異世界賃貸見聞録   作:オカタヌキ

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管理人室 ことの始まり

 

「ううっ……ぅおぉお゛……っっ!」

 

「………………ダレ?」

 

  自分の経営しているアパートの一室で物音がすると思って見に行ったら、ローブ姿のおっさんが倒れてたでござる。

何を言っとるのか分からんだろうが、俺も何を言っとるのか分からん。

 

「いや、本当に誰やねん」

 

「み、みずぅ……!水をぉぉ……!!」

 

 とりあえず、このような状況に至るまでの経緯を回想してみよう。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

俺は家永真人 21歳。一応漫画家志望のフリーター。

県外の美術系専門学校を漫画専攻で卒業し、去年地元にカムバックしてきた口だ。

 卒業後は漫画家を目指し、都心で適当にアパートでも借りて暮らそうかと思っていたのだが、そこに叔父から、

 

『それだったらウチで管理してるアパートやるよ。

ガス水道も通ってるし各部屋に風呂とトイレもある。入居者がいたら家賃取ってもいいし、何なら外観とかも好きいじってもいいぞ。

そういうの得意だろ?美大だし』

 

と、持ち掛けられた。

 

 正直芸大生だからって何でもできると思われたくはないのだが………とにかく、当時の俺はタダで住む家とあわよくば収入源が手に入るとすっかり舞い上がり、よく考えもせずに即答。

 そして、在学中にバイトでそこそこの蓄えを作り、卒業後に意気揚々とそのアパートのある場所へと向かったのだが………

 

「あのじじぃ……っ!!」

 

 町から車で片道30分、話に聞いていたアパート、『イエナガ莊』がそこにあった。

 

うん、あったのだが………

 

 

 白いペンキが所々剥がれ、煤けたコンクリが顔を出している外壁。錆まみれの階段や柱に、敷地内は残さず雑草ボーボー。傾き外れかけの看板。入居者は愚か人影の欠片も見当たらない。

 

 うん、どこからどう見ても打ち捨てられた廃墟である。

 

「ざけんなごらあああああっ!!!」

 

 騙されたと思い憤慨した俺は、まぁ即電話したんだが……

 

『おいおい、言っとくがろくに現物確認もしないで了承したのはソッチだぜ?もう手続きもとっくに済んだし、いまさら返すっつっても通らねえよ』

 

『ろくに確認せなんだお前が悪い』

 

『ま、何も考えずに契約したらどうなるか、いい勉強になったやろ』

 

 と、ぐうの音も出ない正論で親族一同から切り捨てられた。

 

うん、わかってる。わかってましたとも。

 

 その後、交渉の結果ある程度住める状態になるまでは電気水道代は出してもらえるということでなんとか落ち着き、一日かけて雑草を抜き、ペンキを塗り(自腹)、瓦を替え(自腹)、畳を替え(さすがに自分の部屋だけ)……と、約ひと月かけて、何とか住居としてはギリ及第点な状態へと復元した。

 

 それから約1年余り、当然入居者なんぞ現れるわけもなく、貯金を切り崩しながらひたすら漫画を描き、大賞に応募し、イラストをネットに上げ、気まぐれに小説もといシナリオを某サイトに上げたりしながら自分的にはそこそこ充実した1年を過ごしてきた。

 

(とは言っても、そろそろ貯金も底をついてきたし。またバイト見つけて、もう1年くらいしたら都心に引っ越そうかな……)

 

 我ながら刹那的な生きようだとは思うが、芸大時代は課題課題で自主制作のヒマもなかったし、やっぱり持ち込みにはある程度都心のほうが都合がいいし。まぁ、もう1年くらいは描き溜め期間にしよう。

 

 

(なーんて思ってた20分後に()()だよ)

 

そして現在、103号室から突然妙な物音が聞こえてきて、野生動物でも入り込んだかと様子を身にきて見れば、干からびたローブ姿のおっさんが転がっていたという訳だ。

 

うん、改めて確認しても意味わからん。

 

 

「みずぅっ、水をぉ……っ」

なーんて回想をしとる間に、ローブ姿の男はカッサカサの声を絞り出し、まるで焼けたアスファルトの上でのたうつミミズが如く立ち尽くす俺の元へと這いずりよっていた。

 

「…………とりあえず、運ぶか」

 

そうして俺は、身元不定の怪しいおっさんを抱えて自室の101号室へと引きずっていったのだった。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「ごっ!ごっ!ごっっっ………!!!

