バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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熱き男の秘密兵器 【本】

 

 

 二回戦の第一試合は激闘の末、光少年の勝利で幕を下ろした。

 見どころは実に多かった。特に、メタルマンの拳とガッツソウルの力を借りたロックマンの拳の競い合いは辺りの観客の反応も素晴らしかったと言える。

 メタルマンのバトルスタイルから、距離を取ればそれなりに有利に戦うことが出来たのだが、それをしなかったのが光少年とロックマンの良さというところか。

 一回戦と二回戦。どちらもロックマンは自分より大柄なナビとの戦いだった。

 小回りを武器として戦っていたが、それは次の決勝戦では通用しないだろう。

 きっと、第二試合は桜井嬢が勝利を収めるだろうから。

 

「さあ! 白熱した第一試合が終わり、続きまして第二試合となります!」

 

 マミ氏の実況で、第二試合が開幕する。

 やろうと思えばここで桜井嬢が不戦勝となることも十分に可能だった。

 火村少年がやったことはそれだけのことだ。だが、それでは関わっていなかった桜井嬢も納得すまい。

 無関係ではあったが彼女たちに灸を据えてもらおうというのが、決定である。

 

「次って、さっきのナビの片方が出るんだよね?」

「ああ。あの火力は大したものだが、どうなるかな」

 

 隣に座る浦川少年は、まだ桜井嬢とロールとは面識がない。

 である以上、印象にあるのは火村少年たちだろう。決して良い印象ではないが。

 

「ヘッ、ここで駒を進めたとしても決勝で光熱斗がコテンパンにしてくれるだろうよ」

「何故キミが隣に座っている」

「細かいこと言いなさんな。あの小僧の戦いっぷりを見てやらねえとならないんだ、オレは」

 

 何故か浦川少年と反対側に座っているヒノケン氏。

 傍にいると本当に暑く感じるな。というかここは関係者席だぞ。何処か行ってくれないだろうか。

 ……とはいえ、ここにいるならちょうど良い。

 用意しておいた“請求書”を彼に渡す。

 

「なんだよ?」

「先程のボヤ騒ぎを止めるために消費した水属性チップの請求書だ。期日までにしっかりと振り込んでくれ」

「はぁ!? ……ちょ、待て。『バブルショット』三十一枚、『ワイドショット』二十五枚……おい、これ全額払えってか!?」

「周りに人がいるだろうが。静かにしたまえよ」

 

 一枚一枚の単価は安いが、塵も積もればというものだ。

 まあ、安心してほしい。今回は十万ゼニーを僅かに超えたくらいだ。

 前回の悪ふざけに使ったほどの浪費とはならないだろう。早いうちに支払ってほしい。

 というかあまり声に出すな。浦川少年が引くだろう。

 

「……あの小僧にも負担はいかねえのかよ」

「大人とは思えない発言だぞ。その辺はそちらに任せるが、ちゃんと私に報告したまえよ。そうでなければキミに請求を続けるからな」

「なんてこった……何で今回は現物じゃなくて金で請求なんだ?」

「そんなことをすれば『バブルショット』が『フレイムライン』に変わっていそうだからね」

「やらねえよ。オレはこう見えて真面目で通ってんだ。返すべきだってんなら誠意を見せてまともに返すさ」

「なるほど、あの悪ふざけは誠意の証か。よろしい、我慢の限界だ。流石に私にもキミを殴る権利があると見た」

「お、お姉さん、落ち着いて」

 

 あまりに性質の悪い冗談に、思わず立ち上がって拳を握りしめたところを浦川少年に窘められる。

 ――うん、落ち着け。こんな場で白衣がどうとか言い合っていても良くない。

 だがこれ以上私を挑発するなら私にも考えがある。その実行を念頭に置きつつも、座りなおす。

 命拾いしたなヒノケン氏。浦川少年に感謝するがいい。

 

「なんだよ悪ふざけって。お前も気に入っただろ? あの白衣。我ながらハイセンスな仕上がりだったぜ」

「――――」

「お姉さん! どうどう! 何のことか知らないけど、きっとお姉さんじゃ手を出してもあまり意味ないから!」

 

 

 

 ――そんな冷戦を繰り広げている間に、火村少年と桜井嬢は入場していた。

 私の火属性使いへのマイナスイメージがさらに加速した以上、最早桜井嬢には勝ってもらわなければ困る。

 光少年が手を下すまでもない。彼らはここで敗退するのだ。

 

「それでは始めましょう! 桜井メイル対火村アツキ! バトルオペレーション! セット!」

『イン!』

 

