バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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魂のロックンロール-1 【本】

 

 

 日が傾き始めた頃、再び観客席の人口密度は最高潮に達した。

 今日一日かけて行われた大会の最後を飾る戦いの時間である。

 既に六度の試合を宣言したマミ氏も、心なしか高揚しているように見える。

 どうやらこれまでの試合ですっかり桜井嬢に入れ込んだらしい。何となく、喜ばしい話である。

 

「さあ、いよいよ始まります! ホークトーナメント決勝戦! 意外なことにここまで勝ち残ったのは二人の小学生! まずは光熱斗選手の入場です!」

 

 これまでの二戦、光少年とロックマンは対戦相手と真正面からのぶつかり合いを挑んだ。

 小回りを活かした戦いで、豪快さの中に堅実さがあったからこその必然的な勝利だったと言えよう。

 だが、今回はその戦い方では決して勝てない。

 何故ならば、決勝の相手はロックマンに勝る速度を持っているのだから。

 

「続きまして、桜井メイル選手の入場です!」

 

 一回戦は先制攻撃から試合の流れを掴み続けての圧倒的な勝利。

 二回戦は追い込まれつつも、相手の行動を誘導させての逆転勝利。

 そして今回も、容易い相手ではない。

 何せ、過去三度――この一年で――世界を救ったとんでもない少年である。

 しかし、桜井嬢とロールの勝率がゼロとは言わない。少なくとも、ロールが持つ戦法は“格上殺し(ジャイアントキリング)”を成し遂げるのに大いに向いたものなのだから。

 

「お姉さんはどっちを応援しているの?」

「どちらも……ではあったが。どちらかと言えば桜井嬢かな」

 

 浦川少年は当然、光少年の優勝を願っているだろう。

 桜井嬢とは多分面識はない筈だし、命の恩人である光少年を応援しない理由があるまい。

 私も彼の活躍は望むところではある。だが――今回限りは桜井嬢の方に情が寄っているのも確かだ。

 たった一週間という短い期間で、決勝戦に駒を進めるほど成長してくれた教え子の活躍こそ、この大会に何より望んでいることなのだ。

 

「桜井選手も凄いよね。まさか決勝戦まで来ちゃうなんて思わなかった」

「きっと光少年には手強い相手になるぞ。油断すればそこで決着を付けられる強さが彼女にはある」

 

 バトルマシンを挟んで、二人が向き合う。

 やはり光少年の表情は複雑そうだ。別に桜井嬢がWWWやらネビュラやらの手先になった訳でもなし。普通のネットバトルの感覚で良いというのに。

 

「熱斗。わたしたちを“女の子だから”って甘く見ちゃ駄目だよ」

「……本当の本当に、本気なんだな? メイル」

「すぐにそんなこと言えなくなるわ。女の子が本気になったらどれだけ凄いか、見せてあげる!」

 

 既に戦いの火蓋は切って落とされている。

 例え光少年たちに戦意がないとしても、その考えは既に捨てざるを得なくなるだろう。

 両者のナビがプラグイン。戦場となる電脳世界で、青とピンク、二人のナビが向かい合った。

 

『ろ、ロールちゃん……』

『ロック! 手加減なんかしたらもう口きいてあげないんだからね! ぜ・ん・りょ・く・で! バトルしてね!』

『め……目が全然笑ってない……!』

 

 宣戦布告という名の笑みを浮かべるロールに、ロックマンはたじろぐ。

 こういう漫才ならずっと見ていたくもなるな。見ていて飽きない。

 

「ロックマン、始まる前から押され気味です! いいぞ、メイルちゃん、ロールちゃん! がんばれ! 女の子の本気、見せてやっちゃって!」

 

 マミ氏のあまりあって良いものとは思えない贔屓に、観客席の女性陣を中心に同調する様子に呆れる。

 自分もそちら側ではあるのだが……うん、もう何も言うまい。

 彼女たちはこの試合でさらに驚くことになるだろう。

 出来る限り光少年との試合までは隠し通すと決意し、そしてそれを成し遂げた隠し玉が存在することに。

 

「……こほん、失礼しました。そ、それでは始めましょう! 光熱斗対桜井メイル! バトルオペレーション! セット!」

『イン!』

 

