バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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パークエリアは赤く燃えている-1 【本】

 

 

 ホークトーナメント第一回戦の全ての試合が終了した。

 二回戦は午後に行われる。対戦カードには注目が集まった。

 何せ、平均年齢が低い。大の大人が一人しかいない辺り、日本の子供たちの実力の高さが窺える。

 それはこのネットワーク社会と、生まれた時から共にいたがゆえか。

 

 第一試合

 光熱斗&ロックマン VS 白泉たま子&メタルマン

 

 第二試合

 桜井メイル&ロール VS 火村アツキ&バーナーマン

 

 まさかの全員が知り合い――一人は本当に知っているというだけだが――となった。

 光少年と白泉氏。この組み合わせは公式となる戦いで初めての対戦カードという訳ではない。

 懐かしきはN1グランプリ。あの時は予備フォルダを使った戦いだった。

 今回は自分の戦いに一番向いた自分のフォルダを使う。あの時と全く同じ展開になることはあるまい。

 

「……メイルのヤツ、一回戦突破したのか」

「見事なものだったよ。何というか、実に華麗で一方的な戦いだった。他の三試合の激戦とは一風変わった試合展開だったし、だいぶ注目が集まっているようだよ」

 

 現在、応援に来ていた綾小路嬢と昼食に出ている桜井嬢に代わり、更新されたトーナメント表を見ながら光少年にそんな説明をする。

 火村少年と五十嵐氏の第四試合は、とにかく激しく派手な戦いだった。

 暴風の中で炎が逆巻き、最早何がどちらの攻撃なのかも判然としない決して同席したくない地獄絵図。

 最後の最後までどちらが勝つか分からなかったが、それだけあれば十分と判断されていた試合時間の三十分を超えた辺りで、五十嵐氏が棄権を申し出たのだ。

 ウインドマンもまた合意の上で。

 これ以上戦えば、ウインドマンの力を抑制している枷が壊れてしまう。そうなればこのマシンのみならず、ネットワークを通じて外にまで甚大な被害が出る恐れがあるため、これ以上戦うことは出来ないと。

 火村少年は待ったをかけたものの、五十嵐氏の真摯な態度に応じざるを得なくなった。結果としては火村少年が二回戦に駒を進めたこととなる。

 

 ……正直、助かったと言わざるを得ない。

 ウインドマンの力は想定以上だった。バーナーマンが互角に戦えていたのは、彼の放つ炎の勢いでのごり押しの部分が大きい。

 戦場一帯を支配し、風を巻き起こす彼の力は、ロールとの相性が致命的に悪い。

 彼女の速度で自在に跳び回るべき戦場全域を操られては、それがまったく活かせないのだ。

 もしも五十嵐氏が勝利を収めていた場合は、かなり分の悪い戦いとなっていただろう。だが、火村少年ならばまだ分からない。

 あの風に対抗できる炎は強敵だろうが、五十嵐氏と当たるよりはよほど勝率は高い筈だ。

 

「そっか……次の相手はバーナーマン……火のナビって言うと一人思い当たるけど、アイツとは違うみたいだな」

「そいつはオレのことか? 光熱斗」

「……こちらヴァグリースだが。城のロビーで選手に声を掛ける不審者が」

「止まれバグ医者ァ!」

 

 この場で未成年の選手の誘拐事件なんざ起きても困る。

 そう思い通報しようとしたところ、PETをひったくられた。バンドから無理やり外すな。接続部が壊れたらどうする。

 

「ヒノケン! お前、何でここに!?」

「おっと、やり合うつもりはねえよ。今のオレは潔白も潔白、濁りのねえ炎だっての」

「おい強盗現行犯。無罪を謳う前にPETを返したまえ」

 

 話題に出せば何処からでも現れるのか、彼は。

 ヒノケン氏からPETを奪い返す。中にはアイリスもいるんだぞ。丁重に扱ってほしい。

 

「で、何でここに来たかだったか。あのしょっぱい炎使いの小僧を笑ってやりに来たのさ。相手が棄権する前に勝てねえなんて情けねえ」

 

 随分嫌な性格だった。

 炎の使い手という矜持がそうさせるのかもしれないが、正々堂々を掲げるネットバトラーとは思えない。

 いや、ヒノケン氏が正々堂々などとほざけるとは微塵も思っていないが。

 電脳世界ならまだしも二度も私にリアルアタックを仕掛けてきたことは一生忘れんぞ。

 

「ハハハハハ! 大会にも出でないオッサンが面白いこと言うっぺや!」

 

