バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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おとぎの国と闇の囁き-1 【本】

 

 

 日本一のネットバトラーを決める大会――ホークトーナメント。

 そこで使われるネットバトルマシンや、会場となる城内のネットワークの点検。

 そのために日本にやってきてから数日が経った。

 今回は科学省に部屋を借りたりすることなく、いつも通りホテルと仕事場を行き来するのみとしている。

 とはいえ、だいぶ変わった点は無くもない。

 仕事場が屋外というのは珍しい。N1で使ったジゴク島のマシンでさえ、島の洞窟内に設置されていたのだが、今回は違う。

 デンサンシティ初のテーマパーク、シェロ・カスティロの城。

 まさかり姫の住まう城を再現したそこの屋上庭園こそ、大会の舞台。

 そこに設置されたネットバトルマシンで作業を行うべく、私はお天道様の下でコンソールを叩くという貴重な経験をしていた。

 まあ、まったくもって嬉しい経験ではないが。

 まだ暖かい春だというのが救いだ。これが夏だったら炎天下の作業となる。洒落にならない。

 一週間程度の仕事で良かった。日本はあと一、二ヶ月もすれば夏がやってくる。アメロッパにも勝る暑さの中で活動するのはかなり厳しいことだ。アッフリク? 殺す気か。

 

『エール……これで、ネットバトルマシンの中は大丈夫……』

「ああ、ありがとう――ネットワークの方も問題なさそうだ」

 

 アイリスと合流し、共に作業を行っていたが、コツを掴んだようで一つの作業をある程度任せられるようにはなっていた。

 やはり、二人いると進みが早いな。

 かといって、彼女に任せている部分を私がチェックしないということもないものの、クロスチェックを行えるようになったのは大きい。

 日本一のネットバトラーが決定するとなれば、N1同様に注目度の高い大会となるだろう。

 そんな場で不具合が発生するようなことがあれば大事だ。

 決められた契約期間の中であれば、デバッグにやり過ぎということはない。

 私とアイリスの手がちょうど同時に止まったタイミングで、一つ息を吐いて水分を補給する。

 一旦のクールダウン。そんな時、城の外の喧騒に気付いた。

 

「……? やけに騒がしいな。昨日までは静かだったのに」

『今日は……シェロ・カスティロがオープンする日じゃなかった……?』

「ああ、そういう……。城は大会まで立ち入り禁止とは聞いていたが、外は今日からか」

 

 そりゃあ、騒がしくもなるだろう。

 かなり大きなテーマパークだ。初日から大盛況していてもおかしくはない。

 ……となると、外に出るのに手間が掛かるか。

 オープンしているとあれば園内でも店の一つや二つ出ているだろう。そこで適当に、昼になる前に食事を済ませておこう。

 昼が近くなれば混雑するだろうし。

 

「アイリス、少し外に出ようか。適当に昼食を済ませたい」

『まだお昼には早いけど……』

「人混みは苦手だし、並ぶのも時間の無駄だろう? 混雑する前に済ませて戻ってくる」

『……』

 

 ――そのアイリスの視線に多少の呆れが含まれていたことは、指摘しないことにした。

 彼女が居候となって暫く経って、私の人となりというか、性格も分かってきているのかもしれない。

 まあ、望んで踏み込んだ無駄ならともかく、望んでもいない無駄を好む者などいまい。

 そして、人混みの中にいれば疲れるのは当然。つまり私は正しい。

 アイリスがPETに戻ってきたのを確認し、責任者殿と話をしてから屋上庭園を出る。

 エレベーターで城の一階まで下りてくれば、そこは人気のないロビー。

 大会の控室として使われる予定のそこが、一般の来場客に開放されるのはもう少し先になる。

 今、ここに入れるのはシェロ・カスティロのスタッフや大会の関係者だけ。医者(デバッガー)としての仕事はそういう場であるのが基本のため何も感じることはないが。

 

「……」

 

