バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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ウラ・アミューズメント 【本】

 

 

『デンサンシティのテーマパーク、シェロ・カスティロで事件、ですか』

「物騒な世の中ですね」

 

 その日の夜、桜井嬢とメールでやり取りしつつ、私はプライド様に近況の報告を行っていた。

 一応、桜井嬢の特訓についてはある程度纏まった。

 明日一日、シェロ・カスティロでは全体の点検を行うとのことで、大会についての活動は無し。

 私もなし崩し的にそちらに少しだけ携わることになったものの、それなりに空き時間は多い。

 よってその時間を特訓に使うことにした。

 まずは桜井嬢のナビの特性と、彼女の戦い方について見ておかなければならない。

 ナビの特性を活かすことは大前提。その上で、どういった方向に伸ばしていくかを考える必要がある。

 

『テーマパーク内のロボがハッキングされて、暴走したようですね』

「客に被害が出なくて何よりです」

 

 大会に出ることを目的とする以上は、一人のナビへの対策を徹底するだけでは駄目だ。

 全国から集った強豪たち。それらのナビがどんな特性であろうともその場で対策を取れるくらいの柔軟性を持たなければならない。

 桜井嬢は聡明だ。その素質はあると思っている。

 バトルのセンス――こちらも、ある程度はどうにかなる筈。

 長所を伸ばして、短所を補う。それだけでは平凡に優秀なナビにしかならない。

 大会を戦うならば、他から見て対処が難しいような特異な持ち味が欲しい。

 

『一般の小学生やテーマパーク内での企画準備のために海外から来ていたスタッフが直接ロボを停止させるために動いていたとか』

「ご苦労なことですね」

 

 例えば、ブルースの正確無比なソードの冴えのように。

 ロックマンのソウルユニゾンと、他とは比較にならないオペレーターとの絆のように。

 それらに匹敵するほど、とは言わない。だが、その場で使われて、対処に手間取るような特殊な何かがあれば、全国の強豪相手にも付け入ることは出来るだろう。

 ……ふむ。まだ遅い時間でもない。

 今日のうちに桜井嬢のナビの情報くらいは送ってもらうか。

 現時点で彼女の分かる限りの長所や短所を此方も把握しておけば、明日の時点で特訓用のプログラムを用意しておくことも不可能ではないぞ。

 

『犯行はここ最近で活発に動いているネビュラという組織のようです』

「初日から連中に狙われるなんて、不幸ですね」

『エール、また手を出しましたね?』

「海外からのスタッフという情報だけで断定するのは早計かと」

『今なら不問としますが』

「関わりました。すみませんでした」

 

 ――そんなことを考えているうちに、私はプライド様に追い込まれていた。

 ここ二回で偶然面倒ごとに巻き込まれただけであって、そういったジンクスが生まれた訳ではない。

 今回は怪しいところのない依頼なので、断る理由もない。

 特に事件に巻き込まれる予定もないから安心してほしい。

 出かける前にそんなことを言って出てきた。

 プライド様は疑い過ぎである。そう何度も何度も、ピンポイントで事件が起こっては堪らない。

 そう豪語した数日後の夜。プライド様の画面越しの圧が、私を襲っていた。

 

『……本当。貴女は何か悪いことでもしたんですか? はっきり言ってここまでの密度で事件に巻き込まれるなんて、異常ですよ?』

「まあ、思い当たる節は山ほどありますが。光少年よりはマシだろうと自分に言い聞かせています」

『彼は既に一生分の事件に遭っているでしょうからね……』

 

 ゴスペル、WWW、そしてネビュラか。

 ゴスペルについては私が自分から飛び込んだようなものなのだが。巻き込まれたとプライド様が判断しているのは何だか心苦しい。

 WWWの件については……N1は見て見ぬ振りが出来ても、病院の一件は無視出来なかったから自分から飛び込んだと言える。

 そして、今回のネビュラの事件。

 これは無罪だぞ。少なくとも私には何の落ち度もなかった筈だ。

 ――うむ。これだけ事件に関わってきたのが私が要因なのか光少年が要因なのかは議論の余地があるな。

 それ以前から色々と巻き込まれていたことを考えれば、光少年が事件を呼び寄せる体質を持っているのであって私には問題がないとは考えられないだろうか。

 今回のネビュラの事件だって、シェードマンの言葉を聞く限りでは目的は光少年が持っていたダークチップのマスターデータだ。

 ……一番重大なところで関わった気がするな。どうしよう、これ。

 

『特に大事なく終わったのであれば幸いですが……ネビュラと関わってしまったのですね』

「これ以上関わるつもりはないです。大会が終わったら、すぐに帰りますよ」

『……本当ですね? これ以上、わたくしの頭を痛めないでください』

 

 むう……プライド様の頭痛の種になっているのは考え物だ。

 私のことなど気にしなくても良い、と言うことが出来れば良いのだが、そんなことを口走れば逆鱗に触れることなど私でも分かる。

 

