バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
ホークトーナメントの予選が開幕し、二日目の夜。
遂に大会の予選を通過した者が出始めた。
本戦までのカウントダウンが遂に開始されたということだ。
バトラーズポイントを五十ポイント集め、日本最強のネットバトラーを決める戦いに駒を置くことを許された参加者。
その一人目となった者こそ、今この場で経験を積んでいる私の生徒だった。
『ロール、後ろ!』
『うん!』
桜井嬢の端的な指示を受け、振り返ったロールがその手を弓に変化させ、ハートの鏃を持つ矢を放つ。
その矢を跳び越えて迫るビーストマンとの距離を『エリアスチール』で離し、間に『トップウ』を配置して彼を吹き飛ばす。
大きく開いた距離で更にチップを選ぶ猶予を作り、再度の接近に合わせてそれを使用する。
『やあ――っ!』
床から吹き上がった火柱は、ロールが使用した『フレイムライン』によるもの。
直線で迫ってくる敵を迎撃する炎は戦っている相手との相性の良いものだ。
火柱に飛び込んだことで動きを鈍らせたビーストマンに対して、待ち伏せするように放っていたのは『サンダーボール』。
動きは遅いながらも敵を追尾し当たれば相手を痺れさせる性質は、私もまた好んで利用しているものだ。
球状の電撃によりその場で動きを止めた彼に向かって跳ねさせた『バウンドノート』で追い詰めつつ、接近してロール自身も攻撃。
――あれは失策だな。そこまでしっかり敵を縫い留められるほど、『サンダーボール』は強力なチップではない。
痺れを振り払ったビーストマンが両手を振るう。
一つで上から振り掛かる音符を切り裂き、そしてもう片方でロールを迎撃する。
その一撃から反撃が始まる。
桜井嬢とロールも再び巻き返そうとしたが、それは叶わず吹き飛ばされたことで決着する。
『いたた……』
『そこまでだ。もう一歩だったが、中々成長を感じられるものだった』
戦いにストップをかける。
ビーストマンはようやくスイッチが入ってきたようで、不完全燃焼感を露わにしている。
まあ、そのまま我を忘れてロールをデリートしてしまっても困るし、ここで終わったのは良かったかもしれない。
『フン……接近戦を仕掛けるならもっとまともに動きを止めてからの方がいい。もしくは、反撃の手段を断ってからだな』
――特訓開始の二日目から、私はビーストマンに話をつけ、付き合ってもらっている。
戦闘の訓練をしようにも、私ではナビの真似事しか出来ない。
ウイルスならともかくナビ戦の経験を積ませるには私では不足だ。
当然ビーストマンは乗り気ではなかった。これまで私が彼にした無茶振りの中でも、トップクラスに渋っていたのは記憶に新しい。
動かすためにそこそこの報酬を用意してもなお首を縦には振らなかった彼がどうして、こうやって手伝うことになったか。
それは桜井嬢がこの訓練を頼んできた理由が関係している。
彼女が強くなりたいと思った理由には、光少年が大きく関わっている。
桜井嬢がビーストマンにそれをほんの少し伝えたところ――“光熱斗とロックマンより強くなるための訓練”を彼女たちが行っていると、彼はやや曲解したのである。
いや、間違ってはいないのだが、別にビーストマンと同じく恨みの相手としている訳ではないというのに。
あの二人に対する怒りを未だに持っている彼は、二人に勝とうとしているならばと訓練への参加を許諾した。
まあ、順当にいけば二人はホークトーナメントで戦うことになる。
ビーストマンが望む展開になる可能性も、当然ゼロではないのだ。
『そうなると……こういう動き方?』
『それでいい。距離の開き方は悪くない。出来ればチップ無しでそれを出来るようにしろ』
『先は長いわね……』
……意外と面倒見が良いな。
その辺りはアイツを受け継いでいるじゃないか。複雑だが、悪い傾向ではない。
思いのほか彼が協力的だったこともあって、桜井嬢とロールの成長は目覚ましい。
ここまでで幾つか、二人はネットバトルにおいて主と出来る戦法を幾つか身につけている。
戦法の多さはネットバトルの強さに直結する。この手札をどう切るかの判断についても、桜井嬢の覚えはかなり早い方だ。