 ヒノケン氏の嫌味に負けず劣らずの厄介ごとが、自分から寄ってきた。悪夢か。

 本人としても不本意ながら一回戦を勝利した火村少年だ。

 

「あん? なんだ、一回戦をお情けで勝たせてもらった坊やじゃねえか。そんな勝ち方しか出来ないんだったら、今のうちに棄権した方が良いんじゃねえか?」

「オッサン、考えが古臭い上に耳と目までボケてえんたや。あのままあのおねーちゃんが棄権しなぐても勝ってたっぺ! オッサンよりジーサンの方が相応しかったがや?」

「誰が爺さんだテメェ!」

 

 よくもまあ、ここまで流暢に挑発が飛び出してくるものだ。感心する。

 売り言葉に買い言葉とばかりに返した火村少年に、ヒノケン氏はあっさりと激昂する。

 沸点の低さがハートの熱さとやらによるものであれば彼の勝利だな。一度爆発してしまった以上、ヒノケン氏が火村少年をガキだの若造だのと言い返したところで年齢に対する僻みにしか思われない。

 この手の言い合いはキレた方が負けなのである。

 

「他所でやりたまえよキミたち。試合が午後に控えている火村少年はまだしもヒノケン氏、キミはいい加減本気で通報するぞ」

「なんでそんなにオレに当たり強えんだよバグ医者」

「二度ローストにされかけた相手と仲良く出来る者がこの世にいるなら会ってみたいよ、私は」

 

 良いから外に出ろと二人に促す。

 二度の事件の内片方に関わった光少年が気まずそうにしていた。話題を出す場が相応しくなかったか。

 彼への信頼などとっくに復活しているんだがな。

 一旦城の外に追い出し、適当なところでやれと告げればヒノケン氏と火村少年は言い合いながら歩いていく。

 一方で城の入り口近くには光少年の次の相手が、ここに来ていたとは思わなかった相手と共にいた。

 

「たま子さん! まもる!」

「あ……熱斗くん! お姉さん!」

 

 白泉氏とは先程、一回戦の彼女の試合が始まる前に挨拶をしていたが、浦川少年も観戦に来ていたらしい。

 少しずつ歩くためのリハビリをしているようだが、流石にこうした人通りの多い場ではいつも通りの車椅子だ。

 すっかり健康的な顔色になった浦川少年の頭に自然に手を置く。

 

「久しぶりだね。元気だったかい?」

「うん。ばっちりだよ。お姉さんも来てたんだね。今度はいつまで?」

「残念ながら、明日にはクリームランドに帰るよ。別の仕事が入っていてね」

 

 予定を告げれば、浦川少年はたちまち不満顔になる。

 仕方ないのだ。もしかすると本腰を入れないとならない妙な依頼がアジーナから公式で来ている上に、プライド様からも大事な話があるらしい。

 プライド様の話を受けたのはつい先ほどだったが、何やら動揺が見られたな。

 本人は気取られていないつもりだったようだが、プライド様に私の誤魔化しが効かないように私にもプライド様が何かを隠していることくらい分かる。

 それも、察するにゴスペル並かそれ以上の爆弾を抱えているのではないか――そんな不安があるのだ。

 大事な話というのがそれに関連しているのかは知らないが、帰っても平穏はなさそうだなという確信があった。

 

「そうなんだ……お仕事じゃあしょうがないね」

「ま、それなら一緒に観戦してやってくれよ。選手用の席、あたしの分この子が使っていいからさ」

「構わないよ。それでいいかい? 浦川少年」

「うん!」

 

 選手用の席は人数分設けられているが、既にその選手が半分敗退している。

 私の方から運営に言えば、使わせてくれるだろう。……職権乱用も良いところだな。

 

「さて。熱斗にエール、あたしたちはこれから飯でもと思ったんだけど、一緒にどうだい? 勿論熱斗とは面倒くさい腹の探り合いは無しだ」

「オレはいいけど……エールさんは?」

「特に予定はない。ご相伴に与ろう」

 

 不思議な組み合わせだが、こうした大会ならでは、こういうこともあるだろう。

 白泉氏は豪快で細かいことを気にせず、時々突拍子もないことを仕出かすものの、常識的な女性だ。

 試合前に相手の情報をこそこそ探ったりはしないし、相手に岩をぶん殴らせて相応しい気合を持っているか確かめるなどという常識外れなこともしない。

 旅館に来た客の最後の思い出となる土産屋を繁盛させているのは、ひとえに彼女の人柄によるものなのだ。

 そんな彼女であれば、試合前に面倒ごとも起こすまい。

 