「気を付けます。余計なことには、可能な限り首を突っ込まないように」

『不可能でも関わらないでほしいんですけど……』

「無茶言わないでください」

 

 不可能だったら当然関わるぞ。

 今回のもそれに近いし。まあ、然るべき報酬は貰うことは決定した訳だが。

 

『はぁ……まあ、不問としましたし、これ以上は言わないでおきましょうか』

「その方がありがたいです」

『戦闘があったということは、今日のところはもう休んだ方が良いでしょう。ゆっくり休んで、明日以降に備えてください』

「はい。ありがとうございます。おやすみなさい、プライド様」

 

 今日の説教は控えめだったなと思いつつ、通話を終える。

 いつもはもっと圧があるというか、厳しいのだが。

 まあ、説教を求めている訳ではない。気にしないようにしよう。

 桜井嬢との話もついた。

 一応明日用の訓練プログラムの準備は終わっているし、今日のやるべきことは一通り終わったな。

 まだ早い時間帯だが……プライド様の言う通り、早めに休むか。

 そう思い始めた時だった。PETに桜井嬢以外からのメールが届く。

 こっちのメールアドレスは依頼用とは違う、プライベートのためのもの。

 ゆえに送ってくる者も限られる。少なくとも知らない誰か、ということはない。

 寝る前に確認しておこう、と思い差出人の名前を見て――そこに書かれていた『セレナード』という名に、見ないでおけば良かったと早くも後悔した。

 

 

 

 基本的に我らがウラの王が連絡を寄越す時、用件はメールでは送らず“シークレットエリアに来てほしい”という旨だけ書かれていることが多い。

 それもその筈。どれだけ気を付けていても漏洩の危険があるのがメールというものである。

 その点、シークレットエリアの奥であるセレナードの間では心配がない。

 あそこに行くことが出来るのは、ランキングを持つ十人だけであるがために。

 また、この時間から、しかも出先で呼び出しか、と億劫になっていたのだが、メールに書いてあった内容はそれとは違った。

 曰く――“話があるのでそちらのホームページに伺いたい”とのこと。

 もっと面倒くさくなった。

 危険は大いに減ったが、本当に何の用事だ。

 

 仕方なくもう一度エールハーフを実行した。

 先程シェードマンとの戦いで使用したものは、音波の影響かあちこちが壊れていたので破棄済み。

 新しいものはまだ用意していないので基本的には使用しない予備だ。まさかこんな用事で予備を使うことになるとは思わなかった。

 向かった先は私のホームページ。

 ここは私の利用目的から、大きく四つのエリアに分かれている。

 一つは一般の依頼を受け付ける、クリームエリアから繋がる場所。

 一つはそちらを利用できない疚しい事情のある連中の依頼を受け付ける、ウラから繋がる場所。

 一つは基本的に私のみが利用できる管理用エリア。ウイルスを使った試験等はここを使うこともある。

 そしてもう一つが、プライベートな客人を招くためのエリアである。

 レヴィアがインターネットに出るために使っているのもここの一部。先日、ソウルユニゾンの説明のためにロックマンを招いたのもここ。桜井嬢の特訓に使うのもここ。そんな訳で、この場所へのリンクをセレナードにも渡しておいた。

 有効期限は日が変わるまで。とっとと終わらせたいという意思表示である。

 パルスインして数分。黒いローブに身を包んだナビが、リンクを踏んでやってきた。

 アイツも愛用していた、匿名化のためのアバターである。

 ウラの住民からも狙われる立場になったナビに限らず、ウラではあの手の隠蔽手段を利用している者は多い。

 そもそもウラを歩くナビの大半は足がつくことを望まない者だ。ウラ掲示板で匿名が暗黙の了解となっているのもそれが一因となっている。

 とはいえ――

 

『……こんばんは。似合っていないぞ、セレナード』

『こんばんは。自覚はしていますよ、エール・ヴァグリース』

 

 似合っていない。致命的に似合っていない。

 アバターの上書きのため、その外見にセレナードの容姿は一切反映されていない。

 だというのに、これほど“似合っていない”という言葉がしっくりくる。何というか、雰囲気が透けて見えている。

 中身と外見が凄まじく異なるとちぐはぐに感じるものである。

 以前、レヴィアのライブで出会った時もそうだった。一度でもセレナードに謁見したことがあれば、こんなの一瞬で分かるぞ。

 

『それで。こんなところに何の用だい? 今日は昼間少々立て込んでいてね、疲れているからあまり時間を取りたくない』

『では、手短に。少々相談があるのです』

 

 黙ったまま、先を促す。

 セレナードには、何処か疲れた様子があった。

 珍しいな。ウラの王がこんなに庶民的な気配を纏うのは。

 

『……先日新たに第五位の座を渡したナビが、早々にデリートされたようでして』

『そうか。ウラの生き方を知らなかったのか不幸だったのか。どの道、歴代ランカーの中でもだいぶ短命だったな』

 

