の囁きは、もう聞こえなかった。




憎悪と憎悪のぶつかり合い。プロトの前で何やってんでしょうねこの二人は。
大前提として、エールではフォルテに勝てません。これだけ借り物の闇に頼り、本人のそれまで使ってようやく相打ちです。
しかし相打ちを判定勝ちに持ち込むことなら出来る。そう、アンダーシャツならね。

使っていた闇の力に関しては、もう少し先で過剰なほど出てくることになるのでまだ名前は出さないです。
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