現在の予選の状況を確認する。
五十ポイントに到達したのは現在桜井嬢一人。
幸先は良い。どれだけ遅くても本戦に進めれば良いと思っていたが、まさか一番乗りを果たすとは。
光少年もまた、四十ポイントを超えている。
もう夜であるため、続きは明日になるだろうが、明日中には問題なく予選を突破できるだろう。
恐らくは滑り込みという危ない状況にはならない筈だ。
あと有力な参加者は……白泉氏もほぼ間違いないな。現在のポイントは四十七。もしかすると今日中に突破できるかもしれない。
先日の火村少年は――まだ安全圏とは言えないな。
白泉氏とどちらが早いかという域に、サロマという参加者がいる。この人物もすぐに本戦に辿り着くことが出来ると思われる。
光少年と彼女たちで四枠。残りは半分……さて、どうなるか。
『バグ医者、本戦はいつ頃になりそうだ?』
『恐らくは明日には予選が終わる。この分なら、今週の日曜日となるだろう』
『時間がないな。まだやれるか?』
『わたしはまだまだいけるわ! メイルちゃんは?』
『うん、全然大丈夫。ビーストマン、もう一回お願い』
『ならすぐに準備を整えろ』
だいぶ強くなったが、大会を勝ち進められると安心できる域にはまだ足りない。
戦い方を覚え、その動き方を覚えたら、今度はそれを万全にこなすことが出来るように体に叩き込む必要がある。
本番は一度きりだ。その時にしっかり動けなければ意味がない。
光少年とロックマンがいつでも高い実力を発揮できているのは、何度も何度も本番で積み重ねられてきた経験があるからだ。
そして、それが桜井嬢とロールにはない。身につけるべき本番というのは、大会そのものだ。
だからこそ、そこまでに形だけでも万全にしなければならない。
そうすれば、二人の優勝もきっと夢ではないレベルにまで行くことが出来る筈だ。
翌日の夜。
バトラーズポイントを集め終えた参加者が八名に到達し、予選参加者の全員に予選が終了した旨のメールが送られた。
そして運営のスタッフ一同にもまた、本戦を戦うネットバトラーたちの情報が送られてくる。
まずは桜井嬢とロール。
唯一昨日の段階で予選を突破した彼女は、今日一日をしっかりと訓練に使った。
本戦参加者の中では実力はまだ一歩劣っているだろう。だからこそ、こうやって少しでも彼らとの距離を詰める必要がある。
そして、今朝早い段階で予選を突破したのは白泉氏。
ナビはメタルマン。彼女たちに関しては特に心配してはいなかった。
大会に向けてかなり鍛錬を積んでいたようだし、良い結果を残せるのではないだろうか。
三番目はサロマとそのナビ、ウッドマン。
ナビを見たところ、メタルマンより大型だな。ナイトマンすら超えるのではないか。
この体躯で速度が重視される予選を上位で切り抜ける辺り、中々の実力者なのだろう。
そして四番目という安全圏で光少年とロックマン。彼らも危なげなく突破したようだ。
火村少年もいるな。
彼とヒノケン氏は二日目にまたやってきた。
何やら再度競い合いをしていたようで、そのついでに火村少年はバトラーズポイントを集めていたとのこと。どっちが優先事項なのか分からんな。
私にも仕掛けてきたためウイルス戦を試験内容として出し、追い払っておいた。
嫌な予感を覚えていたので一応群れで持ってきていたドリームラピアがこんなところで役に立つとは思わなかったぞ。
元WWWであり、ドリームウイルス事件の頃から組織の一員として行動していたヒノケン氏が妙に動揺していたが何があったのだろうか。私が連れていたのはごく普通のウイルスだというのに。
理不尽がどうとか騒いでいたがネットバトルとは常に理不尽なものであり、バグ医者もまた理不尽なのだ。特に火属性のナビを操る者に対しては。恨むならヒノケン氏を恨むが良い。
そして残るは五十嵐ランとウインドマン、山下日出の助とビデオマン、そしてリキとヒールタイプのナビ、クラッシャー。
ふむ――ウインドマン。聞いた覚えがあるな。
確か日本の最南端、シーサーアイランドにて、世界で初めて神格化されたナビだ。
大いなる風の神とされ、ただのナビとは一線を画する力を持った存在。