 城を出れば、異様なほどの大盛況を実感した。

 あまりの人の多さに軽く眩暈を感じる。物語の世界はそこまで彼らを掻き立てるのか。

 ……これは、適当な出店と言ってもそこそこ並ばないと駄目そうだな。

 それを億劫に感じつつも、仕方なく歩き始める。

 別に私に奇異の目を向けることなどないだろうに。そこらを闊歩しているウィザードッグやらブリキングのぬいぐるみロボの方が遥かに珍しいぞ。

 

 さて、出たは良いものの、何処に何があるか分からない。

 園内のマップくらい貰っておいても良かったかもしれないな。

 レストランも混雑しているだろうし、ファストフードを売っているワゴンを探すとしよう。

 

「――エールさん?」

 

 早くも人酔いを感じつつ、グッズショップの前を歩いていると覚えのある声が聞こえてきた。

 人の波の中で見つけたのはここ一年で知り合った少女だった。

 

「桜井嬢じゃないか。こんにちは」

「こんにちは――エールさん、日本に来ていたんですね。ここには遊びに来たんですか?」

「まさか。この園内で頼まれている仕事があったんだ」

 

 桜井メイル――光少年と同じく、デンサンシティは秋原町に住む小学生。

 最初に出会ったのはゴスペルと決着をつけるべく訪れたコトブキ町のマンションだった。

 あれから何度か関わって、先の入院時にも見舞いに来てくれたのは割と記憶に新しい。

 どうやら彼女はこのオープン初日に遊びに来ていたらしい。

 

「キミはご家族と?」

「いえ――えっと、今日は熱斗と……」

「なるほど、デートか」

 

 曖昧に微笑みつつ頷く桜井嬢。光少年も隅に置けない――というのか?

 こうしたテーマパークであれば打ってつけだろう。

 ……いや、経験はないのだが。最近の小学生は進んでいるな。

 辺りには光少年の姿は見えないが、状況を知らない以上あまり気にすることでもあるまい。

 

「では、あまり邪魔をする訳にもいかないな。私は退散させてもらうよ」

「あっ――エールさん、ちょっといいですか?」

「ん? なんだい?」

 

 足早に去ろうとしたところを、桜井嬢に止められる。

 別に世間話は良いのだが、デートを優先すべきだと思うぞ。

 

「もうすぐ、日本でネットバトルの大会が開かれることを知ってますか?」

「ホークトーナメントのことなら、話くらいは聞いているが」

 

 まさか大会に関わっていると話す訳にもいかない。

 開催の直前だが、まだ詳細は殆ど明かされておらず、関係者には守秘義務がある。

 これから予選と本選を急ピッチで進めることになるらしい。私としてはどうかと思うが、熱が冷めやらぬうちに、ということなのだろう。

 

「その大会に、出場しないかってメールが来たんです」

 

 なんともまた、意外だな。

 N1は恐らく光少年ら仲間内で予選に参加することにした、という感じだろう。

 その一方で、今回の大会はあらかじめ予選の参加者から絞り込みを行っている。

 運営によって選抜された予選参加者の中から、何らかの予選を先着で突破した八名のみが本戦に進むことが出来るとのこと。

 桜井嬢もまた、その予選の参加資格を有した一人であるらしい。

 

「ほう。全国規模の大会の参加資格とは、凄いじゃないか。参加するのかい?」

「……はい。そのつもりです。そのことで、一つ、お願いがあるんです」

「お願い?」

 

 なんだろうか。

 N1の時には、光少年、大山少年、綾小路嬢の三名にはサービスをしたからな。

 彼女にもサービスの一つや二つ、してあげても構わない。

 勿論、内容によるが。彼女に限ってないとは思うが、本戦の枠を融通してほしいとか言われても無理だぞ。

 

「ネットバトルを、本格的に鍛えてほしいんです。大会でも、戦えるくらいに」

 

 ……思いのほか、とんでもないお願いだったな。

 いつぞやに渡した、ウイルスを用いたトレーニングソフトでは不足だったか。確かに、全国大会を戦えるほどには強くなれないものだろうが。

 

「……すまないが、私ではそこまで強くなれるほどの教えを施すことは出来ないぞ。最初に出会ったときに言った通り、別に強くはない。そういう話なら、もっと身近な光少年に頼めばいいのではないか?」

 

 どう考えても、私より光少年の方が適役だぞ。

 彼と最も近しい友人であるという立ち位置はそういう望みを持つにおいて大変有利だろう。

 手解きを受ければ、桜井嬢もすぐに強くなれると思うが。

 

「その……今回は、熱斗に頼れない理由があるんです」

「ふむ?」

 

 頼れない理由……?

