バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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あなたのバグは喉から 【本】

 

 

 午後、私はビーチストリートの穴場であるカフェで、緑川氏を前にトードマンのデバッグ作業を行っていた。

 というのも、日本に来る前、彼女からの依頼を受けていたのである。

 昨今のネビュラの活発化。そしてダークチップの広まりは警戒すべき事態である。

 DNNでもそれを重く見ているようで、特に生放送で活動しているナビがそれの影響を受けていないか、近々監査が行われるらしい。

 生放送に出演しているナビが突然ダークソウルに支配されて暴走してしまっては放送事故も良いところである。

 ダークチップの危険性は広まるだろうがDNNは管理体制を叩かれるだろうし、さらにネビュラが付け上がるというもの。

 ただでさえ、DNNは去年のN1でWWWのメンバーをディレクターとして抜擢し、最終的に失敗こそしたもののその計画をお茶の間に発信するという大失態をしている。過敏になるのも仕方あるまい。

 その監査の前に、信頼できる者に確認してほしいとのことだった。

 緑川氏の信頼の対象と判断されているのは、まあ、嬉しい。

 勿論依頼である以上ちゃんと貰うべきものは貰うが。プライベートはプライベート、仕事は仕事である。

 

「……そうか。日本では結構広まっているのか」

 

 作業をしながら話を聞くところによると、日本では既にオモテのインターネットにまでダークチップが広まっているらしい。

 当然見つかれば没収と罰金で済めば幸運という厳しさだが、一般にも危険性が認知されているというのは良い傾向だ。

 あとはウラの間抜けみたく影響への対策も考えずに使う者がいなければ良いのだが……それはある意味ウラより心配だな。

 軽い気持ちで使ってしまう者は、どれだけ法を厳しくしても出てきてしまうものだ。

 

「そうね。この前はオフィシャルセンターの前で格安でばら撒いていた人が逮捕されたって話よ」

「並外れた度胸の持ち主だね、その人物は」

 

 よりによってオフィシャルのお膝元でダークチップを売るなんて、新手の自殺願望というヤツか?

 もしくはその身を以て危険性を広めようとしていたか。自己犠牲は結構だがその方向性は謎極まるぞ。

 

「エールちゃんは使ってないわよね? ダークチップの影響も診られるって聞いて、凄いと思った反面少し不安になったんだけど」

「私はちゃんと健全な関係を築いているとも」

 

 鞄からチップケースを一つ取り出し、緑川氏の側に向けつつそれを開く。

 その中身を見て椅子を少し引いた彼女は決しておかしくはあるまい。

 普通はこんな光景、見ることもないだろう。つまるところ、ダークチップ勢揃いの危険極まりないチップケースなど。

 

「ちょっ……!?」

「店内では静かにした方が良いと思うよ」

「……、なんで持ってるのよ、そんなもの」

 

 恐る恐るとそれを覗く緑川氏。あまり見ない新鮮な光景だな。

 

「警戒せずとも、本来の力は残っていないよ。発生する不具合を把握するためのサンプルだ」

 

 ダークチップの一枚一枚が圧倒的な力を持っており、使えばその者を闇に誘うというのはどれも変わらない。

 しかし、使用によって発生する重篤なバグはそれぞれ異なる。

 例えば体力が凄まじい速さで奪われ、ダークソウルに抵抗する力を失っていく。

 例えばカスタム領域から送られたチップを受け取った際に膨大なダメージを受ける。

 例えば戦闘衝動を刺激され、オペレーターの指示にも従わず接近して戦いを継続するようになる。

 そうしたバグを把握するため、チップとしての性能を抹消してバグのみを収めたダークチップを持つことの許可を受けている。

 私がダークチップの対処を知っているのはこのためだ――そういう事になっている。

 

「びっくりした……こんなところでごく普通に見せてくるものじゃないわよ」

「すまない。まあ、そういう訳だ。一応ダークチップで起きるバグも受け付けてはいる身として、一揃え持っているのさ」

「……許可取ってるんでしょうね?」

「オフィシャル公認だよ」

 