 危ない。どんな話題か幾つか推測しておいたうちの一つで良かった。

 まあ、確かに短命ではあったな。

 それ以前からウラで知られた存在ではあったものの、ランカーとなってからここまで早くデリートされたというのもこれまででは無かった筈だ。

 これでは第五位が呪いの席だ何だと噂されるようになるぞ。

 ――しかしインターネットと繋がっていない電脳世界でデリートされたのに、感知できるのか。どんな手段使ってるんだ。

 

『またここの穴埋めをしたいのですが、それに一つ問題があるのですよ』

『問題? いつも通りの血生臭いバトルロイヤルで良いんじゃないのか?』

 

 ここ数年は前のランカーからの継承なんてなかった筈だし、今回の不幸で短命な新入り殿も不慮の事故だろうしきっと後釜なんて決めていないだろう。

 である以上、新たにそこの座を与えられる者はそれを求める酔狂たちが物騒な力比べを行うのが通例だ。

 それの何が問題なのか。いや、倫理的には問題大ありなのだが。

 

『前回の儀式がおよそ一ヶ月前。そこから再び第五位を決めるとなると――間隔が短すぎるのです』

『いつからウラの王はエンターテイナーになったんだ?』

 

 一瞬、何を言っているのか分からなかった。

 間隔が短すぎるって。不定期の行事の日程に苦悩する運営スタッフでもあるまいし、そんなこと気にする必要はないと思う。

 ウラの王がそんなことに頭を抱えているなど、崇拝しているヤマトマンが聞いたら泣くぞ。

 

『真面目な話です。オモテにも、儀式を知らぬ浅い者にも悟られることなく、秘密裏に行うのが前提。知らないかもしれませんが、ウラ全域を使った戦いとなるため、あまり短期間で行うと情報統制にも限界が来るのです』

『あまり知りたくなかったな、その生々しい事情』

『……ウラの管理も、大変なんですよ』

 

 はあ、と深い溜息を吐くセレナード。幸福が逃げるぞ。キミから幸福が逃げると困るのだが。

 私からすれば大変どうでも良いことを悩むその様は、この場で攻撃を試みたところで傷一つ与えられないような規格外の存在とは到底思えない。

 というか色々とぶっちゃけ過ぎだろう。私はメンテナンス要員として管理の一端に携わってこそいるが、ウラの住民の一人に過ぎないぞ。

 それに情報統制がどうとかは専門外だ。

 

『まあ……そういう訳ですので、今回は先代からの継承という形で穏便に終わらせようと判断しています』

『……それで?』

『誰か相応しい知人などいませんか?』

『私を人材サービス会社と勘違いしていないか?』

 

 週七日勤務、ウラインターネットで常に命を狙われる危険性に耐えられる人募集。高い実力を持っている者。戦闘以外の特殊技術を持つ者優遇。前任二名はここ数ヶ月で謎の失踪を遂げているがその事実を恐れることなく、長続き出来る者。なお、就任後の各種理不尽に対する文句は受け付けるがそれが受理されるとは限らない。

 思えば何故こんな席を皆求めるのだろうか。力の示し方なんて他に幾らでもあるぞ。

 

『……最近貴女は助手を連れていると聞きますが』

『戦う力はないぞ。あと、必要以上に目立たせるつもりはないから、その手の勧誘はお断りだ』

『はぁ……』

 

 二度目の溜息。隙を見せているというか、プライベートというか。

 そこまで信頼されているのか、それとも舐められているのかは知らないが、だいぶ気が抜けているな。

 多少は同情しなくもない。そうやって苦労を知ってシークレットエリアに私を招く頻度も減らしてほしい。

 

『今回はいつも通りで良いんじゃないか? 有名ナビでも油断すればこれだけ早く消える世界だと知らしめれば参加者も減るだろう。その上で小規模で開催してしまえ』

『……そうしますか。参加する権利を与える段階から減らしてしまいましょう』

 

 それが適当な落としどころだ。最悪、専用の小さなエリアを作ってしまえばいい。

 割とどうでも良い理由で、今日もウラインターネットという世界は広がっているのだ。

 同じように新たなランカーを決めるためにそれがあってもおかしくはあるまい。

 その後は、ウラの王の愚痴を延々と聞かされ、およそ一時間後に強制終了するまでそれが続くこととなった。

 吸血鬼の館の騒動といいこれといい、シェードマンというナビは大変な疫病神だった。




恒例のプライド様のお説教とセレナードの受難の二本立て。
上に立つ者は色々なことに頭を痛めるという話。
友人が他国で勝手に色んな事件に巻き込まれたり、就任したばかりの部下のような者が原因不明の失踪を遂げたり。
頭を痛めている原因が一人に絞れるのは気のせいです。シェードマンが疫病神だったということにしておきましょう。
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