バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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ソウルの呼び声-1 【本】

 

 

『モンキー、もう一度だけ手を組もう。レネチアを……いや、世界を救うために!』

『仕方ない! やるぞ、ドッグ! 俺たちならやれる! 今日だけはライバルじゃない――かつてレネチアの嵐を払った最強コンビだ!』

 

 その日予定していた依頼を終えた私は、のんびりと午後を過ごしていた。

 特にやることもなく、なし崩し的に決まった映画鑑賞タイム。

 レンタルサービスで借りて、ここ数日で鑑賞していた『ウィザードッグ』を原作とした映画シリーズもようやく最終作。

 場面はクライマックス。第一作で倒した因縁の相手である魔術師との最終決戦を繰り広げるウィザードッグとウィザーモンキーは、普段喧嘩ばかりの仲であることを感じさせないコンビネーションを発揮している。

 

 ……大したものだな。原作の『ウィザードッグ』はあくまでも絵本だ。

 水の町レネチアに住む魔法使いのウィザードッグとウィザーモンキーは、卓越した魔法の腕を持っていたが、仲が悪くいつも喧嘩ばかりしていた。

 しかしある時二匹が手を組まなければならない事態が発生する。

 悪の魔術師の襲撃。二匹は魔法を使って戦おうとするも、魔術師は二匹の魔法を封じることでただの動物へと変えてしまう。

 危機に陥った二匹だが、魔法を失ったその時、動物としての本能が目覚め、見事なコンビネーションで魔術師を撃退する。

 結果レネチアには平和が戻ったものの、二匹が争う毎日もまた戻ってきた――そんな、そりの合わない者同士が一つの危機に対して手を取り合う物語。

 あの中で紡がれる物語は映画の一作目で終わり、その後の戦いをここまでのクオリティで作り上げるとは。

 

 二匹の協力魔法で魔術師は今度こそ倒され、本当の意味の平和がやってくる。

 そしてモンキーは修行の旅へ。レネチアに残り町を守ることを決めたドッグは、いつかの再会を誓ってその背中を見送る――という形で物語を終える。

 ふむ……この映画作品がシェロ・カスティロに採用されないのは少々勿体なく感じるな。

 あれは原作の絵本をモデルにしたものだから仕方ないが。確かに、この映画は絵柄はコミカルでも少しだけ対象年齢が上がったものになっている。

 子供から大人までが楽しめるテーマパークの題材としては難しいのだろう。

 ……いや、そんなことを言ってしまえば『ブリキング』が使えなくなるな。あくまで基本は絵本の世界、ということか。

 

『まあまあね。暇潰しにはなったわ』

『……』

 

 せっかくだからと、二人を置いているパソコンで再生していたが、それなりに楽しんでいたようなので何よりだ。

 アイリスも――要所要所の反応を見る限り退屈していた訳ではあるまい。

 

『……これで、終わりなの?』

「そうだね。続きはこれを見た我々が想像するしかない、ということだ」

『想像する……』

 

 うん、間違いなく、退屈ではなかったようだ。

 レヴィアはともかく、アイリスはここまであまりこうした娯楽に触れては来なかったのだろう。

 となると、そもそも原作の『ウィザードッグ』を知らなかったりするのか? 今度電子媒体をダウンロードしてこのパソコンに置いておこうかな。

 

『次の日本行き、これのアトラクションがある場所なのよね?』

「正確には原作の絵本の、だがね。シェロ・カスティロというテーマパークだ。一週間ほどで帰ってくるが、来るかい?」

『貴女が日本に行って予定通りに帰ってくるとは思えないのだけど』

「ここ二回がそうだっただけじゃないか」

 

 それにその二回とも、ゴスペルとWWW絡みで予定が狂ったのだ。私のせいではない。

 予定通りとそうでない時であれば前者の方が多いぞ。

 

『ま、私はいいわ。一週間って言うなら二週間以内には帰ってくるでしょうし』

「ありがとう。信用がなくて嬉しい。アイリス、キミはどうする?」

 

 レヴィアが来ないというのであれば、専用のノートパソコンを持っていく必要はないな。

 では、もう一人の、レヴィアより百倍お淑やかな居候殿はどうか。

 暫く考え込んでいたアイリスは、やがて頷く。

 

『……つ、ついていっても、いい?』

「構わないよ。PETになってしまうが……」

『ええ……それでいいわ』

 

 私のPETはパルストランスミッションに対応した、特別製だ。

 色々と機能を拡張している分、ナビ用の空間も広い。窮屈なことはないだろう。

 ……実際にアイリスをインストールする訳ではないが、ここを提供して、ナビと共に行動するというのは初めてになるな。

 WWWとの戦いで荒駒少年のキングマンを招いたが、あれはPETをバイパスにしただけだし。

 

「……」

 