 一回戦と同じように、持ち前の速度で接近するロール。

 バーナーマンが火力に特化したナビであれば、それに追いつくことは難しいだろう。

 頭部のリングでの先制攻撃を、バーナーマンは真正面から受け止める。

 ダメージは殆ど入っていない。先制攻撃が来ると分かっていれば、防御するだけならロールの攻撃を受けるリスクは少ないのだ。

 

「レディファーストだべ! だけんども、ここからはオラたちの番だなや! バーナーマン!」

『おうよ! 燃えろォ!』

 

 ロールの左右に現れた二本の火炎放射器。

 そしてバーナーマンが向けた腕と合わせて、ロールを狙う砲口は三本。

 

「ロール、後退!」

『う、うん!』

 

 それらから青い炎が勢いよく噴き出し、大きく後退したロールは間一髪その被害を免れた。

 しかしバーナーマンの攻撃はそれで終わりではない。

 巻き上がる炎を突破して、ロールに向かって突っ込んでいく。

 ただの突撃ではロールの速度で対処される結果にしかならない。

 だが、彼は後方に向けて炎を噴射し、加速することでその速度を補っていた。

 

『ッ!』

 

 間一髪で、桜井嬢が送ったチップの使用が間に合う。

 二人の間に置かれた『ストーンキューブ』。なまくらな攻撃では壊れない防壁はいくら勢いよくぶつかろうとも簡単には壊せない。

 しかし、バーナーマンは激突を恐れない。『ストーンキューブ』に腕を突きつけ、自前の炎で壊しに掛かった。

 

「今!」

『うん!』

 

 彼はこれを避けるのではなく、破壊してそのまま突っ込んでくる。それは桜井嬢も予想していたことだったらしい。

 炎に晒された『ストーンキューブ』が破壊される前に、ロールはそれに『エアシュート』を叩き込む。

 圧縮された風の弾丸は敵に当てた時の影響こそ少ないものの、その風圧で各種置物を押し出す効果を持つ。

 これと置物チップの組み合わせは、火力の乏しいナビにとって一種の切り札ともなる定番のものだ。

 

『おわっ!?』

 

 自分にぶつかってくる石の塊に怯んだバーナーマン。

 その一方で自立した火炎放射器は回り込み、挟み撃ちの炎がロールを襲う。

 

『っ……!』

「ロール!」

『大丈夫、メイルちゃん! まだいけるわ!』

 

 ロールは決して耐久力のあるナビではない。

 あの火炎放射器はバーナーマンにとって本命ではないとはいえ、それでも中々の火力だ。何度も受けられるものではない。

 ――ここからだ。

 互いにダメージを受けた以上、桜井嬢のオペレートによってその差は大きく広がっていく。

 

「ロール、距離を取って。どれも視界に入れられるように」

『了解よ!』

 

 離れていくロール。その間に、彼女たちは一枚チップを利用する。

 それを見ている他者に分かるのは、使ったことだけ。敵に罠を張ったのだ。

 これは使ったナビではなく、相手の行動によって発動する。

 例えば、特定の属性による攻撃を使った時、その属性に反応して強力な攻撃を浴びせるチップがそれに該当する。

 この場で使ったということは、バーナーマンの火属性に反応する『カキゲンキン』だろうか。

 罠チップを解除する方法は幾つかあるものの、彼らがそれに精通しているとは思えない。

 とはいえ――火属性でバーナーマンに有効打を与えるのは難しいことだろうが。

 

「火をおっかねごったらメラメラ祭りさ出られねっぺ!」

『しゃらくせえ!』

 

 言うとバーナーマンは恐れることなく辺りに炎をまき散らした。

 当然、それに反応して辺りが大爆発を起こす。

 『カキゲンキン』で発生するのは反応したものと同じ火属性のダメージだ。

 戦場一帯を覆う爆発の中で一際大きな炎が上る。

 それは即ち、罠の火力に耐え抜いたバーナーマンの勝利の雄叫びだった。

 

『ハッハァ! オレを火で倒そうってんなら同じチップがフォルダ一杯に必要だなぁ!』

『無茶苦茶言うわね……ま、今ので倒せるなんて思ってなかったけど!』

 

 爆発の間に適度に離れたロールは矢で牽制しつつ、更なる攻撃を見舞う隙を探す。

 火炎放射器には追われ続けている状態だが、あのまま動き続ける限りは炎の餌食になることはあるまい。

 しかし、矢もバーナーマンには届かない。

 一本でも当たればチップを破壊できるそれも、途中で燃やされてしまえば当然効果を発揮しない。

 ――火力が足りない、というのは目に見えていた弱点ではあったが、火力同士のぶつかり合いが必要になるとは。

 こうなると厄介だな。鉄壁の相手より性質が悪い。

 