 これまでとは違い、距離を詰めるのではなく離す方向に跳んだロールは、左腕を素早く弓に変化させる。

 ロールアロー――相手のナビに送信されたバトルチップのデータを破壊する性質を持った攻撃は、チップの扱いに長ける彼らにとっては恐ろしい武器となる。

 更にロックマンにはバスター以外に、チップ無しで攻撃できる武装がない。

 あの矢で上手く牽制していれば、戦いを有利に進めることが出来る。

 

『くっ……!』

 

 初撃を躱したロックマン。続く『ブーメラン』と第二矢、速度の違う二つの攻撃で誘導され――蜘蛛の巣に引っかかった。

 

「やべ……くそ、やっぱり本気かよ!」

「だからそう言ってるのに――」

 

 大したダメージを与える訳ではないが、設置しておくことで相手にプレッシャーを与える目的の強い『ホワイトウェブ』。

 桜井嬢が張ったそれはロックマンの動きの制限ではなく、何より本気であることを示すために使用した。

 相応しい戦意もなく戦い始めた二人への警告。

 即ち――そのままでは自分たちでも簡単に捕えられる、と。

 

「こうなりゃやるぞロックマン! 反撃だ!」

『う、うん……!』

 

 『バリア』で蜘蛛の巣を弾き、飛んできた矢を防ぐと、ようやく彼も攻撃に出る。

 接近するロックマンにロールがチップで対応しようとした寸前――その体が弾き飛ばされた。

 

『きゃっ!』

 

 ――チップ使用時の隙は、無くし切れていない。

 ロールの素早い動きの中の、攻撃の兆候を狙って放たれたのは『カウンター』だ。

 ここ最近で開発されたチップの中ではかなり優秀な一枚と言える。相手の攻撃の寸前という、ごく僅かな好機に実行することで相手に衝撃を与える、攻めにも守りにも使えるチップだ。

 加速するロックマンを『モコラッシュ』で立ち止まらせ、その間に体勢を整えたロールは突撃するもこもこの毛皮に紛れて移動する。

 攻撃のために構えていた『ソード』で自分に突っ込んできたマルモコを切り払えば――その手が戻る前にロックマンの懐にはロールが踏み込んでいた。

 

『ッ!』

『喰らいなさい!』

 

 おお――何とも苛烈な目覚ましだ。

 持っていたのか、『ゴールドフィスト』。桜井嬢とロールがあそこまで露骨なチップを使うとは意外だった。

 ロールの元々持つ腕の倍ほどはある黄金の拳がロックマンに突き刺さる。

 怒り心頭の右ストレートに観客席も騒めく。

 思い切り吹っ飛んだロックマンに、間髪入れずロールは追撃する。

 狙い違わず飛んでいく、『ホウガン』で。

 

『このぉ!』

「よ、避けろロックマン! ロールの戦い方ってあんなだったのか!?」

「教えてもらったのよ、この日のためにやってきた特訓で!」

 

 教えていないぞ。監督していた限り私もビーストマンもそんなこと教えていないぞ。

 いや、まあ低めの攻撃力の補強として、狙えるタイミングで相手を追い込める高威力のチップを多少は入れておいた方が良いとは言っていたが。

 ここまで苛烈な攻撃が出来るほどだとは思っていなかったぞ。

 

『とっ……ロールちゃ――』

『まだまだぁ!』

 

 『ホウガン』を間一髪で回避し、横に飛んだロックマン。

 しかし空いた穴に向かって追加で投げ込まれた『カンケツセン』が巻き起こした水流をまともに浴びる。

 ――これは、このままだと予想外の形で決着するぞ。

 

『待ちなさい、ロック!』

 

 自分の攻撃で押し流しておきながら理不尽を言って接近するロール。

 近付きながら放つ矢は――狙いすまして発射された水の弾丸で迎撃された。

 

「ロール、ストップ!」

『っ――!』

 

