バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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ライムライトを求めて-2 【本】

 

 

 一回戦の第二試合までが終わった。

 ここまでは、個人的には好ましい結果だと言えよう。

 第一試合のロックマンとウッドマンの戦いは、小柄なロックマンが身軽さを重視した戦法を取ったのが功を奏した。

 ウッドマンの大胆な攻撃にはかなり苦戦を強いられていたが、床から突き上げられる大木の杭を利用して高く跳び上がったロックマンのプログラムアドバンスが決定的となった。

 

 第二試合はメタルマンとヒール型のナビのクラッシャー――力同士のぶつかり合いという見応えのあるものだった。

 あまり詳細なカスタマイズをしていないナビで、メタルマンとあそこまで互角に渡り合うことが出来たのは予想外だと言える。

 私が知る限り、メタルマンの拳に対して殴り返し、拳が砕けずに持ちこたえたナビは初めてだ。

 どちらの限界が近いかの勝負だった。

 メタルマンが勝利を果たしたものの、クラッシャーが別の戦い方を選んでいれば……そう思える。

 

 それぞれ、勝ちを収めたのはロックマンとメタルマン。

 彼らが二回戦の第一試合で戦うことになる。

 そして今から始まるのは、二回戦第二試合の組み合わせを決めるための戦い。

 これは私が見逃すことは出来ないものだ。

 観客席に取っておいた席で、教え子の初陣を見る。

 ここには来ていないものの、ビーストマンもまただいぶ気にしていたのを知っている。

 彼の目的はロックマンと戦わせることだ。まさか一回戦で負けたなどという結果は求めていまい。

 

 

「さあ、一回戦第三試合が始まります! ここまでの二試合はいずれも、目の離せない展開の連続でした! 今回は一体どんな戦いが繰り広げられるのでしょうか!」

 

 司会のマミ氏がネットバトルマシンの前で観客たちを煽る。

 これまでの試合とは一風変わったものとなるだろう。

 何せ、どちらも細身なナビだ。力のぶつかり合いになることはない。

 

「まずは私たち女性の希望の星! なんと小学生の女の子ネットバトラー! 桜井メイル選手の入場です!」

 

 入場して、庭園に設置されたネットバトルマシンに向かって歩く桜井嬢の姿は小さく見えた。

 歩き方は少しぎこちない。こういう場は初めてなのだろう。

 緊張しているのが見て取れる。

 やはり、最初の試合でリラックスして臨むことは不可能か。

 

「続きまして、演出家ネットバトラー、山下日出の助選手の入場です!」

 

 対する変わった新進気鋭の演出家殿は――入場してこない。

 遅刻か? それとも怖気づいた……とは思い難いが。

 

「あれ……? 山下選手ー? ……へ? ああ、はい、分かりました」

 

 マミ氏はヘッドマイクに手を当て、何かを聞いている。

 どうやら何者かからの物言いが入ったらしい。

 

「ええ、失礼しました。改めまして、演出家ネットバトラー、ナルシー・ヒデ選手の入場です!」

 

 ああ、魂の名前とやらをご所望だったということか。

 その名前を呼ばれ、今度こそナルシー氏は入場してきた。

 下らないことを意識している場合ならナビの調整を少しでも長く行った方が良いと思うのだが。

 

「さっきぶりね、お嬢ちゃん。悪いけど手加減は無しよ。ワタシにだって大人としての意地と、この大会にかける熱い想いがあるんだからね!」

「……それはわたしも同じです。絶対に負けられない理由があるので、勝たせてもらいます」

 

 ナルシー氏の宣戦布告に、桜井嬢も一つ深呼吸をして答える。

 戦いの前の信念のぶつけ合いはこうした試合の定番ということか。

 あれでもナルシー氏には戦う理由がある。である以上、ここから始まるのはそれを賭けた戦いだ。

 

「フン――威勢だけは一丁前じゃない。いいわ。真正面から華麗に勝って、ワタシのビデオマンの進化劇の引き立て役にしてあげるわ!」

『こんなお嬢ちゃんに卑怯な手立てなんていらない。デジタルビデオマンへの進化には力だって必要だろうからね。ああ、そうさ、このトーナメントに優勝すれば、遂にボクの映像美は究極に至る! ……気がするんだ!』

「そうよね! 何事もきっかけが大事なのよ! 行くわよビデオマン、映像の劣化とはこれでおさらばよー!」

『楽しみにしていてくれナルシー! キミの美しい演出を美しいままに、百パーセント映像化できるのはこの世でボク一人なのだからね!』

 

 ……楽しそうだな。ナビとの仲が良いのは何よりだ。

 デジタルビデオマンとやらが何なのかは知らないが、もしかするとこれの優勝を条件に何処かから、ナビをアップグレードさせるための資金提供でも約束しているのかもしれない。

