バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
「速攻で仕掛けるぞ! ロックマン!」
『うん!』
早速ロックマンの先制。
その場を動かず、真正面で構えて撃ってくるのは――『トルネード』か。
ナイトマンの外見から動きは遅いと判断し、狭い範囲に集中するチップを選んだか。
彼をその場に縫い付けるのが目的ならば、伊集院少年がその間に何をしようとするかは読める。
『フッ――!』
小さく息を吐く音は、真横から。
速度を重視するナビ、その中でもソードなどの近接攻撃を主体とするなら、何より警戒するのはこれだ。
『エリアスチール』。次の攻撃に繋げるため、瞬時に行われる踏み込みは間合いを詰めるだけでなく相手の逃げ道も制限する。
一撃必殺を期して振られたブルースのソードが狙うのは私。本当に不意打ちなのであれば私が対応できる筈もないが、生憎あまりにも見え透いている。
――見えざる手に捉えられたように、私の寸前で止まったソード。
ブルースの戦闘スタイルなら何より警戒すべきチップなのだが、油断したか。それなら遠慮なくそれを突かせてもらおう。
『なっ!?』
『次は読めない攻撃を意識するといい』
手に現れたメスを振り抜く。
斬り付けたものの、追撃は叶わない。
次同じことは出来ない。今の防御と反撃を可能とした『シラハドリ』はフォルダに一枚しか入っていないし、あったとしてもブルース相手ではすぐに対策されよう。
素早くブルースが後退した一方で、ナイトマンを狙った風はその巨体に完全に受け止められていた。勿論、私にはそよ風一つ届いていない。
ナイトマンが誇る岩石の如き体は相手の攻撃を容易く防ぐ。防御に徹する彼を打ち砕ける攻撃はごく僅かだ。
『おのれ……!』
「落ち着けブルース! 次がなければいい」
さて、初撃は防いだ。これで警戒度を上げてくるだろう。
彼らが目指すはナイトマンと私の守りを崩すこと。
そのために強力な攻撃を用意してくる――しなければならない。
『やああぁっ!』
ラットン、バブルショット、トリプルアロー。
小細工などない。ナイトマンはロックマンが連続で撃ってくる攻撃を全て正面から受け止める。
そしてその速度から、最初に放ったにも関わらずタイミングをずらして床を這ってきたラットンは複雑な動きで私を狙ってきて――しかし私に届く前にナイトマンの鉄球に押し潰される。
『駄目だ! 大きなダメージにならない!』
「くそ……もっと強力なチップじゃないと効果がないのか!」
そういうことだ。頑張りたまえ。
第一波とも言うべき攻撃が終わったところで、リカバリーをナイトマンに向けて実行する。
そして、もう一手。これで折れると面白くないが、まあ、彼らならそんなことはあるまい。
「そうだな。もっともっと強力なチップを期待しよう。本番はここからだぞ」
もう一つチップを使用する。
私とナイトマンの足元を中心に床を照らしていく光。
光はそれを踏みしめる私たちに加護を与える。襲い掛かる攻撃のダメージをおよそ半分にまで落とす聖なる領域。
「っ、これだけ広大なホーリーパネルをチップ一枚で!?」
私がこれまで作ったチップデータの中でも、まだプライド様に送ったフォルダ以外一切他者に譲っていない傑作。
ただその上に立っているだけで受ける傷を小さくするホーリーパネルの範囲を、多少動き回っても問題ないほどに広げたチップ。
その名も『サンクチュアリ』。
難攻不落のナイトマンの防御力を更に引き上げる一手だ。
無論、これも込みで突破する策などチップや行動の選択によって幾らでも生まれ得る。だが彼らが正面突破しか知らないのであれば――これで終わりだ。
『場は整った。反撃といこう、ナイトマン』
『承知――参る!』
無論、ナイトマンは防御だけが優れたナビではない。
その手に装備されたトゲ付きの鉄球はラットンを潰すのが仕事なのではなく、紛れもない武器だ。
『キングダムクラッシャー!』
大きく振るわれた鉄球は真っ直ぐにロックマンへと突き進んでいく。
私もただ突っ立っている訳ではない。出来ればブルースの足くらいは封じておきたいところだ。
手元に現れた光球。まだ意味を持っていない光の向かう先を、私自身の瞳で見据える。
『ジャミングアイ――』
直線状の光線。当然だが、こんな単調な攻撃は簡単に回避される。
まあ、ナイトマンが攻撃している間の此方への接近を抑えられただけ上々か。
『ぬぅん!』
ロックマンも鉄球を危なげなく回避するものの、それ自体はナイトマンも想定済みだったらしい。
鉄球から伸びる鎖を引っ張り、その軌道を無理やり変更する。
大回りな軌道を描いて振るわれる鉄球の行き先は――天井。
電脳世界の上方は空のように何処までも続いているように見えて、明確な上限が存在する。
それを殴り付け、打ち砕く――だけではナイトマンが振るう鉄球は止まらず、砕いた瓦礫を伴いながら再びロックマンを襲う。
今度は一人だけを狙ったものではない。
瓦礫が降り注ぐのは広範囲。立ち止まっていればブルースさえその餌食だ。
「ロックマン、スタイルチェンジだ!」
『ッ――!』
回避は困難――そう判断した光少年は素早く状況打開のためのプログラムを実行する。
青い姿は緑へと変化する。その右腕にあるのは、『メットガード』など比較にならない重厚な盾。
防御を選んだならばそちらを注視する必要もないか。