『ブリザード!』

『ヒートブレスッ!』

 

 僅かな隙を見出してロールが攻撃を仕掛けるも、氷は炎で相殺される。

 二つのチップは戦場の床に変化を齎す。

 『ブリザード』は氷に。そして『ヒートブレス』はマグマに。

 どちらもロールの足の踏み場としては決して相応しくない。対して、マグマの床はバーナーマンにとってはホームグラウンドも同然である。

 マグマを踏みしめたバーナーマンはその影響を受けることなく、最大限に恩恵を受けるチップを使用する。

 

「焼き尽くすっぺ!」

『オラァ! エレメントフレアァ!』

 

 マグマの上に立って使用することでその属性エネルギーを吸収し凄まじい火力を発揮する炎のランプ。

 オモテでは知られていないがとある儀式で利用された闇のチップから派生したチップであるそれは、スタンダードチップとは思えない威力で戦場を焼いていく。

 

『きゃっ――!』

「ロール!」

 

 直撃は『インビジブル』で回避したものの、その効果が無くなっても炎はより広がっていく。

 ……あの戦場にいなくて良かった。流石に巻き込まれたくはないぞ、あんなの。

 しかしこうなると――出来れば決勝戦まで隠しておきたかった戦法を使わざるを得なくなるか。

 桜井嬢の苦い表情からは、その決断をするか否かの瀬戸際にあることが伝わってくる。

 このままでは確実に追い込まれていく。

 

『まだまだ!』

 

 追いついた火炎放射器の攻撃を最低限の動きで躱し、更に移動を重ねる。

 距離はあくまでも開いたままだ。……何かを狙っているのか?

 

「へっ、いづまでも鬼ごっこさしてても埒が明かねや! バーナーマン!」

『おうよ!』

 

 しびれを切らした火村少年が勝負に出た。

 『エリアスチール』で逃げ回るロールに追いつき、『ワイドソード』で仕留めに掛かるが――振り切る寸前、再びその距離が引き剥がされた。

 

『のわ!?』

「『スチールパニシュ』か! だばもう一回!」

 

 二度目の『エリアスチール』。

 それを読めていたのか、ロールは目の前に『トップウ』を配置して迫るバーナーマンを吹き飛ばす。

 それでもめげないバーナーマンは今度はロールの前方に踏み込むが、そこからの攻撃をロールは『バリア』で受け止め、横をすり抜けるようにまた離れていく。

 

「『エリアスチール』は、それでおしまいですか?」

「んがあああああ! まだコイツがあっぺ!」

 

 桜井嬢にしては珍しい、オペレーターへの挑発。

 焦りつつも、打開策を見出したがためのそれだったのだろう。

 何やら接近させ続け、それを追い払うことを繰り返す彼女たちの作戦は見えない。

 恐らく、それでは先に限界が来るのはロールだ。である以上、この戦法には何かしら、勝ちに通ずる意味がある筈だが……。

 逆上した火村少年が、使い切ったらしい『エリアスチール』に代わるチップを使用する。

 あまり使いたくはなかったのだろう。もしかすると、フォルダに入れておくだけの保険だったのかもしれない。

 それは攻撃にも使える『エリアスチール』といえるチップ。

 ロールの目の前に落ちてくるスライム状の液体は、使用したナビをそこまで高速で移動させるためのポータルとなる。

 『スチールゼリー』――発生速度こそ『エリアスチール』に及ばないまでも、戦いを継続し、疲労したロールであれば十分に代替として機能する。

 

『ぶっ飛べえええっ!』

 

 イメージとは正反対の水から現れるバーナーマン。

 ある意味、その光景だけで不意打ちとして成立する意外なチップ使用。

 目の前のロールに腕を振り上げ、王手を打とうとしたその瞬間――

 

 

 ――横から飛んできた鉄砲水に押し流されて、その姿は消えた。

 

 

「……は?」

「え?」

 

 火村少年、マミ氏。そして周囲の観客たちは唖然とその光景を目にしていた。

 かくいう私も暫く何が起きたか分からなかったが、絡繰りに気付けば、去来したのは上手くやったなという感心。

 鉄砲水が直撃したその瞬間の音は、ボッ、ともパン、とも聞こえる短いもの。

 しかし、だからこそ一瞬の巨大な一撃だと証明している。

 

