バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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おとぎの国と闇の囁き-5 【本】

 

 

『取引と来たか……キキ、確かに手荒なことはしたくないがね。しかし、それを悠長にしていられるほど時間がある訳でもないのだよ』

『ものがものなんだ。慎重にするべきだろう?』

 

 ネビュラが持っていた特殊なダークチップ。決して良いものではないのは明らかだし、正直に渡して良いものとも思えない。

 このシェードマンが動き出すほどの事態だというのなら一体これは何物なのか。

 

『で。これは何なんだい? ただのダークチップではないことは分かるが、ネビュラにとって重要な代物か?』

『それが一体何か、君が知る必要はない。取引とやらに応じるかはワタシ次第だ。力尽くという手も取れないでもないのだからね』

『それは此方も同じだよ。テーブルにつくことを強要させるくらいなら、私にも出来る』

 

 ダークチップを持つ腕に、ゴスペルを顕現させる。

 取引材料はその口の中。それが何を意味しているかは彼にも分かるだろう。

 ダークチップとはいえ、チップデータというものは特別頑丈な訳でもない。

 ゴスペルが一度口を閉じるなり、火を吹くなりすれば一撃で破壊される程度のものだ。

 

『ほう……ウラに名を轟かせるバグ医者とは理知的なものとばかり思っていたが、過激な手段を取るじゃないか』

『ウラに名を轟かせる以上、医者(デバッガー)も手段を選んではいられないんだよ。あそこがどういう場所か、キミも知っているだろう』

『キキ……良いだろう。教えてやろう。だがその前に――バグ医者、君はダークチップをどう思っている?』

 

 これが本当に大切なデータなのだとすれば、多少なり、危機感は抱いているだろう。

 隙を見出すための揺さぶりか。まあ、そのくらいなら答えてやらんでもない。

 

『碌でもない代物だ。使い方も分からん輩がウラにまで蔓延っていて困る。分かるか? ダークソウルに蝕まれた心をどうにかしろと、鬱陶しいほどに依頼が来る。頼むから、己の闇との向き合い方を知らない者に渡すのをやめてくれないか』

 

 どちらかと言えば、私情の方が多分に含まれている文句。

 存在そのものに否定をしていないからか。

 シェードマンも、そしてロックマンや光少年もまた、目を丸くしていた。

 

『それはそれは。予想外のところに迷惑が行っていたものだ、謝罪しよう。だが、止める訳にはいかない。これが指導者様のお導きなのでね』

『その指導者様とやらが誰か……とは教えてはくれないか。さて、一つ此方も教えた訳だが。最初の問いの答えは返してくれるんだろうね?』

『それはダークチップのマスターデータだ。代えの利かないものでね……紛失すると困るのだよ』

 

 マスターデータ、ねぇ……何故そんなものを、彼が持っているのか。

 普通は外に持ち出すようなものでもないが。

 真偽はどうあれ……そうであれば、このチップデータの使い道も決まったな。

 返してやろうじゃないか。その先どうなるかは知らんが。

 

『それほど大事なデータであれば、今度からはちゃんと管理しておくことだ。管理が杜撰だと、大抵の場合悪用されるからね』

『キキ……耳に痛いな。その忠告は受け止めよう』

『よろしい。では、返そう』

 

 ロックマンが何かを言おうとするも、それより先に私はダークチップをシェードマンに向けて放り投げる。

 それを受け止めようと、シェードマンは手を伸ばし――その無防備な姿に向けて、チップを行使する。

 ゴスペルのテクスチャのまま発現したチップの砲口は彼に向けられたまま。

 ダークチップとシェードマン、二つを巻き込む連射式の砲が放たれる。

 超連射の弾丸により敵を制圧する、同系統チップの単純強化たるメガクラスチップ。

 ただ使うだけでは平凡なチップに過ぎないが――これは数値付加系統のチップと組み合わせることで絶大に強化される。

 弾丸一つ一つに威力が追加され、長く拘束され移動が制限されるというリスクに足るチップへと変わる。

 

『――――ッ!?』

 

 チップの名は『スーパーバルカン』。

 弾丸の一発に撃ち抜かれたダークチップはいとも簡単に砕け散る。

 そして残る残る弾丸はシェードマンへと襲い掛かり、その体に穴を開けるが――弾けたようにばらけたその体は小さなコウモリの群れへと変わった。

 

「エールさん!」

「下らない依頼が減るなら万々歳だよ」

 

