バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー   作:けっぺん

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お日様とお月様 【本】

 

 

 クリームランドに戻ってきた次の日。

 私はプライド様に招かれ、城にやってきていた。

 今回は一週間を大いに過ぎた訳でもなく、レヴィアの癇癪もなかったため、戻ってきてすぐとは思えない平穏さ。

 色々とあり過ぎた大会の一日の後というギャップもあると思う。

 冷静に考えてみればおかしいぞ。あの一日だけで、二大迷惑火炎ナビの騒動に、ロールの誘拐事件。そしてネビュラの襲撃。

 前回のWWWとの一連の出来事でさえ、ここまで事件が重なったことなどなかった。

 一つ一つは短く終わったから、全ての対応している時間を合わせても二時間とないのだが――当分は懲り懲りだ。

 一ヶ月――いや、二ヶ月――一年くらいは平和が続いて良いのではないか。

 

「何というか、お疲れ様でした」

「疲れました」

 

 大会当日の出来事について話せば、やはりプライド様は難しい顔をした。

 はっきり言って私も、ロールの件以外は関わりたくなかった出来事だ。

 ネビュラなぞ、シェードマンの一件限りだと思っていたのに。

 

「ひとまず、無事に帰ってきたことに安心しました。三連続で入院沙汰なんてことにならないか、本当に心配だったんですよ」

「すみません。何もなく帰れれば最善だったのですが」

 

 最近の私はどうも災難の渦中にいる気がしてならない。

 平穏がほしい。切実に。

 いや、それでも依頼は通常通り受け付けるのだが。それはそれ、これはこれである。

 

「ところで、何か大事な話があるとのことでしたが」

「ええ――そうでした。こちらを見てください」

 

 話を切り出すと、プライド様が一束の資料を手渡してくる。

 極秘資料……いいのか? こんなの私に見せて。

 そんな疑問からプライド様に目を向けると、構わないとばかりに頷いてくる。

 ……関係者に含めるということらしい。プライド様の力になれるならば光栄なことではあるが、一体何の内容か。

 ――レッドサントーナメント? ブルームーントーナメント?

 

「……大会への関与なら一昨日までやっていましたが」

「いえ。今回は運営に携わってほしいという訳ではありません」

 

 では、私に何を――と思いつつ、資料を読み進める。

 どうやらそれは、世界各国から代表のネットバトラーを集めて行う大会であるらしい。

 二つの大会の同時開催。それぞれ八名の選手が参加し、各大会の参加者が――ふむ。資料の一部は黒塗りになっている。

 私が知るべきは一部だけで良いということらしい。まあ、政治に関わるつもりは一切ないし、知るべきでないことは知りたくないから良いのだが。

 代表選手は現在の主要国家から数名ずつ。

 日本はブルームーンに二名、アメロッパはレッドサンに二名……という具合に、複数の参加が許されている国が必ずしも両方に選手を置ける訳ではないらしい。良く分からん。

 シャーロは三枠あるぞ。一枠はブルームーン、二枠はレッドサンだ。

 ――なるほど、クリームランドにも一名分の枠が設けられている。どうやらこの国も順調に認められているようで何よりだ。

 プライド様の顔色の悪さもすっかり改善された。色々と無理をやらかした甲斐がある。

 そして大会は……およそ二週間後?

 

「随分急な開催ですね」

「ええ……まあ、それにはやむに已まれぬ事情があるので、文句の言いようもないのですが……そうですね。急なんです。選手を決める時間がないんですよ」

「ああ……」

 

 納得した。確かに、これは世界に対して国の代表だと示す選手を短時間で選べということに他ならない。

 他国なら良いだろう。日本にアメロッパ、アジーナにシャーロ……世界トップクラスと言っても過言ではないオペレーターが存在している。

 では、クリームランドはどうか。

 N1に出場した選手はいるものの、あれとはまた求められる技術が違う。

 というか、彼らは今クリームランドにいるんだったか。詳細は知らないが他国に出ているって聞いた覚えがあるぞ。

 そしてこの国最強のネットバトラーだろうプライド様は――当然駄目だ。

 彼女が大会に赴くとすれば、居場所はスタジアムではなく貴賓席である。

 別に大会の規則で定められている訳ではないものの、暗黙の了解というものだ。

 

「この一枠に関するお話ですか?」

「はい――単刀直入に言います。クリームランド代表として、出場してくれませんか?」

 

 ……?

