バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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おとぎの国と闇の囁き-4 【本】

 

 

 誰にだって知られてはいけないことの一つや二つ、存在するだろう。

 それを俗に秘密と言い、時に誰かと共有しつつも他言無用は徹底させる。

 勿論、自分以外に知られなければそれが一番である。だからこそ秘密と言う。誰かに露見してしまった時、その口から零れるのを避けるのは至難の業なのだ。

 もし誰にも知られていなければ、事実上その秘密は“存在しなかった”と言えなくもない。

 例えばそれが恥ずべき過去であった場合、歴史の闇に葬り二度と掘り返されないようにできるのだ。

 ゆえに、恥をかくときはせめて、周りに誰もいない時にしなければならない。

 

 ――WWWの本拠地に乗り込んだ時の様々なことは、本当に軽率かつ不幸だったと言うほかない。

 運動不足が祟り、光少年や伊集院少年という、日本を代表するような小学生たちに大いに見られてしまった。

 たかが執務机すら跳び越えられず脛を強打するという、ネットバトルすらしていないのに受けた大ダメージは精神にも来るものだった。

 あの時の二人の憐れみの視線は忘れることが出来ない。正直、大変に傷付いた。

 もう二度と、あのようなことがないように。

 未来で何が起こるか分からないにせよ、より注意を払うように努めようと思った。

 

 

「……」

「……エールさん?」

 

 

 ――やけに聞き馴染みのある声の方向とは反対側に首を向け、沈黙する。

 語尾には疑問があった。まだ彼にとって確信ではないのだろう。

 であればまだ誤魔化しも効く。このまま何かが起きて、私を気にせず通り過ぎてくれないものかと、あまりにも馬鹿らしい一縷の望みを抱く。

 

「……えっと。なんでこんなところで座り込んでるの? ……ってか、さっきの悲鳴ってもしかして」

「待て。待ちたまえ光少年。話し合おう。流石にそれは早合点だと思わないか?」

 

 一縷の望みは呆気なく打ち砕かれ、無情な指摘は私を現実へと引き戻す。

 照明は復活していないものの、辺りは青白い光で明るく照らされている。

 それもその筈。ここの仕掛けの一つであるらしい大きな悪魔像が、これでもかという程の自己主張の光を放っているのだ。

 床も壁も照らされ、座り込んだ私も、ちょうどやってきていたらしい光少年の姿も、ばっちりと見えていた。

 

「ああ、確かに状況証拠は揃っているだろう。だけど、それでも現場を見ていなければ分からない事実というのもある。第一だ、今までキミと関わってきたエール・ヴァグリースがそんな悲鳴を上げると思うかい?」

「え……まあ、あまり想像は出来ないけど」

「だろう? なら、謎の悲鳴は謎のままでいいじゃないか。想像できないことを無理に現実と結び付ける必要はないんだ。イメージというのは大事だからね。だから――」

「とりあえず立ったら?」

「……うむ」

 

 見苦しい言い訳に取られたようだった。見苦しい言い訳なのだが。

 のそりと立ち上がり、恨めしげに悪魔像を睨みつける。

 あとで見ていろよ、シェロ・カスティロのスタッフ。ここを含めた色々、後で指摘させてもらうからな。

 別にそっちは契約外ではあるが、関わった以上は逃れられないぞ。

 

「さて、久しぶりだね、光少年」

「う、うん、久しぶり……エールさんも来てたんだね」

「仕事だがね。それでまあ、此方の対処に回された訳だ」

「ああ――それでコレにビックリして……」

「何が望みだ? メガクラスチップか? よし分かった用意しようじゃないか。だから他言無用だ。特にプライド様には絶対に言ってはいけない。いいね?」

「いらないから! 誰にも言わないってば!」

 

 それから光少年が本当に言いふらす気がないと断言し、私が納得するまで数分掛かった。

 

 

 

 悪魔像が照らす通路の先へと進むまで、随分と時間を要した。

 まったく、強敵だった。電脳世界でもないのに、あんな異形が出張るものじゃない。

 

「さて、進むとしようか」

「……いいの? 別にオレたちだけで大丈夫だけど……」

「ここまで来たらやるとも。是非とも同行させてくれ」

「ああ、もしかして戻るのも……」

「……」

 

 もう良いだろう。これ以上詮索しようとしないでほしい。

 たとえ何かに感付いていても、口にしないのが良識というか、そういうものじゃないのか。

 視線でそんなことを訴えれば、彼からもまた呆れの視線が向けられた。

 アイリスだけじゃなく彼まで……おのれドラッキー。

 私の数少ない尊厳をここまで台無しにした代償は支払ってもらうぞ。

 