 ――どの道、光少年とロックマンはこうしていたことだろう。

 そうして、この場でシェードマンの怒りを買っても好ましくはない。

 どうあれここでネビュラに目を付けられるのであれば、彼らよりは私の方が良いだろう。

 

『――――ギ、ギギギ……! バグ医者! 貴様ァ!』

『おいおい、ちゃんと管理しろと言っただろうに。身を挺して守るどころか逃げ出してどうするんだ』

 

 コウモリが集まり、再び本来の姿を形作ったシェードマンの激昂に、挑発するように返す。

 既に私はダークチップをシェードマンに返しており、私はシェードマンに対して攻撃しただけだ――と言い訳する必要もないか。もう既に怒り心頭なご様子だし。

 

『許さんぞ! 最後の一滴までエネルギーを吸い尽くしてやる!』

『そういう趣味を否定はしないが、生きたナビにやるのはやめた方がいい。受け入れてくれる者などそうはいまいよ』

 

 ナビのエネルギーを吸い取る能力とは。何とも悪趣味なつくりだ。生憎、私にはその手の趣味を受け入れる度量の広さはない。

 

『ほら。やるならこっちにしてくれ。いい気分はしないが、まあ我慢しよう』

 

 PETから送り込み、足元に転がしたのは、過去の私。

 例えるならばかつての抜け殻――再使用が不可能になったエールハーフの外装。

 これにも吸い取られるべきエネルギーは多少なり残っている。自分であったものが吸収の被害に遭うさまを見るのは嫌だが、そこまで飢えていると言うなら仕方ない。

 ロックマンが引いたように一歩後退る。何だと言うんだ。受け入れがたいなりの善意だと言うのに。

 

『貴様……どこまでもワタシを馬鹿にするか! その愚昧、あの世で後悔するがいい!』

『善意だったんだが――な!』

 

 激昂したシェードマンが伸ばしてきた腕に対抗するようにゴスペルを放つ。

 単調な攻撃であればこれで対処可能だ。そうしているうちに、彼と距離を取る。

 

「ロックマン、オレたちも!」

『うん! オペレートよろしく!』

 

 バグイーターは腕を噛み砕こうとするも、直撃する寸前にまたもシェードマンはコウモリの群れと化した。

 そしてまた集まろうとしたところに、ロックマンが『エアシュート』を放つ。

 速度に秀でた風の弾丸は、やはり直撃することなく群れを散らせるだけとなった。

 続けて放たれた『スプレッドガン』の拡散ですら、それを捉えることが出来ない。

 いや――当たってはいる。コウモリとなったシェードマンを撃ち抜いた攻撃は影のようにすり抜けているのだ。

 

『小賢しい! 貴様らでは及びもつかん闇の力を思い知れ! キキキ――――!』

 

 辺りを飛び回るコウモリから発される声。

 背後に感じた気配に咄嗟に『インビジブル』を使えば、透過した体を貫く腕が顕現した。

 コウモリの一部が集まることで体の部位単独での出現が可能か。

 後方に『バンブーランス』を展開し、前方に『ワイドショット』を放って包囲に穴を開ける。

 

「駄目だ……やっぱり攻撃が当たらない!」

「ヤツと戦った経験があるのか?」

「一回だけ……でも、今みたいにまるで攻撃が通らなかったんだ」

 

 ヤツの固有能力――いや、それは恐らく、コウモリへの分裂だけ。

 攻撃が通らないのはまた別の理由のように思える。

 

『無駄だ! 我らダークロイドにその程度の力など通用しない!』

『ダークロイド、ね。流石にナビとしてのレベルが一段階違うじゃないか』

『今更知ったところで遅い――恐れおののけ! ワタシの手で干からびさせてやろう!』

『やめろと言うのに。あまりそういう目的で女に近付くものじゃない』

 

 ロックマンの攻撃を躱し、私の前に集まって姿を晒したシェードマン。

 その開かれた大口に向かって、エールハーフの抜け殻を蹴り飛ばす。

 吸い取るならそれにしてくれ。本気でやめろ。

 

「エールさん、何か分かる?」

「恐らくは、ダークチップの闇の力を注いで強化したナビだ。ダメージを与えるなら、闇の間を縫うほどの正確無比な攻撃か、ひたすら攻撃を続けて彼の闇を削るか――或いは」

 

 どちらも、私やロックマンがこの場で行うには難しいことではある。

 攻撃を防ぐほどにまで増幅した闇を削るのに、一体何枚のチップが必要になるかも分からない。

 はっきり言って、ナビの能力そのものを強化している以上ヤツの力はロックマンより上だ。

 そんな相手に私が長持ちするとは思えない。

 油断ならない戦いともなれば――プロトの異物感が真剣に邪魔だ。

 思うに、あと五分持つかどうか。であれば、取れる手はより限られてくる。

 

