バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
上から下まで白に覆われた姿。
電脳世界に適応した
現実のそれとは比較にならないほど硬質化した白衣、帽子、マスク、手袋。ただし、手袋や白衣の裾に当たる部分には小さな四角い光がいくつも疎らに灯っている。
医者を象った
まあ、こうした場でなければナビと偽っている。世間的にはこの姿こそ私のナビだ。
現にその
背丈は現実世界の私の体と変わりない。
ナイトマンの隣に立てば、その巨体と並ぶスケール感の違いに混乱しそうになる。
重厚な鎧は、どうしようもない程に頼もしい。吹けば飛ぶほどの耐久力の身からすれば、余計に。
「さて。最後の試験といこう。もうじき、そこの床も抜ける。そうしたら、それをスイッチに地下の起動していない全ての罠が動きキミらにトドメを刺すだろう」
二人に向けて一歩踏み出す。
二人と私たちは同じ部屋にいながらも、格子で隔てられている。
一見すれば私たちが捕えられている側だろう。だが、この場においては檻の中は向こうだ。目の前の鍵は、そう簡単には届かない。
「しかしメインコンピュータのプラグイン端子はこっちにある。格子を解除するスイッチも何処かにあるかもしれない。さて、まずはこの状況をどうする?」
IPCはまだ、量産型PETへの赤外線通信機能の実装には至っていない。
かの会社の御曹司である伊集院少年であればもしかすると試作品でも持っているか、とも思ったが、彼の手にあるのは光少年と同じ規格のもの。つまり有線式だ。
手がゴムのように伸びればここにプラグインも出来ようが、人間である彼らにそれは不可能。
焦る子供をこんな状況で試すのは我ながら性格が悪い。だが仕方ない、既定路線だ。大人が一人くらい来てもいいと思っていたのだ。
――ちなみに格子のプラグイン端子は私たち側の面に露出している。
「どうするだって? 決まってるだろ! なあ炎山!」
「フッ……」
光少年と伊集院少年には考えがあるらしい。
何かを自身のPET側の端子に差し、続けざまに何かをこっちに投げる。
――真っ直ぐに飛んだ、無線プラグ。二人のそれは狙い違わず、メインコンピュータの端子に突き刺さった。
「…………」
「……すごい、コントロールですわね。ええ、それくらいやってもらわなければ」
プライド様も驚愕を隠せないらしく、やや動揺しつつもあくまで優位の態度を繕う。
驚いたな。子供どころか、大人でもあんなこと到底出来まい。なんというコントロールか。
――いや、納得できないぞ。流石におかしい。
無線プラグは投げるものじゃない。緊急時の賭けでもやらない。やる時があるとすればそれは完全に詰んで自暴自棄になった時だ。
それを躊躇いもなく、二人の少年は実行し、見事成功して見せた。
日本の小学生ってそんなこと出来るのか。伊集院少年のような冷静な子も「フッ……」って鼻で笑って通じ合えるほど日本ではメジャーな技術なのか。
「プラグイン! ロックマン.EXE、トランスミッション!」
「プラグイン。ブルース.EXE、トランスミッション」
――落ち着け。その摩訶不思議な技術については後でどうとでも調べられる。
何にせよ、彼らはメインコンピュータにその手を届かせた。
プラグを引き抜くなどという無粋な真似はすまい。というか、もしそうされたらどうしてたんだろうあの二人。
いや、余計なことは考えない。
今から戦うことになるのは、ナイトマンでさえ決して油断できない二人。
多分、
だがナイトマンと組めば、それなりの脅威にはなってやれる。
これまで通りの密度で放っておいたウイルスが凄まじい速度で蹴散らされる。
一人ならばまだしも、今回は二人。
どちらかが隙を作ってやればもう片方が確実にそれを突く、中々に洗練されたコンビネーション。
なるほど。共闘の相手として申し分ないというほどの信頼があるか。
せっかくのとっておきも一匹放っておいたのだが――駄目そうだな。
その他のウイルスとは格が違う。動きこそ遅いものの、鈍足を補う防御力と状況を把握する判断力がある。
「このウイルスの出所についても聞かせてもらわなければな――」
「出所も何も、謝礼で貰った品に過ぎないが。依頼料が格安だからね、モノの流れで追加の要求をすれば割と通ったりする」
もしかして伊集院少年、ゴスペルのみならずWWWへの関与まで疑っているのだろうか。
だとしたら的外れもいいところだぞ。これは勝手にWWWから逃げ出して勝手にウラの向こうの禁忌領域に流れ着いて勝手に住み着いたものを、そこの慈悲深き管理者に危険手当として請求したものに過ぎない。
