バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
『ま、まさかロールちゃんがウイルスを使ってくるなんて……』
『ふふん。ただ呼んだだけじゃないんだから。覚悟しなさい、ロック!』
ビリーたちが放つ電撃は速度こそ遅いながら、相手を追尾する。
彼らから取得できる『サンダーボール』の利便性は非常に高い。
そのゆっくりとした速度は相手の動きを逆に制限し、当たれば麻痺させ更なる追撃に繋がる。
ビリーたちはそれと同じ球を放ち、ロックマンを襲う。
『くっ……!』
「ロックマン、まずはウイルスから――」
『させないわよ!』
ここまでロールの速度を見てきた以上、動きが制限される中で戦うのは厳しいと、光少年は判断したのだろう。
それは正しい。だが、ウイルスたちが黙ってデリートされるのをロールが見ている訳もない。
光少年がチップを送信した直後、回り込んだロールが放つ矢がそのチップを破壊する。
『あっ!?』
「くそ、厄介過ぎるぜあの矢……! 一旦回避に専念だロックマン! 次のチップ送る!」
『う、うん、了解!』
彼を挟むように迫ってきた電撃を後退して回避。
ロールをバスターで牽制しつつ距離を取るも、チップが使えない以上ペースはロールのものだ。
ロックマンをビリーと挟むように移動したロールは戦場に『ティンパニー』を設置する。
定期的に音をかき鳴らすことで戦場を揺らし、敵の動きを止めるチップ。
音が鳴ってしまえば電撃から逃れる術がなくなり、破壊しようにもビリーたちに背中を見せなければならない。
さらにそれらを気にしている間にも、ロールは矢で攻撃を続ける。
ロール、ウイルス、『ティンパニー』。たとえ状況を打開しようとチップが送られても、どれかに意識を向けたところを他が狙うことになる。
この包囲網を上手く逃げ切れているロックマンは流石だが、打開策の発動があまりに難しい状態だ。
チップを使うのが難しい状況。それでも切り抜けるにはどうすれば良いか。
「待たせた、ロックマン! 行くぜ!」
『了解!』
『させない!』
すかさずロールが矢を放つが――それを受けてもロックマンに発生した変化は止まらない。
大木の如きずんぐりとした姿に変わったロックマンは、電撃を受けつつも木の葉の混じった風を放ち、『ティンパニー』を破壊した。
――ウッドソウル。
このホークトーナメント一回戦で戦ったウッドマンのソウルと共鳴したロックマンの新たなる力。
一回戦と二回戦、彼らは二つのソウルを手に入れた。
二つの能力については決勝前に光少年に伝えてある。
直前であったため、この戦いで使うのは無理かもしれないと思ったが、まさかぶっつけ本番で力を使おうとは。
『熱斗くん、これなら!』
「ああ! ビリーを警戒する必要もないぜ!」
自然の力をその身に宿すウッドソウルは、麻痺や混乱といった異常を防ぐことができる。
ビリーは電撃によって発生する麻痺こそが真髄たるウイルスだ。
彼らにとってこのウッドソウルは正に天敵と言える。
攻撃力自体は考慮するほどのことでもないビリーを気にせず、ロールに集中する。それが、この姿であれば可能だろう。
ただし、この状態では送れるチップの回数に限りがある。
攻撃手段が増えたとはいえ、有利に立ち回れるのは依然としてロールの方だ。
『スピードで追いつけないなら、結局どうにもできないわ!』
通常の姿より速度の落ちたウッドソウルでは、ロールには到底追いつけない。
ゆえに攻撃手段は遠距離での攻撃が可能なコガラシによるものが主となるが、その風もロールを捉えられるほどではない。
ロールは素早いステップで移動しながら矢を放ち、ビリーたちもロックマンに近付く。
自分たちを攻撃しないならば、近付くことによるリスクは少ない。寧ろ、早いテンポでダメージを重ねるためにも、近付いた方が良い。
如何に攻撃力が低いとはいっても、数を重ねればナビさえデリート出来る。
確かに麻痺は気にならなくなったものの、何時までも無視できるものではないのだ。
「いくらロックマンでも、これじゃあいつまでも持たないよ、熱斗」