 であれば、大会に対して本気にもなるだろう。

 ネットバトルマシンに、ビデオマンがプラグインする。

 両手をビデオテープで結んでいる姿は、どんなナビでも手は一つの武器であるという考えに異を唱えるものか。

 対し、ロールも離れた場所に降り立つ。

 桜井嬢に比べ、ロールに緊張は見られない。

 彼女が桜井嬢を引っ張って緊張を解いてくれれば良いのだが。

 

『何の話か知らないけど、勝った気になるのは早いわよ』

『そうかい。それなら見せてあげようか。必殺のビデオ殺法を!』

 

 二人が構える。

 それを確認したマミ氏が戦いの開始を宣言する。

 

「それでは始めます! 桜井メイル対ナルシー・ヒデ! バトルオペレーション! セット!」

『イン!』

 

 ロールとビデオマンの声が重なる。

 それが開戦の合図。どちらのオペレーターがチップを送るよりも先に、ロールが動いた。

 

『メイルちゃん! 作戦通りに!』

「う、うん!」

 

 ビデオマンに素早く接近、そのまま突っ込むと見せかけ、咄嗟に腕を前に出して身を守った彼の横に回り込むように跳ぶ。

 攻撃を行わず横に来た。そう彼が判断した時には、ロールは既に背後にいた。

 やはりこの速度は強力な武器だ。

 訓練に付き合っていたビーストマンも速度重視のナビであるため、訓練の終盤は若干速度への自信を失っていたロールだが、彼が突出しているだけでロールのそれも十分に高水準だ。

 接近に対して防御を選んだナビの不意を突いて背後にまで回り込むことなど造作もない。

 

『いっけえ!』

 

 無事先制攻撃を手に入れたロールは、頭部のリングを伸ばしビデオマンに対して振るう。

 優れた攻撃速度を持ち、手や足を使わないことから他の攻撃への連携にも向いた優秀な攻撃だ。

 欠点は肝心な攻撃力が今一つであることだが、初撃を決めたというのが重要なのだ。

 

『ぐぁ! や、やるじゃないか! だが次はない!』

 

 背中への一撃にビデオマンは即座に振り返り、防御手段を展開する。

 二人を隔てるように現れた二本のビデオテープ。

 大した耐久力は持っていないように見える。

 であれば――時間稼ぎのためのものか。

 

「ロール!」

『ナイス、メイルちゃん!』

 

 その二本を、ロールは『ロングソード』で纏めて断ち切る。

 桜井嬢のフォルダに入ったチップの中では高威力に入るものだ。

 出来れば攻撃に使うのが好ましい展開だったが、そう上手くも行かないか。

 

「行きなさい、ビデオマン!」

「ロール、今!」

『了解!』

 

 『ロングソード』を振り抜いた右手はそのままに、ロールは左腕を変化させる。

 弓となった腕の先から射出されるのは、ハートの鏃を持った矢。

 恐らくは、それを受けてからナルシー氏は反撃をしようと思ったのだろう。

 先の一撃でロールが攻撃力で劣っていることは見て取った筈だ。

 だからこそ、ロールが持つ攻撃手段を侮る。たとえそれを受けたとしても、反撃でもっと高い攻撃力をお見舞いすれば良いと。

 だが、その判断は間違いだ。

 これを受けてしまった以上、ここから先の桜井嬢は恐ろしいぞ。

 

『んな……!?』

 

 ビデオマンの驚愕は、決して受けた矢の攻撃力が予想外に高かったという訳ではない。

 威力自体は見た目相応だ。はっきり言って、私ならともかくまともなナビならば数発受けても無視出来る程度のもの。

 だが、齎す影響はある意味、威力だけが高い攻撃よりも恐ろしい。

 

「どうしたのよビデオマン! 送ったチップ使いなさいっての!」

『は、破壊された! ナルシー! チップデータが壊された!』

「な、なんですって!?」

 

 ナビに送信されたチップデータの破壊。

 いつでも有効な効果を発揮する訳ではない。

 だが、作戦が複数のチップを使うものだったり、或いは迎撃にチップを使おうとしていた時、これを一度当てるだけで絶大な効果となる。

 使おうとした『バリア』が使う前に壊される。決め技という確信を持って放とうとしたプログラムアドバンスが不発より悲惨な結末となる。

 そんな惨状を作り出す、非常に危険な攻撃だ。

 

『よし、一段階目! メイルちゃん!』

「うん――訓練通りに」

 

 ……訓練通り。訓練通りと言ったか。

 いや、確かに間違っていない。本番でそれを最初に成功させれば、今後の応用にも自信が付くだろう。

 だが、観衆の前だぞ。あれを訓練通りにやるのか。本当に?