瓦礫を警戒するブルースに再び光を向ける。先程一発撃ったこともあって、当然此方の動きは認識している。
ならば、私はブルースに選択肢を与える。
光線を放つ先は有効な回避方向。全て回避するか、どれかを選んで受けるか。纏めて迎撃するという方法もあるが――
「ブルース、瓦礫は全て避けろ!」
鉄球ほどではないが、重みのあるそれに被弾するのは不味い、と踏んだのだろう。
瓦礫から逃れるように跳ぶブルース。ならば遠慮なく、そこに光線を撃ち込む。
ブルースのカスタマイズは盤石だ。近接戦闘をそつなく行うため、シールドが装備されている。
この程度の光線なら受けきれるだろうという考えもあって、この行動を取ったのだろう。
正解だ。この光線にまともな攻撃力などありはしない。シールドどころか、手で受け止めてもダメージは受けまい。
ただし――侮ったツケは支払ってもらうが。
『これは……!』
光線を受け止めたブルース。そのシールドを、腕ごと半透明な結晶体が覆う。
「行動阻害か、面倒な……!」
「ブルースの動きが速すぎて追いつけないのでね。すまないが、ハンデとして背負ってほしい」
あれで覆われたとて、片腕が使えなくなった訳でも、シールドが封じられた訳でもない。
ただ、単純に、重いというだけ。
重みは行動を鈍らせる。そのうち解除されるが、これなら私でも接近されるまでにどうにか構えるくらいの余裕は生まれる。
その一方で――ロックマンも小さくない傷を負っていた。光少年がすぐにリカバリーを使用するものの、完全な回復には至っていない。
当然だ。強固な盾とはいえ、あの鉄球を叩き付けられれば無事ではいられない。
受け止めつつも上手く受け流すことで、下敷きになることは避けたようだ。
「あら、日本有数のネットバトラーなのではなくて? このくらい、クリームランドのオフィシャルなら新人の方でも捌けましてよ?」
いや、どうだろう。
クリームランドのオフィシャルネットバトラーは数が少ない分精鋭揃いではあるようだが、新人がナイトマンの猛攻から逃れることなど出来るだろうか。
その辺りは詳しくないため肯定も否定もしない。
「……ブルース、チップを送る。行けるな?」
『ハッ!』
枷を掛けられても、ブルースの強さはそう落ちるものでもない。
伊集院少年の問いに、枷など気にならぬとばかりに応じたブルースは、一息でナイトマンの懐に踏み込んでくる。
移動自体を補助するチップであれば、この重石の影響も軽減する。
『ムゥ……!』
巨体ゆえの死角に入り込まれたナイトマンは、その一撃を体に受ける。
『フミコミザン』――初めて防御を掻い潜ったか。
ここはホーリーパネルの上だ。受けるダメージは減少する。ナイトマンにしてみれば物の数にも入らないだろう。
さらに連撃。小細工無しの接近戦でもご所望なのだろうか。
ふと伊集院少年を見れば、光少年に何やら耳打ちをしている。
作戦会議か。それは構わないが、此方は待たんぞ。
再びジャミングアイを用意し、ロックマンを狙――
『――こっちか!』
間一髪、標的を切り替え、此方にソードを振ってきたブルースに気付く。
跳躍して離れることでそれを躱す。追撃はない。ブルースは勢いそのままに振り返り、再びナイトマンに攻撃している。
しかしナイトマンに通用する不意打ちは一度きりだ。接近戦、それも速度の落ちたブルース相手ならば彼も負けない。
私とナイトマンの間に入ったブルースから目を離し再びロックマンを狙おうとした時――そのブルースの姿が消えた。
正確には、さらにブルースと私の間に現れた大きな箱によって、見えなくなった。
『しまっ――』
反応するよりも早く、箱は此方に向けて風を噴出してきた。
『トップウ』――ブルースの戦い方とは相性が悪いだろうに、無理やり距離を引き離すチップを入れているとは。
流石にその風を堪えることは出来ず、吹き飛ばされる。ナイトマンが咄嗟に防御出来ない、そしてホーリーパネルの加護もない場所まで。
「よし、今だロックマン!」
『いっけえええええええ!』
ロックマンは再び姿を変え、普段よりもやや淡い青を基調とした配色となっていた。
正面からでも両肩の後ろに見えるバックパック。それは黄色い姿や緑の姿と同じような、スタイルチェンジの証。
上手く動けない私に向けられた砲口。
『スプレッドガン』――いや、それを一回り、二回りも大きくしたような形状の先端に、徐々にエネルギーが充填されていく。
「――プログラムアドバンスか!」
ある特定のチップ数枚をナビに送り込むことによって発動する特殊コマンド。
チップの内部データが複数、直列に並び、実質一枚の強大なチップとなるこの現象は、ネットバトルを一撃で終わらせるに足る圧倒的な威力を生む。
「ッ、いけない! ナイトマン!」
プライド様が『エリアスチール』を使用し、ブルースを迎撃していたナイトマンを私の前に移動させる。
プログラムアドバンスによって確立する攻撃など、私では途中まで耐えきることさえ難しい。
それを知っていての行動なのだろうが――駄目だ。ロックマンが実行しようとしている攻撃は広範囲に誘爆する『スプレッドガン』の効果をそのまま受け継いだもの。
これでは防ぎきれないし私も範囲からは逃れられない。
悩む時間などない。緊急時のために残しておいたチップを選択する。
――そして気付く、この攻撃の意図に。
防がれるにせよ驚異的な攻撃によってナイトマンをも誘き寄せ、この場に釘付けにする。
彼らの本当の目的は――!
