バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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ロックマンエグゼの二次創作自体数えるほどしか知りませんが、その中でも一風変わっているだろう本作の独自要素のお披露目回。


一人で二人の、-1 【本】

 

 

 その地鳴りでこの部屋の罠を把握し、これならば問題ないとプライド様に駆け寄る。

 少なくともすぐさま私たちに被害が及ぶようなものではない。

 だから落ち着け――プライド様は無事だ。

 

「プライド様、お怪我は?」

「え、ええ……大丈夫ですが、ナイトマンが……」

 

 PETを見てみれば、ナイトマンがダメージを受けていることが分かる。

 それが、被害者を演じるためであることは明白。

 プライド様自体にも怪我はないようで、ひとまず安心する。

 

「二人とも! 天井が!」

 

 光少年が言うように、この部屋の罠は天井にある。

 時間経過で迫ってくる天井。先の矢とは違い、攻略に時間制限を有するもの。

 

「ナイトマンは回復が必要だ――光少年、恐らくそこのスイッチだ。任せても構わないか?」

「やるしかないか……! ロックマン、速攻で決めるぞ!」

『うん!』

 

 プライド様のPETを私のPETと繋ぎ、治療プログラムを起動する。

 それと同時に、この場にいない者たちに通話を繋ぐ。

 

「――此方はエールだ。プライド様と合流した。現在私はプライド様のナビの回復を行っており、光少年が部屋の罠の解除を担当している」

『了解した。私も罠の解除を進めつつジョンソンを捜索しているが、状況は芳しくない。皆、十分に気を付けてくれ』

 

 ひとまずプライド様と合流した旨を告げ、後はナイトマンを万全の状態にするのに集中する。

 天井が迫る速度はそこまでではない。

 五分ほどは猶予があるが、時間制限は対処する側に焦りを生ませる。

 光少年とロックマンが冷静に対処できれば、攻略は難しくない筈だ。

 

 とはいえ、この先もその調子で進むことが出来て、地下を脱出できるかは分からない。

 だが、最後まで見届けることは出来ない。

 仮初の味方である時間もそろそろ終わらせよう。

 

「よし、解除完了! 天井はもう大丈夫だ、二人とも!」

「ありがとうございます……! では、急ぎましょう。エール、肩を貸してください」

「どうぞ。――光少年、向こうへの扉ももう開くだろうか」

 

 光少年に悟られないように、別の罠を起動する。

 プライド様に肩を貸し、立ち上がる。そうしている間に、光少年は先への扉を開け、その先へと一歩踏み出していた。

 

「こっちも問題なし! 行けるよ!」

「完璧だ。では、いまそっちに――」

 

 ――行くことは、ない。

 私たちと光少年を隔てて、扉が閉じられる。

 彼が何を言う前に大きく部屋が揺れ、天井が床に叩き付けられた。

 向こうからは何も見えまい。彼らが現在彷徨っている地下通路より更に一階層下にある、罠も何もない、城の上層へと繋がる通路に私たちが移動したなど、想像すら出来ないだろう。

 かくして私たちは脱出を目指す面々からは脱落する。ここは私たちが示し合わせて上へと上がる経路として選んでいた場所だ。

 外からの電波は遮断される用意を施してあるため、オート電話は繋がらない。

 光少年からすれば、私たちはPET諸共天井に圧し潰されたように思えるだろうか。トラウマにはならないでほしいが。

 

 しかし心臓には聊か悪いな。

 天井が落ちると同時に床が下がる、エレベーターのような動き。

 だが勢いはエレベーターとは段違いだ。故障して落下したそれは、多分こんな感じなのだろう。

 

「……、立てますね? プライド様」

「ええ――」

 

 別に怪我などしていないプライド様が離れていく。

 ……若干の名残惜しさを感じつつも、ナイトマンに素早く処置を施し、PETを返却する。

 

「さて、我々は脱落しました。罠のレベルを引き上げます。速やかに残りの連中を始末しましょう」

 