 桜井嬢の指示で一旦立ち止まり、高く跳躍することで、床を這って吹き荒ぶ氷の嵐を回避。

 それで凍り付いた床に下りることを、真下に『ストーンキューブ』を設置することで防ぎ、一段上からロールは、水を宿す姿に変化したロックマンを見下ろした。

 ソウルユニゾン――アクアソウルの持ち味である充填時間の非常に短い水の射撃と、水属性チップのチャージによる威力増大。

 そしておそらく、『カンケツセン』そのものの衝撃もあれで幾分かコントロールしたか。

 どうあれ、他のナビのソウルを使う以上、ようやくロックマンも吹っ切れたらしい。

 

『やっと本気出してくれるみたいね』

『うん。このままじゃ失礼だし、絶対負けるって分かったから。ここからは全力だよ、ロールちゃん!』

『ええ! 行くわよ、ロック!』

 

 矢と水の弾丸の応酬。

 それを繰り返しつつ、ロールは徐々に後退していく。

 そして『ストーンキューブ』の縁まで来たところで更に一射放ってから飛び降り、陰から『サークルガン』で攻撃。

 『マグナム』と同様照準を合わせるのが難しいチップだが、射撃範囲が広いことから相手の位置を大まかに予測するだけで良いという長所を持つ。

 当然、そんなもので攻撃され続けていては堪るまい。

 光少年とロックマンは回り込んでもロールがそれに合わせて移動することを確認し、『ストーンキューブ』の破壊に移った。

 

『行っ――』

『隙あり!』

 

 『ワイドショット』の溜め撃ちで一気に粉砕しようとしたその隙を、ロールは突いた。

 相手の目を短時間晦ませる『ブラインド』で集中を乱し、放った矢はロックマンに命中する。

 

「チップが!?」

 

 盲目を気にせず溜め続けていた『ワイドショット』のチップデータが破壊され、ロックマンは無防備を晒す。

 しかし素早く状況を理解した光少年が続けて送信したチップが接近するロールに当たり、その足を砂で拘束した。

 

『あっ!? ……もう。やるわね、ロック』

『ロールちゃんもね』

 

 当たった相手の足を砂で捕える『サンドリング』による足止め。

 それは上手く効果を発揮しロールの追撃を防いだものの、代わりにロックマンは重要な攻撃の機会を失った。

 既定のチップ送信回数に至り、自動的にソウルユニゾンが解除される。

 水属性のチップを連続で送るべきところの一つを足止め用の、ダメージのないチップで消費出来たのはロールたちにとって追い風だ。

 或いはこの砂を巻き上げることで著しく強化される『トルネード』も一緒に送られていれば一気に危機に陥ったかもしれないが、咄嗟の防御でそれは出来なかったらしい。

 

「アクアソウルが……やるじゃんメイル」

「まだまだ、こんなものじゃないよ」

 

 互いに攻め手が切れたらしい。

 一旦仕切り直しとばかりに距離を取り直す。

 

「ロール。熱斗たちも本気出したし、わたしたちもやるよ」

『ええ! ここからは出し惜しみ無し。見なさいロック! これがわたしたちの隠し玉よ!』

 

 ここから先の光少年とロックマンは、決して彼女たちを侮らない。

 ようやく、二人が戦いたいと思った状態になった訳だ。

 であればこれ以上、隠しておく理由はない。

 隠し玉という言葉に警戒を隠さず、構えるロックマン。

 それに対しロールは接近することなく――くるりと回転し、周囲に彼女に協力する仲間を呼び出す。

 

『う――ウイルス!?』

「おっと! 桜井選手、ここまで秘めていた切り札はなんとウイルスでした!」

 

 ロールを守るように二体現れたビリー。

 これは光少年たちも想像だにしなかっただろう。

 私が桜井嬢に教え込んだ、ロールのクラッキング能力とウイルスの運用方法。

 前者を物にしたあと、私はロールに幾つかのエリアを回らせて、使うためのウイルスを集めてもらった。

 彼女が使うウイルスは何一つ、私が用意したものはない――これら全て、桜井嬢とロールの努力からなる力なのだ。




4編入って初の一話で終わらなかったバトル。
ところで、割と真面目に4編は3編ほど長くならないかなと思っていたんですけど、明らかに此方の方が話数は長そうです。
大会がここまで長くなるとは思っていませんでした、見積もりが甘かったです。
毎日更新が続いても今年の4編完結はなさそうな感じです。
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