 プライド様は何を言っているのだろう。聞き間違いではないとしたら、私に言う事ではない気がする。

 ――なるほど。分かった。つまりはそういうことか。

 

「プライド様、お疲れですか?」

「疲れていませんし、言い間違いでもありませんよ、エール・ヴァグリース」

 

 そうなると、余計に困るんだがな。

 そもそも私にはナビがいない。

 エールハーフを使うとしたら、私の強さなど語るまでもない。徹底的に盤外戦を仕掛けられるなどのルールのない戦いならまだしも、公式のネットバトルなど無理だ。

 まだその辺の、多少心得のある学生にでも任せた方が頼りになるというもの。

 

「レヴィアに協力を頼めないですか? 今回の大会は……その、あまり知らない者を起用する訳にはいかないのです」

「……レヴィアは、無理ですね。私のナビではありませんし、そもそも彼女は誰かのナビになる気はないので……一体何が絡んでいるんですか?」

 

 どうもきな臭い雰囲気になってきたぞ。

 何やら、ただのネットバトル大会という訳ではないらしい。

 確かに二つの大会を同時開催という辺り、一風変わったものではあるが、一体何があるというんだ。

 

「あまり詳しくは話せませんが……国の代表が優勝する以上に、選手たちには重要な意味合いがあるのです。それを吟味した結果――心苦しいのですが、貴女こそ、この国で一番相応しいと。そう判断しました」

「……」

 

 間違いなく、厄介な事情が存在するとして。

 それが何なのかまでは掴むことが出来ない。だが、プライド様の様子を見る限りやはりゴスペル並にとんでもない事情が絡んでいるのは確実だ。

 少なくともプライド様自身が何かよくないものを抱えている訳ではなさそうだが……。

 プライド様が何らかの事情を考慮して、その上で私を推薦してくれているという事実は嬉しい。

 だが、簡単に頷けるものでもないことも、また事実だった。

 

「……暫く考えさせていただけますか? 数日中に答えを出します」

「お願いします。他の候補も検討しますが……やはり、貴女が一番なので。一週間以内に答えを出してください」

「分かりました」

 

 私がナビを持っていないことはプライド様も知っている。

 その上で私を選んだ理由、それを話してくれれば、或いはこの場で答えを出すことも出来るかもしれないが……それは無理らしい。

 

 

 

 返事を保留にして、家に戻ってきたあと、私は現在来ている依頼の整理をしていた。

 アジーナからの依頼は明日、私からアジーナエリアに赴く旨を話している。

 あの国は……何というか、やりやすい。

 人柄が温和なので付き合っていて悪い気分にもならない。昔からの文化を継承しつつネットワーク技術も高い水準を持っているのも好印象だ。

 ……まあ、末端とはいえ国のシステムを国外の技術者に触れさせるのは、どうかと思わなくもないが。

 ゴスペルの時を思い出す。何かと落ち着いた印象の強いあの国の人間があそこまで慌てていたのは珍しい。

 聞いた話では国王のナビまで出てくる事態だったらしいからな。

 バグ融合体の暴走が未遂で終わった以上、ゴスペルが起こした事件の中でも最も大きなものだっただろう。

 で、そのアジーナが再び依頼と。ここ数年何度かこの国の依頼は請け負っているが、どうやらまた少し変わったものらしい。

 

 大きな依頼はそれくらい。

 あとは、だいぶ減ってはいるものの、まだ存在するナビカス関連のものと――ダークチップ絡みが数件。

 その他の普通の依頼を優先したいのだが、ダークチップ絡みはあまり長い間放置しておくのもよくないという厄介さがある。

 これに関しての依頼料は、対価について悪評の多いウラの商売敵に匹敵する価格にしているのだが、まだ来るか。

 可能であれば関わりたくないというのは嘘ではない。もっと高くしてみるか。

 

「……」

 

 どうしたものかと思いつつ、室内にある別のディスプレイに目を向ける。

 私なりに作成した、ウイルス飼育機に繋いだものだ。

 相変わらず、あまり動くことはないクーモス。

 その一方で、かのチャマッシュを思い出させる新顔が別のエリアで猛進している。

 

『困リマス! 困リマス! マルモコサン! 困リマス! アーッ! 困リマス! マルモコサンッ!』

 