 

っっはひゃぁぁぁ~~~~!!あ゛ぁ゛~~~!!助かったーーー!!ってか美味い!?なにこれうんまい!!こんな甘くて美味い水は始めてだ!!

 

「はぁ、さいですか」

 

 ア〇エリ〇ス2ℓボトルを瞬く間に飲み干した、103号室で干からびていた謎の男。

 

 歳は見たところ三十路そこら、無造作に伸びた白髪に目尻の隈と刻まれた皺は、煤けた灰色のローブと相まってくたびれた印象を受けさせる。

 

有体に言って、ものすごく怪しい。

 

「いやぁ本当に助かった。流石の私も水なしには生きられないからね。君は命の恩人だ」

 

「そらどうも」

 

「……ところで、なんでそんなに離れて座っているのかな?()()()()()まで持って。」

 

 そう言いこちら指差す男の先で、俺はこの男から約3mほど離れて椅子に腰かけており、そして手には50㎝の金属製の定規を揺らしていた。

 

「お言葉ですけどね、自分の管理する空き部屋に突然ローブ姿のおっさんが現れたらそりゃ警戒するでしょ。単純に得体がしれない」

 

「おっさ!?……ごほん、まあ安心したまえ。さっきも言ったが、君は私の命の恩人だ。危害を加えるような不義理なことはしないよ。

それに何より、そんなものじゃあ私に傷一つつけることはできんよ」

 

おっさんはそう言って手をヒラヒラ揺らす。

 

「どういう意味で?」

 

「こういう意味さ」

 

おっさんがこちらに手を向け指で空をなぞったかと思うと、突然定規が強力な磁石に引っ張られるかのように俺の手を離れ、おっさんの手に吸い寄せられた。

 

「なっ!?」

 

「と、まあこういうことさ。ふむ、それにしてもこれは興味深い。両端に細かい溝がほぼ均一に刻まれている。これは物の長さを図るための道具か。それにこの部屋の内装、その反応。ふはっ、どうやら術式は上手くいったようだ」

 

 このあり得ない現象を、まるでなんでもないように起こした男の様に背筋が凍った。キツネにつままれた様だとはこのことか。

 

 男は引き寄せた定規や部屋を興味深そうに見渡しながらブツブツと独り言をつぶやいている。

 俺は咄嗟に保険で懐に忍ばせておいたあるものに手を伸ばした。

 

「おや、まだ何かあるのかい?困ったなぁ、私は本当に危害を加えるつもりはないのだが……」

 

 男はそう言うが、その顔はまるで意に介していない。それどころか少し楽しみにすらしているようだ。まるで犬猫が唸っているのでも眺めているかのように、こちらのことを欠片も脅威に思っちゃいないらしい。

 

 俺は取り出したそれの()()()()()()()()()勢いのまま腕を振るう。するとそれは指に掛かったピンからすっぽ抜けて飛び上がり、

 

「うん?」

 

ビイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!

 

「ぎにゃあああああああああああ!!!??」

 

 刹那、耳を劈くようなけたたましい大音量が鳴り響いた。

 

 そう、俺が隠し持っていたのはご存じ防犯ブザー。ランドセルに着けるようなものよりもコンパクトかつ140dbの大音量タイプである。

因みに、防犯ブザーはピンを抜いた後、素早く投げ捨てることによって相手をより動揺・混乱させることができるのだ。

 

「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっっ!!!」

 

 男は両耳を抑え泡を食ってもんどりうっている。状況は知らんが肉体的に疲労婚売の状態でのこの大音量は相当堪えるだろうさ。俺ですらけっこーキツイ。

 

「んぎゃがががががーーーーッッ!!と、止めてくれへぇ~~!?あ、頭がっ!頭が割れるうぅぅぅぅぅ!??」

 

「降参?」

 

「降参っ!降参する!服従しますっ、も~っ逆らいません!?だぁがらはやぐうううう!?く、狂うっ!脳がゆれっ……ウェッ」

 

本格的に顔色がヤバいことになってきたのでもう勘弁してやろう。俺は床に転がるブザーを拾い上げピンを差し込んだ。

 

「ふひーっ、ふひーっ、………た、助かった。まさか助けられた相手に殺されかけるとは。しかも音で」

 

「で?あんたは何処の誰で、いったい何の目的でこのアパートに入り込んだんだ?」

 

俺は青い顔でひっくり返る男の目の前にブザーを突き出し詰め寄る。

 

「わ、わかった、話す。全部話すから鳴らすのは勘弁して………!あ、吐きそ……」

 





 
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