『メガデスバースト――ッ!』
放たれる射撃。ホーリーパネルの外に出たナイトマンにとっては、油断ならない威力。
回避用のチップを使用し、残った猶予で『バリア』をナイトマンに張る。
ナイトマンは射撃を体で受け止める。一瞬の拮抗の後、『バリア』が消し飛び、辺りを呑み込む爆発が連続で巻き起こった。
『グ、ゥオオオオオオオ――!』
爆風で舞い上がった煙の中で、使用していた『インビジブル』の効果が切れる。
十秒にも満たない短時間だが、体を透明化させて攻撃を回避するこのチップは、タイミングさえ合わせることが出来ればプログラムアドバンスにも対応できる。
選択可能なのが一枚だけだったため、ナイトマンには耐えてもらわなければならなかったが、プライド様の騎士はこの程度では折れない。
膝をつくこともなく、五体満足な姿を煙の中から現した。
「ナイトマン、大丈夫ですか!?」
『……無論です。これしきの事では、それがしは倒れませぬ』
まだ余力を残すナイトマンに、今使えるだけのリカバリーを使用する。
此方が態勢を整えている間に向こうも策を完遂したようだ。
「よっしゃ! 形勢逆転だぜ!」
「これだけの優位を築ける陣地だ。有効活用させてもらうぞ」
先程まで私たちが立っていた光の中には、青と赤の戦士が納まっている。
プログラムアドバンスをも使った、『サンクチュアリ』の奪取――。
このチップは自身の周囲の足場をホーリーパネルに変えるもの。
ホーリーパネルは持ち主が定められている訳ではない。つまり、その上にいれば、張った側から見て敵だろうとも効果を発揮する。
ブルースがナイトマンに近付いてきたのは、それを利用しお互いに鋼鉄を削り合うような戦いを選んだからだと思っていた。
だが、実際はこの通り。まさかあの空間そのものを盗られるとは。
「なるほど。追い出されるとは思わなかった。――プライド様、あそこを取り戻すのは些か難しいかと」
「……ええ。その通りですね。では――」
この展開は『サンクチュアリ』の攻略方法として予想していなかった。
だがまあ、取られたものは仕方ない。
これで、あの聖域を残しておく理由はなくなった訳だ。
「悪用される前に、取り除いてしまいましょう」
プライド様がチップを使用する。
瞬間、床に灯っていたホーリーパネルの光全てが霧散し、聖なる加護が消滅する。
私たちの、そしてロックマンとブルースの足元を残し、床が罅割れ、虚空へと消えて――回避を捨てた戦場が出来上がった。
Q.弱いとか言ってるけど普通に戦えるじゃん。
A.今のところ減速ビーム撃った以外はメタ罠張って味方の後ろでイキってるだけだぞ。
・サンクチュアリ
自エリアを全て被ダメ半減のホーリーパネルに変えるチップ。
2では隠しチップであり、2の要素を遊びきった証とも言えるもの。
・ウッドシールドスタイル
2より登場したスタイルチェンジの一つ。属性は木。
防御系チップを多く使うとシールドスタイルに変化する。
バトル開始時にバリアを纏うほか、任意のタイミングで攻撃を防ぐシールドを張れる。
公式のイラストでウッドが採用されている唯一のスタイル。
・アクアカスタムスタイル
2より登場したスタイルチェンジの一つ。属性は水。
チップコードを意識して連続でチップを使ったりするとカスタムスタイルに変化する。
カスタム画面で開始ターンから選べるチップが増える。
コンボやPAを組みやすくなるため、汎用性は非常に高く、どんな相手にも無駄にならない。
ブラザー同様表現しにくいため、本作では選んだチップを複製するチート能力を採用する。