 あまりに彼の教え方が独創的だとか、そういう理由――ではないか。

 独創的だというなら私も人のことは言えない。それは彼女も既に理解している筈だ。

 となると、彼も大会に出場する予定だということか? それであれば、互いにオペレートの癖などは隠しておいた方が良いだろう。

 もっとも、二人の距離の近さでは既に知り尽くしていることかもしれないが。

 

「――――」

 

 少しだけ躊躇いがちに、桜井嬢はその理由について、話してきた。

 光少年が戻ってきていないことを、周囲を見渡して確かめながら。

 

 ――その理由は、私が聞いて良いものかという疑問すら生まれるものだった。

 少々、無粋というか、野暮だったかもしれない。

 彼女のその理由が何から来るかについては言わずとも、何となく伝わってくる。

 私には経験のないことゆえ、何とも言えないが……“理由そのもの”に関しては、私も十分に共感できるものだ――その気持ちを十分に通せる強さなど私にはない訳だが。

 まあ、それはそれとして……そういう話であれば、無碍に断るなど出来よう筈もないか。

 

「……分かった。私の出来る限りであれば、引き受けよう」

「本当ですか!?」

「流石に、こんな話を聞かされて断るほど冷たくはないよ。短い時間でどこまで出来るか分からないが、私なりに全霊をかけさせてもらおう」

 

 思えば、そういうことに関わることなどなかったからな。

 いや、元々そんなこと考える理由すらなかったのだが、桜井嬢の真摯な頼みとあらば今回ばかりは頼られるしかない。

 強くする――強くする、か。難題だが、解が一切浮かばない訳でもない。

 勿論それは、私なりの方法であるが。

 

「とりあえずは、デートを楽しみたまえ。私の方も仕事があるからね。今日の夜にでも、私からメールを送る。そこから打ち合わせをしようじゃないか」

「ありがとうございます! あの、熱斗にはこのこと……」

「分かっているよ。もしも彼も大会に出るというなら、その時に驚かせてやればいい」

 

 面白いじゃないか。彼にはさぞサプライズになるだろう。

 いつの間にか桜井嬢が強くなっていて――ともすれば、彼に迫るほどになっていたとすれば。

 問題は、彼女がそこまで才能があったとして、私がそこまで彼女を育てられるかであるが。この大会まで幾ばくもないほどの短時間で。

 大会までこれに関連した仕事が続く以上、どうしても時間の確保が難しい。

 

「それじゃあ、また夜に」

「はい。よろしくお願いします!」

 

 であれば――と頭の中で考えつつ、ひとまず桜井嬢と別れる。

 真剣に臨まなければならないことではあるが……しかし、少しだけ楽しみでもあった。

 今まで一度もなかった類の頼み事という新鮮さ。私がデバッグに臨む気概は使命感によるものではあるが――それ以外を楽しむという気持ちは、どうやら私にもあるらしい。




前話と今話の間に起きたこと
・熱斗がシェロ・カスティロのフリーパス二枚組を獲得。メイルにプレゼント。
・光家に強盗。光ママ(本作未登場)が睡眠ガスで眠らされ、犯人は熱斗のパソコンに彼宛てのメッセージを打ち込んで逃走。
・そのメッセージに従い、熱斗はロックマンをパークエリアに送る。
・犯人はネビュラ。目的は熱斗が持つダークチップだったが、無事そのナビを撃退。
・メイルが熱斗をシェロ・カスティロへのデートに誘う。


おとぎ話のテーマパークを闊歩する白衣姿の不審者一名。
そしてバグ医者の弟子誕生。こんな形で4の原作に介入していきます。
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