「じゃあ、何にしようか」

「試合まで時間はあるからね。シェロ・カスティロの外に出る余裕もあるけど――」

 

 そうは言いつつも、辺りを見渡す。

 オープン初日にあんな事件があったものの、致命的なまでに客足が減った訳でもなく、ここは営業している。

 今日は大会ということもあって、より賑やかだ。

 ファストフードなどの軽食を売っているワゴンも盛況らしい。かといって、せっかくの機会だし、あれで済ますのは勿体ないか。

 そんなことを考えつつ近場のワゴンに目を向けて――並んでいた客や店員が大慌てで離れていく様子を見た。見てしまった。

 

「……」

「……? どしたのエールさん――って」

 

 無人となったワゴンから、ぶすぶすと煙が上がっている。

 システムがオーバーヒートでも起こしたようだ。それだけならば店員が盛況に焦ってしまっただけという可能性も考えられたものの、もっと離れたワゴンでも同じようなことが起きているらしいことが見て取れた。

 ――少し、意識が遠くなりかけた。それを引き戻したのは、スタッフからのオート電話。

 

「……ヴァグリースだ」

『エールさん! どうやらパークエリア内で火属性のナビ二体が戦い合っているようで、繋がっている電脳にまで飛び火しているようです! まだパーク内にいましたら、助力をお願いします!』

 

 何という偶然か。

 先程追い出した二人が持つナビがどちらも火属性だ。

 そして今にも戦いだしそうな雰囲気だった。なんてこった。

 

「ヤバいことになってるっぽいね。三人とも、飯は後だ。あたしも手伝うから、とっとと止めるよ!」

「おう! 行くぜ、ロックマン!」

『了解!』

 

 事と次第によっては火村少年を失格にしても良さそうだ。

 二人が自発的に止めに行ったことで、私も対応せざるを得なくなる。

 もう勘弁してくれ。本当に。出来る限り火には関わりたくないんだから。

 

「……浦川少年。少しだけ待っていたまえ」

「ううん。僕も手伝うよ」

 

 ――そして善意からの更なる頭痛の種を、浦川少年は突きつけてきた。

 

「いや、キミ……」

「大丈夫。ちゃんと普段の使い方については考えてあるから」

 

 ……それは良いのだが。ううん――彼をこうした事件に極力巻き込みたくないのだがな。

 仕方ないか。本人がやる気だし、危険性はない。

 それに、彼が参加してくれることで火の危険が大いに減ることは明らかなのだし。

 

「……気を付けるんだよ。あと、ちゃんと守ってくれ。火は嫌いなんだ」

「言ってることがあべこべだよ」

 

 ワゴンに先行した光少年と白泉氏に続く。

 気は進まない。心の底から億劫だ。ナビが他に三人もいれば十分だと思う。

 とはいえ、この中で一番解決に動かないといけないのは私だ。そうである以上、逃げる訳にもいくまい。

 

「まもるもやるのか?」

「うん。よろしくね、熱斗くん、たま子さん」

「よし。それなら四人でだ。そしたら昼食は全員分奢ってやるよ!」

 

 盛り上がっている白泉氏。楽しそうだな彼女。

 ワゴンの熱が伝わってこず、それでいてパルスインが可能なくらいの位置に陣取り、エールハーフを実行する。

 準備を終えて浦川少年のPETを覗いてみれば、その金色の姿をマントで覆い隠している規格外のナビがいた。

 こんなところで何してるんだ。シークレットエリアに帰れ。

 

「お願いね――()()()()()

『はい。オペレート、期待していますよ。まもる』

 

 どうやら我らが暗がりの王は偽名でプライベートを満喫中のようだった。

 名を知っている者がほんの僅かとはいえ、まさかこんな場所で名前を出す訳にもいかないのだろう。

 光少年には示唆するばかりで言ってはいなかった筈だ。彼があの名を知っている以上、この場では偽名を徹底するということらしい。

 

「行くよ――プラグイン! メタルマン.EXE! トランスミッション!」

「ロックマン.EXE! トランスミッション!」

「オーバード.EXE、トランスミッション!」

「……はぁ」

 

 三人の威勢良いプラグインに続いて、パルストランスミッションを実行する。

 切り離した半分は案の定、寒気がするほど熱暴走した電脳世界に降り立った。




ファイアマンとバーナーマンの騒動を解決するのにあまりに過剰戦力な四人組。主に一人のせいで。
原作だと熱斗のPCが煙吐いたりロックマンがクソみたいな水鉄砲で頑張ったり日暮さんが活躍したりしますがカットします。
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