「……お姉さん、今のは?」

「『ダイコウズイ』。水属性に反応する罠チップだ。予想外だね、火属性を旨とする相手にこの罠を張っておくとは」

 

 それを私たちも、戦っている火村少年やバーナーマンも感知することが出来なかった。

 恐らく仕掛けたのは『カキゲンキン』が発動し、ロールの姿が良く確認できなくなるほどの爆発が起きた時。

 その後に距離を取ったのは、出の早く相手を狙いやすい攻撃が多い水属性のチップの使用を狙ってのもの。

 遠距離でバーナーマンが乗るまで、相手を誘う動きを続けていたのだろう。

 彼らが水属性のチップなど、入れていない可能性の方が高かっただろうに、よくやるものだ。

 案外分の悪い戦いにベットを上乗せすることを厭わないタイプなのかもしれない。ハマれば強いが当然リスクは高いぞ、そのスタイルは。

 ともかく、火属性ならまだしも水属性の罠チップをまともに受ければ、さしもの熱いナビもただではすまない。

 水の流れていった先には既に赤い姿はなく、濡れた戦場に残り火がチロチロと情けなく燃えていた。

 

「ば、バーナーマン、デリート! 桜井選手、追い込まれつつも大胆な作戦で勝利し決勝戦に駒を進めました!」

 

 ようやく状況を理解したらしいマミ氏が勝利を宣言する。

 胸を撫で下ろす。どうなることかと思ったが、危なくも勝ちを拾えたらしい。

 

「なぬーん!? 信じられねえだ! バーナーマンが負けた!?」

 

 突然の事態による一瞬のKOに驚きを隠せない火村少年。

 この結末はまあ、同情しなくもないが、ここまでの迷惑で相殺だ。

 ――それで、はいお終い、であれば良かったのだが。

 

「はーっはっはっはっは! 自分の愚かさ、そして未熟さが分かったか、小僧!」

「……喧しいな」

「あ、あはは……」

 

 突然観客席の窓を開け、スタジアムを見下ろしながら高笑いを上げるヒノケン氏に、観客席中の注目が集まる。

 言うまでもないが私も浦川少年も他人である。交友関係もなければそもそも初対面の、たまたま席が隣になっただけの他人である。

 

「オッサン! なにそげな高いとこから見下ろしてるだ! ここさ下りてきてオラと勝負し直すべ!」

「駄目だ駄目だ! ロックマンどころかそんな嬢ちゃんにも勝てねえようじゃ、バトルする気にもならねえな! 死ぬ気で修行して出直してきな! ワハハハハハハ!」

「浦川少年、どうかあんな大人にはなるな。人目も憚らずに迷惑を掛けるなどオペレーター失格だからね」

「え? う、うん……あれは、うん、僕には出来そうにないかな」

「それでいい。いい子だ。そのまま健やかに育ってくれ」

 

 ああ、素直な浦川少年はきっと素晴らしいオペレーターとなるだろう。

 ヒノケン氏の存在も、反面教師としてはありがたい。二度と浦川少年には近づかないでほしいものだ。

 

「ふ、ふざけるでねえ! 冗談でねえ! 笑わせるでねえ! こげな大会――メチャクチャにしてやるべ! バーナーマン!」

「は?」

『おう! 悔し紛れの火祭りだ! 盛大に燃えやがれ!』

 

 それを受けて、暴走した火村少年は、再びバーナーマンをネットバトルマシンにプラグインさせた。

 逆に桜井嬢は危険を察知し、ロールをプラグアウトしてそこから離れる。

 ちょっと待て。バトルならまだしも余計なことはするんじゃない。そっちは城内ネットワークに繋がって――あぁ……。

 

「ま、負けた人はさっさと退場しな――きゃあ!?」

 

 マミ氏の制止は中断された。

 無茶苦茶な暴走に耐えられるほど、マシンと城内ネットワークとの繋がりは頑丈ではない。

 そこに火などつけられるのは想定外にも程がある。

 マシンが火を噴き、巻き込まれた火村少年の服に燃え移る。

 ……私の職務怠慢ではないぞ、これは。そもそもテーマパークで火気厳禁なのは当然だ。そんなことも気に留めずに暴れれば、こうもなろうさ。

 火村少年の絶叫の中で即座に鳴るオート電話。用件など目に見えたスタッフのそれに、私は憂鬱な気持ちで応じるのだった。

 ……火は怖くないんじゃなかったのか、火村少年。




似たような話で、トードマンに『ヒライシン』を使うとショッキングメロディーが引っ掛かって弱点属性の罠に嵌められます。
これにて火村少年は敗退。ようやく訛りの束縛から脱出しました。
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