 日本にいる間、パークエリアで偶然にも二種の無害ウイルスを発見することが出来た。

 一つがマルモコ。

 もこもことした分厚い毛に覆われた羊型のウイルスで、クリームランドのインターネットでも国外のエリアと近い場所では時々見られる、身近な種だ。

 元気で忙しいこの連中は、速くはないもののよく走る。とにかく走る。

 何を目的としているのかは知らないがひたすら走る。マルモコ、ミルモコ、ゲルモコ。三体とも例外なくただただ走る。

 本当の羊の如く、のんびりとしていることも無くはない。

 だが、大人しくしているかと思えば何かの拍子に再び走り出す。

 すっかり一人前の飼育担当となったプログラムくん――カグラもまたそれを追って走る。楽しそうだな、彼。

 まあ、日本にいた頃はアレを超える速度で意味もなく大爆走していたチャマッシュも追いかけていたのだ。世話に無理が生まれたという訳ではあるまい。

 

 そしてもう一種、プルメロだ。

 音符に顔が付いたようなウイルスで、彼らから取得できる『バウンドノート』はその独特の攻撃タイミングから使いにくいチップと言われるが桜井嬢は割と得意なチップだったのが印象深い。

 彼らはその柔らかい体で跳ねまわる、これまた元気な種だ。

 此方はマルモコに比べればだいぶ大人しい方で、カグラも世話に苦戦している様子はない。

 時々跳ね過ぎてエリア内をピンボールの如く縦横無尽に行き交っていることがあるが。

 

 管理するウイルスが三種になったことで、餌となるバグのかけらの消費量は増えた。

 とはいえ、それを補える程度には依頼そのものやバグピーストレーダーの調子は良い。

 とりあえず当分、量に困ることはあるまい。

 

『戻ったわよ』

「おや、お帰り、レヴィア」

 

 ウイルスたちの調子を表す数値が健常であることを確認し終えた頃、またどこかへ行っていたレヴィアが戻ってくる。

 彼女は私がいようといまいと、行動を変えることはない。

 基本的にレヴィアというナビはウラの住民であり、あくまで我が家のパソコンは拠点に過ぎないのだ。

 まあ――アイリスを迎えてからは彼女が基本的にパソコン内にいる関係か、ここにいることも多くなった節があるが。

 

「そうだ、レヴィア。世界規模のネットバトルの大会に参加してほしいと言われたらどうする?」

『興味ないわ』

「了解だ」

 

 たった一言。それだけで、心底関わる気がないというのが伝わってきた。

 念のため聞いただけではあるが、即答するほどであれば別に無理強いもすまい。

 私とて、レヴィアをオペレート出来るかと問われれば否な訳だし。

 彼女の強さは誰の指示も受けず、己の信じるままに戦ってこそのものなのだ。

 

 ちなみにアイリスを私のナビとするという選択肢も今のところない。戦わせるなどもってのほかだ。

 居候として加わって暫く――出会ってから空白の期間も含めて五ヶ月近く経っている訳だが、私はアイリスの抱えている事情について詳しく知らないし踏み込むつもりもない。

 それでも、WWWに何かしら関わっている以上は大衆の前に晒すような行動は避けねばなるまい。

 ……というか、その点で言うと私も、ナビを持っていたとしても参加したくはないのだがな。

 そんな風に目立つことは出来れば避けたい。N1の時、声とエールハーフの姿が広まってしまったことすら、頭を抱える事態だったというのに。

 

 プライド様の頼み事であれば、なんであろうと頷く気概はある。

 だが今回の件に関してはどうにも――ままならないものだった。




・レッドサン/ブルームーントーナメント
4の終盤、アメロッパで開催される世界大会。
この二大会はバージョンによらず同時開催されており、熱斗が出場する大会が違う。
大会にはとある目的があり、急な開催となっても仕方ない理由があるため、N1に比べて規模が小さい。
選手として各国から凄腕のネットバトラーが集う。
ネットバトルとは違うスポーツを広めようとしたり、大会中に気象衛星をハッキングしたり、その国の出身じゃなかったり、そもそもオペレーターがいなかったりしているが、これでも世界の命運をかけた大会である。


という訳で世界大会編開始。
トーナメントへのお誘い。そしてその裏で起きているとんでもねぇ出来事。
ただしそんなこと、エールは知らないのであまり乗り気ではありません。
もし聞かされていればレヴィアを無理やりでも起用したかもしれませんが。
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