 さて。アイリスを連れていくとして――問題が一つあるな。

 空港では一度PETを手放さざるを得ないということ。

 防犯の関係上飛行機内にはPETを持ち込むことが出来ない。一度係員に預け、着いてから返してもらうという形式になっている。

 これまでは気にしないでいたが……アイリスが入っているとなると話は別だ。

 我が家の居候であり、何かしら事情持ちである以上、彼女が入ったPETを手放すという行為には心配が残る。

 抜け道は……あるにはあるが、あれを彼女に教えるのは避けたいし……どうしたものか。

 オフィシャル権限やらで発行できる許可証があればPETの持ち込みも出来るんだがな。国からもそこまで許可されるような証明書は貰ってないし。

 いっそのことプライド様に一度頼んでみようか。あまり国を頼りにすることは避けたいが背に腹は代えられないか。

 

『エール、何を悩んでいるの?』

「ん? ああ……アイリスをPETに招くとして、空港で一度PETを預けるのが懸念でね」

『別に向こうに着いてからホテルなりなんなりで迎えればいいじゃない。日本くらい私が送るわよ』

「……」

 

 そこまで悩む必要があるのか、と言わんばかりにレヴィアは言った。

 確かに――それが可能なのであれば、手っ取り早いのだが。

 ウラを経由したルートなら国外へのアクセス権限も必要ないし。ちなみに完全に違法である。

 

「ありがとう、それなら頼むよレヴィア。ところでキミ、ダークチップでも使ったのか?」

『貴女が私のことをどんな風に思っているか、アイリスが来たことでよく理解できたわ』

 

 戦いと、己の執着することが関わらなければ――付き合いは悪いが面倒見は良いという奇妙な性質の第一居候。

 そんな彼女のおかげで問題も解決した。これなら日本行きもいつも通りになる。

 レヴィアと同じく、プライド様も“また何かあるのではないか”とかなり疑心暗鬼に陥っているようだったが――それを心配していては何処にも赴けなくなる。

 旅行ならまだしもこれは仕事。私の成すべき存在意義だ。

 まあ――そんな大層なことを考えずとも、三回連続などありはすまい。

 今の私はそう、呑気に考えていた。

 

 

 

 日本行きが近付いてきたある日の夕方。

 私は久しぶりに光少年から連絡を受け、ホームページにロックマンを招いていた。

 最近毎日のように“もう少し安く”と言い寄ってくるダークチップ絡みの案件でないだけ歓迎できる。

 というかウラの連中ダークチップ使いすぎだろう。もう少し自制心を持て。あと使うなら使うで私に泣き言を零すな。

 

『ほう。スタイルチェンジの機能が壊れたとは聞いていたが……』

『うん、それで空いたメモリに、新しく保存されたんだ』

 

 プロトとの戦いでスタイルチェンジ機能をオーバーロードさせた結果、案の定機能が壊れてしまい修復困難になったようだ。

 あの機能自体、ゴスペル事件の折にアジーナの秘宝たるチェンジ.batを応用して組み込んだものらしく、既にアジーナに返却されているらしい。さらっと話されたが何をしてるんだこの二人。あそこの国王は温和だが甘い人物でもないぞ。よく国際問題にならなかったな。

 ともかく、元のデータが無い以上光氏でも修復は難しく、破損データを残しておいても負担にしかならないため削除が行われた。

 そうして空いたメモリだが、そこに新たなデータが生まれた、と。

 最初は光氏に調査を頼んだものの、どうやら非常に重要、かつ緊急の仕事があるようで今は調査が出来ないとのこと。

 それで次に此方に回ってきたようだ。

 

『そのデータはどういう経緯でインストールされたか、分かるかい?』

『えっと……デンサンシティでネットバトルの大会があったんだけど、そこでバトルしたナビのソウルと、ボクのソウルが共鳴した時、かな』

 

 ――ソウルが、共鳴?

 ともすれば、他のデバッガーであれば一笑に付すかもしれない。

 勿論、通常のナビにはあり得ない。あり得るとすれば特別にそのような機能を持たせるか、或いは、彼のように特殊な成り立ちの構造をしているか。

 

『レヴィア、ちょっと体を貸してくれ』

『発言が危ないわね。家賃があれだけじゃ足りないってこと?』

『そういう意図はない』

 

 ホームページ内ではあるが、一応護衛として此方に来てくれているレヴィアと余計な軽口を交わし合ってから、近付いてきた彼女のメモリを確認する。

 それをロックマンのメモリのデータと照会して――間違いないな。これが、スタイルチェンジに代わる彼らの新たな力か。

 

『エールさん、何か分かる?』

 

 どこか不安げな光少年の声。まあ、恐らくはこれまで経験のなかったことだろうし、不安にも思うだろう。

 

『ああ――まずこれは、ロックマンに悪影響を与えるものじゃない。他のナビとの魂の繋がりを証明するものだ。普通のナビにこのデータが生まれることはないが……彼が特別なことはもう知っているからな――彼の潜在的な力が新たに生んだ可能性だろう』