ナビとは言っているものの、その規模はナビという枠に収まるものではない。
本来の力そのままに参加していてはレギュレーション違反だろうが、今回は特殊なプログラムで力を弱めての参加であるらしい。
それでもシーサーアイランドの代表として参加できている辺り、かなりの実力であるのだろう。
対戦カードの発表は大会当日だ。
それまでは誰を相手取るかも分からないが、誰が相手となっても戦えなくてはなるまい。
この中ではロールは一際、戦闘に向いていないナビといえる。
勿論、ネットバトルの大会に全国の強豪が集まっている以上、全員が戦闘向けのナビであって然るべきだ。
寧ろ戦闘向けでないないにも関わらず本戦を戦うこととなったロールが凄いのだろう。
『よし、いけるね?』
『はい――行くよ、ロール!』
『うん!』
桜井嬢の合図に従い、迫るウイルスたちに対してロールがあらかじめ決められたコマンドを実行する。
ウイルスへの高速クラッキング。
これによりウイルスの攻撃性を奪い、疑似的な無害ウイルスへと変化させる。
私が保護しているそれと同じとはいかないものの、誰を攻撃するとも決めていない初期状態のものに戻すことが可能だ。
そうした上で、管理者をロールに書き換える。
これは彼女たちの隠し札だ。
ともすれば、読まれる可能性はある。戦闘タイプのナビでないのなら、その戦闘力を補う手段としてウイルスを使用するのはメジャーな戦法と言えよう。
だが、それでも使い方によって意表など幾らでもつけるものだ。
ウイルスの性質への知識があれば、ウイルスの組み合わせ一つ一つが手札となる。
大会に向けて、私はビーストマンも使い、彼女たちの手札を可能な限り増やしている。
手札をよく理解し、使い分けることが出来なければ裏目に出るだろう。
だが、二人はそれに対する才能もしっかり有していた。
『オッケー! いけたわ、メイルちゃん!』
『うん。これだけいれば、大丈夫ですか? エールさん』
『まあ、試合に多数持ち込める訳でもないからね。このくらいで十分だろう。それぞれの特性はしっかり把握しているかい?』
『情報だけなら……ちょっと使ってみてもいいですか?』
『なら、そうしよう。ウイルスを放つから、それを彼らを使うだけで倒してみたまえ』
今の桜井嬢は一人前のネットバトラーにして、ウイルス使いだ。
悪用する方法は教えていない。そのウイルスの知識は、完全に戦うためだけのもの。
ある意味、その戦い方は結構容赦ないものに仕上がっている。
どちらかと言えば、やはり危険を減らした安全なもの。
だからこそ、ウイルスを使うことで割と笑えない戦い方になっていることは否めない。
……これは桜井嬢が選んだ戦い方だ。決して私がこれを教えた訳ではない。きっとその筈だ。
『ラウンダで行動を制限しつつ、ビリーで追い込み――メインはマグテクトで!』
『了解!』
――――安全に過激だ。
選んだウイルス全てが相手の動きを誘導することを目的とすることが多いもの。
確か大会ではウイルスを使用する場合、一度に使用できるのは二体が上限だった筈だ。
この場ではウイルスで相手を倒すように指示しているため、相手を吸い寄せて殴るマグテクトを攻撃要員として利用しているが、実際の試合においてはここをロールが務めることになる。
……よし。彼らとの連携についてももう少し叩き込んでおくか。
ウイルスの使い方は分かっているみたいだし、あれのいずれかをロールが担当することで、上手く戦えばウイルスたちの制圧力を何倍にも引き上げることが出来る。
ロール自体の性能も考えれば、凶悪なものになるぞ。ハマればさぞ面白いだろう。
――もしかすると桜井嬢の戦い方は私の影響も多少あるかもしれない。今後数日の方針を考えつつ、ふとそう思った。二人には是非圧倒的な制圧というものを見せてほしいところである。
ビーストマン先生参戦、トーナメントメンバー決定、ウイルス運用講座の三本立て。
参加者を調整した関係でミスター味っ子は消えました。
別に出すつもりはないんでマフィアとどっち消しても良いんですが、全国大会の場でどっちが違和感ないかなと思った結果こうなりました。
味太のシナリオはシュール過ぎて好きです。おじいさん、でてる!! たましい でてるよ!!