微笑を浮かべながら、夕張がこちらの様子をうかがう。
提督「じゃあ…来週の週末な。どこに行くかはお前が決めておいてくれ」
夕張「嘘!?いいの!?やったぁ! ね、提督、約束だからね!」
提督「ああ、わかったわかった 早く執務室に戻るぞ」
夕張「うん!」
よほど嬉しいのか、満面の笑みでポニーテールを揺らしながら隣を忠犬のようについてくる。
そこでプルルルルルル、プルルルルルルと俺の電話が鳴った。
提督「すまん、電話だ。」
夕張は背伸びをして、なんとか俺の会話を聞き取ろうとしてくる。別に隠すことでもないし構わないのだが、顔が近い。そっと目を逸らした。
提督「…もしもし、なんだ、またお前か。三日後にこの鎮守府に来る!?…なるほど、視察も兼ねてか。わかった、空き部屋があるから寝泊まりはそこでしてくれ。…ああ、じゃあな。」
会話が終わりため息をつく。急いで出迎えの準備をしなくては…
夕張「ねぇ提督、今の人、誰?」
さっきよりずっと顔を近づけて、俺の目をのぞき込んでそう言った。
提督「俺の同期だよ。大本営に勤めてるんだが、今度こっちに視察に来るらしい。」
夕張「彼女とか、親しい関係ではないのね?」
提督「まぁそれなりに仲は良いが、付き合うなんて考えたこともないぞ。どっちかて言うと男友達みたいな感じだよ。女だけどな。」
夕張「そう、それなら良かったわ!ほら、早く執務室に行きましょ?急いで急いで!」
執務室に戻ってくると遠征を終えたのか、不知火が待っていた。
なぜか俺の椅子に座って。
不知火「し、司令っ!?…不知火に落ち度でも?」
平静を装って尋ねてくるが、頬は赤く染まったままだ。
提督「落ち度があるのは俺だよ。すまんな留守にしてて。コイツが悪いんだけどな」
夕張「もう!それは謝ったでしょ!」
不知火の頭をなでる。
不知火「構いません。どうせ暇ですし」
不知火は俯いてそう言った。
提督「そんなことはないだろう。まぁ報告を聞くのが先だ」
さっきまで不知火が座っていた椅子に腰かける。
やっぱりこの場所が一番落ち着く。職場が一番落ち着くのも考えものだが。
不知火「はい。今回の遠征も大成功です。入手した資材は既に保管庫への搬入が済んでいます」
提督「補給はちゃんとしたか?」
不知火「全員完了しています」
キリっとした表情で不知火が答えてくれる。こちらも釣られて背筋が伸びた。
提督「そうか、ご苦労だった。戻ってくれて構わないぞ」
不知火「…あの、司令。もう少し傍にいても、いいでしょうか」
提督「なら執務作業を手伝ってくれ。夕張だけだと不安だったんだ。お前がいてくれると助かる」
夕張「ちょっと、どういうこと!?今日たまたま寝坊しただけじゃない!」
不知火「それが落ち度です。秘書艦ならしっかりしてください」
提督「そういうことだ。だが、無理だけはしないでくれよ。軽巡洋艦夕張の艦娘はたくさんいるが、お前はお前だけなんだ。倒れられても困る」
夕張「はいはいわかってます!」
二時間後…
提督「ふぅ、これでひと段落か。おっと、もうすぐ正午だ、お前ら食堂に行ってこい」
夕張「提督は一緒に食べないの?」
提督「俺は空き部屋の片付けをしたら食べるから。そうだ不知火、お前は秘書艦じゃないのに頑張ってくれたから間宮券をやろう」
不知火「司令!ありがとうございます!」
不知火は小走りで食堂に向かっていった。いくらちゃんとしてると言ってもやはり駆逐艦だ。
甘い物には目がないらしい。
提督「ほら、夕張も行ってこい」
夕張「私は空き部屋の片付けを手伝いたいんだけど、ダメ?」
提督「ダメじゃあないが、どうして?」
夕張「そっちのが早く終わるでしょ?」
提督「まぁそうだが。遅刻するぐらい疲れてたんだから飯あちゃんと食ってくれ」
夕張「でもそうしたら、提督と一緒にご飯食べられないでしょ…」
いつもの快活な声と比べると随分小声だ。耳まで真っ赤に染めている。
ここはひとつ、からかってみるか。
提督「どうした?もっとハッキリ言ってくれないと聞こえないなぁ?」ニヤニヤ
夕張「…提督と一緒にご飯が食べたいの」
提督「えぇ?今なんて?もっかい言ってくれ」
夕張「提督と!一緒に!ご飯が!食べたいの!
提督「すまん、もう一回頼む」
夕張「聞こえてるくせに…もう知らない!」
しまった。怒って出て行ってしまった。
…仕方ない。一人でやるか。
重い腰をゆっくりと上げて執務室のドアノブに手をかけた。