 

 はっきり言って、ロックマンというナビはブラックボックスの塊なのだ。

 彼が、光少年の兄――光彩斗と密接な関係にあることは知っている。

 確信に至っている訳ではないが、一つの、可能性の高い推測も存在する。

 それが正しければ、彼の心を構成するプログラムは冗談ではなく無限の可能性があるのだ。

 ここで発現したのはスタイルチェンジ機能の削除によってメモリが空いたからだとして、後天的にソウルの共鳴という機能を取得しても納得は出来る。

 

『ロックマンの、新しい可能性……』

『他のナビとの絆が力の源となったものがそのデータだ。今はこれだけしかないが、今後他のナビとも絆を深め、ソウルを共鳴させることでより多くの力を得られるだろう』

 

 とはいえ、それを得たとしてもそれだけで直接的な戦闘能力の増加に繋がる訳ではない。

 勿論、精神的な支えの一つとはなるだろうが、スタイルチェンジに代わるものと考えるとそれでは不足だろうな。

 

『絆の力……エールさん、どうやって使うの?』

『これ単独では使うことは出来ない。このソウルのデータを参照して起動するためのプログラムが必要だな。心当たりのあるものはあるかい?』

『……ううん。このデータ以外には、新しいものは無いと思う』

 

 ふむ。得られたのは力の源だけで、それを読み取るためのものがないのか。

 まあ、彼らのことだ。もしもそんなものがあればさっさと試していてもおかしくない。

 光氏に頼めばすぐに利用できるようになろうが――彼が忙しいというなら、私がやっても構わないか。

 

『――なら、良ければ作ろうか? 暫く時間はもらうことになるが』

『え、いいの? でもオレ、そんなにお金とか持ってないよ?』

『デバッグの依頼という訳でもないし、必要ないさ。面白いものを見せてくれた礼ということにしておこう』

 

 ここまで来て、依頼料が足りないから駄目と突き放すことも憚られるし。

 いや、これがまともな依頼なら譲ったりはしないが、そうでない以上私が彼から取るものは存在しない。

 どうせ依頼に関わっていない時間は新しいチップのデータを組んでいたりしているのだ。やることは変わらない。

 

『……えっと。それじゃあ、お願いして良いかな?』

『ああ。完成したら連絡しよう。そうしたら、すまないがまた来てくれ』

 

 そう言って、一度ロックマンを帰す。

 流石に数分でそんなプログラムを組むなど不可能だ。私もこの形式のデータを持っている例なんて一人しか知らない訳だし。

 

『随分なサービスね、エール。よっぽど入れ込んでいるみたいじゃない』

『ここ一年でこれだけ関わっていればね』

 

 まだ知り合って一年経っていないとか普通に信じ難いぞ。

 しかも丸々二ヶ月はプロトの内部に幽閉生活だった訳だし、私が無事な期間を考えると物凄い密度だ。

 ……その間にゴスペルとWWWの事件があったというのがおかしいのか。光少年からすれば、この一年でWWWと二度も戦っているのだ。凄まじい一年だぞ。

 この四月に彼は小学校の最高学年になったらしい。小学校最後の一年間くらいは平穏だと良いのだがな。

 

『しかし……まさかソウルの共鳴とは。キミ以外にそんな芸当を出来る者がいたとはね』

『私のそれとはまたワケが違うでしょ。ま、どうせなら使えるようにしてあげなさい』

 

 他者のソウル――音色との共鳴。

 それを己の力と出来る者は、ここに一人いた。

 私が措置をするまでもなく最初からそれを操れる機能を有したナビである彼女は、かつてとある存在とソウルを共鳴させた。

 ただし、それは彼女にとって振るうべき力ではない。

 かつてを忘れないための――一つの思い出なのだ。




この話までにあったことダイジェスト
・熱斗とパパ、久しぶりに二人でお出かけ。
・謎のコウモリナビが何やかんやで事件を起こす。何やかんやで解決する。
・コウモリナビが退散する時、なんか闇を放つ明らかに怪しいチップを落とす。
・パパが仕事でまた離れてしまう。ちなみに行先はアメロッパ。
・例のチップについて、日暮さん(本作未登場)がダークチップと教えてくれる。使ってはいけないよ。
・デンサンシティでネットバトルの大会が開かれる。コガネナナフシだじょーい。
・熱斗が優勝。大会の中で、ロックマンの中に何らかのデータが生まれた。


という訳でアイリスの同行が決定と、ロックマンの新たな力について。
今の光パパの仕事の内容的にこっちのこと気にしてる場合かってレベルだったので委託。
『アタック+30』の人→『フルカスタム』の人→ソウルユニゾンの人となりました。
初っ端のウィザードッグは別に今後の伏線でも何でもないので気にしなくていいです。
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