 

『まずはこれ!』

『くっ……!』

 

 動揺に付け込んで懐に踏み入ったロールが、至近距離で『サンダーボール』を直撃させる。

 威力は低い。だが、当たると同時に僅かな時間、相手を麻痺させる。

 それは更なる連撃への布石に過ぎない。

 

『次にこれ!』

『ぬおおおおお!?』

 

 痺れたビデオマンに対し、『トルネード』の突風が襲い掛かる。

 風の刃一つ一つは小さい威力ながら、動けない相手に対してはそれら全てを浴びせて高い火力を実現させることが出来る。

 そして、桜井嬢の猛攻はまだ終わらない。

 

『もう一回!』

『んなァ!?』

「ちょ……」

 

 再度の『サンダーボール』。

 桜井嬢とロールは逃がさない。そう――大会だからと言って、相手に見せ場を作るなどという余裕は彼女たちにはない。

 それをするほど、彼女たちは戦いが上手くなった訳ではないのだ。

 自身の作戦を進めることは得意にはなっただろう。だが、それを崩されたり、相手の多種多様な作戦にいちいち付き合ってから戦況を覆すのはまだ不得手だし、それを集中して教えられるほどの時間はなかった。

 だからこそ、彼女たちは徹底して己の作戦に集中するのである。

 

「『フルカスタム』――行くよ、ロール!」

『ヒート――スプレッド!』

『ごっはァァァァァァ――――ッ!』

 

 そして『フルカスタム』で一度チップを送信し直し、決められたチップ三枚による特別な火力を実現させる。

 離れつつぶっ放されたプログラムアドバンスの一撃は辺りを巻き込んで爆発する。

 ……戦いとはかくあるべし。圧倒的なそれが出来るのであれば、やらない理由はない。

 だが――頬を冷や汗が伝った。これ、私が教えたのか?

 

「きゃー! いいぞいいぞメイルちゃん! 女の子の力見せちゃえ!」

 

 おいマミ氏、その応援はどうなんだ。贔屓するならせめて多少は隠せ。

 確かに、ある意味盛り上がってはいるがあまりに一方的な猛攻に引いている観客もちらほらといる。

 

「な、何よ何よ! まだ負けてないわ! ちょっとビデオマン! 台本と違うわ! あんな細っこいナビ、とっととのしちゃいなさいってのよ!」

『わ、分かってる! 悪いが速度はキミたちだけの武器じゃない! ハヤオクリ!』

 

 しぶといな、ビデオマン。まだ倒れないのか。

 彼はロールへの対処法として、己の速度を補強することを選択した。

 加速したビデオマンの速度はロールを上回っていた。

 長くは持たないだろうが、その状態であればロールに対してのここまでの不利を容易に覆すことが出来るだろう。

 だが悲しいかな――桜井嬢とロールは昨日まで、自分以上の速度を持つナビから実戦形式の訓練を受けてきたのである。

 あれだけやっていれば、訓練本来の目的でなくとも対処法の一つや二つ、思いつく。

 そして、高速の相手への対処は、簡易的なものであればチップ一枚で出来るのだ。

 

『ハハハ! この速度ならキミには負けない! 大逆転劇を見せてあげよう!』

『メイルちゃん!』

「うん。次で決めるよ」

 

 回転するビデオテープのリールを躱しつつ、ロールは自身の背後に『ティンパニー』を設置する。

 このチップがかき鳴らす曲は、爆音といって差し支えない音量で戦場を支配する。

 そして床すら震わせ音に備えていなかった者の動きを止めるのである。

 

『うおおおお!?』

「ば、馬鹿! ビデオマン! 上!」

 

 時すでに遅し。

 突然の振動に膝をついたビデオマンの直上には、試合を決着させる巨大な音符が存在していた。

 そして対処も出来ないままに、それは落ちてくる。

 一度は速度をもって抵抗して見せたビデオマンもこれには堪らず、『バウンドノート』に押し潰された。

 ダメージが規定値を超えて、強制プラグアウトが行われる。

 待ってましたと言わんばかりに、テンションの振り切ったマミ氏が飛び跳ねながら告げる。

 

「ビデオマン、デリート! 勝者は桜井メイル選手! 終始バトルのペースを握り、完全勝利を収めました! ホークトーナメント一回戦第三試合、まさかのダークホースが登場ですっ!」

 

 ……今までの選手にはここまで入れ込んでいなかったよな?

 個人的に注目していた選手だったのか。彼女が大活躍したのがよほど嬉しかったらしい。

 ここまで来るとナルシー氏とビデオマンが若干不憫ではある。桜井嬢たちを引き立て役とするつもりが、思いきり自分が今大会のダークホースの初陣の引き立て役となってしまったのだから。

 とはいえ、私が望んだ展開でもある。

 ここは教え子の勝利を素直に喜び、ひとまず祝福することにした。




先生その1「受ける必要のない攻撃は受けるな。ダメージは極力少ない方がいい。攻め手を奪い続けるんだ」
先生その2「攻め続けろ。反撃の手など与えるな。速度を活かして常にペースを握りゃあ負けることはねえ」
→攻撃し続ければ相手は反撃出来ないしダメージを受けることもないので勝てる。

ビデオマンシナリオについては初対面でエールがフラグを全部潰したので発生しないです。
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