「まあ、いいけど……今は早く騒ぎを止めないといけないし!」

「その通りだ。行こ――待て、速い。ちょっと」

 

 速足で進む光少年。悪魔像の明かりの届かない通路の向こうへとずんずん進んでいく。

 彼のPETのライトを追うように、私も少し足を速めた。

 光少年の歩みにはあまり迷いがない。夜目でも利いているのかと思い聞いてみれば、先程このアトラクションに挑んだ記憶を辿っているらしい。

 なるほど。彼は既に道順を知っていると。であれば仕掛けも知っているというもの。後方から彼らの悲鳴が聞こえてこなかったのはそういう理由だろう。そうでなければ彼らだって同じことになっている筈だ。そうに違いない。

 

「あった! ぬいぐるみロボだ!」

「む……」

 

 曲がり角から零れている明かり。

 先に見に行った光少年の声に私も急いで曲がると、そこは照明が落ちていない部屋だった。

 どうやらこのアトラクションにおいて、一度立ち止まる注目のスポットであるらしい。

 その部屋の中心で、タキシードにマントを纏った吸血鬼が目を赤く輝かせている。

 ヤツがドラッキー――のぬいぐるみロボ。腕を上げて、部屋に立ち入る者を威嚇していれど、襲ってくる様子は見られない。

 ……誘い込んでいるのか? 誰が、何のために……?

 いや、それはいい。まずはこのぬいぐるみロボを止めるのが先決だ。

 

「光少年、まずは私がプログラムを送る。人を襲わず、ここに立っている辺り、他と違うようだ」

「う、うん、分かった」

「それで解決すれば良し。念のため、プラグインの用意は済ませておいてくれ」

「なんか、元通りになってきたね、エールさん」

「頼むから蒸し返さないでくれ、本当に、切実に」

 

 悪気はないのだろうが、それでもつらい。悶えたい衝動に駆られる。

 少しでもそれを忘れるために、目の前の暴走ロボに集中する。

 ヴィルレー、ノヴレット、トローペを実行。ドラッキーの電脳世界に送り込む。

 中は――ブリキングのそれとは違い、暗く怪しい雰囲気に満ちている。

 それは吸血鬼というイメージに合わせて作られたものなのか、それともまた別の理由か――。

 こうして待ち構えているという行動を取った以上、下手人がここにいる可能性もある。

 ノヴレットは流石にナビを相手に出来るほどの強さはない。場合によっては、光少年の手を借りざるを得ないか。

 先のブリキングのような解決は出来ない。『太陽少年ジャンゴ』の物語など持っていないし、ここは今の物語データを正しく復旧させていかないとならないか。

 

「……光少年。『太陽少年ジャンゴ』の物語について、簡単に教えてくれ。日本の現代の物語らしいし、よく知らないんだ」

「えっと、確か――」

 

 どうやら中の物語データはこのアトラクションの内容に沿っているらしい。

 よって彼から聞いた、ここのシナリオをそのまま再現することで、復旧が進んでいく。

 あまり知名度がないような話ではないのが幸いだったな。

 物語データの復旧が完了し、制御システムへ向かい――その時、三体がほぼ同時にデリートされた。

 最後にヴィルレーから返ってきた情報は、ナビの反応。

 

「……どうやら犯人のナビがいるらしい。準備はいいかい?」

「勿論! いくぜ、ロックマン!」

『うん!』

 

 私も、エールハーフを実行する。

 ヴィルレーとトローペはともかく、ノヴレットは並の攻撃で一撃でデリートされるほど耐久力がない訳ではない。

 犯人はそれなりの相手のようだ。私もいた方が良いだろう。

 

「プラグイン! ロックマン.EXE、トランスミッション!」

「解凍、エールハーフ.EXE。パルストランスミッション」

 

 ロックマンと私の半身がドラッキーのぬいぐるみロボへと飛び込んでいく。

 既に物語データは復旧されている。

 あとは制御システムへ向かい、停止コマンドを実行するのみ。

 その筈だったのだが――

 

『……制御システムがない?』

「なんだって? じゃあ、どうやってぬいぐるみロボの暴走を止めるんだ?」

 

 他のぬいぐるみロボと構造は同じであるようだが、ただ一つの違いがあった。

 制御システムが存在しない。というよりは……。

 

 

『――ああ。あの制御システムか。邪魔だったので、消させてもらったよ』

 

 

 その時上方から振り掛かる声。

 大きな飛膜を広げ下りてくるナビを、ロックマンと共に見上げる。

 コウモリを模したナビ。紫色の体のデザインはスーツにも見え、一見すれば胡散臭い紳士という印象。

 だがそれが十分に脅威であることはすぐに分かった。

 面識はないものの――ヤツはウラにおいて有名であるのだから。

 

『シェードマン!』

『キキッ……久しぶりだね、ロックマン。先日はワタシの部下が世話になったようだ』

 

 ……部下が世話になった?

