バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
ナビをオペレートするための機能は一年に数回、全世界同時で更新される。
私としては、些か早すぎではないかとは思っている。場合によっては使用感がガラリと変わるため、受け入れにくいし今まで使っていたものを大いに変更する必要が出てくるのだ。
去年の夏にはバトルチップの規格更新があった。
『フルカスタム』在庫処分セールは強く印象に残っている。クラス分けはフォルダのバランスを取る分には良いとは思うが、あの時の更新の手間と大量に抱えた利便性の高いチップの余剰は中々に堪えた。
暫くはあのような大規模な更新はないだろうと思っているが――細々とした、それでいて大胆な更新は存在した。
それも私がプロトに幽閉されている二ヶ月の間に。
注目すべき更新は二つ。
一つは、ココロウインドウ機能。
光氏が開発したこの機能は、PETの
オペレートに際して、ナビの現在の感情が一目で分かる小さなウインドウだ。
これまで、完全に理解することが難しかったナビの心が視覚的に表現されているため、よりナビとの意思疎通がしやすくなっている。
また、これによってナビとの疑似的な同期――フルシンクロと呼ばれる現象も発生させやすくなった。
小規模、短時間のフルシンクロのため、オペレーターに負担も掛かりにくく、戦術に組み込むことも出来るようになり、よりオペレーターとナビの距離が縮まる機能と言えよう。勿論私には関係ないが。
さて、もう一つはカスタム領域の規格更新だ。
ナビカスタマイザーによって初心者でも細かいカスタマイズが可能となり、オペレートに直結するカスタム領域もその対象となった。
今までは、しっかりとした戦術がなければ無駄になっていた拡張領域を大胆に空け、カスタマイズできるようにしたのである。
その代わり、バトルに役立つその他の機能を任意で追加できるようになった。
カスタム領域そのものを、バトルスタイルに合わせることが出来るのは大きいだろう。別にADD機能も必要であれば付け直せば良いだけだし。
旧版のPETであれば更新は自ら行う必要があるが、最新式のPETには最初からこちらのバージョンが入っている。
IPCの市販PETは遂に赤外線での通信を行えるようになり、真実最先端のものとなった。
クリームランドのPET開発の最大の強みだったのだが、これが安価で販売されるようになったのは痛いな、と思う。
私自身がPET開発に携わっている訳ではないものの、オーダーメイドでこんな特殊な機能付きのものを開発してくれた以上応援したいところだ。
研究中だという次世代の通信機能は今年中には完成しないだろうし、暫くはIPCが有利だろうなとは判断しているが。
ともかく、この更新は今の私としては打ってつけだった。
ロックマンに新たに備わった力を実行可能なものとするには、このカスタム領域に機能追加することが最適だ。
あれから二日。プログラムを完成させて光少年に連絡をすれば、すぐにロックマンは駆けつけた。
『エールさん、プログラム、完成したって本当!?』
『ああ。これをロックマンと、キミのPETにインストールしたまえ。今回の力を使うには、前準備がいるからね。フォルダはちゃんと用意してきたかい?』
『うん。言われた通りに固めてきたよ――ユニゾン.dll……これが新しいロックマンの力に……』
手渡したそのプログラムは完成したてのものではあるが――使ったパーツはその限りではなかった。
他者の力を自身の操作し得る形に変換し、己に適用する。
そんなプログラムの備えがあったのは偶然ではなく、かつてそうした知己がいたから。
彼を作ったあの人が残したプログラムだ。光氏のご子息に託すならば、あの人も文句は言うまい。
『はじめに、キミたちが手に入れた力は、ソウルユニゾンという。他のナビのソウルをロックマンのソウルと交わらせ、一時的にその力を借りうける能力だ』
インストールが完了したロックマンのメモリを再度確認。
現在彼が有しているソウルは二つ。
アクアマンというナビのアクアソウル。そして、大山少年のガッツマンのガッツソウル。
まあ、まずは――ガッツマンでいいか。前者は私は知らないナビだし。
『光少年、PETにインストールしたプログラムにより、カスタム領域に新しい機能が追加されていると思う』
『……あ、本当だ。これでその、ソウルユニゾンが出来るの?』
『そうだ。それにはチップに備わった属性や系統を読み取り、ロックマンに備わるソウルの力を出力する機能がある。ソウルユニゾンを行うためには、カスタム領域にあるチップを一枚捨てる必要がある訳だ』
持っているソウルが一つだけであれば、それに対応して一切犠牲を必要としない機能も作れただろう。
だが既にロックマンは複数のソウルを手に入れており、そして今後も増えていくことが予想出来る。