「ああ。だけど、打開する手段はある!」
チップ送信――飛んでくる矢を一射躱し、『ストーンキューブ』をロールとの間に配置。
それを認識したロールはすぐさま回り込み、残るチップを破壊しようと矢を放つ――その瞬間、ロール自身にもロックマンのチップの効果が反映される。
そして矢は『インビジブル』を使用したロックマンをすり抜け――後方にいたビリーに直撃。
『っ!?』
デリートされるビリーを埋める新たなウイルスを出すより前に、ロールがまるで自分に攻撃が突き刺さったかのように表情を歪めた。
先のロックマンのチップにダメージはない。だが、ダメージを作り出すことは出来るチップだった。
「――! ロール、解除を――」
『いっけええええ!』
『コピーダメージ』。他の敵が受けたダメージを、対象とした敵にも与えるチップ。
それでビリーへのダメージを転写し、対処の時間を奪う。
ロールに接近するには、ウッドソウルの速度は足りないが――速度がなくとも、ダメージを転写させるビリーがまだ一体いる。
光少年はすかさず『フルカスタム』でチップ送信し直し、ロールが『コピーダメージ』を解除する前に『ソード』、『ワイドソード』、『ロングソード』の三枚によるプログラムアドバンスを実行する。
巨大なソードは残ったビリーを跡形もなく消し飛ばし、ダメージをそのまま、離れたロールに叩き込む。
『きゃあああああああああああ――――!?』
――意外だったな。
この大会は純粋なネットバトルの腕を競う大会だ。ウイルスバスティングを競う訳ではない。
その大会に挑むためのフォルダに『コピーダメージ』を入れているとは。
知識があれば色々と悪用可能なチップだが、対象とされても解除の方法さえ分かっていれば次のチップを使用される前にその捕捉から逃れることも難しくはない。
ゆえに、どちらかと言えばウイルスバスティングに重宝されるチップなのだが。
ともかく――光少年とロックマンはこのチップを使い、攻撃を受けるばかりだった状況を脱する。
とはいえロールもまだ限界は訪れていない。
これまで受けたダメージを総合すれば、勿論耐えきれまい。
だがロールは己の持つ癒しの力を戦闘中に利用し耐久力を補う術を既に学んでいる。
チップ使用と同時に体力を若干だが回復することで、ロールの速度も相まって事実上かなりの耐久力となっている筈だ。
――それでも、感じている痛みが消える訳ではない。今の『ドリームソード』の一撃はかなり堪えただろう。
「ろ、ロール! 大丈夫!?」
『ん……うん、勿論。ロックなら、これくらいやるわよね』
リカバリーチップを使って傷を癒しつつ、ロールは立ち上がる。
ただ、それでも補いきれないほどのダメージだ。プログラムアドバンスをもう一度耐えるということは不可能だろう。
ロックマンも、ロールも、疲労が見えてきた。
そして激戦であることを証明するように、次のチップが送られたロックマンの姿が元に戻り、二つ目のソウルを使い切ったことを告げる。
「よし――ロール。あれやるよ」
『了解よ、メイルちゃん!』
何か仕掛けてくる――そう悟ったロックマンは相手を引き寄せ電撃で攻撃する『マグボルト』で動きを制限に掛かる。
しかし、引き寄せられる筈のロールの前に出現した重量のある石像はそれを許さない。
ガイアントの召喚。そして相方として選んだのは、ラウンダ。
どちらも通常時は並のチップの攻撃を受けない性質を持った、防御力のあるウイルス。
二つの攻撃が同時にロックマンを襲う。
そして回避をした位置に向けて、ロールが『エリアスチール』で移動。
リングでの攻撃はこれまでの軽いものではなく、ロックマンを吹き飛ばすほどの高威力のもの。
『ッあ!?』
それはロールに秘められた力の神髄。
桜井嬢が特訓を始める前から持っていた自身の切り札。もしかすると、それをロックマンに披露するのは初めてかもしれない。
『ホーリーパネル』と、リカバリー系の最上位チップたる『リカバリー300』。
それらにロールのナビチップを組み合わせることで発動するプログラムアドバンス。