 聞いてないぞ……別件で面倒ごとに巻き込まれていたのか。

 

『今回は君たちのみでの解決とはならなかったようだが。そっちの君は何者かな?』

医者(デバッガー)だ。初めまして、ランキングの新入り殿。ダークチップをばら撒くことしかしていなかったキミがこんなテーマパークで何をしているんだ?』

『む……? ――そうか。君が噂に聞くバグ医者か』

 

 ――ウラランキングの第五位が入れ替わったのは最近の話。

 遂に一万人デリートを成し遂げた戦闘狂は、彼の目的を知る誰しもが予想した通りの結末を迎え、シークレットエリアの門番という提案された役割を蹴ってデリートされる道を選んだ。

 それによりランキングに動きが発生。空いた第五位に入ったのが、それ以前からダークチップの出所として有名だったシェードマンだ。

 名を上げたことでヤツは更にダークチップの流通を加速させていたようだが、そんなナビが今回の事件を起こしたというのか。

 

『キキキ……バグ医者の存在は予想外だったが、今は君に用はない。ロックマン、ワタシの目的は知っているね?』

『……ダークチップか!』

 

 ――ロックマンは、思い至ったとばかりに、その手にチップデータを取り出した。

 ただのそれとは話が違う。零れ出すほどに闇を含んだ、彼が持っていてはいけないモノ。

 

「……光少年、ロックマン。キミたち、一体何故そんなものを持っている」

「少し前に……あのシェードマンが落としたのを拾ったんだ」

「名前を知っている以上どういうモノか知っているんだろう。何故捨てなかった?」

 

 気まずそうに沈黙する光少年。まさか使っている訳ではないだろう。

 だが、それを彼らが所有しているということ自体が、私としては信じられなかった。

 

『失態だったよ……ただのダークチップであれば是非、君たちにプレゼントしたかったのだが、生憎それは特別なものでね。奪われてしまっては、ワタシも指導者様に顔向けが出来んのだよ』

 

 指導者……恐らくは、ネビュラの首領。

 最近活動を活発化させているダークチップシンジケートにシェードマンが属しているというのは、ウラでは有名な話だ。

 流通という形で、寧ろダークチップを積極的に手放している彼が執着するということは、今ロックマンが持っているそれは相応の特別なものである可能性が高い。

 ……説教は後だ。それが目的であるのなら、選択肢は二つ。どちらにせよ、ロックマンが持ち続けるという道は存在しない。

 

『……それを渡すんだ、ロックマン。キミが持っているべきものじゃない。取引は私が行う』

『え……? でも……』

『問答無用だよ』

 

 彼からダークチップを奪い取る。

 まともじゃない代物の中でも特におかしなものであることが、手に持ったことでより伝わってくる。

 嫌悪感を覚えるほどの凄まじい闇を握り、シェードマンと対峙する。

 このデータの元の持ち主は、“取引”という言葉に胡散臭い笑みを浮かべた。




・シェードマン
4、5に登場するナビ。
ダークロイドと呼ばれる、ダークチップを取り込んだナビでネビュラの一員。
他のナビのエネルギーを吸い取ることが可能で、デザートは女性ナビと決めている。
熱斗とロックマンのネビュラとの戦いの幕を開けた存在であり、5チームオブカーネルではプライド様がチームメンバーとなって最初の戦いの敵となる。
また、4のとある会話では、戦いに明け暮れる毎日に疲れたロックマンに代わり熱斗のナビとなる。突然の別れに戸惑う熱斗に「何も悲しむことはない」と声を掛ける優しい一面もある。
アニメではダークロイドの設定が変更され、その長として活躍するが衝撃的な最期で子供たちにトラウマを与えた。


アイリス以外に聞かれていないなんてそんな都合の良い展開はありません。
そんな訳で恐らくプライド様さえ知らない秘密を握った熱斗。それが悪用されることはありません。R-15タグこそついていれど原作のCEROはAです。
そしてしれっとこの世を去った戦闘狂とそこに新たに収まったシェードマン。新たな第五位の誕生です。
彼との接触でいよいよダークチップが話に絡んでくる展開。
ダークチップ、いいですよね。こうして二次創作を書く分には存分に悪用出来ますし。
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