 元々、矢の罠は足元を攻撃し警告するようなものではない。

 本来狙うのはもっと上――標的の頭部を確実に穿つものだ。

 天井が落ちる罠、あれもあんなにゆっくりとしたものではない。対処の猶予など与えない本来の性質は、先の私たちが脱出に使った部屋がその一端を見せている。

 何が侵入者撃退プログラムだ。その実態は殲滅システム、そうでなければ、暗がりとなっている部屋の片隅にかつて人だったものなど転がっていない。

 ゴスペルが利用するのも頷ける。現代においてこんな危険なものを残しているのだから、悪用するのも当然だ。

 

「……」

 

 プライド様の表情は優れない。

 ――罪悪感がありますか、などと、聞くまでもない。

 本来のプライド様は、ただ国を想う優しい人だ。それを他国の傲慢が歪め、ゴスペルに利用された。

 こうすれば復讐が叶い、クリームランドが復興する? 馬鹿を言うな。プライド様が望む結末になどなる訳がない。

 

「――プライド様、ナイトマンのオペレートは出来ますか?」

「え? ……ええ、勿論」

「それなら、最後の砦をお願いします。露払いをするのは私が。しかしこれで全滅するようなヤワな連中だとは思っていませんので」

 

 最後には誰かが罠を止めるため、今から私たちが向かうメインコンピュータの前までやってくる。

 言わばそれが最後の試練。クリームランドが誇るプライド様とナイトマンは、そこに立ちはだかるのが相応しい。

 

「エール? 何を……」

「ジョンソン氏を手に掛けたのは私が調整した罠です。今から何人脱落するにせよ、それも私がやったことです」

 

 ……むぅ、難しいな。

 気にしないでほしい。気楽にやってほしい。今言うべき言葉ではないとはいえ、言外に告げるのは難解だ。

 一年のうちであまり会うこともないとはいえ、友人という間柄――だと思いたい――なので伝わってほしい、伝わっててくれ、と願いつつ、続ける。

 

「汚れ役は私の得意分野です。細かいことは私に任せて、プライド様はどんと構えていてください」

「……、――わたくし、貴女にどう返礼したらいいか……」

「それなら、事が終わったら、どうか私の行為を肯定してください。今回の件を通して、プライド様に失望されないか、不安で仕方ないんです」

 

 ええい、小っ恥ずかしい。それに、より地下に来たからか、暑くてしょうがない。ゴスペル許すまじ。

 

「……それはわたくしの台詞です――が、分かりました。ありがとうエール。少し気が楽になりました。最後の砦は、請け負いますわ」

「お願いします。勿論私も力を尽くしますが、ぶつかり合いはナイトマンに任せるしかないので」

「ええ。誰かを守ることに関してならば、ナイトマンは誰にも負けません。ですよね?」

『は。姫の命とあらば、この身、朽ち果てることはありませぬ。エール殿、全霊をかけてお守りしましょうぞ』

 

 私のほかにただ一人、今回の事情、今回の計画の全てを知っているナイトマンは、厳かに頷く。

 事を上手く運ぶためには、ナイトマンの協力は必須だ。

 彼と私には特別な関係はない。だが、プライド様を案じる身として、互いに信頼し合っている――と思っている。

 ゆえに、全てを話した。プライド様には内密に、この悪巧みの協力者となってもらった。

 彼のやることはただ一つ。この先に待ち受けるだろう戦いに、全力を出すこと。

 その先で、プライド様の思惑とはだいぶ違えど、少なくともゴスペルに従うよりは良い未来が待つはずだ。

 

 

 メインコンピュータの部屋からは、城の外が見えた。

 無駄に暑いがクリームランド同様に歴史を感じさせる街並みを展望できるロケーションは中々に悪くない。

 もうじき、タイムアップだ。そうなれば全ての罠が一斉に起動し、地下の制御プログラムによる制御を受け付けなくなり、彼らは地下に閉じ込められるだろう。

 しかし、そんな興醒めな幕引き、何より私が望んでいない。

 

「……来た」

 

 ドタドタと、焦りを感じさせる足音。

 部屋に飛び込んできたのは――少し意外だな、片方なら順当だが、あの二人がペアでやってくるとは。

 