「何かあるの?」

「……一つだけ、ね。光少年、危険だからロックマンを後退させるんだ」

「え? き、危険なら尚更オレたちがやった方がいいって!」

「駄目だ。まあ――任せたまえよ。こういう手合いの相手は、汚れ仕事に手慣れた者がこなすのが一番だ」

 

 彼らはシェロ・カスティロに遊びに来ただけの子供だ。本来、この事件の対処に駆り出される理由すらない。

 そんな彼らに、ヤツを倒すためだけにそんな手を取らせる理由などない。

 なに、得意科目だ。過ちを正すための過ちなら、私の右に出る者などそうそういない。

 

『ロックマン、こっちに!』

『ッ、了解――!』

 

 ロックマンを一度後退させる。そして、彼とすれ違うように前に出る。

 大口を開いたシェードマンの前に出れば、歪な音波に晒され脳が揺れる。

 

『っ……!』

 

 問題ない。アンダーシャツは機能している。

 ナビの機能そのものに不調を与えるものであるようだが――目の前の敵に攻撃を当てるだけであればそれらの不具合など問題にならない。

 ぐらぐらと揺れる視界の中心にシェードマンを捉え――チップを使用する。

 

 ――『ダークワイド』。

 

 放たれた水流は膨大な闇を纏い、影へと逃げる余地すら与えずシェードマンを貫いていく。

 

『ぬ――! ぐぉお!?』

 

 そら、思った通りだ。

 闇の力を相殺するのは同じ闇の力。チップが瞬間的に引き出す膨大な力であれば、簡単にその闇の膜を引き裂くことが出来る。

 ――チップの使用と同時に、私の体を蝕む闇が更なる不具合を齎していく。

 ダークチップ使用の代償の一つ。使うと決めたその瞬間から、体はバグに蝕まれていく。

 知ったことか。この外装は最初からバグ塗れだ。一つ二つ増えたところで何も変わりはしない。

 

「え、エールさん、それ――」

「……」

『貴様、ダークチップを――』

『今更気付いたところで遅いよ、ネビュラ』

 

 己の闇が穿たれ、目を見開くシェードマン。

 その想定外に付け込んで、懐にまで走り寄る。

 振るう一撃の名は、『ダークソード』。その性能はただの『ソード』など及びもつかず、プログラムアドバンスたる『ドリームソード』とほぼ同一の威力を発揮する。

 黒い一閃は無防備な体を斜めに切り裂く。

 フォルテのような規格外でもなし。元よりこの闇の守りが頼りだったのだろう――たった二枚で、その体は限界を迎えた。

 

『キ、キキ……よもや、躊躇いなく、闇の力を使うとは……』

『キミより利口に使っているさ。この体だってすぐに廃棄する』

 

 闇に蝕まれた外装など、さっさと破棄するに限る。

 流石にこれを再使用するのは私も無理だ。これが私にとってのリスクと言えよう。

 

『そうか……とっくに、お前も、ダークサイドの一員、だったとは……まあ、いい……お前にも、ロックマンにも、既にダークソウルが根付いている、ようだからな』

 

 ……ロックマンにも、と来たか。

 詭弁の可能性もあるが……彼らがダークチップを使っていないのであれば、やはり暫く所有していたことが理由になっているか。

 ソウルの共鳴という力を手にしたロックマンだからこそ、よりダークチップそのものに魅入られることになったという推測も生まれる。

 ……悪い兆候でなければいいが。

 

『キヒッ……自分の、心の闇を垣間見る度に、ワタシを、思い出せ……ギギ……闇に還る、時が……!』

 

 その体が散っていく。

 日に当たったヴァンパイアの如く。灰となって消え去っていく。

 どうあれ――此度の第五位は短命だった。またすぐに入れ替わりが発生する。セレナードには苦労を掛けるな。

 シェードマンのデリートを見届ける。彼の命が消えるのと同時、暴走していたドラッキーは動きを止めた。




しれっとこの世を去った戦闘狂とそこに新たに収まったシェードマン。新たな第五位の退場です。
原作で戦闘前に、ロックマンにダークソウルが芽生えている旨の発言があるため、ここで彼が使用する必然性はないと判断しました。
よって汚れ仕事はウラの人に頼みます。結果としてセレナードの仕事が増えました。
戦闘狂くんの意思を酌んでをデリートしたのは自分なので自業自得です。
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