 許可を出したのは向こうだというのに、ダークチップの対応を行っている点を時折突っ込まれるのはあまりいい気分ではないぞ。

 いや、許可を出されずにやっていたらそれこそ問題だが。

 

「さて。トードマンは大丈夫そうだ。ダークチップの影響なんてこれっぽっちもないよ」

「良かったわ。これで安心して監査を受けられる。ありがとね、エールちゃん」

 

 ついでに簡単なメンテもしておいたので、その結果も軽く話す。

 トードマンはそのバトルスタイル上、体に負荷が掛かりやすい作りをしている。

 潜水能力というのは、少なくとも電脳世界では高度な能力だ。

 普通のナビであれば動きを大いに阻害されるそこで普通に戦闘を行えるようにしているのだから当然か。

 そしてもう一つ、非常にパフォーマンスが低下しやすいのはスピーカー機能を利用して放つ『ショッキングメロディー』だ。

 トードマン自身は水属性だが、この相手の動きを止める音符は電気属性を持つ。自身と相性の悪い属性の攻撃を武装として持つことのリスクと言えるだろう。

 傷み始めていたトードマンの“喉”からはそこそこのバグのかけらが摘出出来た。ありがたい。

 施術を終えた彼を緑川氏のPETに戻す。再起動した彼に、緑川氏は声を投げ掛けた。

 

「おはよ、トードマン。調子はどう?」

『ケロー……喉のイガイガが取れた気分だケロ』

 

 勿論先の喉がどうとかというのは比喩であり、トードマンの体が生物と同じ訳ではないのだが、そこはトードマン的にも喉であったらしい。

 喉元をさするトードマンに微妙な気持ちになりつつ、回収したバグのかけらを数え、保存する。

 だんだんと必要な数は増えているのだ。一つたりとも無駄にする訳にはいかない。

 うむ、大丈夫そうだな。

 すっかり冷めたコーヒーを啜り、起動したトードマンの問題が無さそうなことに頷く。

 これで緑川氏からの依頼は完了だ。

 

「依頼料は後で振り込めばいいかしら」

「そうしてくれると助かるよ」

 

 誰が監査として呼ばれているのかは知らないが、これでトードマンが引っ掛かるようなことはあるまい。

 一仕事終えたと体を伸ばし――ふと、思い出す。

 

「そういえば、聞きたいことがあったんだ。メラメラ祭りとやらを知っているか?」

「ん? メラメラ祭りって……東北の?」

「多分それだ。たまたまそれを知る機会があったのだが、あれは……その……どういう祭りなんだ?」

 

 午前中の暑苦しい二人が話題に出した奇祭。

 正直、あの二人の証言ではまったく想像が付かない。

 とりあえず物騒な祭りであることは確かなようだが――どうにも気になる。

 彼女が知らなければ夜にでも調べようと思っていたが、緑川氏は流石アナウンサーというべきか。特に悩むことなく話し始める。

 

「結構歴史あるお祭りよ。熱い男っていう、だいぶ独自の参加資格が必要なの。まあ、見物は男女問わず出来るけどね」

「その資格とやらは誰がどう判断するんだ?」

「事前に色々と試練があるらしいわよ。炎に囲まれた道を歩いたりとか」

「物理的な熱さへの耐性を求められるのか」

「“心頭熱血すれば火よりも熱し”ってことよ。祭りの常連はそのくらい何とも思わないらしいわ」

「私の知っている日本の諺と違うのだが」

 

 まさか本当なのか。火属性ナビを使うには熱い心がどうのというのは、そういう理由なのか。

 

「お祭り自体もとにかく暑苦しいわ。日本有数の火祭りね」

「火祭り、ねぇ……」

 

 あまり火を闇雲に使うのは感心しないな。

 火そのものにだいぶ偏見を持ってしまっている今の私からすると、やはり奇祭だぞ。

 そういう祭りが世界各国に多少あることは知っているが……。

 

「あと、メラメラ祭りといったらアレね。お神輿」

「そもそもそのオミコシってのは?」

「あ、そっか。んーと……簡単に言えば、神様を別の場所に運ぶための乗り物ね。とにかく派手なものを、担いで運んでいくの」

 

 宗教的な話だったのか。道理で知らない筈だ、と納得し頷く。

 緑川氏が見せてきたのは、一般的なものらしいオミコシの写真。

 何というか、やたらに装飾された家だな。それを前後で人が肩に乗せて運ぶものらしい。

 ……ん?

