??「暑いな」
ふと零れる言葉。誰に伝えるわけでもない、ただの独り言。だがまぁ今の状況を体感している彼にしてみれば、当然のことだろう
??「おかしいな、確か去年辺りに『ここ数年一番の暑さ』みたいなこと言ってた筈なのに。今年でソッコー更新してね?」
小声で愚痴る青年、先程からずっと暑さに対して訴えるように、独り言は空気に消えていく
??「まさかここまで汗かきの体質を鬱陶しく思うなんて.....家着いたら風呂入ろ」
額から伝う汗は首筋までくだり、やがて背中や脇といった場所に到達する。それによりできる汗染みから、今の暑さが伺い知れる
??「夕方になってなおこの暑さはやってらんねぇ.....」
空に浮かぶ太陽は、正午の刻より西に傾いている。時間にして、午後4時前といったところだろう。そんな炎天下を項垂れながら歩くこの青年。特にこれといった特技特徴等はなく、普通に勉強ができて普通に友人がいて、少しだけ運動の苦手な、何処にでも居るような一般人である。強いて他と違う点を挙げるならば.....
??「おぅ、どうした!随分と腑抜けた面してんじゃねぇか『コハク』!!!」
ガッハッハと笑いながら青年の名を呼ぶ男性。それに対して青年は、やや呆れたような笑顔で返す
??「腑抜けは酷くね?あと俺は孤白(きつしろ)な、いい加減にちゃんと呼んでくれよ環のおっちゃん、恥ずかしいし」
コハク、と呼ばれる青年。『
環「なぁにが恥ずかしいだ、女の1人ぐらい抱いてから生意気言いな」
豪快に笑いながら
孤白「それはもう一生無理じゃん.......」
悲しい現実と明るくはない将来に軽く涙しながら、環に手を振り返す。仲自体は良好なのだろう
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
孤白「あ~、やっぱりまだガキ扱いなのかぁ」ハァ
環のおっちゃんのあとにも何人か知り合いに会いはしたが、やっぱり皆口を揃えて『コハク』呼び。友人ですらだ。勘違いはしないでほしい、別に嫌なわけではないし、寧ろ親しく思われてる証なんだろうけど......
孤白「流石に本名が知られないのはあれだしなぁ~」
今日仲良くなった隣のクラスの奴にすら『コハク』で覚えられた、最早本名が息をしていない。それだけはいけない気がする
孤白「でも今更『きつしろって呼べ』って言うのもな~」
ウンウンと唸りながら、帰り道を歩く。それがいけなかった。突如右方向からとてつもない衝撃を受けて、俺の身体はなす術無く放物線を描き左方向へ飛ぶ
孤白「......え?」
地面にぶつかり、跳ねて、転がり。全身を言葉にすらできないほどの激痛に襲われて漸く理解した。車に轢かれたのだと
孤白(ぁ、これ死ぬわ......)
人間、危機的状況に陥ると案外冷静になるみたいだな。何て事を考えながら、暗くなる視界に一言
孤白「もぅ、ちょい......じん...せ、、、楽しく、あれよな」
遠くなる意識を手放してしまう瞬間、確かに俺は声を聞いた
『ようこそ、幻想郷へ』