それらの呼び出しを一つの機能で実現するには、選んだソウルを呼び出すための特定手段が必要不可欠となる。
その特定手段が、チップの属性や系統だ。これで対応するソウルを絞り込み、決定する。念のため同属性、同系統のソウルを得た場合は選択できるようにはしておいたが――まあ、それは実際に手に入れた時に彼らが気付くことだろう。
『まずはガッツマンの力――ガッツソウルで試してみよう。練習用プログラムを起動するから、そのつもりで』
二人に一応警告してから、メットールたちを放つ。
無害ウイルスではなく敵性のもの。離れたところに置いたため、此方にやってきて攻撃を開始するまでに時間が掛かる。それまでに説明を終えてしまおう。
『ガッツソウルを呼び出すには、『クラックアウト』をはじめとした地形破壊系のチップが必要だ。一枚選択した上で、ユニゾン機能を実行したまえ』
『うん――送信チップ枠が一つ埋まったよ?』
『それで準備完了だ。送信すればロックマン側でソウルの変換と出力が実行され、彼に力が発現するだろう』
この機能の説明を行う上で、光少年にはとあるチップフォルダの作成を指示しておいた。
ソウルの反映に必要な属性と系統で纏めたフォルダ。
実際に反映されることで取得できる力の把握は調べてみないと分からないが、特定に必要な情報くらいは掴むことが出来ていた。
『よし……いくぞ、ロックマン!』
『うん、いつでも!』
やってくるメットールたちに向かって構えるロックマンにデータが送信される。
それを受け取ったロックマンがその身に眠る一つのソウルを目覚めさせ、己と合一させる。
そして、そのソウルが姿に反映され、ロックマンはガッツマンを想起させる姿となった。
かつて彼が持っていたガッツスタイルとも通ずるところがある巨大な両手と、体を覆う黄色い装甲。
ガッツソウルを反映させたロックマンは自らの変化に暫し呆然としていたが、メットールが迫ってきてつるはしを取り出し始めたのを見て、迎撃する。
まず、一番近くに迫っていたメットールを直伝のガッツパンチで殴り飛ばす。――うん、チップに勝るとも劣らない威力だな。私なら一撃でアンダーシャツ発動だ。
更に少し離れたメットールを狙ってその場でしっかりと構えてバスターを放つ。
瞬間的な威力と連射力はロックマンが通常の武装として持つそれを凌駕している。二体目のメットールを倒している間に三体目がつるはしを振り下ろすが、堅牢な構えは巻き起こった衝撃波にも屈さない。
三体目を片付けている間に、追加された機能を読み取り終える。なるほど、確かにガッツマンを思わせる力押しのソウルだ。
『すげえ……これがソウルユニゾンか!』
『うん――ガッツマンみたいなパワフルな戦い方が、これなら出来る!』
大地を叩き割らんパワーをその身に宿すガッツソウル。
彼らはガッツマンの戦い方は熟知していよう。これを使いこなすのに、そう時間は掛からない筈だ。
『後は、無属性と地形破壊系のチップの威力が上がる能力を有しているようだ。機動力に難があるようだから、使いどころには注意したまえ』
『まさしくガッツマンのソウルってことか……ってことは、アクアマンのソウルは――』
『そちらはソウルの持ち主であるナビを知らないから、何とも言えないな。対応する属性は名前の通り水属性だということは間違いないが。別のソウルへの直接変更も可能だ。続けて試すかい?』
『勿論! よし、ロックマン、アクアソウルだ!』
『了解!』
次も試したくて仕方ないという様子の二人は、すぐさまソウルを変更した。
アクアソウル――私の知己ではないナビのソウルを反映させると、ロックマンは青く、本来のものに近い丸みのあるスマートな姿へと変わる。
腕や頭部は泡の浮かぶ水を映しており、宿した属性がこれでもかと強調されている。
今度はソウルの特質を把握してから、訓練用のウイルスを出現させる。
現れたメットールたちが突っ込んでくるが――ロックマンと彼らを巻き込むように、私は先だってチップ『アイスステージ』を使用した。
足元が凍り付き、メットールたちは足を滑らせ、それでも転ばないよう藻掻いているうちに速度を上げていく。
そうして狙い撃つのが難しくなった一体の正面にロックマンは素早く移動し、高速の水の射撃で撃ち抜く。
氷の上で滑らず、バスターから放つ水の一撃は速度に特化している。
さらにもう一つ。
『光少年、水属性のチップの送信を。ロックマンは、チップの出力機能が強化されている筈だから、チップの力をチャージした上で使ってみるんだ』
『うん!』
残った二体が迫ってくるのに合わせて、光少年が送信したのは『ワイドショット』。
広い範囲が持ち味である水流を、言った通りにロックマンがチャージして放てば、チップの威力が引き上げられ、二体を纏めて押し流す。
これで訓練は終わりだ。二つのソウルの特徴を掴むことくらいは出来ただろう。
『そんなところだな。上手く使えば強力な武器になるだろうが、制限はスタイルチェンジと比べて多いだろう』