 

「……緑川氏。このオミコシは、複数人で運ぶのか?」

「まあ、そうね。何百キロってのが普通みたいよ」

「……メラメラ祭りのそれは、一人だけが担ぐことを許されると聞いたのだが」

「まあ、そうね。有名な話よ。燃え盛るお神輿を担げるのは一番熱い男だけだって」

「……やはり日本人は何処か身体能力がおかしいんじゃないか?」

「まあ、そうね」

 

 否定してほしいのだが。ごく普通に頷かれても私が困る。

 今回のものはこれまで私が知った日本人の超人ポイントの中でも際立って特殊だぞ。

 もしかすると一人で担ぐため多少は小さくなっているのかもしれないが、それでもやはり燃えるそれを担ぐという変態行為。

 これに比べれば、机を当たり前に飛び越えられるのもワイヤレスプラグを投擲できるのも可愛いものだ。

 

「火村くんだったかしら。ここ何年か連続でお神輿担いでいる男の子」

「らしいね。先程会ったのだが、何ともまあ、暑苦しい少年だった」

「へー。こっち来てるんだ。もしかしてホークトーナメント?」

 

 しまった、と思うも遅かった。あまり明かして良い情報ではなかった。

 仕方なく曖昧に頷く。迷惑料だ、と自分に言い聞かせつつ。

 

「ふーん。やっぱりあちこちから来ているのね」

「オフレコで頼むよ。まだ予選段階なのだし」

「分かってるわ。流石に使って良いネタと駄目なネタの区別はつくわよ」

「病人にインタビューをしないという分別もついてほしい」

「それはそれ、これはこれよ」

 

 何という胆力。これがアナウンサーというものか。

 忘れていないぞ。ゴスペルとの戦いを終えて病院に担ぎ込まれた私のところにほぼアポなし同然の突撃をかましてきたことを。

 まあ、アメロッパで出会い、そこでインタビューに応じたことがここまでの付き合いとなるきっかけとなったのは間違いない。

 だからこそ文句は言わないが。私以外の理解できない者にも同じことをするのは控えてほしいものである。

 

「そういえば、今回はいつまでいるの?」

「今回は大して長くはいないよ。大会が終わったらすぐに帰る予定だ」

 

 プライド様とは違う空気のやり取りは、どうにも心地良い。

 ここまで対等だと逆に遠慮が無くなってしまいそうになる懸念があって、そこを注意しないといけないが――まあ、その若干の不安がまた悪くない関係を築く要因になっている気がしなくもない。

 これが無くなるとレヴィアへの対応に近くなってしまうからな。

 あれはだいぶ、私たち独自のやり取りだと自覚している。

 だからこそこの適度な距離感は逆に新鮮で、悪い気持ちのしないものだ。

 ――そんな小難しいことを意識している自分に辟易し――今はこの雑談に興じようと、面倒で退屈極まりない自分の価値観を意識から外すことにした。




↓ダークチップとの健全な関係↓
医者(デバッガー)としてダークチップのバグを対応可能
・バグの把握のためチップ効果を無くしたサンプルを所持
・知り合いには使わないよう言い含める
・自国の王女に発見次第引き渡すよう伝える
復讐のためにフォルダリターン併用で連発
ネビュラ幹部の前で彼らが持っていたダークチップマスターデータを破壊
ネビュラ幹部をダークチップでデリート
ダークチップ使用で侵食される精神プログラムが存在しないのでセーフ
ダークチップを使った外装は破棄しているのでセーフ
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