というかあの中に呼ぶならいい加減入り口まで迎えに来てくれ。
話の通じない戦闘狂に襲われるの何度目だ。目標一万人切りだか何だか知らないが通して良いって言われている私の顔くらい覚えろ。
今回は九千何人目だとか言ってたな。侵入され過ぎだろあそこ。何が禁忌のエリアだ、割と真剣にセキュリティ考えた方がいいぞ。
「よし、オーラが剥がれた!」
『お願い、ブルース!』
『――斬る!』
そんなこんなで手に入れた最近熱いウイルスではあったが、試しに持ってきた一匹は残念な結果に終わる。
同じくここ最近で見られるようになったメガリアとは違い、属性を持たない万能なオーラ。
その内部からの貫通力のあるレーザー。
それらを兼ね備える、攻守ともに優れたウイルス――ドリームビットも彼らの連携には及ばず、ロックマンの攻撃でオーラを剥がされたところをブルースに叩き切られてしまった。
やはり一匹ではたかが知れているか。増やすの結構大変だったんだが。
……先程から気付かないフリをしているが、プライド様からの視線が痛い。
WWWなんかと関わってませんってば。くそ、後で弁明しないとならないことが増えたっぽい。
『罠を止めるんだ!』
まあ、その前にやるべきことがあるか。
ウイルスたちを突破してやってきた二人のナビと対峙する。
『――それは出来ぬ。此処を、そしてエール殿をお守りするのが、姫より与えられた我が命ゆえ』
『そういう訳だ。悪いが、私たちにも未来が懸かっていてね』
少なくとも、言葉をいくつ投げられたところでここを退くつもりはない。
そもそも話し合いなどするつもりはないから、エールハーフを向かわせたのだ。
「未来……? あんたたちの事情は知らないけど、こんなことで良い未来を掴もうだなんて間違ってるよ!」
「そうだな。そうかもしれない。だが、間違いを正すための間違いもある。何でもかんでもお利口さんではどうにもならないことがあるんだよ」
今の私の選択が間違っている、そんなこと分かり切っている。
私自身に抵抗感があるのだ。それを抑えて、私は今の間違いを犯している。
これも、プライド様のためだ。彼女のためなら何だって利用するし、どんな罪だって被ってやる。
「ええ――クリームランドの民の幸せのためです。そのためにも――」
プライド様の意思は固い。
その感情の向く先は異なる。何故って、私は現在進行形でプライド様を騙している最中だから。
だが、決意の重みなら負けていない。
プライド様が国を想うのと同じくらい、私はプライド様を想っている。
だからこそ――
「――ナイトマン、決して倒れることを許しません。クリームランドの未来のため、その者たちを撃滅するのです!」
『――御意。ロックマンとやら、そしてブルースとやら。そなたらに恨みはないが、消えてもらう』
だからこそ、戦う。いつもより少しだけ、嫌らしい方法で。
『……そこを退くつもりは無いということだな?』
『然り。それが騎士の道。この城を出たくば、押し通るがいい』
ナイトマンが構える。私も体を慣らすように、軽く動きつつ、ナイトマンのやや後ろに控える。
チップフォルダに不備はない。今選択可能なバトルチップから、戦いを組み立てる。
ロックマンとブルース。青と赤。さながら
悪と戦うのにこの上ない組み合わせという訳だ。ならばこの難攻不落、打ち崩して見せろ。
「なら、やってやる! いくぜロックマン! バトルオペレーション、セット!」
『イン!』
「ブルース、速やかに片付けろ!」
『はっ!』
――さあ、意地のぶつけ合いだ。
・ナビマーク
ロックマンエグゼに登場するナビにはそれぞれマークが設定されている。
ナビの特徴を模したものから何らかのイニシャルまでデザインは色々。
エールハーフのものは『白地に横向きにした赤と青の二重らせん』。
オペレーターもナビマークを衣装の何処かにあしらっている場合が多いが、エールの場合は白衣の左腕にある。
・戦闘狂
3の隠しエリアにて来訪者をデリートしている某暗殺者ナビ。
とある目的のため、そのエリアで一万人のナビをデリートすることを目標としておりロックマンが訪れた時点で九千人台に差し掛かっている。
件の隠しエリアは徹底的に隠匿されるべき重要過ぎるエリアの筈だが九千人も侵入者がいたらしい。どうなってんの。
『慈悲深き管理者』の方はともかくこっちは今後まともに扱う予定はないので別に忘れてもいい。
・無線プラグ
投げるものではない。