『制限?』
戦闘状態を終えると、ロックマンの姿が元に戻る。
これもまあ、制限の一つではあるな。光少年はスタイルの切り替えを武器としていたが、アジーナ側で調べたところ本来の使い方とは違うらしいし。
『まず、チップがいること。何の代償もなく出来たスタイルチェンジとは違う。これは私のプログラムの仕様だが――一つ、二つのソウルしか使えないよりはこれから多くの力を身に付けていく方がいいだろう?』
『そりゃあ、勿論』
『フォルダには三十枚の制限があるし、ソウルユニゾンのためだけに特定の属性や系統のチップを入れておくのは得策とは言えない。今の二つならまだしも、今後更に新たなソウルを手に入れれば、どれを主軸としてフォルダを組むかも考えないといけなくなる』
どうせ彼のことだ。これから多くのナビとも関わるだろうし、得られるソウルが今の二つだけということもあるまい。
水属性はともかく、地形破壊系チップは他のチップとの組み合わせによる戦法を前提としたチップ群だ。
これをソウルユニゾンのためだけに含めるのは、フォルダを圧迫するデメリットの方が強いと考える。
ここはフォルダとバトルスタイルに加えて、使うソウルを考慮しなければならない、光少年の腕の見せ所だな。
『また、レギュラーに指定しているチップでソウルユニゾンを行うことは出来ない。あれの領域はフォルダそのものとは別にあって、ソウルを収めるメモリにアクセスが出来ないんだ』
『じゃあ、バトルの最初から決まったソウルを使える確証はないってこと?』
『そういうことだね。フォルダ丸ごとその系統で埋めてしまえばその限りではないが、まあ、そんな構築はしないだろうし――プログラムとの兼ね合いによる注意はそのくらいか。次に、ソウルユニゾンという機能そのものの制限についてだが……付いてこれているかい?』
『ボクは平気だけど……熱斗くん?』
『だ、大丈夫! ネットバトルに関する記憶力なら自信あるぜ!』
『……後で纏めたメールを送っておこう。よく復習したまえよ』
特に彼の学業の方を知っている訳ではないし、そうと決まった訳ではないが、今のやり取りは少し不安になるな。
勿論、これまでの付き合いからネットバトルに関してのセンスや覚えはピカイチなのだろうが。
『――ソウルユニゾンは負担が強い。一つのユニゾン中にチップを送信できるのは三度が限度だ。それらを使い終われば、ユニゾンは解除される』
『なるほど――スタイルチェンジみたく、戦闘中ずっと使っていられる訳じゃないんだね』
『そうだ。そして一つの戦闘中に同じソウルを二度は使えない。一つのソウルでの短期決戦か、複数のソウルを使った長期戦かは場合に応じて選択するといい』
これはナビへの負担というよりは、ナビのオペレーション機能とソウルユニゾンの相性が悪いだけなのだが。
実際、人の手によるオペレートに縛られないレヴィアはやろうと思えば一戦闘中同じソウルを継続して使えるだろう。使えば、の話だけど。
まあそこまで説明する必要はあるまい。だいぶ専門的な話になるし。
『当然ながら、ソウルごとに違った能力が発現する。この二つのソウルについても、後でメールで送る。光氏にはこの能力について共有しておくから、新たなソウルを手に入れたら彼か、彼が忙しければ私に言ってくれ。ソウルで得られる力について解析しよう』
『うん、ありがとうエールさん!』
彼らに宿った新たなる力。それは私にとっても喜ばしいことだった。
知り合ったナビと繋がりその力を借りるというのは彼らに相応しい武器であるし、今後の彼らをさらに強くしていくだろう。
――それが少し先、途轍もなく高い壁となって、私を大いに悩ませることになるなど、知る由もなかった。
・ソウルユニゾン
4、5に登場するシステム。ロックマンエグゼを象徴するシステムの一つ。
シナリオ中に絆を深めソウルが共鳴したナビの力を借り、ロックマンを強化することが出来る。
スタイルチェンジとは違い戦闘中に適宜使用する。
性能差は激しく、バージョンによって得られるソウルが異なるため、4以降のシリーズはバージョンによって戦法が大いに異なる。
デザインはいずれも秀逸。ロックマンと元となったナビのデザインを見事に掛け合わせている。
・アクアマン
4ブルームーン、6ファルザーに登場するナビ。オペレーターは城戸舟子。属性は水。
泣き虫だけど絶対に泣かせてはいけないナビ。
小柄だが水の力は凄まじく、ひとたび泣くとインターネットがエリア単位で水没する。下手な犯罪組織よりサイバーテロである。
登場作ではどちらも、ロックマンに最初に力を与える役となる。
ソウルユニゾンのチュートリアル回。それからPETの仕様変更について。
見ての通り、本作では現時点で両バージョンからソウルを一つずつ取得しています。
今後の都合上こうなっているだけで、全ての大会がこうなる訳ではないです。