「日本の未来は安泰だな。オフィシャルの有望株と世界を救った市民ネットバトラーか。キミたちを送った日本の判断には感嘆する」

「ッ、お前たち二人がゴスペルのネットバトラーだったのか!」

「二十五点だな。私はネットバトラーじゃないと言っただろう。まだ一時間と経っていない自己紹介を忘れないでくれ」

 

 驚愕からすぐに表情を怒りに変え、光少年が叫ぶ。

 プライド様には、ここでの会話は任せてほしいと頼んである。

 光少年だけならまだしも、ここには大変厄介な若きオフィシャルがいる。詰めは確実な方が良い。

 

「散々手こずらせてくれたな。だがもう逃げ場はない。大人しく制御プログラムを解放しろ」

「交渉、或いは命令でどうにかなると思っているなら、その考えは捨てるがいい。ここまでした者の往生際が良い訳がないだろう?」

 

 光少年とは違い、あくまでも冷静に、淡々と私たちに降伏勧告をする伊集院少年。

 ――この誰が裏切り者かもわからない極限状態ならば、彼らが潰し合う可能性もあったと思うが、甘かったようだ。

 

「これがこの城のメインコンピュータだ。この中にプライド様のナビ、ナイトマンがいる。それに今回は私も参戦しよう。ロックマン、それからウラの死神も名高きブルース。二人で掛かってくるがいい」

「な……ネットナビは持ってないんじゃなかったのかよ!?」

 

 ああ、その疑問は尤もだろう。

 私のPETにはナビなどいない。それは光少年に先程見せた通りだ。

 

「……いや。ウラインターネットでヤツのナビに関する証言は度々聞く。ナビがいないというのは――」

「本当だよ」

 

 伊集院少年の言葉を遮り、断言する。

 私にナビはいない。世界中のインターネットの何処を探しても、私が所有者となっているナビなど存在しない。

 これは決して嘘ではない。プライド様に誓って、真実である。

 

「ナビなど持っていない。だが、よくあるだろう? 何かと、自分のナビを登録しないとならない状況。それからインターネット上で受ける依頼。そういう時、独り身だと都合が悪いんだ」

 

 PETに入った、パスワード付きのフォルダを開錠する。

 中のプログラムを実行すると――PETから私の腕を通じ、頭まで伝わった信号が、パチリと弾ける。

 プライド様に目を向ける。彼女はやや硬い表情で頷いてきた。

 

「そういう時のためのナビの代わりならある。ウイルスより弱いが、ウイルスより使いやすい(アバター)がね」

 

 自分と自分を切り離す。

 裂くような衝撃が頭を駆け巡り、頭からPETへと至るまでにデータへと変換される。

 

「という訳で、不肖私がナイトマンを補佐しよう。退屈はさせない筈だ」

 

 無力なもう一人の私が、マシになるための皮を纏う。

 この手法が出来る。私が腫瘍に触れることが出来るからこそ、私は自信をもって、名乗ることが出来るのだ。

 

「――解凍、エールハーフ.EXE。パルストランスミッション」

 

 PETからメインコンピュータに向け、赤外線が射出される。

 それに乗って電脳世界へと突入するのは、私から切り離した(1/2)

 全身を白で固めた仕事着を纏った私が電脳世界に降り立つのをPETを通して確認する。

 

「意識の分割、アバターとのシンクロ。やったのはそれだけだ」

『ほら。ナビなんていないだろう? 光少年、伊集院少年?』

「……自分自身を、電脳世界に送るだと……? 貴様、一体――」

 

 伊集院少年の驚愕に、何度でも言ってやると胸を張る。

 もう一つの世界に立つ私もまた、声を合わせて、告げる。

 

 

 ――医者(デバッガー)だ。




・パルストランスミッション
登場は3。人間の脳波をデータ化し、電脳世界に送り込む技術。頭がおかしい。
オペレーターそのものがデータ化するため、本来は難しいナビとのフルシンクロも難易度が下がる。
本作、エールが利用するそれは同名ではあるものの、厳密には違うもの。
今後掘り下げるためまだ深くは言えないものの、二重人格というよりは分裂。
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