攻撃の後に後退し、自身の癒しの力を最大限に解放することで体力を大幅に回復する――それが『ビッグハート』。
攻撃と回復の両立を行う世にも希少なプログラムアドバンスでロックマンを引き離し、ロールは一気に攻めたてる。
対して――ロックマンもまた、大きなダメージを受けてなお諦めない。
『――まだまだ!』
「ああ! こっちだって負けてないぜ!」
三度目のソウルユニゾン。赤と青を基調とした、メタルマンのソウル。
ロールの『フウジンラケット』による攻撃を受け止めつつ、それによって発生する風圧をもう片方の拳を床に叩きつけ、支えとすることで耐え凌ぐ。
そして素早く反撃。メタルソウルによってチャージ可能となったブレイク性能チップはラウンダやガイアントの防御力すらも容易く貫通する。
『はっ――!』
『ッ!』
地を這って進む『エアホッケー』がロールを弾き、ガイアントを一撃でデリートし、ロックマンの元に帰ってきたところを彼が宙に向かって弾くことで浮遊したラウンダをも粉砕する。
『エアホッケー』の操作のために立ち止まっていたロックマンに、一回戦の決着チップ――『バウンドノート』を放ったロール、そして桜井嬢はロックマンの回避先を予測していた。
跳んだ先は、先程彼らが『サンドリング』を使用した際に作り出された砂地。
踏みしめれば足を取られるその場所に彼女たちはロックマンを誘導した。そこまでは良かった。
放たれた矢は狙い違わず砂地に降り立ったロックマンに飛んでいき――既に構えられていた次のチップの攻撃に打ち消される。
砂地のエネルギーで威力を跳ね上げる『エレメントサンド』。
『おおおおおおぉぉ――っ!』
ああ――なるほど。こういう結末か。
エレンプラと呼ばれるウイルスはウラでとある目的のために作り出されたウイルスだ。
ウラの第二位を守るナビの分身とも言えるウイルスが派生し、多くの特殊な地形に対応する亜種が生まれ、それらから抽出されたのが『エレメントフレア』や『エレメントサンド』といったチップ群。
何ともはや。ウラの第六位と第十位が一週間かけて鍛えた教え子に引導を渡したのが、第二位の齎した力とは。
砂を巻き上げるエネルギーがロールを呑み込み、爆発する。
属性を持たないあのチップであれば、メタルソウルの能力の適用範囲内だ。
爆発の煙が晴れた時、その戦場には既にロールの姿はなく、しかしあと一歩まで追い詰めたことを証明するように、ロックマンが膝を付いた。
「――ロール、デリート! 激闘を制したのは光選手とロックマンです! ホークトーナメント優勝者は、光熱斗選手に決定しました!」
「――――ふぅ、負けちゃった。流石だね、熱斗」
「ギリギリだったぜ。すげーな、メイル! これだけ戦えればそこらのネットバトラーなんて太刀打ちできないぜ」
大歓声の中で、私も小さく手を打つ。
決勝戦に相応しい戦いだった。ここまで戦えたなら、優勝できずとも十分だ。
桜井嬢は己の目標に一歩近づくことが出来ただろう。
「けどさ。なんでいきなりトーナメントに出場しようって思ったんだ?」
「秘密!」
……まあ、それでも良いさ。
彼自身に言うことでもあるまい。そういう時が来るのであれば、必然として来るだろうから。
『ロールちゃん、大丈夫?』
『平気だよ。ありがと、ロック。最高の戦いだったわ』
『うん――ボクも、ロールちゃんのあたたかいパワーを感じた。包み込むような癒しのソウルが、ボクのソウルと共鳴したよ』
この大会に向けての特訓を頼まれた時、その理由については話してもらった。
――わたしはいつも熱斗に守ってもらっているから。いつか、逆に熱斗を守れるくらいの強さがほしいんです。
私が動きたいと思うには十分すぎる理由だった。だから、手を貸した。
桜井嬢は強くなった。ここからより強くなることも、彼女なら可能だろう。
これをきっかけに、彼女たちが見つめる背中はぐんと近付いただろうから。
ガッツソウル「解せぬ」
熱斗の勝利で決着。まあ、予定調和というところ。
ホークトーナメント編は次回で終了となります。
そして4の物語では終盤となるシナリオへ。これまで以上に独自展開が多めとなります。